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第四十話 往生


 シンは山南に所持品をあらためられた。

 袖に入れていたのは、手ぬぐいと小銭が少々、あとはショックガンである。


 「これは?」

 山南がショックガンを手に取る。

 初めての手触りと質感の銃を、マジマジと興味深げに見ている。

 ショックガンは軽く、手の平に収まるほどのサイズで、乳白色の色味を帯びて光っている。


 「・・鉄砲ですよ」

 シンの答えに山南が目を見開く。


 柱に背を持たれ片膝を立てて聞いていた沖田が顔を向ける。


 「おもちゃのね」

 シンが付け足すように軽く言った。


 「おもちゃ?こんなおもちゃ、京でも江戸でも見たことないわね」

 山南が疑わしい目を向けると、シンは顔色を変えず続ける。

 「そいつはオレが自分で作ったんです。だからどこにも出回ってない」

 「あなたが自分で?じゃああなた、からくり技師なの?」

 「ええまぁ」


 「ふぅん」

 山南はしばらく黙っていたが、沖田に来るように目で合図した。


 のっそり立ち上がった沖田は、山南の前に置かれたショックガンを見下ろす。

 「随分小せぇ鉄砲だなぁ・・どら」

 そう言って、ショックガンを手に持つ。


 「軽っこいなぁ・・」

 手の平で遊ばせる。

 「こりゃ、確かに本物の鉄砲じゃねぇな・・」

 沖田の言葉にシンは安堵した。


 「ただし・・おもちゃにしちゃあ、出来が良すぎるな」

 沖田がシンに鋭い目を向けた瞬間、部屋の障子が開いた。




 開いた障子の向こうに薫が立っている。


 「どうしたの?薫ちゃん」

 山南が訊くと、薫は焦った様子で答えた。

 「安藤さんと新田さんが・・」

 山南はすぐに立ち上がった。


 山南と沖田が、安藤と新田が寝ている部屋に行くと、中から環の声が聞こえる。

 「しっかりしてください!」


 安藤と新田は、ヒューヒューと荒い息をしながらうめいている。

 山南は部屋に入ると枕元に座った。

 「・・突然ひどく苦しみ出して・・」

 環の目は赤くなっている。


 「~~~」

 安藤が何かを言っている。

 山南は顔を近づけて、安藤の口元に耳をあてた。

 「・・分かったわ」

 小さく頷くと、廊下に立っている沖田に顔を向ける。


 「沖田くん。環ちゃんと薫ちゃんを向こうの部屋に連れて行って」

 沖田は部屋に入ると、枕元に座っている環の腕を取った。

 「ほら、行くぜ」

 「でも・・沖田さん」

 「いいから立ちな」

 沖田に強い声で促されて、ようやく立ち上がる。


 そのまま部屋を出ると、沖田が環と薫の背中を押すようにして、2人を部屋から遠ざけた。


 環と薫がシンのいる部屋で待っていると、しばらくしてから山南が戻った。


 「サンナンさん・・」

 「安藤くんと新田くんは往生したわ」

 山南の言葉に、部屋の空気が止まった。


 「火事のあとでお寺も忙しいみたいだけど、埋葬の許可はもらえたから」

 環がよろよろと立ち上がる。


 「環ちゃん、あなたよく頑張ってくれたわ。本当にありがとう」

 そう言うと、山南は部屋から出て行った。




 庭に沖田が立っている。


 廊下を歩く山南の姿をみつけると声をかけた。

 「サンナンさん」

 沖田の声に振り向くと、山南も庭に降りて来る。


 「安藤さんと新田さんに引導渡したんですか?」

 沖田の言葉に山南はゆったり答えた。

 「ええ、そうよ」

 「・・サンナンさんの腕なら、痛みもなかったでしょう」

 「・・もっと早くそうしてあげていれば良かったわ。そうすればあそこまで苦しまなくて済んだのに」


 日差しは暑いが、気持ちの良い風が吹いている。


 「左之さんが引導渡すって言ってるのを、近藤さんがずっと止めてましたからね」

 沖田は空を見上げた。


 「安藤さん、さっきサンナンさんになんて言ってたんですか?」

 「さぁ・・ホントはよく聞き取れなかったの」


 山南も空を見上げた。

 「沖田くん・・わたしが死にきれない時は、あなたが介錯してね」

 山南の言葉に沖田は驚いたように顔を向ける。

 「サンナンさん・・」


 「今から頼んでおくわ」

 山南は冗談ともつかない顔で笑った。

 「がってん」

 沖田も小さく笑って答えた。



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