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第三十九話 シン


 「ひどいもんだな」

 シンはつぶやきながら火事の爪痕が生々しい京の町を歩く。


 まずは食料の確保が最優先である。

 町を出て、付近の農家から食べ物を分けてもらうしかない。


 小銭はまだ少し手元に残っている。

 シンは歩き続けた。

 

 2人組の侍とすれ違う。

 幕軍の兵士が町を見回っているのだ。

 (侍ってやつにも困ったもんだな)

 シンはやりきれない気分になった。

 (勝手に戦を起こして、結局、町民が犠牲になってるんだ)

 シンの足取りは早まる。


 南に下ると東塩小路村のあたりで人だかりがしている。

 どうやら食料の配給に並んでいるらしい。


 見ると、水色の隊服姿の男たちが町民に握り飯を配っている。

 (あの色・・新選組か?)

 立ち止まって見ていると、背の高いシンの姿に目を止めている者がいた。


 視線を感じて見ると、稽古着姿の薫である。


 「シン!」

 薫の大声を聞いて、ケガ人の手当をしている環が顔を上げた。

 2人はすぐに手を止めて、シンのそばに走り寄って来る。

 「無事だったんだ!」

 薫の言葉にシンが答える。

 「そりゃ・・ずっと鳥居にいたから。火事には逢ってないよ」


 「どこかに行くの?」

 環が訊いた。

 「さぁ。ここにいても食い物も無いし。いったん京から出ようと思って」

 「でも、鳥居から離れたら・・」

 「どのみち鳥居の近くにいたところで、このままじゃ元の時代に戻れそうにないし」

 

 すると、後ろで声がした。

 「元の時代?」




 「お、沖田さん」

 声を聞いて振り返ると沖田が立っている。

 (沖田さんて、つくづく立ち聞き魔だよね)

 薫は思った。

 

 「いやあの!元の時代じゃなく、元いたところ・・です」

 薫がごまかすと、沖田はさらに訊いてくる。

 「あんたら、知り合い?」

 シンは黙ったままだ。

 「ええーと・・まぁ・・はぁ」

 薫と環はうまく答えられない。

 

 「あんた、名前は?」

 沖田がシンに向かって訊く。

 「・・アカギシン」

 シンがあっさり答えると、沖田は言った。

 「京の人間じゃねぇな、訛りがねぇ。どっから来たんだ?」


 シンは黙っている。

 沖田の目が鋭くなった。


 「そっか、そういえば・・あんたらもどこのモンだか分かんないんだったなぁ」

 沖田は薫と環を見て言った。

 「なるほど・・お仲間ってわけか」

 薫と環とシンは黙っていたが、それが答えになってしまった。


 (こいつ・・以前、屯所に侵入したヤツか?)

 薫と環が軟禁状態の時に、若い男が屯所から2人を連れ出したことがあった。

 「どうも・・見逃すわけにゃあいかねぇ感じだなぁ」

 薫と環が目を開く。

 「アカギシンって言ったかい?屯所まで来てもらうぜ」


 シンは沖田の言葉に答えず、黙ったままだ。




 配給が終わって屯所に引き上げると、山南が帰っていた。

 幕軍と打ち合わせするため、会津本陣にでかけていたのだ。


 「おかえりなさい。おつかれさま」

 山南は疲労を隠してにこやかな表情で声をかけてきた。

 すると、見慣れない若い男の姿に目を止める。


 「沖田くん、あれ誰なの?」

 山南がシンを見ながら訊いてくる。


 「ああ、あの娘たちのお仲間みたいですよ。以前に屯所に侵入したのも、多分あの男です」

 沖田は周りに聞こえないよう小声で答える。

 「なんですって?」

 山南はシンを鋭い目で見た。

 シンは興味無さげに立っている。


 「ふぅん・・何者かしら」

 山南と沖田は立ったままで話し続ける。

 「さぁ・・まぁ長州軍じゃねぇのは確かだと思いますけど」

 「そお?じゃ、火事の後始末が落ち着いたら、じっくり詮議しましょう」


 「それまでオレが見張ってますよ」

 沖田が珍しく見張り番を買って出た。

 「大丈夫かしら」

 「どういう意味です?」

 「だって沖田くん、すぐに眠っちゃうし。飽きっぽいし」

 沖田は苦笑いを浮かべた。

 「大丈夫ですよ。あの男、存外大人しいんで」


 「シン、大丈夫?」

 環が心配そうに訊いた。


 「なにが?」

 シンは開き直っている。

 (もうどうとでもなれって感じだ)


 薫と環は心配気に顔を見合わせた。




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