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第三十七話 天王山


 薫が隊士たちと一緒に握り飯を配っている間、沖田は周辺を見廻っている。


 薫と環は子供の数の多さに驚いた。

 1家族に5人から、多いと10人もの子供がいる。


 握り飯を手渡すと、配布されない大人が子供の手から取り上げたりするので、食べ終わるまで見ていることにした。


 そうしていると、持ってきた握り飯を配り終わる頃には日が暮れかかっていた。

 環はケガ人の手当に回っていたが、消毒用で持ってきた酒はもう無い。


 「今日のところは店じまいかなぁ」

 沖田がつぶやくと、見廻りに出ていた隊士が戻って来た。

 「山野、どうだった?」

 沖田が訊くと、山野は眉根を寄せた。

 「避難した町民は、九条竹田の街道までエンエン続いてますよ」

 「そっか・・」


 沖田は手招きをして薫と環を呼んだ。

 「今日はもうしまいだ。屯所に戻るぜ」


 薫と環は、道端で座り込んでいる町の人を見た。

 「また明日があるさ」

 沖田が明るく言うと、2人は頷いて帰り支度を始める。


 空を見ると煙が少なくなっている。

 町の火は弱まっているようだ。


 (そういえば・・アカギシンどうしてるかな)

 薫はふと思った。


 鳥居で分かれてから一度も会っていない。




 翌日、天王山の周りはものものしい兵隊の数であふれていた。


 天王山に登るのは、近藤と永倉と斎藤が率いる隊士20名。


 下通りを固めるのは、土方、原田、藤堂、井上、武田、山崎、島田が率いる隊士20名。

 土方が決めた組割である。

 どちらも会津藩兵とともに行動する。


 天王山の麓から順に寺社に踏み入るが、長州兵の影は無い。


 山の中腹にある宝寺にまで辿り着いた時、陣羽織を着た男が立っていた。

 振り返る男の後ろに、鉄砲を構えた兵隊が20名ほど控えている。


 男は落ち着いた声で名乗った。

 「おう、遅かったのう。わしが長門宰相臣真木和泉じゃ」

 そう言うなり手を上げると、後ろの鉄砲隊が一斉に発砲してきた。


 隊士は地面に伏せたが、弾の1つが永倉の腰をかすめた。

 「チッ」

 永倉が腰に手を当てると、血が流れている。


 「新八」

 近藤の声に永倉が応える。

 「大丈夫だ、浅ぇ。かすっただけさ」

 硝煙が消えると、真木の姿は見えなくなっている。


 すると、寺の裏手から爆音が響いた。

 近藤たちが裏手に回ると、陣屋から火が昇っている。


 「爆破しやがったのか・・」

 見ると中に長州兵の姿があった。

 どうやら火薬に火を点け、さらに互いに刺し違えたようだった。


 「うう・・」

 爆破して刺し違えてなお、死に切れない者が2名ほどいた。


 近藤が、うめき声をあげている長州兵のそばに立つ。

 「敵ながらあっぱれ。介錯」

 言葉と同時に刀を振り下ろす。


 もう1人を斎藤が斬った。




 アカギシンは町に降りてみることにした。

 持参した食料はもう無くなっている。


 禁門の変の前に鳥居に来てから、ずっと町に降りていない。


 一時は避難した町民が、鳥居の近くまで来ていたが、今はもう閑散としている。

 どうやら、平地の避難場所にみな移動しているらしい。


 いつもは人がいない鳥居の周辺で、避難している町の人を見ていると、つい傍観者の立場を忘れてしまいそうになる。


 大火事が起きた夜、山に避難してきた人垣から泣いている子供の声が聞こえてきた。

 「おなかすいたぁ」

 「うるさいで、静かにさせへんかい」

 怒鳴る男の声で、さらに子供が泣き叫ぶ。


 シンは仕方なく立ち上がると、持っていた餅菓子を子供に手渡す。

 「ほら、食べな」


 すると、さっき怒鳴っていた男が近づいて来た。

 「お、おい、にいさん。あんさん食いモン持ってんねや。分けたらんかいね」


 「あんた大人だろ。我慢しろよ」

 シンは見向きもしない。


 すると、男が子供が持っている餅菓子に手を延ばす。

 その瞬間、シンがショックガンを抜いて男の額に当てた。


 「な、なんやこれ?」

 「鉄砲だよ、見たことないのか。小さいが最新式だぜ」

 江戸時代より250年先の銃である。


 男はカタカタ震えている。

 シンが銃を降ろすと、男は腰を抜かして逃げて行った。


 結局、避難している子供たちに手持ちの餅菓子を全部渡していた。


 日持ちする食料をわざわざ選んだが、菓子は1日で無くなった。



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