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第三十五話 半次郎


 蛤御門では、会津と薩摩の藩兵がいまだ付近を警戒していた。

 新選組と見廻り組は会津藩と合流して、幕軍の指示を待っている。


 土方はイライラしていた。

 (とっとと天王山に向かわねぇと、また間に合わねぇぜ)


 やっと長州掃討の下知が下り、会津藩と見回り組と新選組は天王山に落ちた残党を追うことになった。


 近藤が隊士に向かって言葉をかける。

 「これより伏見に向かう。明日は天王山に入って長州討伐だ。みな気を引き締めてかかれ」

 土方がそれに続けて言う。

 「いいか。必ず一番先に山に入るんだ。でなきゃこの戦、新選組が出張った意味がねぇ」


 すると、近くにいた薩摩藩の藩兵が1人近づいて来る。


 「あたどん、新選組とな。わざに天王山まで行かんでも、もう勝負は着いちょりますが」

 大きい身体のいかつい顔をした男である。


 「誰だ?てめぇ」

 土方の言葉に、男は答える。


 「失礼もした。おどんは中村半次郎と申す者」

 「中村半次郎?薩摩の・・」

 近藤の顔色が変わる。

 (こいつ、人斬り半次郎じゃねぇか)


 「こいつぁ幕軍の指示だ。長州は朝敵なんだよ。てめぇ薩摩だろうが。長州の残党見逃そうってのか?」

 土方の言葉に中村は黙り込んだ。


 「おい、ありゃあ中村半次郎だぜ。まぁ、薩摩軍じゃ勝負するわけにゃ行かねぇな」

 原田が言った。

 「ああ、残念だがな。ま、一応は味方同士ってこった」

 永倉が笑いながら答える。

 腕の立つ相手とやりあうことに目が無い。


 「失礼もした」

 中村は軽く会釈すると、薩摩藩兵の集まりに戻って行った。


 「中村は薩摩藩ですが長州にたいして同情的で、薩摩と長州を和解させようと動いているようです」

 監察の山崎が言う。


 「ふん、人斬りが同情たぁ笑わせるぜ。だったら薩摩じゃなく長州に引っ越しすりゃあいいじゃねぇか」

 土方は忌々しく吐き捨てた。

 「・・引っ越しはちょっと難しいかと思います」

 山崎が言った。




 夜中じゅう、燃え続けた町の火も、翌朝になると少し衰えていた。


 薫と環は隊士たちと一緒に、朝飯のおにぎりを食べている。


 昨日はやせ我慢をしたが、お腹が空き過ぎて異常に朝早く目が覚めてしまった。

 漬物を具にしたおにぎりを、隊士たちと一緒にほおばっている。


 火事が弱まって来たので、薫と環は隊士たちと一緒に道端に避難している町民を回ることになった。

 昼までに、できるだけ沢山のおにぎりを作ることにしている。


 「ここのお米もいつまで持つか分からないから、食料の配布は子供と乳飲み子を抱えた母親を優先に。お年寄りにはお水を飲ませてあげて頂戴」

 「はい」

 山南の言葉に薫と環が頷く。


 「幕府には至急、お米の配給を頼んでるけど、いつになるんだか・・」

 山南は今日も朝早くから会津本陣に出向いていた。


 「安藤さんと新田さん、具合どう?」

 薫の言葉に環は黙って首を振る。

 「・・・・」


 正直に言うと、すでにそばで見ているのがツライ状態である。

 壬生に火事の火が及んでいたら、連れ出すことは出来なかったろう。


 「でも、環はちゃんと食べて寝なくちゃダメだよ」

 薫の言葉に環は素直に頷いた。

 「うん」




 伏見に向かう陣を組んでいる最中、斎藤が沖田に話しかけて来た。

 「総司、おめぇは休んでろ」

 沖田は黙っている。


 「いいか、無理して働いてもイザって時にヘタ打つぜ」

 沖田は黙ったまま答えない。

 「てんめぇ、なに無視してんだよ。人が心配してやってんのに」


 斎藤が声を高くすると、土方が近寄ってきた。

 「どうした、斎藤」

 「土方さん、どうもこうも。総司のやつぁ、まだ本調子じゃねぇよ」


 土方が沖田を見ると、頬が少し赤い。

 「総司、おめえ・・熱でもあるのか」

 「まさか」

 沖田は笑っている。


 「・・総司。おめぇ、壬生に戻って屯所警備につけ。命令だ」

 土方の言葉に沖田は振り返ったが、すでに土方は踵を返して背を向けていた。


 「戦はまだ続くんだぜ。今回はオレたちに任せろって」

 斎藤の言葉に沖田は黙ったままだ。


 「なんでオレだと無視なんだよ、腹立つなぁー」

 斎藤が声を高くすると、やっと沖田が口を開く。

 「わかったよ、屯所で大人しくしてるさ」

 「お?」

 沖田の素直な言葉に、斎藤が少し驚いた顔をする。


 「ざまぁねぇな」

 「・・総司、おめぇ」

 斎藤はそれ以上何も言わなかった。

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