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第二十七話 戦の前


 その日、土方は会津藩に伺候して、交渉の上、大砲を1台融通してもらった。

 これで、新選組が持つ大砲は2台になった。


 これから始まる本格的な戦に備えての軍備補強である。

 新選組は京を守る警察隊から軍隊に変わっていくのだ。

 

 (あとは隊の編成だな)

 土方は部屋で1人考えている。


 そこに監察の山崎が、廊下から低い姿勢で声をかけた。

 「どうやら連中は、嵯峨の天竜寺に集まっているようです」

 「天竜寺?」

 昨晩遅くから、長州藩邸で人の出入りが激しい。


 「あっこか」

 土方の頭に、天竜寺の巨大な塀が思い浮かぶ。

 (陣営を張るにゃあ、もってこいだなぁ)

 昨晩からの報告で、近いうちに戦が始まると踏んだ土方は、朝から会津藩に出向いて大砲を無心したのだ。


 新選組の武勲を上げるチャンスだ。

 戦争屋は戦場にいなければいけない。

 最前線に出るためには、隊の強化と情報収集である。


 「そのまま見張りを続けろ」

 「はっ」

 山崎の姿はすぐになくなった。




 「ほらパチ、こっちおいで」

 薫はパチを、庭で一番大きい樹の下まで連れて来ると、尻尾を振るパチに鶏の骨を食べさせる。

 夢中で骨に噛り付く子犬の仕草が可愛いらしい。


 「やっぱりワンちゃんは骨が好きだよね」

 骨に食いつくパチの隣りに寝そべる。

 昼下がり、夏の日差しは強いが、木陰は涼しくて気持ちが良い。


 このごろパチのゴハンも薫が用意している。

 そのせいかパチは薫に従順だ。


 「パチのご主人様、二日酔いみたい」

 薫はあくびしながらパチに話しかける。


 永倉はゆうべ、原田と2人で飲み較べをしていたらしい。

 原田が先ににつぶれたが、永倉は朝方まで飲み続けた。

 そのせいか今朝、珍しく朝飯を食べなかった。


 薫はいつのまにか、うつらうつら眠りに誘われる。


 昼飯を食べ終わった沖田が、爪楊枝をくわえて庭に出て来ていた。

 パチの姿を見つけて、沖田が歩いてくる。

 「パチ、なに食ってんだい」

 覗きこむと、パチの口の端から骨がはみ出している。

 「なんだい、そいつぁ。ホネ?」


 パチを抱き上げて、横で寝ている薫の隣りに座る。

 「こっちはお昼寝中かぁ」

 気持ち良さそうに寝ている薫を見ていると、沖田も眠くなる。


 パチを横に置いてつい寝転がると、薫とパチと沖田と、川の字になった。




 パチに顔を舐められて薫が目を覚ますと、いつのまにか沖田が樹の下で寝ていた。

 一瞬驚いたが、声を出さないよう慌てて口を押える。

 (沖田さんって、ほんといつでもどこでも寝るよね)


 沖田は穏やかな寝息を立てている

 とうてい新選組の組長には見えない。

 薫は起こさないよう、静かにパチを抱いて立ち上がった。

 

 「沖田くん、なにやってんの?」

 山南の声で、沖田は昼寝から揺り起こされた。

 「あれ、サンナンさん・・?」

 薄目を開けてのっそり起き上がる。

 「お昼休み、もう終わってるんですけど」

 山南がしゃがみ込んで言った。


 「ああ‥ついウトウトしちまいました」

 沖田はキョロキョロあたりを見ている。

 「君、天才剣士だけど、ちょーっと勤務態度に難有りね。ユルすぎだわよ」

 言葉とうらはらに、山南の声には親しみがある。


 「戦が始まるかもよ」

 山南の言葉に、沖田は眠気の残った顔で訊く。

 「どこでです?」

 「長州藩邸でそれらしい動きがあるわ。力で物を言わせるのが手っ取り早いと思ったんでしょ」


 沖田はボリボリと頭を掻いている。

 「あっちの考えるこたぁ分かんないですね」

 「土方副長が朝からピリピリしてるわ。ま、あの人もともとピリピリしてるから、同じかしらね」


 「喧嘩はでかいほどオモシロイって人ですからね」

 沖田は頭を振って立ち上がった。


 眠気はもう消えている。



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