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第二十四話 夢屋


 池田屋事件の報奨金で、出動隊士たちは羽振りが良い。

 「やっと取り返したぜぇ」

 永倉はホクホク顔だ。


 池田屋事件から初めての非番である。

 非番でも部屋で休むのではなく、町中にでかけて歩くのが好きな男だ。


 「新八っつぁん、もうお帰りですかい」

 屯所の門から入ってきた永倉に斎藤が声をかける。

 「まだ日ぃ高ぇってのに」


 「おう、斎藤。見ろよ、質に預けてた刀うけ出して来たぜ」

 「武士の魂を質に預けてたんですかい?」

 斎藤には理解ができない。


 「まぁな、この前ちっと銭が足らなくなってよ」

 「新八っつぁん、景気良く使い過ぎるんですよ」

 「なに言ってやがる。男は宵越しの金は持たねぇもんだ」


 そこに監察から戻った山崎が門を入って来る。

 「お、山崎。ちょうど良かった、おめぇも今夜つきあえ。斎藤も一緒だ」

 「え、な、なんですか?」

 突然、声をかけられて山崎が驚いてる。


 「え、なんでオレ?」

  いきなり名指しされた斎藤も驚いている。

 「質屋にゃ世話になったしよ。今夜は夢屋で豪遊だ」

 「げ・・夢屋」

 斎藤の顔が一気に曇る。


 「新八っつぁん、オレぁ遠慮しときますぜ」

 「なんだと、斎藤。てめぇは先輩の誘いを断ろうってのか」

 斎藤は言葉が出ない。


 替わりに山崎が言った。

 「いや、オレも夜は忙しいですよ」

 「山崎、おめぇは普段から付き合いが悪すぎんだよ。ちっとぐらい時間避けんだろ」


 斎藤と山崎の肩に手を置いて永倉は上機嫌だ。




 「斎藤、おめぇ二度と夢屋にゃ行かねぇとか言ってなかったか?」

 原田が薄笑いをしている。

 斎藤は苦い顔で答えない。


 永倉、原田、沖田、斎藤、山崎、そして薫と環の7人でぞろぞろと夕暮れ時の町を歩いている。

 

 「あのぉ、夢屋ってなんですか?」

 環が原田に訊いた。

 薫も環もいきなり呼ばれて、訳が分からない。


 「ああ、ただ酒を飲む店さ。普通のな」

 「ふつう?」

 斎藤が不機嫌な顔で訊き返す。


 沖田がクスクス笑っている。

 「なに笑ってやがる、総司」

 斎藤が沖田を横目でにらむ。

 「まぁ、いいじゃねぇか。酒飲んでうさを晴らせばいいんだよ。そら着いたぞ」


 原田が顔を向けた先に、夢屋と書かれた提灯が灯っている。


 永倉に続いて原田が店に入った。

 「おう、女将。今日は新顔連れて飲みに来たぜ」


 薫と環も沖田と山崎に続いて玄関をくぐった。


 小さい座敷が3つあるだけの狭い店の中に厚化粧のゴツイ女が2人、カウンター越しにも2人いる。

 「あらぁ、ぱっちゃん。いらっしゃい」

 女将と呼ばれたゴツイ女の声を聞いて、薫と環はそれが男の声だとすぐに分かった。


 「ねぇ、薫、ここってさ・・」

 環が薫に耳打ちする。

 「オカマバー、だよね。あれって全部男でしょ」


 「ここの女将は、昼は質屋の主人だぜ」

 原田が言うと、その女将が2人を見ている。

 「ちょっと、ぱっちゃん。ここは神聖な男だけの憩いの場だよ」

 「ああ、この2人は女だが女じゃねんだ」

 「なに訳の分からないこと言ってんのさ、アンタ」

 女将のセリフに薫と環も同意見である。


 「まぁ、いいじゃねぇか。今夜は大目に見てくれや」

 原田が言うと女将は仕方ない顔をする。

 「まぁ、左之ちゃんが言うなら仕方無いわね」




 カウンターの席に沖田と薫と環が座った。

 カウンターに近い座敷には永倉と原田が、玄関側の座敷に山崎と斎藤が座った。


 「総司ちゃん、ひさしぶり」

 女将が沖田に酒を注ぐ。


 「相変わらず、可愛いわねぇ」

 沖田はニコニコと笑っている。

 何があっても動じない肝を持っているのだ。


 永倉と原田が「オレたちは勝手にやってるから」と言ったので、店員のオカマ3人が斎藤と山崎の座敷に座った。


 「あらぁ、こちら良い男ねぇ」

 山崎の右側に座った店員が、すっかり山崎を気に入っている。


 斎藤は両隣りを挟まれて、集中的な接客を受けていた。

 「はじめちゃん、ご無沙汰だったじゃなぁい。アタシさみしかったわぁ」

 斎藤はブスっとしたままで答えない。


 「んもう、そのイケズなとこがたまんないのよねぇ」

 オカマがしなだれかかると、斎藤が乱暴に振り払う。

 「うるせぇ、オレにさわんじゃねぇよ」

 「キャー、こわーい」


 カウンターでそれを見ている薫が言った。

 「なんか、けっこう楽しそうですね」


 「ああゆう口の悪い男ってのは、あたしらみたいな女にモテんのさ」

 女将がしたり顔で言う。

 「ま、総司ちゃんはアタシのお気に入りだから、あの娘たちも手出ししないわよ」

 沖田は笑って飲んでいる。


 「ちょ、ちょっとやめてくださいよ。どこ触ってるんですか」

 山崎の声が聞こえる。


 隣りでしなだれかかっているオカマが、山崎の襟元に手を入れている。

 「アタシのことはレンって呼んで。本名が連二郎なのよ」

 山崎が慌てて連二郎の手を襟から外そうとするが微動だにしない。


 (な、なんだ、いったい。この馬鹿力)

 山崎の額に脂汗が滲んでいる。


 「うちの娘たちは道場上がりの猛者揃いだよ。天下の新選組にだって負けやしないさ」

 女将がカラカラと笑いながら言った。


 山崎はすでに胸元が開いている。


 

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