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第十八話 負傷


 沖田は近藤と永倉に、藤堂は斎藤と原田に支えられて、表口から出て来た。


 土方が近寄って確かめる。

 「総司、おめぇ血を吐いたのか?」

 「え?・・ああ、口の中ぁ切っちゃって」

 沖田が笑って受け答えするのに安堵する。


 「平助の怪我がひでぇな」

 土方は、薫と環の方を振り返った。

 「おい、こいつらの手当してやってくれ」

 環は頷くと、弾かれたように駆け出す。


 藤堂の額の傷は開いたままで、血が滲みだしていた。

 目に入った血液が固まって、瞼を開くことができない。


 「どこかでお酒と水と布もらえないかな」

 環の言葉に薫が頷く。

 「分かった、なんとかする。待ってて」


 薫は沿道で見物している野次馬に声をかけた。

 「すみません、お水を」

 声をかけると、皆すぐ逃げ出して行く。


 薫は諦めて、池田屋の建物の方に顔を向ける。

 (あの中だったら・・)


 薫は池田屋の前にいる隊士たちをかき分けて、建物の門をくぐった。




 屋内の惨状はひどいものだった。


 あらゆるものがひっくりかえって、床にぶちまけられている。

 床も柱も天井まで血が飛び散り、刀の創跡が付いてた。


 着物姿の死体が転がっている。

 上を見上げると、階段や二階の手すりにも死骸がのっていた。


 「・うっ」

 凄まじい血と汗の匂いで、吐き気がこみあげる。


 薫は吐き気をこらえて、死体を踏まないように炊事場に進んだ。

 炊事場の奥につるべがある。

 水が汲めるはずた。


 棚を開けてみると酒の瓶が並んで倒れている。

 「あった!」

 あとは布である。

 食器を拭く布でもいいと思って探していると、後ろからうめき声がした。

 「おのれ・・」


 振り返ると、死体だと思った男が立ち上がろうとしている。

 男は頭を振っている。

 おそらく気を失っていただけなのだろう。


 「・・おのれぇ」

 男が刀を振り上げた瞬間に、男の胸から血が噴き出した。

 薫の目の前で、男の身体が前のめりに倒れこむ。


 斎藤が立っていた。


 いつの間に後ろにいたのか、男の身体から刀を引き抜いている。

 「うろちょろすると危ねぇと言ったはずだぜ」



 

 刀を鞘に納めると、斎藤が強い口調で言った。

 「勝手に入るんじゃねぇよ」


 薫がガチガチと震えながらも言い返す。

 「お、お酒とお水と、布が必要だから・・手当するのに」


 斎藤が薫を見つめた。

 「それでこんなとこに入り込んだのか。いいタマだなぁ、あんた。女にしとくにゃおしいぜ」


 薫の脇を通り抜けて奥に進むと、つるべを引っ張って水を汲み始めた。

 「何やってんだ。あんたもさっさと使えるもん探せよ」

 その声に弾かれたように、薫は我に返った。

 棚の中を探すと、手拭が重なってしまわれている。


 斎藤は水瓶を、薫は酒瓶と手拭を持って表に出る。

 「環、おまたせ」


 環は藤堂の額の傷口を酒で消毒して、薫に布で押さえるように言った。

 顔についた血を、濡らした布で丁寧で拭く。


 藤堂が薄く目を開いた。

 「見えますか?」

 環の問いに藤堂が頷く。

 「・・ああ、ざまぁねぇな」


 「動かないで下さい。額の傷が深いんです。目は大丈夫そうですね。額の血が入ってただけみたい」

 藤堂は黙ってまた目をつむった。


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