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第十七話 終焉


 「わたし池田屋に行く」

 環が言った。

 土方たちの姿はもう見えなくなっている。


 「えっ、環・・?」

 薫が驚いた顔で見た。

 「薫は屯所に戻って」

 そう言い捨て、環は土方たちが消えた方向に走り出した。


 「環、待って。あたしも行く」

 薫も環の後に続く。


 環の頭に浮かんでいるのは、テレビドラマの時代劇だった。

 池田屋襲撃で、新選組の剣士沖田総司が血を吐いて倒れるシーンがある。

 あれは史実なのか、フィクションなのか。


 走り続けてまもなく、水色の隊服が大勢ひしめき合っている通りに着いた。

 息が切れて足がふらつく。


 近づくと、大勢の隊士の向こうから土方の声が聞こえる。


 「中への手出しは無用だと言ってる」

 「何を言う、われらは」

 「隊服着てねぇやつが入ったら斬られるぞ」

 「うぬ・・」

 「会津藩と桑名藩には外の警備に回ってもらいたい」


 押し問答をしているのは、古めかしい集団の先頭にいる男だ。


 振り返った土方の目に、環と薫の姿が目に入った。

 「てめえら、なにやってんだ!屯所に戻れと言ったろうが!」

 土方の怖ろしい形相にも怯まずに環が答える。

 「あの・・沖田さん血を吐いて」

 土方の顔から一瞬表情が消えた。




 土方隊が池田屋に到着した時、屋内で戦っているのは近藤と永倉だけになっていた。


 生き残りの志士たちが、逃げ出そうといっせいに裏口に回る。

 正面手前に永倉がいるため、裏口しか逃げ道がない。


 裏門に待機する新選組の隊士に、死にもの狂いで斬りかかる。

 真正面から斬りつけられて、隊士の奥沢が倒れた。


 安藤と新田が逃げ出そうとする志士たちの刀を抑え込んでいたが、数人の剣先を抑えきれずに弾かれる。


 裏口から逃げ出した3人の前に、槍を手にした原田が仁王立ちで塞いだ。

 「逃げさねぇよ」

 ヒュルヒュルと槍を振り回すと、2人続けざまに斬り伏せ、残る1人は串刺し状態に突いた。


 「安藤、新田!無事か?」

 「原田組長、奥沢さんが・・・」

 原田が奥沢を見る。

 首に手を当てると絶命してることが分かった。


 立ち上がると2人に言った。

 「おめぇらも傷が深ぇな」

 安藤は首から耳元まで血で真っ赤だった。

 新田は左腕を深く斬りこまれている。


 「あとはまかせろよ」

 そう言って原田は、裏門から中庭の方に入って行った。




 斎藤が正面入口から中に入ると、永倉と近藤がいまだ奮戦していた。


 「おい」

 永倉に斬りこもうとする男に声をかけて振り向かせると、袈裟がけに斬る。

 急所をわざと外した。


 「斎藤、遅かったじゃねぇか」

 「表に土方さんがいます。あとはもう生け捕りにしろって」

 「へっ。っていうかもう斬れねぇよ」

 永倉の刀は人骨と肉を斬ったために、刃こぼれと脂でほとんど斬れなくなっていた。


 「ここ頼むぜ、斎藤。近藤さんと総司んとこ見て来らぁ」

 斎藤が頷くと、永倉が振り返って言った。

 「平助が中庭で倒れてる」


 永倉が階段を登っていなくなると、中庭から男が転がるように入って来た。

 裏口から逃げようとして、失敗して戻るはめになったのだ。


 斎藤は男を見ると、一瞬で刀を振り降ろす。

 耳を切られた男が、悲鳴を上げて床に転がった。


 中庭に出ると、原田が槍で男の胸を突いている。

 男はうめき声をあげて倒れこんだ。

 「左之さん、殺しちゃいかんでしょう」

 「死んじゃいねぇよ。そんな深く突いてねぇ」


 「平助が倒れたって」

 斎藤が中庭を見渡した。

 「そこに寝てる」

 原田が顔を向けた先に、藤堂が気を失ったように倒れていた。


 「近藤さんたちは?」

 今度は原田が訊く。

 「新八っつぁさんは無事でしたけど」

 斎藤が答えた時、近藤と永倉が沖田を間に挟んで中庭の入口に立っていた。

 沖田は2人の肩に支えられて立っているが、頭をグッタリもたげている。



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