第十六話 激闘
1
たて続けに打ち込んだ剣を沖田に軽く払われて、宮部は驚いて後ずさる。
沖田が脇構えの姿勢で進むと、気圧されたように宮部は隅に追いつめられた。
「もう後はないぜ」
沖田の一言に反応するように、宮部が突然、自分の腹に剣を突きたてた。
「わりゃあ、よかみなせ!」
叫ぶ喉の奥から、ぐぉっとくぐもった音が漏れる。
瞬間、沖田の剣がすくい上げ、宮部の首が半分に切れて胴体と一緒に倒れた。
「介錯するぜ」
沖田が言った時、すでに宮部はこと切れていた。
振りかえると、部屋の角で2人の志士が青ざめた顔で立っている。
もはや戦意喪失して、ガタガタと震えながら立っているだけだ。
沖田が近づくと、口から泡を吹かんばかりに聞き取れない言葉を早口で口走る。
「こ、こっちゃん、来んな」
「分かんないよ、あんたらの国の言葉ぁ」
沖田が近づくと、男たちは、ひぃと喉の奥から奇声を発した。
剣を振り上げた瞬間に、喉の奥からぬるい塊がこみあげて、息が詰まり沖田はむせた。
突如咳込んで片膝をついた沖田を見て、男2人は驚いた顔をしたがすぐその場から逃げ出した。
口を抑えた手の隙間から、細い血の筋が唾液に混じって飛び散る。
沖田は一瞬、手の平を見つめたが、すぐに着物の袖で口を拭うとゆらりと立ち上がった。
足がふらつくのは熱が出ているためのようだ。
2
1階の中庭では、藤堂が5人の男と戦っていた。
屋内と違って、数人まとめて斬りかかってくるのを、藤堂は素早い剣捌きでかわす。
たて続けに3人斬り伏せる。
逃げる1人を追いかける時に、流れる汗で額の鉢金が滑り、目の前にずり落ちた。
一瞬、視界が無くなり、額に強い衝撃が走る。
逃げた男が振り回した刀が藤堂の額に当たり、額が割れた。
「うぉ」
藤堂の声を聞いて、中庭の隣りの炊事場にいた永倉が駆けつける。
刀を振り下ろそうとする男を斬り捨て、残る1人も返す刀で斬り捨てる。
「平助、大丈夫か!しっかりしろ!」
「たいしたこたぁねぇ、目が見えねぇだけだ」
藤堂の顔は額から流れ落ちる血で真っ赤だった。
薄く開けた両目も血だらけになっている。
「あとはオレたちが片づける」
永倉は藤堂をその場に寝かせ、うおぉぉーっと叫んで中に戻った。
中では、近藤が階段の上で2人の男と揉みあいながら奮闘している。
炊事場から玄関に抜けて逃げようとする男たちが、表を固めた隊士と斬り合いになっていた。
「おい」
永倉は一声かけると、振り返った男に斬りかかる。
3
2階の部屋では、近藤に阻まれ階下に降りれない男たちが、屋根つたいに逃げるため窓から出ようとしていた。
沖田が逃亡者を逃すまいと剣を構えるが、すでに手足の力が入らない。
眩暈としびれが襲うのを必死でこらえ、たて続けに2人の男を斬って捨てる。
しかし、沖田自身も膝をついた。
近藤が見つけて走って来る。
「総司、しっかりしろ!」
沖田の目はすでにうつろになっていた。
「総司!」
「・・ねむたいんですよ・・夜更かしはいけねぇや」
沖田の意識がしっかりしているのを見て近藤は安堵した。
「おめぇは寝んでな。あとはオレたちがやる」
「すいません・・役に立てねぇ」
沖田が悔しそうにつぶやく。
その時、近藤の背後から斬りかかってきた男の首に、沖田が片手で剣を突きたてた。
「ぐぉっ」
首から血飛沫を上げて男が倒れるのと同時に、沖田は気を失った。