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第百十五話 捕物


 1月25日の夜。

 佐々木六角源氏太夫の一団が、京の料亭で見廻り組に捕縛された。


 一部残党は逃げおおせた。

 (もとは近畿で活動していた一団なので、大坂近辺まで落ちた可能性がある)


 1月26日の夜明け前。

 新選組本隊が京の市中で捜索を開始。


 同時に大坂の近藤隊にも報せを送っている。

 火急の報せを受けて、大坂でも早朝から残党狩りを開始した。


 「オレら、土佐勤王党探してんじゃなかったっけ?その"ササキなんとか"ってなんだよ?」

 ネボケ顔のまま、斎藤がつぶやく。


 「知らねーよ、・・"ゲンジなんとか"じゃなかったか?」

 藤堂はアクビを噛み殺している。


 土佐勤王党の残党狩りは、そろそろ行き詰まってる。

 この頃は、的を絞らずしらみつぶしに当たってる状態だ。


 山崎だけは、独自のルートで追跡調査を続けている。


 「山崎さん、こっち来てからガッツリ大坂弁だよなー」

 藤堂が思い出したようにつぶやく。


 「ああ、たまげるぐらい似合わねーぜ」

 「あんだけ大坂っぽくない大坂人も珍しい」

 「"ほな、行きまっせー"とか言ってたけど。吹き替えかと思ったぜ」


 2人で山崎ネタで盛り上がってると、当の山崎が道の向こうから歩いて来る。


 「おー、ええとこで会うたわ」

 山崎が気付いて声をかけて来る。

 「ええハナシ、仕入れてきたでぇ~」


 山崎が笑いながら、顔の横で縦に小さく手を振る。

 訛りだけでなく、身振り手振りまで大坂っぽい。

 「ホンマモンの大当たりやで~」


 「山崎さん・・」

 藤堂が無表情でつぶやく。


 「ん?なんや?平助くん」


 「なんか・・その大坂弁、神経に触る」





 1月26日。

 新選組本隊は大々的に京の市中を探索した。


 旅籠屋をしらみつぶしに当たると、意外に簡単に潜伏していた一味の残党を見つけ出すことが出来た。

 しかも連中は、さして抵抗することなくアッサリ捕縛された。


 「たいした手練れもいねぇじゃねぇか。"ササキロッカク"・・」

 原田の言葉に、永倉が続ける。

 「ゲンジタユウ」


 「ですね・・。こんなチンピラ集団より、年末に取り逃がした浪士のがよっぽどアブねぇや」

 沖田が鼻をすすりながら、かったるそうに答える。


 縛り上げられた残党が、屯所の庭に転がされている。

 まもなく奉行所の役人が引き取りに来ることになっている。


 「よぉ、組長」

 現れたのは井上だった。

 ほかにも、廻り方の同心がゾロゾロと屯所の中に入って来た。


 「大活躍じゃねぇかよ」

 井上がヘラヘラと沖田に声をかける。

 「あいかわらず派手だねぇ、新選組は」


 「うるせぇ。おめぇらが、とっととカタつけられねぇからだろーが」

 沖田がうるさそうに横目で見る。


 「なんだよ?その鼻声」

 井上の言葉に、沖田が鼻をすすりながら答える。

 「風邪だよ、風邪。今年の風邪はシツコイやって・・去年の風邪だったな、コレ」


 いつものユルイやりとりをしてるうちに、同心たちが残党を連れて次々に屯所から引き揚げて行った。


 最後の1人のそばに、井上がしゃがみこむ。

 「おい、おめぇ・・奉行所にしょっぴかれたら拷問が待ってる。痛い思いする前に、訊かれたことは素直に答えとけ」

 井上の言葉に、猿ぐつわをかまされた男がコクコク頷く。


 「んじゃ、もらってくぜ」

 一声かけると、井上は男を縛っている縄を引いて立ち上がった。





 翌日には大坂でも捕物があった。


 佐々木六角源氏太夫の残党が、堂島の播磨屋に潜伏しているという情報を山崎がつきとめたのだ。

 27日の昼前、大坂に来た新選組の隊士30名が播磨屋を包囲した。


 手向かったのは鈴木という浪士1名だけで、ほか23名はたいして抵抗もせず捕縛された。

 鈴木四郎はその場で斬り殺された。


 大坂奉行所に引き渡した後、近藤たちはすぐ京に戻る準備をした。

 正直・・いつまでも、ならず者の捕り物に付き合ってられないというのが本音だ。


 山崎、松原、服部、川島・・それと10名の平隊士は大坂屯所に残り、土佐勤王党の残党追跡調査を続ける。


 京に戻った近藤と土方は、年末に取り逃がした長州系浪士の探索と屯所移転の打ち合わせで忙殺された。


 天狗党処刑の噂が聞こえてきたのは、2月に入った頃だった。

 12月に加賀藩に投降した水戸天狗党が、幕府軍により監禁拷問の末、幹部等が順次斬首刑になっている。


 2月4日に24名、15日に135名、16に日102名、19日に75名、23日に16名と・・党員828名のうち352名が斬首されている。

 処刑された人数は、過去に類を見ない数になった。


 この事件が、勤王派の志士を完全に討幕派に傾けるきっかけとなったのかもしれない。


 「沖田くん・・一段落したら、一緒に大津にでも行かない?」

 山南がつぶやいた。


 沖田が、休憩時間に山南の部屋に来ている。


 「大津?」

 沖田が訊き返した。


 大津は以前、山南が重症を負った時に療養をしていたことがある。


 「ええ・・あそこの紅葉は見事よ。風も水も澄んで・・心が洗われるわ」

 ひとりごとのように山南がつぶやく。


 「いいですねぇ・・オレもゆっくり静養したいなぁーと思ってました」

 沖田はごくありきたりな答えをしたが、"一段落する日"など来ないだろうと思っていた。



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