第百十二話 三すくみ
1
敗者復活戦で沖田と山野が勝ち、マグロとエビをそれぞれゲット。
斎藤と藤堂は・・紙(パー)で負けた。
「・・・」
「だから、オレぁ・・三すくみは嫌ぇなんだよ」
斎藤が不機嫌につぶやく。
「こんなことで運使ってたまるか」
藤堂は、自分が言いだしっぺなので黙ったままだ。
すると・・薫が藤堂にソロソロと近づいた。
「ジャーンケン・・」
薫が声をかけると、反射的に藤堂が腕を上げる。
「ポ!」
薫は紙( パー)、藤堂は石( グー)で、薫が勝った。
しかし、そのまま薫は続ける。
「アッチむいてホイ!」
声と同時に薫が左を指さすと、藤堂が釣られて左を向く。
「・・・」
「ハイ、藤堂さんの負け~♪」
薫がはしゃいだ声を出す。
「・・なんだ、今のは?」
「ジャンケンの派生遊びですよ」
シンが説明する。
「ジャンケンで勝った方が負けた方に、"アッチむいてホイ"の掛け声で上下左右のどれか指さしする。指された方を向いたら負けです」
「知らねー・・んなもん」
藤堂が低い声を出す。
薫はニコニコ笑っている。
"アッチむいてホイ"は、養護施設で園長が子供たちを相手によくやっていた。
ゲーム機のようにお金がかからないので、ソコが良かったらしい。
「へぇ~・・オモシロそうじゃねぇか」
あぐらをかいて酒を呑んでいた永倉と原田が立ち上がった。
2
それから・・ぶっ通しで酒を呑み続け、ぶっ通しで"アッチむいてホイ"をやり続けた。
薫と環とシンは、つきあいきれないので途中でリタイアしている。
勝率は以下の通り。
上位3名
1位 山南(ぶっちぎり)
2位 山崎(山野と僅差)
3位 山野("山"がつくのは強いのか?)
下位3名
藤堂、斎藤、永倉(もうメタメタ)
(注:土方は酔ってつぶれて不参加)
三日の午後に薫と環が部屋をのぞくと、昼過ぎまで酒瓶をかかえて寝ていた隊士たちが起き始めている。
藤堂と斎藤は不機嫌なカオで呑んでいた。
「すごい散らかりよう・・もぉ」
環が泣きそうなカオをする。
「藤堂さん、すごいクマ・・」
薫が、酒瓶を片づけながら声をかける。
「なんか・・ヘンな遊び教えちゃってゴメンナサイ」
薫がつぶやくと、藤堂がクイッと杯をあおる。
「へっ」
「ムキになるから負けちゃうんですよ」
環は畳を拭きながら、誰にともなく言う。
環の言う通り・・
"アッチむいてホイ"はムキになると負け、負けるとさらにムキになるという無限ループだ。
(ギャンブルにハマりやすい人が陥るドロ沼である)
「ふん」
斎藤も不機嫌に鼻を鳴らす。
「明日からまたお仕事なんですから・・あんまり呑むと、起きれなくなっちゃいますよ」
環が手を止めて顔を上げると、斎藤がクイッと杯をあおる。
「・・るせーよ」
薫と環は、同時にため息をついた。
3
沖田は山南の部屋に避難している。
(自分の部屋にいると原田がしつこく呼びに来るからだ)
「ったくもー・・新八っつぁんたちにゃあ、ついてけねぇよ」
沖田は膝をかかえて壁にもたれている。
山南がにこやかに答える。
「正月くらい、ハメ外したいんでしょうよ」
「・・年がら年中、外してませんか?あの人たち」
沖田の言葉に、山南はクスクス笑っている。
「にしても・・サンナンさん、ひとり勝ちだったですね」
沖田が頭の後ろに手を組む。
「あんなのカンタンよ・・逆向けばいいだけだもの」
山南は机の上の書物に目を落としながら答える。
「"つい釣られる"って、ねぇですか?」
沖田の問いに、山南がアッサリ答える。
「ないわ」
「あの・・サンナンさん、いいですか?」
廊下からうかがうような声がして、少しだけ障子が開いた。
薫が隙間からノゾキき込んでいる。
「沖田さんここに来てませ・・あーっ、いた」
スラリと障子を開ける。
「・・なんだよ?」
沖田が横目で見る。
「原田さんが、"沖田さん呼んで来い"ってウルサイんです」
「・・げ」
すると・・おもむろに山南が立ち上がった。
「ちょうど良かったわ。薫ちゃん」
箪笥の引き出しを開けて、中から取り出したものを持ってくる。
「これ・・アナタたちに返そうと思ってたのよ」
手渡されたのは・・
2人が江戸時代にタイムスリップした時に着ていた高校の制服だった。