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第百七話 BCG


 「ダイジョウブ・・?」

 沖田が不思議なものを見る目をした。


 「・・・」

 環はどう説明したものか思案する。


 (う~ん・・ダイジョウブってのは言い過ぎかも)

 感染らないわけではない。


 が・・予防接種を受けてるので感染リスクは低いと思われた。

 BCGの効果は5割~7割、持続は10年~15年くらいと聞いた気がする。


 環は乳児の予防接種を受けてないと思われたので、雨宮の両親が引き取ってすぐにワクチンを打っていた。


 薫の腕にも・・BCGのスタンプ痕が残っているのを環は見つけている。


 「わたしと薫は・・免疫があるんで感染りにくいんです。だから・・」

 ありのまま話す。


 沖田がお椀を布団の脇に置いた。

 「おめぇら・・ひょっとして、異人なのか?」


 沖田の問いに、今度は環が目を見開いた。


 異人・・・異なる人。


 そうかもしれない。


 確かに・・自分たちは、この時代の人間とは異なる存在だ。


 「・・かもしれません」

 環がつぶやくように答えると、沖田が息をつく。


 「ったく・・おめぇといい、あのシンってヤローといい」

 沖田が、"かもしれない攻撃"にウンザリした顔をする。


 だが・・"感染りにくい"という環の言葉が心を軽くした。

 言ってるイミは分からないが・・ホントのように思える。


 「お昼は、薫が持って来ますね」

 環が、お椀を盆に載せながら言った。





 捕まったのは攘夷派の浪士だった。

 

 禁門の変の戦で、長州軍でありながら戦局が傾くと脱走して藩に戻れなくなった者たちの集まりだ。

 手柄を携えて国元に帰るため、会津侯の命を狙う算段をしていた。


 「寺から逃げ出した連中を、あぶり出さなきゃなんねぇ」

 土方が口を開く。


 「どうやって?」

 永倉が訊くと、土方が目を瞑ったままで答える。

 「考え中・・」

 ・・ポク、ポク、ポク・・と木魚の音が聞こえてきそうである。


 部屋には土方と永倉と原田の3人だ。

 あぐらをかいて、火桶を囲んでいる。


 「なぁ・・土方さん。忘れてるかもしんねぇが・・明日は大晦日だぜ?」

 原田が膝の上に頬杖をつく。


 「忘れちゃねぇよ。そこまでズレてねぇや」

 土方が手を頭の後ろに組む。


 「なんか・・オレらってほとんど年中無休じゃね?」

 原田がボソリとつぶやく。


 「・・年中無休じゃねーよ、不定休だろ」

 福利厚生的な話になると、土方はややムキになる。

 

 「あーあ・・正月もなんもあったもんじゃねーな、こりゃ」

 永倉があおむけに寝転がる。


 「年がら年中、酒かっくらってるヤツがボヤいてんじゃねぇ」

 そう言って、土方は立ち上がった。


 労働組合っぽい話題が一番ニガテだ。





 炊事場でお米を炊いていた薫は、後ろから声をかけられて振り向く。


 「あのさぁ・・おかゆ、もう飽きた」

 沖田が寝間着に上着を羽織って、柱に寄りかかっている。


 「お、沖田さん?」

 薫が驚いて声を上げると、炊事場に降りて来た。


 「ダメです。そんなフラフラ歩き回ってちゃ」

 薫が小言を言うと、うるさそうに顔をしかめる。

 「もう、熱下がった」


 沖田は風邪気味になるとすぐ熱が上がるが、なぜだか下がるもの早い。


 「おにぎり食べたい」

 沖田がボソリとつぶやく。


 「え?お、おにぎり?」


 「うん」

 コクリと頷く。


 「はぁ・・」

 薫が答えると、沖田は「さびぃ」とつぶやいて踵を返した。


 薫は少し考えて、棚からかつおぶしを取り出す。

 「おかか・・うーん、三色とか?」


 そこへガラリと戸が開いて、ゴローとレンとシュウが入ってきた。

 「遅くなってゴメンねー、薫。朝の見廻りが時間かかっちゃってさー」


 3人は入隊してからずっと、隊務と一緒に賄いを手伝っている。


 「お昼はナニにするの?」

 ゴローが訊くと、薫がかつおぶしを削りながら答える。

 「おにぎりにします。みんな好きだし」


 「ええっ?握るのけっこう大変よぉー、大人数だもん」

 ゴローたちがブーイングを出すと、薫がかつおぶしをグッと前に突き出す。


 「いーから・・みなさん。握って握って、握りまくってください」


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