表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/122

第百六話 僧形


 人数に押されて防戦一方になってると、いつの間にか相手が減っている。

 どうやら戦線離脱して、少しずつ寺から脱け出しているようだ。


 すると、正門の方から藤堂と山野が現れた。

 逃げる浪士の行く手を塞ぐ。

 「待て!」


 山野が沖田の隣りに並んだ。

 「すいません、遅くなって」


 浪士と剣を交えながら、藤堂が声をかける。

 「ワリぃ、錠がかかっててな。塀からよじ登ったら、下でカチ合ったぜ」

 

 藤堂と山野が加わると、まだ10人以上いる相手が一斉に逃亡に転じる。

 3方に分かれて、散り散りに逃げ始めた。


 「逃がすな、追え!」

 土方の声で、沖田たちが逃げる浪士を追いかける。


 土方は、本堂に上がり込んで中を進む。

 奥の部屋まで来ると、僧形が数珠を手に端坐していた。


 「あんたが住職か?」

 土方が声をかけると、僧形が顔を上げた。

 「そちらは?・・こんな夜中に土足で寺に入り込むのはいかがなものでしょう」

 

 「新選組だ」

 土方が僧形のすぐそばに立って見下ろす。

 「この寺に不審な浪士が出入りしてると聞いてな」


 「はて?なんのことでしょうか?」

 僧形は首を傾げる。


 「朝のお勤めまで、まだ時間あんだろ?ゆっくり話そうぜ」

 土方が凄みのある顔で笑うと、僧形の顔が恐怖にひきつった。





 住職は、土方の問いに知らぬ存ぜぬを貫いた。


 『招き入れたのではなく、勝手に寺に入り込んでいた』

 『刀で脅されて、いたしかたなかった』


 寺が良く使う逃げ口上で、責任逃れをした。

 寺院が相手では、それ以上は追及できない。


 捕縛したのは、最初に捕えた2人を入れて全部で11人。

 残りはまんまと逃げられてしまった。


 正門と通用門のほかに北側の崩れた塀の根元に穴が掘られて、そこに逃げ道が作られていた。


 「んで、捕まえた連中は?」

 永倉が訊いた。


 「東の倉です。土方副長が取り調べてます」

 山崎が答える。


 朝方、屯所に戻って仮眠を取り、すぐに捕まえた連中の身元を洗い始めた。


 「取り調べねぇ・・拷問だろ?ありゃーもう、シュミだな。土方さんの」

 永倉が首を傾げる。


 「そういや・・総司のやつが寝込んでるって?」

 原田が訊くと、山崎が頷く。

 「ええ・・どうやら、戦闘の時から熱が出てたようです」


 「ったく・・あいつぁ、無茶しやがるぜ」

 原田がブツブツとつぶやく。


 「あーあ。オレたちが行ってりゃ、半数以上も取り逃がすことぁ無かったぜー」

 永倉が苦い顔をする。


 「しゃーねぇよ」

 原田がアッケラカンと言った。





 寝込んでる沖田の枕元に、環が座っている。


 脇に置いたお盆には、薫が作ったおかゆが載っていた。

 カブの葉をきざんだ菜飯風のおかゆだ。


 「沖田さん、起きれるようならゴハン食べましょう」

 環が、薄目を開けてる沖田に声をかける。


 沖田はモゾモゾと起き上がり、お盆に載ったおかゆに目をやった。

 「それ・・薫が作ったのか?」


 「はい。青物が入ってるんで、身体に良いですよ」

 環がお椀におかゆを盛る。


 手渡されたお椀に口をつけて、箸で口にかきこむ。

 「・・うまいや」


 「"色んな色の野菜を食べると身体に良いよ"って薫に言ったら、"お昼は何色にしようかな"って」

 環がクスクス笑いながら話す。


 「・・・」

 沖田は無言でおかゆをすする。


 「"部屋に近づくな"って言ったんですか?薫に」

 環がなんでもないような口調で訊いた。


 「別に・・あいつにだけ言ったんじゃねぇよ。環・・おめぇももう、この部屋には近づくな」

 沖田がおかゆをすすりながら話す。


 「それは・・病気が感染るからですか?」

 今度は、少しためらいながら訊いた。


 沖田は黙っておかゆをすすっている。


 「沖田さんの病気・・。わたしと薫は・・多分大丈夫です」

 環の言葉を訊いて、沖田が箸を止めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ