第百五話 闇夜
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引き返してきた2人をギリギリまで引き付けてから、沖田が道に走り出た。
沖田の姿に驚いた2人が剣を抜く前に、左の男を肩から峰打ちで斬りつける。
ウッという声とともに、塀にもたれるように倒れた。
その間に・・
山崎が、立ち上がると同時に置いていた長巻を足で蹴り上げ手に取り、そのまま真っ直ぐに突っ込んで、右の男の腹を柄で突いた。
グホッという声をともに、ドサリと道に倒れる。
山崎は棒術の達人だ。
沖田が斬りつけた男が、肩を抑えながらうめき声を上げている。
「ううう~・・」
男の頭を掴んで塀にしたたかに打ちつけると、額がついた状態で気を失った。
「沖田くんって・・けっこう乱暴だよね」
山崎の言葉に、沖田がキョトンとした声を出す。
「オレ、乱暴呼ばわりされたこと無いよ。土方さんと違うし」
「バラガキと一緒にいたから、目立たなかったんじゃないの?」
言いながら山崎が、どこから出したのか紐で2人を縛り始めた。
「山崎さんって、そういうのどこに隠してんの?」
沖田がそばにしゃがみ込む。
「いろいろ」
山崎は手を休めずに答える。
「前から思ってたけど・・山崎さん。一歩間違うと、変質者っぽいよねー」
沖田が山崎の手元を覗き込みながらつぶやく。
「オレは変人だが、変質者じゃない」
山崎が淡々と答える。
手足を縛り上げ猿ぐつわをかませた2人を、沖田と山崎が引きずるように林の中へ運ぶ。
作業を終えると、向こうから土方たちがやって来るのが見えた。
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「どうだ、様子は?」
土方が声をかける。
「すいません、副長。成り行きで・・2人片づけちまいました」
山崎が状況を説明する。
「中の連中に気付かれなきゃいいのさ」
土方が塀を見上げる。
土方の後ろに藤堂が立っている。
その後ろには隊士が20人ほど続いていた。
「平助。おめぇと山野は、向こうから入れ」
土方が、振り向いて指さす。
「ほかの連中は出入口と周りを固めろ。逃亡するヤツを取り押さえるんだ」
「うぃっす」
藤堂が頷くと、ほかの隊士も暗闇に散らばって行く。
「オレと総司と山崎は、そっから入る」
土方が通用門を指した。
山崎が門に手をかけてみる。
鍵はかかっていない。
門の中に入ると、向こうの陣屋に灯りが灯っているのが見えた。
足音を忍ばせて近づき、陣屋の戸を勢いよく開ける。
「御用あたらめだ」
中にいた男たちが一斉に振り返ると、次々に立ち上がって刀を抜く。
狭い陣屋の中に、20人ほどの男たちがいた。
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「ここじゃ本尊から丸見えだな」
土方が刀を構える。
「殺生できねぇだろう。表に出ろ」
そう言って陣屋の外に出た土方に続いて、中の男たちが次々と表に出て来る。
3人背中合わせに立つと、その周りを浪士たちに囲まれる。
「おい、山崎・・どう見ても20人はいるんじゃねーか?」
土方が声をかける。
「はい。やっぱり・・8人以上いました」
山崎が答えると、土方が続ける。
「・・っていうか、倍以上だろうが」
「まぁ・・量より質だから」
沖田が口をはさむ。
しかし・・男たちの構えと気配は、それなりの侍のもののようだ。
「新選組、沖田総司。参る」
先ず、沖田が斬り込んだ。
「山崎烝、参る」
続いて、山崎が斬り込む。
「土方歳三、参る」
土方が斬り込んだ。
1人で6~7人を相手取る計算になった。
次から次に・・替わる替わる浪士が斬りかかってくる。
それをギリギリでサバきながら、土方は薄笑いを浮かべる。
隊士の命を守るため、いつもは多勢に無勢で闘うことを避けているが・・喧嘩屋の性分が疼く。
格上の相手や大人数を相手取って、無茶な勝負に挑むのが・・喧嘩の醍醐味なんだ。