第百話 鬼探し
1
シンは、斎藤が(薫と環以外の)オンナに接するところを初めて見た。
「別にオンナに弱ぇわけじゃねぇよ。ブスなら全然ヘーキだぜ」
斎藤が良く言う言葉である。
要するに"美人に弱い"・・それだけだ。
歩きながらシンは考える。
(それじゃ・・薫と環はオンナのうちに入ってないってことか)
薫も環も子供っぽくて色気が無いので、顔立ちが整っていてもオトコから悪さをされずに済んでいる。
(まぁ、その方が安心だけどな・・)
市中見廻りから戻り、前川邸から八木邸に向かうと・・門の前に井上の姿があった。
シンをみかけて声をかけて来る。
「よぉ、兄ちゃん。ちょいと話せるかい?」
「・・なんですか?」
「おめぇが聞きたがってた・・赤鬼の話だよ」
井上の言葉を聞いて、シンが目を見開く。
「このまま出られるかい?」
シンは困った顔をする。
「オレ・・勝手に外に出られないんです」
「ふーん・・そっか。んじゃ、ちょっと待ってな」
そう言って、井上は八木邸の中に入って行った。
しばらくして戻った井上は、沖田を連れていた。
「なんだよ、いったい?」
沖田が不機嫌な声を出す。
「ちょっと、つきあえよ」
井上はオモシロがってる口振りだ。
「あの鳥居に行ってみようぜ」
沖田とシンが目を開いた。
2
鳥居の周辺は、いつもと同じで人影は無かった。
山は薄く雪に覆われ、静けさが増している。
井上と沖田とシンと・・3人が鳥居の前に立っている。
「この辺に落ちてたんだよなぁ・・あの"けーたいでんわ"」
井上が鳥居の柱の根元を指さす。
「・・お守りじゃねぇだろ?アレ・・なんなんだ?」
井上が振り返って、シンの方に顔を向ける。
シンは黙ったままだ。
答えないシンを見て、井上が薄笑いを浮かべる。
少し歩いてしゃがみこんだ。
「んで・・ここら辺に倒れてたんだよなぁ、赤鬼が」
「大助!」
沖田が遮る。
「いーじゃねぇか、こいつが知りたがってんだ。教えてやるのが親切ってもんだろ?」
井上が立ち上がる。
「倒れてたって・・」
シンが眉をひそめる。
「襲われたのさ、チンピラ連中に。よってたかって、もーボッコボコ」
井上が頭を掻く。
「・・鬼退治ってヤツだな」
「まさか・・死んだんですか?」
シンが静かな声で訊く。
「いや・・助かったぜ。骨も折れてねぇし、命にゃ別状は無かった」
シンがホッと息をつく。
「それで・・今どこに?」
「さぁ・・?知らねぇなぁ」
井上がお手上げのポーズを取る。
「こっちが訊きてぇぜ」
3
シンは黙ったまま井上をみつめる。
「腕のいい、口のかてぇ医者がいてな・・そこに預けたんだが、火事が起きる前にトンズラしちまった。ったく・・」
井上が腰に手をあてる。
「ところが・・火がおさまった頃に、戻って来たらしい」
シンが眉をひそめる。
シンは火事の間は鳥居の前にいて、火がおさまってから町に降りている。
じゃあ、赤鬼はその後でまた現れたのか?
だったらあのまま鳥居の前にいれば、赤城教授に会えたかもしれない・・。
(行き違いかよ・・?クソッ!)
シンは歯噛みする。
考え込んでるシンを、井上がオモシロがっている顔で見ている。
沖田はずっと黙ったままだ。
「戻って来た鬼を見たやつはなぁ・・白い光で気を失っちまったんだとよ」
井上はアッケラカンとした口調で話す。
「ったく・・笑っちまうよなー」
井上がシンに一歩近づく。
「おめぇ・・あの鬼の正体、知ってんだろ」
ニヤニヤ笑いながら続ける。
「白い光ってなぁ・・いってぇ、なんなんだ?」
シンは無表情を崩さない。
「さぁ・・知りません」
「・・おめぇも、あの嬢ちゃんたちも・・あいつの・・鬼の仲間か?」
シンの返事をまるで無視して、井上が続ける。
「"へいせい"と"てんしょー"ってのは、外国か?それとも・・鬼の国か?」