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episode2 風を抜け!

 太陽も木々の緑もまぶしい。蒸し暑さも走り出せば丁度いい心地よさだ。

 ヒロシとD-トラッカーは街を抜け北の山の山道に入った。峠道にはいれば通行量は少なくなり、いい感じで流せる。とともに、風がヒロシとD-トラッカーを出迎えるように吹き付けてくる。

 上り坂、登坂車線もつけられるほどの急坂だ。坂の上では青空が広がり、雲が心地よく空を泳いでいる。

 機嫌よくさえずっていたD-トラッカーのアクセルを開けて、カタパルトから飛び出し坂の上の雲にでも突っ込むかのように「愛機」を加速させた。

 D-トラッカーは叫び後輪を蹴って駆け、景色は吹っ飛ぶように流れ、加速するにしたがい重心が後ろへ移り前輪は浮きあがりそうになる。

 が、ここでは前輪を浮かせず一瞬アクセルを戻し前輪を接地させてからまたアクセルを開け、加速する。

 風が一気にヒロシとD-トラッカーにぶつかってくる。人車一体となって、風を打ち砕いてゆく。

 風を抜け!

 そう叫ぶようにくうを打つD-トラッカーのエキゾーストノートが峠に響く。

 道路の車線も車輪の回転早まるにしたがい途切れ途切れなのが、一本になったように見えた。

 登坂車線が終わるとともに、上り坂も終り、フラットな直線。

 いまこそ、とヒロシはアクセルを開けて重心を後ろに移し前の重心を軽やかにすれば、D-トラッカーは前輪を高々と上げて、ウィリーをかます。

「ひぃーーーやっはーーーー!」

 それこそ空に飛び立つかのごとく前輪を上げるD-トラッカー視界に広がる青空を眺め、ヘルメットの中でマシンとともに叫ぶ。

 このD-トラッカーは初期型でカスタムがほどこされマフラーにサスペンションが交換され、ハンドルの前にはこぶしを保護するナックルガードが装着。ミラーは丸かったのを角ミラーに換えてある。

 初期型の中古を必死の思いでしたアルバイトで稼いで買った。買ってからも維持のために月曜から金曜の放課後ファミレスでアルバイトをしている。

 D-トラッカーは愛機であるというだけでない、ヒロシの全てだった。

 ガキのころ道ゆくバイクを見て、

「かっこいい!」

 と稲妻がほとばしるような衝撃を受けて、以来バイクの虜となり、免許を取りD-トラッカーを手に入れ、風となり風を抜くことが、ヒロシの全てだった。


 峠道は隣の県へ通じる国道でもあり、よく整備されて走りやすかった。

 しばらく右に左にコーナーを楽しむ走りをしていると、脇道が見えた。その脇道へと滑り込む。

 寄り道、ではない、この脇道からがヒロシとD-トラッカーの本領発揮だった。

 国道を外れると一気に森の中の道になる。木々の影があたりを覆い、時折木漏れ日が槍のように道に突き立つ。

 道路状況は国道と変わらないが、ヘアピンコーナーが増えてスピードはどうしても落ちるが、ひらひらと森から突き立つ木漏れ日を突き破りながら右に左にD-トラッカーは突っ走ってゆく。

 ヒロシのライディングテクニックも悪くない。アウトインアウト、スローインファーストアウトの基本を守りながらも臨機応援に状況に対応し、D-トラッカーを身体の一部のように操る。

 走るにつれて道幅は狭まってゆき、ついには一車線路になってしまった。道路状況も悪くなり、落ち葉が道を埋めひどいところではアスファルトが剥がれて水溜りが出来ている箇所もあった。

 しかも片方はガードレールがない崖、片方は草木生い茂る山肌で、時折山が崩れ土砂が道の半分に雪崩れ込んでいたりしていた。落石もころころ転がっている。

 この道は国道が出来る前に使われていた旧道だった。今は使う人は少なく、整備状況も悪く、寂しい道だ。が、そのおかげで冒険心をくすぐるアドベンチャーロードとして楽しめた。

 快晴にもかかわらず、森の中のためライトがうすく山肌や森の木々を照らし出し、メーターもほんのりと光る。

 さっきと打って変わり平均速度は30キロのスローペースだが集中して走らないと落ち葉に足元をすくわれ、下手をすれば崖下転落と、危険と隣りあわせだった。でもその危険と隣りあわせという、ワンミス命取りの緊張感が面白かった。

 初めて来たときはどこに通じているのかわからず、今どこにいるかもわからず、まるで異世界に迷い込んだようだった。

 今でこそこの道のことを知っているので楽しいが、最初は素直に楽しめず怖い半分だった。

 しばらく走っていると道は二股にわかれ、ヒロシは左側に進んだ。

 森の中はかわらないが、道路状況は突然よくなり、道幅も広くなった。

 軽く流すと、頭上に高架の高速道路を見上げ、太い鉄骨の橋げたがゲートのように道にそびえ高速道路を支えていた。

 道は山間を縫うように右に左にうねる。右に左に人車一体となってコーナーを駆け抜ける。

 やがて行き止まりとなった。

「今日はまだ誰も来てないのか」

 一番乗りだ。

「貸切、かな」

 にこやかに言うと、行き止まりでUターンしアクセルを開けてD-トラッカーを加速させ、コーナーを攻めだした。

 この道は頭上を走る高架の高速道路の工事用道路だった。今は誰も使わず、ヒロシと仲間たちらモタード乗りの絶好の遊び場だった。

「うっはぁーー!」 

 楽しさのあまり叫び、ウィリーをかます。

 コーナーが来れば前輪を降ろしヒロシはロードスポーツモデルよろしくハングオン(正式にはハングオフ)スタイルでケツを右に左に移動させつつ、膝を路面にすらないギリギリのところまで突き出しD-トラッカーを走らせていた。

 勢いが乗る。

 D-トラッカーは唸りを上げ、勢いに任せて後輪をスライドさせ逆ハン切りながら、ドリフトでコーナーを抜けた。

 コーナー手前、リアブレーキを強くかけてわざと後輪をロックさせれば、D-トラッカーのケツはふらふらと右左に揺れて、そこから一気に倒しこまれマシンサウンドとタイヤのスキール音双方をこだまさせた。

 ドリフトは四輪の専売特許ではない。二輪でもドリフトを楽しむ、ネジの飛んだヤツはごまんといる。

 ヒロシもそんなヤツの一人で、愛機とともに風を抜くことに夢中になっていた。

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