episode11 エクストリーム! Ⅰ
「なんだって?」
「だから、私と鬼ごっこをしましょうって言うのよ」
「オレのD-トラッカーとでか?」
「そうよ。私が逃げて、あなたが追うのよ。逃げる私を追って、身体に触ることができれば、あなたの勝ち……」
と言いつつ、二枚の葉っぱを差し出す。
「で、勝てばふたりを解放してあげる」
言われた瞬間に拳を握りしめ、
「わかった」
というと愛機D-トラッカーのもとまで歩みより、ヘルメットを被り、グローブをはめる。
「そんな、お兄ちゃんが戦うことはないんだよ。危ないよ。リレントレス・クルーエルに、イスレやマウリーンのことは、僕らに任せて……」
「それができる性分なら、苦労はないけどな」
ヒロシはスモークシールドを上げて、イオムに微笑んだ。
D-トラッカーは、目覚めの息吹が吹き込まれた。
空を打つ咆哮が、スネイフェーレに響いた。
イオムは何もいえず、D-トラッカーの揺らす空に身を任せるしかなかった。
「あぶねーから、下がってな」
アクセルを開けると、行くか! とD-トラッカーは咆えた。リレントレス・クルーエルは葉を胸ポケットにしまい、楽しそうに笑った。
「じゃあ、早速はじめましょうか!」
卍フリスビーはひるがえり、丘を駆け上がろうとする。ヒロシはシールドを閉めて、D-トラッカーは雄叫び上げて、後輪で地を蹴り駆け出した。
イオムはそれを黙って見送るしかなかった。竜騎士や魔術師たちはまさに蚊帳の外で、成り行きを見守るしかなかった。
丘の頂きには大世界樹がある。
大世界樹はいまこの世界でなされていることを、静かに見守っていた。
卍フリスビーは低空飛行で丘の頂きを駆けのぼる。それをヒロシのD-トラッカーが追った。
竜騎士に魔術師、イオムは、この唐突にはじまった鬼ごっこを固唾を飲んで見守っていた。結界を破ろうと皆試行錯誤しているが、なかなか破れない。
「リレントレス・クルーエルは、大世界樹を倒す気か!」
なにをするかわからないリレントレス・クルーエルだ。勢いよく丘を駆け上るのを見ていたら、大世界樹を倒すことなど簡単にしてしまいそうだった。
全ての起源である大世界樹を倒せばどうなってしまうのか。それはエヴァン・ラニンの滅びを意味していた。
そうと知らず、ヒロシはアクセルを開けてリレントレス・クルーエルの背中を見据えていた。さすがに今は火急のときゆえヒップには目が行かない。
D-トラッカーは上り坂で急加速しながら、フロントが浮きウィリーをする。
「すごい」
イオムは思わずつぶやく。
ガイアに来てから仮面ライダーをきっかけにバイクというものを知った。そのバイクに心が寄せられている。だから毎週の仮面ライダーの放送がガイアでの一番の楽しみだった。
卍フリスビーは頂きまでのぼり、大世界樹の傘下まで迫ると、そこで止まって笑顔でD-トラッカーを待ち受けた。
ヒロシは油断せずアクセルを開けてリレントレス・クルーエルに迫った。
アクセルを開ければ、周囲の景色は吹き飛ぶように流れてゆく。空を打つサウンドとともに風を切るのは、エヴァン・ラニンでも同じだった。
大世界樹は巨大な傘のようにスネイフェーレ島の丘にたたずんで、リレントレス・クルーエルとともにヒロシを待ち構えているようだった。
「おいで」
という声が聞こえそうだった。
「なめてんのか」
頂きに迫り、大世界樹の傘下に入りそうなところで、やっぱりリレントレス・クルーエルは逃げ出した。
卍フリスビーは大世界樹の周囲を左回りに大きくぐるりと回ろうとする。そのあとを追って、D-トラッカーも大世界樹の周囲をぐるりと大きく回ろうとする。
が、草原なのでタイヤはグリップせず、バイクを傾け足を突き出し、後輪はスライドしまくりのドリフト走行で前輪は逆ハンを切らないとうまく走れない。で、速度もなかなか乗らない。
それでも、こけるかこけないかのギリギリのラインで、ヒロシは愛機を走らせていた。
風が吹き、ざわ、と大世界樹の葉っぱたちが騒いだ。
「えっ」
イオムは思わず大世界樹を見上げた。それから、
「お兄ちゃんがんばれー!」
と叫んだ。イオムには聞こえた。いや、上空の竜騎士や魔術師たちにも聞こえた。
大世界樹の葉っぱたちの、
「がんばれ!」
という声が。
がんばれの声は、マシンサウンドに包まれているヒロシには聞こえないが、そう言われている思いでアクセルを開けていた。
大世界樹の周囲をオーバルトラックのようにぐるりと回っていたが、リレントレス・クルーエルはにこりと笑うと、バレエのように華麗に身をひるがえして卍フリスビーを方向転換させて、追うヒロシのD-トラッカーに迫った。
このままでは正面衝突だ。
「マジかい!」
慌ててパニックブレーキングしそうだったが、咄嗟のところで落ち着き、強くブレーキはかけずやんわりかけて体勢をととのえ、どうにかリレントレス・クルーエルをかわそうとする。
が、リレントレス・クルーエルはヒロシが右に交わすや同じように自分は左によってあくまでヒロシと真正面で向き合おうとする。
「馬鹿野郎がッ!」
ヒロシはアクセルを緩めなかった。せっかくかわしてもまたよってくるなんて、何を考えてるんだと思ったが、相手は人間じゃない!
なら遠慮は無用と、半ばやけでリレントレス・クルーエルに向かい突っ込んだ。
リレントレス・クルーエルのサングラスに、ヒロシとD-トラッカーが映りこみ、その端っこには、大世界樹も映りこんでいた。
イオムは息を呑んだ。正面衝突をする気か、と。
だが突然、ふたりの間で、草原が盛り上がった。卍フリスビーのリレントレス・クルーエルはひらりとかわしたが、ハイスピードで迫るD-トラッカーはさけられなかった。
「いっけー!」
ヒロシは思い切って、突然の盛り上がりをさけずそのまま突っ込んだ。D-トラッカーは雄叫び上げて、盛り上がりをジャンプ台にして、飛び上がった。






