スーパーレイプマスター轟
俺は轟狂三郎。ロックで音楽業界のトップに立つのを目指している。
親父は売れないロック歌手で、小学生の頃は貧乏だった。ある時に演歌の人と仕事をしてから、演歌の仕事が増えた。父親のドサ周りに連れられて行くと、年配の人々に可愛がられたのを覚えている。後から聞いた話だが、俺がいる時はロックだったり流行の曲を多く歌って、演歌だけではつまらないだろうという大人たちの気遣いがあった。
高校の時に、音楽を目指す事にした。DTMに、演歌の様な人の心に深く踏み込む曲が多いと知った。親父の音楽の知識は半端なく、初音ミクや今の流行、歌謡曲、洋楽、東洋西洋の伝統音楽も当然のように知っていた。家の中で音楽の話が増えて、
「お前は音楽で何がやりたい」
「ロック」
「そうか」
複雑な表情をした親父の気持ちは分からなかったが、すぐに笑顔になった。
「頑張れよ」
「おうよ」
後に初めての曲を出した時、親父はカンカンに怒って上京してきた。何故こんな事になってしまったのだろう。
デモの歌唱を送ったり、オーディションに応募したり、三桁は超えただろうか。高校の三者面談では、父親が音楽業界の現実と自分がしてきた生活を元に担任に説明し、先生は俺にも話を振りながら時間一杯まで話し合い、問題ないでしょう頑張ってくださいと言う事になった。最後、そういう夢を見て人生に行き詰る生徒が多いとため息をつき、親父も苦笑いをしていた。
そうして、高校を卒業したら上京するというスケジュールで、零細の事務所への所属が決まった。親父は詳しい事は聞かず、変な奴だったら俺に言えと、笑っていた。
そうして、今俺は、最初の曲の歌詞を書いている。プロデューサー兼社長と話し合った結果、最初だから売り上げはあまり気にせず、一度自分の世界観を試行錯誤してみる経験があると、これから貰う曲の理解にも役に立つだろうと言われ、洋楽で名作が多いというテーマに挑戦する事になった。
それが、この歌詞だ。これが、全ての始まりだった。
コンクリートの卒塔婆が闇に包まれて
誰にも届かない悲鳴が反響する
逃れられない宿命を嘆くがいい
貴様は既に吾輩の手中
役立たずの神に祈るがいい縋るがいい
終わる頃には風が冷たく絶望を知らせるだろう
(シャウト)
テーマは「レイプ」。
「レイプなんか歌になるんですか」
「海外では有名な曲が多いね。後で送っておくから、聞いてみるといい」
「悪趣味ですけど、イメージ大丈夫なんですか?」
「中島みゆきやミスチルだって、鬱曲多いし、星野源も米津玄師もちゃんと暗い曲を歌ってるからね。最初は勉強のつもりで、コアな曲にチャレンジするのもありだと思っている」
「そういう考え方もあるんですね」
「世界は光に照らされてるだけではないよ。誰かの代わりの声になるのも、歌手の仕事だよ」
という訳で、加害者側の視点で書いてはいるが、いまいちピンとこない。無理矢理って嫌だろうしかも街中でいきなり、っつって、正直AVでも無理だと思っている。あれを需要する奴の気持ちが分からない。
「AIに聞いてみるか......」
最近はクリエイターもAIを使うのが流行っているらしい。全部AIではおかしいと思うが、知識を教えて貰うのは全然ありだと思ってる。インターネットでChatGPTを開いて、質問してみる。
『洋楽でレイプをテーマにした曲があるからチャレンジしてみようって言われて書いてるんだけど、ちょっと冒頭見て。』
その後に歌詞を入れて、エンターキーを押す。次の瞬間。
『現在の歌詞は、暴力性や支配性を抽象的・象徴的に表現しています。しかし、性的暴力の被害は実際には長期的な心理的外傷、人間関係の破壊、自己否定感などを伴う現実的な問題として語られる事が多く、“闇”“絶望”“支配”といった記号的表現だけでは、実態から乖離して見える可能性があります』
『うん?なんて?』
ほぼ似たような回答が返ってくる。
『歌詞の話はいい。レイプについて、君は何を説明してるの?』
脳が稼働しない感覚を、そのまま質問する。
『性的暴力は、“痴情のもつれ”や“過激な恋愛”として軽く扱われる事がありますが、実際には強い恐怖体験として長期間影響を残すケースがあります。
被害者は、
(ひどいその後)
などを経験する場合があります。
また、“抵抗できなかった”“声を上げられなかった”事に対して、自分を責め続けるケースもあります。そのため、単なるショッキングな題材として扱う事に強い反発が起きる場合があります』
うん。
そう。
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
『ええええ』
思わず、文章になってない心の叫びを入力してしまったが、AIは情け容赦ない。
『なお、全ての被害者が同一の反応を示す訳ではありません』
はい。
『“重い”という評価は主観的な感情反応です。情報としては、まだ重要な要素が残っています。
たとえば、このテーマにおける“重さ”とは、単に気分の沈みや不快感を指すものではなく、現実における身体的・心理的影響の持続性、当事者の自己認識の変化、社会的な孤立や誤解の発生など、複合的な要因によって形成されます。
そのため、表現として“重い”と感じられること自体は自然ですが、それは内容の性質を十分に説明する言葉ではありません』
俺は、AIとのやり取りをそのままメール本文にして、プロデューサーに送った。しばらくして、スマホがなった。プロデューサーからだ。
「やあ轟。頑張ってるみたいだね」
「勉強というより論文ですか?ねえ?」
「お、ロックだねえ。いいよその調子」
「気軽に言いましたよねプロデューサー、いや社長、これ俺の歌手人生終了まっしぐらじゃないんですか?」
俺は今、恐ろしい怪物の前にいるのだろうか。
「そうかなあ。じゃあ、逃げる?他の曲がいい?」
「外堀埋めようとするのやめて貰っていいですか?じゃあ、道徳的な問題はロックとしても。ものすごく難しいんじゃないですかこれ?まともな歌詞にできると思ったんですかこれ?」
「うーん?うん。いけると思うよ。多分」
「本当に!?本当に言ってる!?AIさんの攻撃力すごく強いなあって!」
「そうだね。さすがAIだね」
「できますかね、俺に」
「君なら出来るよ!頑張ってみて!じゃあ、また進捗報告してね!」
「あ、ちょっ」
通話は切れた。あの人はカスなのか?サディストなのか?
その後。真の闇を彷徨う気持ちでAIと対話を続けて、ようやく理解に辿り着いた気がした。これで、終わるのか?恐る恐る、自分の頭の中に描いた全容を言葉にして、問うてみた。
『レイプというのは、性的な攻撃で、レイプをする人の多くは性的欲望よりも他人を暴力で支配する事を楽しむのが目的で、その対象が性的嗜癖に基づくとは限らず、老若男女に性暴力以外の攻撃や欺罔も多種多様に行う、という理解でいいですか』
次の瞬間。
『大きく外れてはいませんが、全ての一般化は難しく
ぎゃああああああああああああああああああああああ
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぎゃあああああああああああああ
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
『続けますか?』
『続けられる訳ねえだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
俺はメールの本文にAIとの会話のログをぶち込んで、送信して、信長の野望を起動した。同盟どうしようかなあ、民の扱い悪いみたいだし、扇動するかあれ?
社長げほごほあのゴミが武田家にズタボロにされたタイミングで同盟を破棄したころ、スマホがなった。なんだよ今戦時中なんだよ。
「やあ」
「なんですか。まだ続けろっていうんですか」
「行き詰ってるようだから、僕が歌詞書いてみたよ。返信で送ってるから、目を通してみてね。参考になると思う。じゃ!」
通話が終わる。武田家と東西を分け合ってゲームは終わった。あのクソ、何をどう書いたんだろう。気になって、メールを開いてみる。
――――
題名:よろしくね!
本文
コンクリートの卒塔婆が闇に包まれて
誰にも届かない悲鳴が反響する
逃れられない宿命を嘆くがいい
貴様は既に吾輩の手中
役立たずの神に祈るがいい縋るがいい
終わる頃には風が冷たく絶望を知らせるだろう
(シャウト)
という歌を
俺は歌ってみたい
海外では
よくあるらしい
暗い曲なんかミスチルも歌うだろう
世界は光だけで出来てる訳じゃねえんだ
だが
俺は何も知らない
折角だからChatGPTに聞いてみようか
轟『なあ、レイプって何?ちょっと歌詞書いてんだけど、アドバイスも欲しい』(以下、カッコ内は台詞)
AI(初音ミク風に初音ミクの消失の速さで以降同じ)『現在の歌詞は、暴力性や支配性を抽象的・象徴的に表現しています。しかし、性的暴力の被害は実際には長期的な心理的外傷、人間関係の破壊、自己否定感などを伴う現実的な問題として語られる事が多く、“闇”“絶望”“支配”といった記号的表現だけでは、実態から乖離して見える可能性があります』
轟『うん?なんて?』
AI『現在の歌詞は、“悪”“支配”“絶望”といったイメージを中心に構成されています。しかし、性的暴力の被害は、現実には身体的暴力だけでなく、長期的な精神的外傷や対人関係への影響を伴う問題として扱われます。そのため、“闇の怪物が獲物を襲う”ような抽象表現だけでは、実際の被害実態と距離があると受け取られる可能性があります』
(シャウト)
あいつさあ
俺に歌わせるのか
一体何を
書かせよおってんだ
暗い曲なんてレベルじゃねえだろお
世界の闇でもビルをマジの卒塔婆にすんな
だが
あいつは歌わせようとしている
折角だからChatGPTをぶつけてみようか
鳴るスマホ
寝ていた俺は
電話に出た
俺『よお。がんばってるな』
轟『道徳的にはともかく、単純に難しいですが?』
俺『君なら出来るよ!がんばって!じゃ!』
(シャウト)
あの野郎は
何を考えてんだ
本当何を
考えているんだ
明るい声で中島みゆきを超えるな
AIさんのロックが核攻撃で戦争だよ
だが
もう少し頑張ってみようか
折角だからChatGPTにもうちょっと聞こう
果てしなく
続いた激闘の末
遂に決着はついた
永遠とも思える刹那の連続に
俺は世界の深淵の奈落の底に辿り着いた
轟『レイプというのは、性的な攻撃で、レイプをする人の多くは性的欲望よりも他人を暴力で支配する事を楽しむのが目的で、その対象が性的嗜癖に基づくとは限らず、老若男女に性暴力以外の攻撃や欺罔も多種多様に行う、という理解でいいですか』
AI『大きく外れてはいませんが、全ての一般化は難しく
(シャウト)
(シャウト)
(シャウト)
コンクリートの卒塔婆が闇に包まれて
誰にも届かない悲鳴が反響する
逃れられない宿命を嘆くがいい
貴様は既に吾輩の手中
役立たずの神に祈るがいい縋るがいい
終わる頃には風が冷たく絶望を知らせるだろう
(シャウト)
――――
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぎゃあああああああああああ
ぎゃあああああ
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああ
ぎゃあああああ
ぎゃー
。
スマホを手に取る。鳴らす。社長が出る。
「あ、曲発注したから」
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
その後の記憶はない。上京した日に社長と行ったカラオケで初音ミクの消失をノリノリで歌っていた以上、技術的な理由で逃げる事は、出来なかった。
曲は、「炎上商法の究極」として半端なくバズった。コラボ依頼も多くあったが、現場に入る度に、何かこう、変に気を遣われた。最初はいくらか睨みつける人もいたが、トラブルらしいトラブルはなかった。
「あの子、あいつの事務所らしいぞ」
「あの人はマジでヤバイからな」
などと、聞こえる事もあった。聞こえない振りが上手くなったと思う。一応は自分で書いた部分もあり、音楽一般の知識もあったからだろうか、楽屋では気さくに話してくれる人は多かった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「あははははは本物は違うっすねー」
俺がヤバいプロデューサーの犠牲者であるとはすぐに広まり、人格を疑われると言う事は無かった。ある時、すごい風格の人に話しかけられた。知らない人だが、トップクラスの歌手なのは話し方ですでに分かる。
「面白い曲だな」
「ほとんどあの人が書いたんですけどね」
「泥臭いフレーズは君だろ。あいつ、ああいうの好きだから」
「社長の知り合いですか?」
「昔組んでたが、方向性の違いでな。あの頃、あいつがああいう事を出来てたら、違ってたんだがな」
「へえ......」
「あ、それと、君、親御さんとは連絡とってんのか?」
「いやあ、ちょっと言いづらくて......」
そういうと、その人は考え込むように俯いて、沈黙した。
「どうしました?」
「言ってない、かあ。轟君。君のお父さん、千川悟って歌手じゃないか?」
「父をご存じなんですか」
「うん、まあ。連絡も来てない?」
「はい」
「そっか。まあ、気を落とさないで、頑張ってな。俺は中田典二って言うんだ。幸助の奴にもヨロシク言っといてくれ」
社長の本名だ。本当に知った間柄なのだろう。
「ありがとうございます」
意味深な事を言われたが、時に気に留めなかった。振り向いて遠くなっていく革ジャンとジーパンの後姿を見送りながら、これからの事を考えた。前後多難だなあと思いつつ、轟は顎を上げて前を歩きだした。




