第4章 婚活オンラインサロンでの学び ——“ジャスミン” が私にくれた、婚活を続ける力
32歳。婚活市場に出戻った私は、以前ほど焦らずに婚活パーティーに参加できるようになっていた。週末の予定が空いていれば申し込み、無理なく婚活の場に足を運ぶ。まるで“自分という商品を売り込む営業活動”みたいな気分だった。
そんなとき、ある婚活パーティーで、花柄のワンピースに身を包み、髪型はゆるふわロング、とびぬけて美人ではないけれど、親しみやすく笑顔を絶やさない「あの女性は一体何者だ!?」と注目してしまうほどの女性に出会った。私はその婚活パーティーが終わるとすぐにその女性に話しかけ「このあとお茶でもしませんか」とナンパした。
彼女は今まさに “ガチ婚活中” で、恋愛本を読み漁り、婚活専門のオンラインサロンに入っているという。「よかったらあなたも入ってみたら?」と誘われるがまま、私はその婚活オンラインサロンに入会することになった。
正直自分ひとりだけでする婚活に限界を感じていた。婚活についてアドバイスしてくれる専門家が近くに居れば、今まで結婚できなかった私でも今度こそ結婚できるかもしれないというちょっとした期待もあった。結婚相談所はなんとなく良い人が居なさそうだし、できれば入会したくないとその時は思っていたので、婚活オンラインサロンなら今の私にはちょうどいいかもしれないと思った。
◆婚活オンラインサロンのしくみ
その婚活オンラインサロンは月2回の課題提出と、月2回のライブ配信(アドバイザー&他の会員との交流)が基本。会員限定SNSで日々進捗をシェアしたり、プランによっては専任の “先生” が婚活を伴走してくれたりもする。婚活の進め方・マインドセット・モチベーション維持を総合的にサポートしてくれる場所だ。
婚活オンラインサロンで私が一番惹かれたのは、婚活中の仲間がいること。
サロン内にはもちろん独身の女性しかいない。普段の生活のように既婚者や子持ちの人達に囲まれて肩身の狭い思いをする必要がない。どんな愚痴をこぼしても「だから結婚できないんだ」とか「独身だから問題あり」などと言われるような心配がない。婚活をしていることをバカにする人も居ない。そういう無駄なストレスを感じなくていい場所としてとても重宝した。
婚活の悩みは、婚活をしている人にしか分からない。
何より婚活しているのに結婚できていない、婚活しないと結婚できない自分のことを人に話すのは恥ずかしいが、婚活オンラインサロンの中なら安心だった。
◆“ジャスミン” という仮の名前がくれた勇気
私は婚活オンラインサロンの中で “ジャスミン” というハンドルネームを名乗ることにした。
婚活を始めてから「運命の王子様を待っているだけではダメ」という一文を目にすることが多かった。すでに婚活をしているという時点で待っているだけの状態ではないはずなのに「もっと頑張らなきゃいけない」と焦らされているような気持ちだった。
そんなときにディズニー映画『アラジン』に登場するジャスミン姫が頭に浮かんだ。小さい頃から、自由に生きたいと願う彼女の姿に共感していた。
『アラジン』の物語は貧しい青年が魔法のランプを手に入れて、魔法の力で王子様になってジャスミン姫を救い結ばれるというストーリーだ。だが同時に「なんでも持っているジャスミン姫が、自分のことをちゃんと見てくれない他国の王子様達の求婚に飽き飽きして、お城を抜け出し街へでかけて、貧しいが心優しくて本当の自分を見てくれるアラジンと出会い、最後には結ばれ本当の幸せを手に入れる」という物語でもある。
アラジンの物語はジャスミンがお城から出ることがなかったらはじまらなかったストーリー。アラジンの勇敢さとジャスミンの理想を求める行動力が2人の運命を変えたのだ。
「王子様を待つだけのプリンセスではなく、自ら行動するジャスミンのようになりたい!」
そんな思いで “婚活版ジャスミン” としての私が動き始めた。
◆週報とToDoリストで、婚活に向き合い続けた2年間
基本的にまじめな性格の私は婚活オンラインサロンに入会してから退会するまでの約2年間、毎週月曜に前週の振り返りと『婚活ToDoリスト』を作るのが習慣になった。
・1回婚活パーティーに参加する
・1回合コンに参加する
・デート服を買う
とにかく婚活に繋がることならなんでもいい。婚活に役に立ちそうなこと、楽しく達成できることを記入することで、自分を追い込みすぎて途中で燃え尽きたりしないように気を付けていた。
またToDoリストは達成できそうなものしか書かないようにして、婚活がつらくならないようにすることを大事にしていた。
オンラインライブ視聴と週報投稿を続けるうちに、私は「自分をメモに写して眺める」クセがついた。
専門用語では “メタ認知” というらしい。
① 思考や行動をノートに書く
② 時間を置いて読み返す
③ 傾向や気づきを整理する
たったこれだけで「自分を一歩引いて捉えること」ができるようになり、怒りや不安のピークを少しだけ遅らせられた。「こういうとき、私はこう考えやすい」とパターンを把握し、次の行動につなげる。
メタ認知を意識するようになってからは、反射的に動くのではなく、「どう対応するか」を少し立ち止まって考えられるようになった。小さな選択肢が増えた感覚だ。毎週自分の婚活を振り返ることで、闇雲に行動するのではなく冷静に戦略を立てて婚活に望むことができた。
少しずつ自分のクセや価値観を理解できるようになると、怒りや不安も敵ではなく、ただの信号に過ぎないと感じられるようになった。
これが継続できたのも婚活仲間から励ましのコメントをもらえたおかげだった。
“ジャスミンさん” と婚活仲間から呼んでもらえる度に「婚活で苦しんだり悩んだりしている自分」と「現実を生きる自分」を分けて感じられるようになったので、婚活の精神的な負担も軽減したように思う。
私以外のメンバーは週次報告をしない人も居たし、毎月先生から出される課題を提出しない人も居た。仕事が忙しい上に婚活で出会いの場に出かける時間も捻出しなくてはいけない。それに加えてオンラインサロンに公開される動画を見ることや課題に取り組む時間がとれなかったんだろう。
私は真面目にオンラインサロンの課題提出をしていたので「ジャスミンさんが動画を見たあと、要点をまとめたノートをSNSに載せてくれるから助かる!」とメンバーから好評だった。先生たちからも「ジャスミンさんはいつも真面目に取り組んでいてえらい!」と褒められていた。婚活では結果を出せない私だったが、この婚活オンラインサロン内で「課題提出が完璧だ」という理由で、本来は入籍した人を祝福する場でわざわざ “課題提出MVP” として表彰してもらったこともある。
婚活の結果ではなく、努力そのものを認めてもらえる場所だった。
そうやって自己肯定感をあげてくれる場所があったからこそ、私は楽しく婚活を続けることができたんだと思う。私の中の “ジャスミン” という存在が私に婚活を続ける力を与えてくれたのだ。
◆私がサロン内SNSにポストしていた内容について
>>4月②週目報告
【良かったこと】
・目標よりも多く婚活パーティーに参加した!(3回)
・今週出会った男性の数は、28人!※ただしほぼ苦行。
・婚活パーティーでマッチングした人は36歳国家公務員。
・合コンで出会ったイケメンは31歳。二次会でカラオケにも行った。5:6の合コンだったけどイケメンの2名とかわいい女の子1人をGETして4人で行けた。眼福。
【悪かったこと】
・婚活に時間を使いすぎて日課にしていた「新聞を読む」ことや「スキンケア」などの時間を削ってしまった。会話に困らないよう一般常識は常にインプットしなくてはいけないと感じた。高卒だからバカとは思われたくない。
・今月末は資格試験があるのに勉強が進んでない。婚活と両立させないといけない。
>>4月③週目報告
①15日婚活パーティー
②16日合コン
③17日合コン
【その他】
・11日婚活パーティーでマッチングした36歳国家公務員。食事に誘ってくれたのだが「私は今月忙しくて来月上旬は空いていますがどうですか?」と聞いたら「お忙しいんですね。またの機会にお願いします。」と返信が来た。クソ。
・11日合コンで捕まえたイケメン31歳は「今月忙しくて来月上旬は空いてます。」と伝えると「行きたいところはありますか? イチゴ狩りとかどうですか?」などとめちゃくちゃ前向き。来月上旬で日程を調整中。やはりイケメンは中身もイケメンだ。
>>4月④週目報告
【①土日が資格試験なので勉強する!】
この週にちょうど生理が重なり情緒不安定になる。資格試験よりも婚活のほうが不安になってしまい、22日は仕事が休みだったので勉強するつもりだったのに、なにかしないといけない衝動にかられ、血迷ってマッチングアプリに登録。写真だけ見て気になる人に「いいね」してみた。
【②22日マツエク】
まつ毛が上がると気分も上がる
毎月植えているので今後も続けようと思う。朝メイクがとてもラク。
【③21日デート1件】
……の予定でしたが、なんかマルチの勧誘っぽかったのでキャンセルした!!急に予定が空いてしまったので最近オシャレを怠りがちだったなと反省し靴を新調しました。出会いがないなら自分磨きをするしかない。
【その他】
マッチングアプリに勢いで手を出してみて皆さんがマッチングした相手とデートに繋げていることの大変さを痛感。尊敬。やっぱり私にマチアプは向いてない。でも先生に「仕事だと思え。」と言われてからなんか吹っ切れた。仕事だと思えばやれる。脳死。
【次週の予定】
① 28日婚活パーティーに参加
リピート率高めで以前お会いしたことのある男性と再会してしまうことが増えてきたのでとりあえずこれで一旦行くのは最後にしようかなと。この日は友達と行くので、引き立て役に徹する所存!
② 30日デート1件
パーティーで出会って1回食事した相手から連絡がきて、また食事に誘ってくれたので、金曜日の夜に1.5時間だけごはんに行きます。
③ 初アポ×2件
合コンで知り合ったイケメンと、予定が合わなくて伸び伸びになってしまったけど、なんか頑張ってくれているので会ってみる!
マッチングアプリで出会った36歳の人。メッセージのやり取りも楽しいので期待。
※どっちも相手がお店を探してくれると言うので任せてしまったが、長丁場になりそう。本当はランチとかカフェとかで1時間くらいお試しで会うだけが理想なんだけどな。
>>ちなみに、オンラインサロン内で自分の恋愛に対してアドバイスされ続けるというのも「常に自分のやり方に指摘を受けている=否定されている、採点されている」という気持ちになることもあり、サロン内では公開しなかったが、私は私で悩んでいた時期もあった。
私なりの傾向と対策がある。いろいろな人からのアドバイスはうれしい。だがすべてをみなさんに伝えきれているわけではないので、私が考えていることと、みなさんが感じていることにはズレがあるように思う。
相手がどんな男性か、自分のキャラクター、2人の間にしかわからない空気感、温度感などによって対応や対策は変化すると思う。だからこそ誰かの言うことに全て従っていても成功はしないと思う。そして失敗したとき後悔するのは私だ。
迷っているときのアドバイスはうれしいが、そうでないときにアドバイスされると「自分ではうまくいっているつもりだけど、周りから見たらうまくいってないのかな。」とか疑心暗鬼になってしまう。たくさんアドバイスをされすぎるとどうしていいのか分からなくなる。
恋愛も結婚もその後の結婚生活も、結局最後は2人で築いていくもの。
周りの意見に流され過ぎず、結婚する前も、結婚してからも、自分で選択して行動できるようにならないといけないと感じる。
◆婚活オンラインサロンでの教え
何度も耳にしたのが「男性にとって居心地の良い女性になりましょう」という教えだった。
それは一見、円満なパートナーシップを築くための前向きなアドバイスのように聞こえた。私も素直に受け入れ、実践しようと努力した。
『小さな不満や違和感を指摘しない』
例えば「箸の持ち方が違う」と思っても指摘をしてはいけない。指摘してしまうと男性は居心地の悪さを感じてしまう。結婚相手を探している男性に対しては「ダメだし」をしてはいけない。
「子供の時にちゃんと教わらなかったの?」と言うのではなく、
「私、けっこう厳しく教えられて育ったから気になっちゃって…」
とやんわり伝えてあげる。
そういったコミュニケーションの取り方を丁寧に教わった。
しかし「男性にとっての居心地の良さ」を追求するあまり、私はどんどん「何も言えない自分」になっていった。話を聞いてばかりで、共感してばかりで「それは違う」と思っても言葉にできない。
“ダメ出しをしない女” でいようとすればするほど、自分の感情は置き去りになっていった。
自分の気持ちよりも相手の機嫌を優先する。
それが “居心地の良さ” だと思い込んでしまったのだ。
今振り返れば、それは「自分を失くしていく過程」だったのだと思う。
モテるために、選ばれるために、私は “言わない女” になっていった。
◆アドバイスは万能ではない。自分の “幸せの定義” を決めるのは自分
婚活オンラインサロンではみんな悩みながら、苦しみながら、活動を続けていた。交際が始まってからも、アドバイザーに相談しながら、気を抜くことなく入籍に向けて一歩ずつ進んでいった。数か月で成婚するメンバーもいた。
その中で印象的だったのは「アドバイザーの意見を素直に聞く人」もいれば「自分の直感を優先して、アドバイスを無視する人」も居たということ。
でも、どちらのタイプでも成婚する人は居たし、逆にアドバイス通りに行動したのに破局してしまうケースもあった。
結局のところ、婚活の成功は「誰と出会い、どう関係を育てていくか」に尽きると私は思う。その過程で相手をどれだけ思いやれるか、自分の感情をどうコントロールできるかが大切なのではないだろうか。
婚活アドバイザーの言葉は、あくまで参考にすぎない。書いてある通りに行動したからといって、大好きな相手と結婚できる保証なんてどこにもない。
だからこそ、婚活は常にトライアンドエラーの繰り返しだと思う。失敗から学びながら、自分なりの恋愛力を育てていくしかないのだ。
サロン内で成婚していった人たちは、よく「みなさんのおかげで入籍までたどり着きました。」と感謝の言葉を述べていた。もちろんサポートは大きかったと思う。
でも私は心の中でこう思っていた。
いや、それは “あなたが頑張ったから” ですよ、と。
アドバイスが背中を押したのは確かだ。でも最終的に選択をして一歩を踏み出したのは、その人自身だったはずだ。
世の中には数えきれないほどの恋愛本・婚活本がある。けれど、よく読めば「これは特定のタイプの人にしか当てはまらない」という内容も多い。
しかも圧倒的に女性向けの本が多く、男性向けの本はごく少数。これは単純に、恋愛本を読むのを好きなのは、女性が多いからではないだろうか。その“読者層が喜ぶ内容” が大量に書かれているにすぎない。
きっと、女性向けの恋愛本に書かれている内容を男性が読んだら
「いや、これされても正直うれしくないんだけど。」って思うことも書かれているんじゃないだろうか。
恋愛にも婚活にも “万人に効く正解” なんて存在しない。
それぞれが自分のやり方で、自分の価値観や幸せと向き合っていくしかないのだと思う。
◆婚活に必要なのは、ひとすじの光
婚活は人によっては本当につらいものだと思う。
だからこそ、絶対に逃げ道を確保して活動をしてほしい。
本当にくじけそうなときに信頼できる仲間や相談できる相手が1人いるだけで、人は前を向ける。
一筋でも明かりがないと婚活という真っ暗闇で迷子になってしまうから。
私が “ジャスミン” として活動できた2年間には、間違いなく光があった。
【連載目次】
第1章 恋愛という名の予習
第2章 婚活パーティーという戦場
第3章 経験しか信じない男 コウイチ
第4章 婚活オンラインサロンでの学び
第5章 合コンという社交場の裏側
第6章 完全無欠の遊び人 タケル
第7章 マッチングアプリという“カタログ恋愛”
第8章 個人主催パーティーの甘い罠
第9章 SNS婚活の“自由”と“偏見”
第10章 ミツルの洗脳
第11章 結婚相談所という最後の砦
第12章 『婚活うつ』という終着駅
第13章 独身偽装男 リョウスケ
第14章 結婚しなければ、という呪い 『婚活依存症』
第15章 ギャンブル借金浮気男 マコト
第16章 自称婚活中の男 マサヤ
第17章 私は、婚活をやめた




