第1章 恋愛という名の予習 ——“結婚=幸せ” をまだ信じていたころの恋
婚活をはじめる前の恋愛遍歴を簡単にまとめてみようと思う。
そう、私だって恋人を作ることはできたのだ。ただあまり良い経験だったとは思っていない。むしろ恋愛なんて1・2回すればいいもので、それ以上してしまったら恋愛が価値あるものだという感覚を失ってしまうし、相手に求めるものはどんどん増えていくばかりだし、しなくてもいい経験ばかりで男性不信になることもあるからだ。人は失敗から学ぶというが、その失敗は多くないほうが自分の精神的な健康は守られると思う。失敗の数を数えて自信を失ってしまう前に、恋愛において一番大事なのは「誠実な相手を選べるか」であることを認識すべきだったし、「この世には悪い男が居て、信じても裏切られる可能性がある」ということを知っておくべきだった。
【初恋】ケイくん——叶ったはずの恋がほどけた日
初恋は幼稚園の時に引っ越してきた男の子だ。はじめて男の子を「かっこいい」と思った。仲のいい男の子の友達は、みんなかわいい男の子が多かったが、ケイくんはキリっと堀の深い顔立ちでぱっちりとした二重だった。
幼稚園から小学校の間はずっとバレンタインとホワイトデーにお菓子を交換したし、中学生になったときは同じ部活に所属していた。他に気になる男の子が現れたりもしたが、初恋というものは特別なもので、ずっと心の中で大切に想っていた。
そんな彼とは高校2年生のときお付き合いすることになった。小さい頃の初恋が叶った幸せな思い出である。
彼はずっとパティシエになる夢を追っていたので、私は彼を将来支えられるようにと高校在学中に日商簿記2級の資格を取得し高校を卒業するタイミングで就職することにした。就職して経理の実務経験を積みたかったからだ。彼は高校卒業と同時に製菓専門学校へ入学。それをキッカケに社会人になった私と学生の彼はすれ違うようになって、気が付いたら彼は学校で他に好きな女の子ができたようだった。
別れ話の時は、この世の終わりくらい泣いた。
別れたくなさ過ぎて別れ話を始めた彼に背を向けて全力ダッシュしてその場から逃げ、別れ話をなかったことにしようとしたくらいである。ただ後ろから猛ダッシュで追いかけてきた彼に捕まって、あえなく別れ話は続行し私の初恋は終了した。
その後数年経ってから復縁するが、会社員の私とパティシエの彼ではやっぱりうまくいかず、結局価値観の違いで別れることになってしまった。あんなに大好きで絶対に彼のお嫁さんになるんだと信じていた幼い頃の私の夢はここで終わった。
私には「初恋を失った痛み」だけが残った。
【裏切り1】コウちゃん——好きな人の子供を産みたかった
就職してからはじめてできた彼氏。今までの人生で出会ったことのないタイプで、家族関係に少し問題があり、たまに落ち込む顔を見せることがあったが、いつも明るくお調子者でみんなから可愛がられている男の子だった。
私はコウちゃんと2年程付き合ったが、ある日突然別れを告げられた。
他に好きな人ができたんだそうだ。
あまりにもあっけなく振られてしまい、悲しくて体重が5キロ落ちた。そうしたら生理が来ないことに気が付いて、念のため調べたら妊娠が発覚した。
別れたあとだったが連絡をして妊娠した事実を彼に伝えたが、
「もう新しく付き合っている人が居る。付き合っているときに妊娠していたら結婚も考えたけど、今は考えられない。」ときっぱり言われた。
親にも相談したが、当時私は20歳。
「今産まなくても、次に好きになった人と結婚して、それから子供を産んでも遅くない。」と言われた。
産婦人科で「まだ中絶するには時期が早すぎる。もう少しお腹の中で大きくならないと取り出せない。」と言われ、私は自分のお腹の中で『中絶できる大きさまでお腹の中で自分の子供を育てる』という信じがたい期間を過ごすことになった。毎日眠りにつくと夢で顔の見えない赤ちゃんに会い、仰向けの姿勢でお腹に両手を当てた状態で目が覚めた。
「この子を産めるのは私しかいないから、産んであげたい」
中絶前夜に彼と両親に「中絶をやめたい。」と泣きながら話した。
「父親が居ない子供になる。女一人で、今のあなたの稼ぎで、どうやって幸せにできるの?」
母の涙を前に私は何も言えなかった。
みんなが子供をおろすことを望んでいるようにも感じた。
だが母はこうも言った。
「あんたは寝相が悪いのに妊娠してからはずっとまっすぐ姿勢よく寝てたよ。私も妊娠していた時そうだったから分かる。お腹を守って寝てたんだよね。あなたはちゃんと母親になろうとしていたよ。おろす決断をしたときも隠れて泣いていたのはちゃんと知っているからね。私も、あなたのお腹に子供が居たこと、忘れないからね」
中絶をする日は、彼も病院についてきてくれたが、病院内で待機することが許されなかったので私は送り迎えをお願いした。
手術は全身麻酔だった。目が覚めたとき、もうお腹に自分の子供が居ないことが信じられなかった。別に胎動を感じたこともないし、お腹が大きくなったわけでもなかったが、お腹に生命を宿した子供が居たことを、私は確かに感じながら生活をしていたからだ。
彼が病院に迎えに来てくれるまでただただ泣いて、病院の出口で彼がクマのぬいぐるみを抱いているのを見てなんとか笑えた。私のために買ってきたらしい。彼と私の子供みたいだと思った。
私はこの経験からはじめて自分が「女性として子供を妊娠できる身体で生まれてきた」ということを自覚した。
『私は好きな人の子供を産める身体で生まれてきた、でも産んであげられなかった』
その事実だけが、心に居座りつづけた。
中絶した日の2日後から仕事に復帰した。
まるで何もなかったかのように日常が動いた。
彼は私じゃない人と付き合って幸せで、子供を失ったのは私で、
ひとりになったのは、私だけだった。
【男の傷は男で癒す?】最強にアホで優しい3人組
初恋のケイくんが通っていた高校は横須賀にあった。ケイくんはよく石川町にある私の高校の校門の前で、バイクに跨って私の授業が終わるのを待ってくれていた。
当時ケイくんとつるんでいたのが「ぼにー」と「うっちー」だ。
2人とも気がいいやつらだった。
ぼにーの髪型は特徴的で、前髪がブラックジャックくらい長くて頭頂部の髪はいつもツンツン逆立っていた。口にはピアスがついていて、耳には菜箸が刺さりそうなくらい大きな穴が開いていた。ぱっと見は悪そうなのに、調理師専門学校に通っていて、専攻は日本料理。私が人生で出会った中で一番と思うくらい優しい話し方をする男で、しかもハマグリで出汁をとれる男だった。
うっちーはパンチパーマみたいな生まれつきのくせ毛を茶色く染め上げていて、まるで外国人の子供みたいな頭をしていた。同じく調理師専門学校に通っていて、専攻はフレンチ。ちょっと太っているのを気にしていて、体型の話になるといつも忽然と姿を消した。
この2人は、私がケイくんと別れたという話を聞きつけて、中学からのツレだという「ばっさん」と3人で私のところに会いに来た。
「ま、俺たちまで縁が切れるわけじゃないからさ」
ぼにーとうっちーなりに慰めに来てくれたんだろうと思ったが、ケイくんと別れてから2年、あまりにも遅すぎる。きっとこのとき暇だったんだろう。
初対面のばっさんが「えーどうせならもっとかわいい子と会いたかった!」と私の顔を見て言ったので笑ってしまった。
ばっさんは一番見た目がまともなのに、中身が一番クレイジーだった。
私たち4人はいつも深夜のコンビニで紙パックのジュースを買うと、ストローを紙パックに直接ぶっ刺して、ストローを口にくわえたままいろんな話をした。
「なんか花火が見たい気分だわ」
ばっさんが突然そう言って、ぼにーの飲んでいたジュースをひったくると、目にも止まらぬ速さで真っ暗な空に向かって一直線にほおり投げた。
紙パックのジュースが最高点に到達したとき、やばい、落ちてくる、と全員がその場から遠ざかると、一瞬で紙パックのジュースが地面に叩きつけられて情けない音を立てた。ジュースが地面にまるで花火のように広がった様を見て、ばっさんが「たーまーやーーーーー!」と言った。
ウケケと笑うばっさん、自分のジュースを投げられてショックで声も出ないぼにー、それを見てゲラゲラ笑ううっちー。最高に面白かった。
私がケイくんと別れたあと、コウちゃんと付き合って別れて、妊娠中絶をしたことを話したとき、3人は黙って話を聞いてくれた。
「もうその話は誰にもしなくていいからね」
ぼにーが心配そうに言ってくれた。
「そーそー、普通だったらみんなドン引きだよ。やめときな。うっちーなんて童貞なんだから、次元違い過ぎて理解できてねぇよ、なぁデブ」
ばっさんがふざけてそう言った。
「デブって言うな!」
うっちーが涙目で叫ぶ。もう私の真剣な話は流されてしまった。
「今日はお前が好きな唐揚げでも食おうぜ」
ばっさんがかっこつけて車を走らせて、肉のハナマサで鶏もも肉を買い、そのままドン・キホーテでカセットガスと鍋と油と唐揚げ粉を買った。花火が禁止されている近所の公園で、料理人を志す男たちが唐揚げを作りはじめた。時刻は深夜2時。月明りだけじゃ唐揚げの色が分からないが、油の音を聞くだけで唐揚げが仕上がったのが分かるらしく、手際よく紙皿にできあがった唐揚げを盛り付けていく。
この世で一番美味しい唐揚げが完成したが、深夜の見回りに来たお巡りさんに見つかって、こっぴどく叱られた。
「唐揚げ禁止なんて書いてねーじゃん!」
ばっさんは最後までお巡りさんに向かって訴えていたが、これ以上騒ぐと本当に交番に連れて行かれそうだったので、3人で4人分謝った。
ばっさんの口癖は「黒髪ロングの女の子と付き合いたい」だった。当時私は黒髪のショートヘア。どうしてもばっさんの気を引きたくてエクステをつけて黒髪のロングヘアに変身してやった。
いつものように車で迎えに来た3人の前に、さっそうと登場した私の黒髪ロング姿を見て、ぼにーとうっちーは私の恋心を察したが、ばっさんは何も察しない様子で「あー髪の毛伸びてるーー。」と言った。
だが少しは気にしてくれたようで、映画を観に行こうと誘ってくれた。
「こうやって2人で楽しいことしたら、ぼにーとうっちーが羨ましがるからおもろいだろ」
いつも4人で会っているだけなので2人で会うのは緊張したが、ばっさんはいつもと変わらなかった。私が映画を観て泣いていると肩をたたいて私の顔を覗き込んでニヤニヤ笑った。
車でしか行けないボーリング場も、湘南の有名な心霊トンネルも、真っ暗で何も見えない海も、店長が怖いコンビニの駐車場も、濃霧で何も見えない深夜の湘南平も、全部思い出の場所になった。
ちなみに、突然黒髪ロングのエクステをつけた私は、会社でこっぴどく注意された。次の査定で最低ランクのD評価をつけられ、その後2年間給料が上がらなかったが、それも良い思い出だ。こんなおもろいことはない。
そんな私たちの遅すぎる青春は、ばっさんの転勤によって幕を閉じた。
私が立ち直れたのは、間違いなくこの3人のおかげだったと思う。
【裏切り2】ダイキ——3つのクリスマスプレゼントの意味は
もう誰かと付き合うのはやめたほうがいいと思ってはいたが、あの出来事から1年が過ぎたころ、SNSをきっかけに中学時代の同級生であるダイキから「飲みに行かないか。」と誘われた。
同じ会社で働いている人とは違う世界で生きている人で、話していて刺激的だった。どうしてもコウちゃんのことを思い出して落ち込みがちだった私にとって、ダイキは全く違う景色を見せてくれる人だった。彼にとっては、そんな彼に影響されていく私が魅力的に見えたのかもしれない。
付き合って5か月目。12月24日のクリスマスイブに、彼からネックレスを貰った。星形のペンダントトップにキラリと光る石が付いていてとてもかわいい。私の首に彼がつけてくれてとてもうれしかった。
その日は2人でホテルに泊まることになっていた。彼がシャワーを浴びている間に、ふと彼のカバンを覗いたら、私へのクリスマスプレゼントと同じネックレスの箱があと2つ入っているのが見えた。どういうことか分からなくて、悪いことだとはわかっていたが、その2つの箱を開けてみると、それぞれ私がもらったネックレスとお揃いのデザインのネックレスが入っていた。私が呆然としているとバスルームから出てきた彼と目が合った。
彼は咄嗟に「実は友達と一緒に買いに行ったんだけど、クリスマスまでに受け取りに行けたのは俺だけで、明日友達に会うから、その2つは友達に渡す分なんだよ。」と言った。
そんなことあるわけないと思った。
私がそう思って、悲しいと感じた、嫌だと感じた、それだけで充分だった。
男はすぐに私以外の女の子を好きになる。
ケイくんも、コウちゃんも、そうだった。
その後私から「別れよう。」と言ったら「わかった。」とすんなり了承され、彼は私の前から姿を消した。
結局私のことなんて誰も選んでくれないんだ。
【癒しとすれ違い】サトシ——同棲が教えてくれた“家事と性”
心底男というものが信じられなくなった私はまた恋愛をお休みする。
でも両親を一度悲しませてしまった分、絶対に結婚して子供を産まなくてはいけないという使命感のようなものがあり、また恋愛をしてみようと考えるようになった。
そんな時に「2人で食事に行きませんか。」と誘ってきたのがサトシだった。3回目のデートで告白してくる真面目な人だった。
付き合って半年くらいのときに、私が「実家を出て一人暮らしをしたい。」とサトシに話すと「それなら一緒に住もう、家賃も折半できるから生活も楽だろう。」と言うので、お互いの両親に挨拶を済ませ同棲を開始することにした。
私も彼も一人暮らしというものをしたことがなかったので、慣れない毎日だった。
私は仕事と家事の両立がうまくできなくて、少しずつイライラが溜まっていった。彼はおおらかな性格だったので、私が一人で完璧に家事をやろうと抱え込んでいると「僕もやるから、一人で全部やろうとしないで。」と言ってくれたが、彼は炊飯器も洗濯機も使ったことがなかったし、料理もうまく作れなくて、私は私のことで手一杯だったのに、彼に家事を教える必要があり「頼みたくても頼めないんだから、私がやるしかないじゃない!」と感情的になってしまうことが多かった。
それでも付き合っている以上は夜の生活も欠かせないのだが「2人分の家事をこなして、仕事では後輩の教育をして、自分の時間なんてロクにつくれないのに、やっとすべてが落ち着いてゆっくりできる夜に、今度は彼の下半身の世話までしなければいけないなんて…」と考えるようになり、彼に触れられるだけで不快感を覚えるようになってしまった。
そんな状態でも彼は私に優しく接してくれたが、家事能力は相変わらずだった。
生活を共にしていく中で彼のことを男としてではなく、同居人、弟、最後には自分の息子のような存在だと感じるようになり、異性として好きだと思えなくなってしまった。
なんとか私の気持ちが戻らないかと、インターネットで性欲が上がる食べ物を調べて食べてみたり、気晴らしにちょっと雰囲気の良いデートコースに誘ってみたり、少しの期間帰省して距離を置くなどの努力もしてはみたのだが、セックスレスが半年続いたときに私の方が限界を迎え「あなたのことは好きだけど、これ以上は付き合えない」と別れを告げた。
セックスレスでは子供が作れない。
このときの私は、結婚して両親に自分の子供を見せたかったのだ。
【最後の恋】ツヨシ——“結婚が見える距離” の残酷さ
ツヨシは会社の後輩で大卒入社だった。大卒で働く人たちは高卒を見下すような人も中には居るのだが、ツヨシはそんなことはせず、むしろ高卒で年齢が自分よりも下の先輩にも礼儀正しく、そして気さくに接していて社内の女性達からの人気も高かった。複数人での飲み会のときは絶対誘われていたので、部署は違うが顔を合わせる機会が多かった。
私は同棲がうまくいっていないことを相談することもあったし、ツヨシも当時付き合っていた彼女の話をしてくることもあった。次第に何でも相談し合える存在になっていき、ツヨシが彼女と別れ、私も同棲を解消したら、そのままなんとなく付き合うことになった。
ただ私はその時「同棲中に彼の世話を焼いてしまったことが原因で、男として見ることができなくなり、セックスレスになった」ことで自信を失っていたし、「そろそろ28歳だし、私に性欲がなくなっているのかもしれない」と思っていた。
でも彼は付き合ってからも一緒に眠るときはただ抱きしめるだけで、デートのときも身体に触れてくるようなことはあまり無く、友達の延長のまま仲を深めてくれたので自然と私が彼に触れたいと思うようになり、そのうち「セックスレスの原因は、私の性欲減退ではなかった」ことが証明された。
だが、次の難関は「家事」であった。ツヨシは家事を完璧にこなすことができた。私が同棲を失敗した原因は私の家事能力の低さのせいでもあったと自信を失っていたので、ツヨシが作る手料理がとても上手に見えて、私が自信を持って彼に作ってあげられるものなんてないと本気で思った。
ツヨシは自分の家の合い鍵を私に渡してくれて「いつでも来ていいから。」と言ってくれた。
彼にとっては大学時代の彼女にもそうしていて当たり前だったのかもしれないが、私にとっては初めてのことで、喜びと同時にプレッシャーだった。
「家に行ったら掃除や洗濯や料理をした方がいいのか。でも私がやるよりツヨシがやったほうが上手だし、お世話してしまったら、また男として見られなくなってしまって、セックスレスになって、同じことを繰り返すんじゃないか」
そんな考えが頭の中をぐるぐると巡って、結局私は、彼が会社から帰ってくる頃に彼の家に行き、就寝前の時間を一緒に過ごすことしかできなかった。
ツヨシは「俺仕事の後にご飯作るの疲れるよ。」とか「洗濯物手伝って。」と私に対して要望を伝えてくれていた。私も言われたことはやるようにしていたが、自主的に「料理を作って帰りを待つ」とか「洗濯や掃除をして帰りを待つ」などの行動はしなかった。私はずっと彼の期待に応えられていなかった。
それが彼の気持ちを冷めさせる原因だったんだと思う。
気が付いたら毎日来ていた連絡が少しずつ減って、私が彼の家に行ってもほとんど会話してくれなくなった。どうにかして彼の気持ちを取り戻そうと、家で試作を重ねた料理を作って持って行ったり、彼が疲れて寝ている間に洗濯物を片づけたりするようにしたが、もう手遅れだった。何をやっても何を話しても笑ってくれなくなって、最後には目も合わせてくれなくなって、一緒に寝てもくれなくなった。
ある日「話したいことがあるから、家に行っていいか。」と連絡が入り、私の家に招いたら玄関先で「別れよう。」と告げられた。
理由は「あなたとは結婚が考えられないから。」だった。
たしかに家事もせず、彼の家でダラダラと過ごすだけの私をずっと見ていて、一生一緒に居たいなんて思えるわけがないよな、と思った。
家事をしないなら半同棲みたいな中途半端なことはせずに、彼の家ではなくて、いつも外にデートに出かける関係のままで居られたらよかった。
私が自分の家事スキルに自信を持てるように、もっと早く努力すればよかった。
30歳を目前にして振られた私は、はじめて「別れたくない」と縋ってみたが、何の効果もなく、そのうちツヨシにメッセージを送ってもなにも返信してくれなくなった。
もっと付き合っている間に私の気持ちを話せていたらよかったし、彼が私に出してくれたサインにきちんと向き合っていたらよかった。
全部私が悪かった。
失恋をするたびに「また失敗した」と思った。
私の中に積み重なっていく恋愛の記憶は、すべて失敗の記録だった。
成功体験なんて、ひとつもない。
私にとって、恋愛における “成功” とは、つまり「結婚」なんだろう。
でも私はそこまでたどり着いたことがない。たどり着けなかった。
どうして? 何がいけなかったの?
私の何が嫌いで、何が足りなくて、なぜダメだったのか。
そのときは何も分からないまま、関係だけが終わっていく。
ただ一つ、確かなことは
私はもう「これ以上失敗したくない」ということだった。
また傷つくのが、怖くてたまらない。
自分が否定される感覚に、もう耐えられない。
だからこそ、私は早く “ゴール” にたどり着きたかった。
結婚という結果が欲しかった。
この苦しさから解放されるには「結婚」しかないように思えた。
「結婚さえすれば、すべてが報われる」
という呪文を唱え続けた。
こうして私は30歳を迎えることになった。
それと同時に転勤が決まり、環境をガラリと変えられるチャンスに恵まれた私は、東京で新生活と婚活をスタートさせる覚悟を決めた。
ここからが私の苦難の婚活ストーリーの始まりである。
【連載目次】
第1章 恋愛という名の予習
第2章 婚活パーティーという戦場
第3章 経験しか信じない男 コウイチ
第4章 婚活オンラインサロンでの学び
第5章 合コンという社交場の裏側
第6章 完全無欠の遊び人 タケル
第7章 マッチングアプリという“カタログ恋愛”
第8章 個人主催パーティーの甘い罠
第9章 SNS婚活の“自由”と“偏見”
第10章 ミツルの洗脳
第11章 結婚相談所という最後の砦
第12章 『婚活うつ』という終着駅
第13章 独身偽装男 リョウスケ
第14章 結婚しなければ、という呪い 『婚活依存症』
第15章 ギャンブル借金浮気男 マコト
第16章 自称婚活中の男 マサヤ
第17章 私は、婚活をやめた




