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第15章 ギャンブル借金浮気男 マコト ——それでも「優しかった」と言いたかった私へ

◆涼介の裏切りで見えた「結婚」の正体

信じていた涼介にずっと騙されていたことがわかった私は、もう結婚に何の期待も希望も持てなくなっていた。涼介のように妻と子供が居るのに、平気で浮気できる男がこの世に本当に存在するんだと知ってしまったから、私がずっと憧れていた結婚は、必ずしも幸せになれるものではないと目が覚めた。


結婚しても幸せになれないなら、結婚できなくてもいい。私のことを好きでいてくれて、私も相手のことをずっと好きでいていい、ただそれだけの関係でいい。私が欲しいのは「結婚」ではなく「安心して好きでいさせてくれる男性」なのかもしれない。そう思うようになった。


◆マコトという男との出会い

マコトとは不動産仲介屋が毎月主催する飲み会で知り合った。参加者なのにその場にいる全員に気を配っていて、1人で居る人を見つけると話しかけに行ったり、途中参加の人がやってくると飲み物を配ったりしていた。

初めて会ったときは少し会話しただけだったが、翌月また同じ飲み会で再会したときに連絡先を交換した。


◆遅刻と無頓着、でも会えることが嬉しかった

それからマコトとは7回食事に出かけたが、毎回遅刻してやってきた。

はじめは2人で焼き鳥屋に行こうと店を予約したが30分遅れてやってきたし、次は映画を観ようということになったが、前日にオールをしたとかでなんと2時間遅刻してきた。この時点で普通の女性なら嫌気がさして帰るか、もう会わないという決断をするのだろうが、私の場合は「待っていれば来るならいいや」という感覚なので遅刻することが分かった時点で、自分の行きたかったお店で買い物をしたり、カフェに入ってのんびりしたりできてしまう。


これまで男性に大切にされてこなかった私は「普通」がわからなかった。

私が会いたいと思う人に会えるなら、私は何時間でも待ってしまうし、彼が遅れてでも会いに来てくれるのなら、私は嬉しいのだ。


マコトは連絡もマメではなかった。テンポよく返信が来ることもあれば、気が付いたら2週間近く連絡がなく「これはフェードアウトされたな」と思っていると、忘れたころに連絡をしてきて「あさっては空いてる?」などと聞いてくる。

いつも相手の都合に合わせてのらりくらりと過ごしてきた私なので、特に不快に感じることもなく、私が暇ならば会ったし、他に予定があるなら断った。


マコトは体質的にお酒がほとんど飲めないので、デートのときはいつも食事を軽く45分くらいで済ませてからカラオケやダーツをして過ごした。

彼は比較的無口な方で、会話がそこまで盛り上がることは無かったが、歌もダーツも上手で、仕事の話になると口数が多くなった。仕事は小規模だが従業員を抱える事業を経営していると話していて、休日を丸1日とれることが無く、先の予定があまり組めないところがあった。

彼のケータイはいつも誰かから連絡が来ている様子で、マメに連絡を返すというよりは優先順位が高い順に連絡を返しているように感じた。

彼が経営していると言う会社の情報をFacebookやInstagramで検索すると、たくさんの人と彼が楽しそうにしている写真が出てきた。いろいろな人に愛されているんだなと感じた。


マコトとの6回目の食事のあと、彼から「俺の彼女になってください。」とメッセージがきた。次に会ったときに直接話しましょうと伝え、7回目のデートでお付き合いすることになったのだが、彼とお付き合いするときの確認事項は私だからこそ了承できた内容だったと思う。


・前の彼女とは自分の浮気が原因で別れた。

・彼女からは結婚を要求されていたが、その矢先に彼女の友達に手を出してしまった。(彼女の友達とは知らなかった)

・それまでも何度か浮気をしており彼女は許してくれていたが、友達に手を出したことについては許せないということでお別れした。

・自分は浮気という感覚ではなくて、本当に全員のことを本気で好きになってしまうんだと言っていた。

・自分はまだ32歳なので結婚するとしても2〜3年後を考えている。


念のため「私は今年36歳で結婚願望がある。私が隣に居るだけであなたに結婚のプレッシャーを与えてしまうと思う。それに耐えられますか? 結婚できないから別れたいとか、あとから言われたくない。私と付き合うなら私に結婚願望があるということは知っておいてほしい。」と伝えたが、彼は「それなら大丈夫、おれ自己中だから!」とサラリと答えた。



◆浮気、借金、でも「誠実」だったと思いたかった

それから正式にお付き合いすることになったが、彼の浮気癖が直ることはなかった。

彼の家のインターホンの履歴をこっそり確認したとき、知らない女が映っていないかとビクビクしたが、誰一人映っていなかった。

「なんだ浮気してないじゃん」

そう一瞬安心したのだが、そういえば自分の姿も履歴に映っていないということに気が付いた。

「ああ、私も消されているってことか」

一瞬騙されるところだった。

この人は確実に浮気をしている。

だって洗面台の横の棚にはいつも最低でも4人分の女性の小物類がそれぞれ袋に入った状態で置いてあるし、たまにその袋がひとつ減ったかと思えば、またひとつ違う女性の物と思われる小物が増えた。私の歯ブラシやメイク落としなどはその棚の中ではなく、ちゃんと彼の私物が入っている洗面台の鏡の中の棚に入れさせてもらえていたので「きっと本命だ」と薄っぺらいプライドを守っていた。


付き合う前に浮気癖があることを了承させられた手前、私は女性の小物が増えていようが、キッチンに私が購入したものではない調味料が増えていようが、明らかに私のものではない髪の毛が部屋に落ちていようが、彼に不満をぶつけるようなことはしなかった。

マコトは直接私を傷つけてくるようなことはしなかったし、いつも優しかったから。事前に「浮気をする男だ」と話してくれていたことも「嘘をつかない人だ」とその時の私は捉えていた。だって男はみんな浮気する生き物なんだから「僕は浮気しませんよ」なんて言葉の方が信用できない。そういう男にどれだけ傷つけられてきたか。

だったらマコトのようにはじめから「浮気をする」と言ってくれた方が潔い。彼は少なくとも私を騙そうとは思ってない。


私にとっては彼が嘘をつかないで居てくれることが価値だった。

いつも素直にすべてを話してくれた。マコトは私のことを悪いようにはしない。私を否定しないし、騙したりもしない。たしかに浮気はしているけど、私はもっとありえない男を経験してしまっているから、マコト程度の問題はなんてことはなかった。マコトはいつも優しかったし、仕事が忙しい中でも必ず週に1回は会う時間を作ってくれた。マメに連絡は来ないけど、会えるときは絶対に連絡をくれた。会えば甘やかしてくれて、いつも隣に居てくれた。無口であまり会話をするようなことはなかったけど、一緒に同じ時間を過ごして、同じテレビを見て、私が作った料理を美味しそうに頬張って、お腹いっぱいでも残さず食べてくれて、また作ってねと頭を撫でてくれた。

私のことを好きだから一緒に居てくれていると感じさせてくれた。

マコトが私と付き合っているという事実が、私の毎日をキラキラと輝かせてくれた。かっこよくて優しくて気が利く年下の彼氏が私には居る。そう思えば、一人で食べる食事も、一人でする買い物も、一人で過ごす時間も、いつもひとりじゃなかった。


付き合って3か月目に、私はマコトに80万円を貸した。

「変なところからお金を借りたくないんだ。信用している人から借りないと、あとでどんな請求をされるかわからないから。」と頼まれた。

「変な人に借りるくらいなら私が貸してあげよう」と借用書を作成しすぐにお金を渡した。結局その後、こちらが催促しない限り彼から自主的に返済してくれることはなかったが「今月中に最低30万円は返金してね」と言えば応じてくれた。


ただ京子からはやっぱり反対された。

「お金を貸してなんて言う男はやめておいたほうがいいよ。そういう男に本気になったらだめだよ。」と諭された。

本当にその通りだと思う。同じ状況で自分が友達にアドバイスするなら私も同じことを言うと思う。

「でもね、もし自分が本当にお金に困ったときにどうするかって、私考えてみたの。親に借りるのは心配かけそうだから嫌だし、友達に借りるのも情けないし、かといって金融機関から借りるのも怖いじゃない? そしたらやっぱり恋人に一度は相談したくなるんじゃないかなって、そう思っちゃったんだよね」

私がそう言うと、

「優しすぎるって! そんなに優しいまま生きていくなら、人類の9割は悪い人だと思って生きてくれないと心配になるわ! そういうとこ、ちゃんと見てくれてる男だと良いけど!!」

京子がため息をついた。

「まぁもし泣かされても私がいつでも話を聞いてあげるから、なんかあったらすぐ言うんだよ」

私は京子に甘えてばっかりだ。


私はミツルとの件で学んでいた。

『友達がやめておけ、という男とは早急に離れるべき』

でも私は「人の言うことをきけない頑固者」で「失敗したとしても最後までやり遂げないと気が済まない性分」ということも学んでいた。

私はマコトのことが大好きで、ずっと一緒に居たいし、本当は結婚してくれたらどんなに幸せだろうと思っていたので、マコトにとっての「最高の彼女」になるべく努力を続けることにした。

マコトと一緒に居る時間が心地良くて、この関係を手放すのが怖くなっていった。結婚なんてしなくてもいいからマコトとずっと一緒に居たいなと思うようにもなっていた。


◆“結婚” と “恋愛” の狭間で

恋愛ほど自由なものはない。異性を好きになってもいいし、同性を好きになってもいい。パートナーさえ良ければセフレという関係だって可能だし、付き合いましょうという口約束から始まることもあれば、そういった約束はないけどなんとなく始まる関係もある。年の差も国籍も宗教もお互いが納得すればすべて自由だ。なんのルールもなく何に縛られることもない。生きている中で、これだけなんのルールにも縛られないものがあるだろうか。


それでいて「結婚」とは契約だ。恋愛から結婚に発展すると、そこにはルールが存在する。結婚することにメリットを感じないという若者が増えているというが私もそう思う。

私が思う結婚のメリットは

・なぜか結婚したら社会的に一人前として評価されること

・「結婚しないのか」という変なプレッシャーをかけられなくて済むこと

・「結婚できない原因はなんだ」と無駄な詮索をされなくて済むこと

・結婚している人を見て羨ましいと思わなくて済むこと

・親を安心させられるということ

外部からの影響を一切無視してしまえば、私個人にはなんのメリットもないように思うのだ。

「死ぬときにひとりは嫌だから結婚したい」という人がいるが、結婚しても先立たれてしまえばひとりで死ぬことになるし、熟年離婚だってあるし、死ぬ瞬間より長く生きていく何十年を幸せに暮らすことの方が大切だろう。

結婚というものを本当に意識していれば、マコトのような相手はきっと選ばない。でも恋愛だけしている分には最高の相手なのだ。

私はダメな女だという自覚があるし、ダメな自分がかわいいのだ。

恋愛だけはダメな自分で居ても、誰にも迷惑をかけない。

婚活をしている自分、結婚できない自分から逃げたかった。

ダメな自分で居ていいということが私にとって心地よかった。

そのためには「完璧な彼氏」ではなくて「ダメな彼氏」がちょうどいい。


恋愛に意識が向いていれば「自分の現実に向き合わないで済む」。

いつまで経っても報われない自分の人生から逃げたかった。

そのために、私には、マコトが必要だった。



◆ギャンブル、詐欺まがいの仕事、それでも好きだった

付き合ってから半年が過ぎたころ、付き合い始めのときは1週間に1回会っていたけれど気が付いたら2週間に1回程度しか会わなくなっていた。それでも私が「会いたい」と言うと「時間作るね」といって数日後に「今日なら会えるよ」と連絡をしてきてくれた。記念日もクリスマスも年越しも正月も一緒に過ごすことはなかった。私の誕生日だけは一緒に居てくれて、私のためにちょっと良いディナーを予約してくれた。それがとてもうれしかった。ミツルみたいに私の誕生日に合コンに行ったりしない。それだけで充分だった。


気が付いたらどんどん幸せや愛情を感じる沸点が低くなっていた。もっともっと会いたいし連絡が欲しい。20代のときの恋愛みたいにずっと一緒に居て安心できる時間がもっと欲しいはずなのに、そんなことはいつからか願わなくなってしまった。

「忙しいのに時間を作ってくれた」

「彼は時間ができたら連絡をしてくれて、会ってくれる」

「一緒に居る時はずっとくっついて隣に居てくれる」

「いつも笑顔で、突然怒ったりしない」

「私の生き方をいつも肯定してくれる」

「一緒に歩くときは、いつも手をつないでくれる」

そういうひとつひとつの小さい幸せをかき集めながら「結婚はできないけど彼氏がいる自分」を維持することで、なんとか息をすることができていた。


あるときマコトから連絡があり「実は引っ越したんだ」と聞かされた。

それまでは都内の高層マンションに住んでいたが、家賃が払えなくなったらしく、自分の会社の事務所として借りていた郊外のマンションの一室に住むことになったというのだ。

引っ越す前になぜ教えてくれなかったんだろうと思ったけれど、彼にもプライドはあるだろうから、なかなか言い出せなかったのかもしれないと自分を納得させた。

経営があまりうまくいっていないようで、少し忙しくなりそうだと言われた。それでも1か月に1回は必ず会う時間を作ってくれたので、私は満足していた。

新しい家に住むようになってから、私以外の女の私物が部屋に置かれることはなくなった。


それから数か月経ったとき、またマコトからお金を貸してほしいと言われた。まだ前回貸した分のお金をすべて返済してもらっていないのに、追加で90万円貸してほしいと言うのだ。

さすがにそれはできない、私はただの会社員だからそんな大金は貸せないと断ったが「従業員に給料を支払わなければいけないが現状お金が足りない。ただ月末になれば仕事の売り上げが入るからすぐにお金は返せる。」と言われ、それならば仕方ないが必要最低限の金額しか貸したくないと伝え、今回は45万円だけを貸すことになった。前回の未返済分と合わせて75万円を貸している状態だ。また借用書を作って、今回は期限までに返済されない場合は利子もとることにした。

月末になるとマコトは25万円だけ返済してくれた。残り50万円はもう少し待って欲しいと言われた。

なぜそんなにお金に困っているのか、さすがに聞く権利があるだろうと思い、問いただすと、どうやらギャンブルに使ってしまっているらしかった。ポーカーにハマってしまい、毎晩出かけては次の日の昼までずっとポーカーをして、帰ってきたら寝て、また夜ポーカーに出かけていくようになっていた。たまに仕事の電話やオンライン会議をしている姿を見ていたので仕事自体はちゃんとしているのだろうと思っていたが、彼の家に届く郵便物の中に光熱水費や携帯電話料金の督促状が入るようになり、いよいよ首が回らなくなっているように感じた。


「ポーカーでツケを溜めてしまったから別の仕事で稼ぐように言われた」

夜な夜な通っていたポーカー仲間にもお金を借りていたらしい。

「別の仕事って何?」と聞くと、駅で盗撮犯を見つけて脅し「警察に行くかこの場で現金を支払うか選べ」と恐喝しお金を脅し取る仕事だと説明された。

彼は一番下っ端で盗撮犯を見つける役をしていると言っていて、恐喝をするのは別の人なんだそうだ。その仕事をしないのであれば「カンボジアに連れていかれるかもしれない」と言っていて、なんのことだろうと思ったら、翌週のニュースで「カンボジアで特殊詐欺グループが逮捕された」というニュースを見た。


それからマコトと会える時間がほとんどなくなった。会えたとしても2時間くらいで、すぐ電話で誰かに呼び出されてしまう。メッセージを送っても1週間くらい未読のままになることが増えた。

「もしかしたら逮捕されてしまったのかもしれない」

「もしかしたら悪い人たちに拘束されてしまったのかもしれない」

心配になり電話をかけるといつものマコトの元気な声が聞こえて、やっと安心できた。

「メッセージが未読のままだと不安になるから、どんなに忙しくてもぜったい既読にはしてね。それ以外にマコトが生きているかどうか確認できないんだから」

マコトはそれからちゃんとメッセージを既読にしてくれるようになった。

なるべく私は毎日メッセージを送るようにして、マコトが無事なのかを確認するようにした。


◆信じたかった気持ちと、最後のやりとり

久しぶりにマコトの家に行った時のことだ。キッチンに私が購入したものではない調味料が増えていた。こういう状況でも浮気はできるらしい。今に始まったことではないのでスルーして、久しぶりにマコトと過ごす時間が楽しくなるように専念した。

会わない間にあった楽しい出来事をたくさん話して、最近のマコトの生活についてたくさん質問した。今日はずっと一緒に居られそう、と思っていたらやっぱりマコトは電話で誰かに呼び出されて「行かなきゃいけなくなった。」と深夜に出かけて行った。

マコトの部屋に取り残された私はお風呂に入ろうと洗面所に向かった。

もしかしたら朝には帰ってきてくれるかもしれない。

その週末はバレンタインデーだったからマコトのためにチョコを買ってきていた。去年渡したとき「バレンタインにチョコをくれるのはあなただけだよ。」と言ってくれたから今年も渡したいと思っていた。2回目のバレンタインを迎えられたことがうれしくて、今年は一緒にチョコを食べたいなと思っていた。


洗面所の棚を開けて自分のメイク落としを取り出そうとしたら、そこに私のメイク落としはなかった。メイク落としどころか、ヘアブラシや化粧水などもすべてなくなっていて代わりに私のものではないスキンケア用品が並んでいた。

「マコトのかな?」

私は自分のことをなんとか騙そうとしたけど、すぐにトイレの棚に生理用品が置いてあるのを見つけてしまい「やっぱり女か」とがっかりした。

今まで浮気をしても私の物が捨てられるようなことはなかったし、私も他の女性の私物を捨てるなんてことはしなかった。それは、みんなマコトの被害者で、補完すべき存在であり、余計に傷つけあう必要はないと思って居たからだと思う。

でも今回の女は違う、私に対して明らかに攻撃をしてきた、そう思った。

マコトが捨てたなら私のことをこの家に呼んだりしないだろう。マコトは私の物がなくなったことに気が付いていないんだ。

敵はマコトの家にあるものを無断で捨てるような女だ。自分の男に手を出す「女」が悪いと思っている。涼介の妻のことが頭に浮かんだ。


マコトに「私の物がすべてなくなっている」と連絡をした。

「ごめん、洗面所の棚にしまってあったやつだよね」とすぐに返信がきた。

どういうことなのか説明してくれるはず、私のことを失いたくないならきっとちゃんと謝ってくれるはず。そう思ったけど、結局そのあとからマコトは私のメッセージに一切返事をしてくれなくなった。

それなら貸していた50万円を返して欲しいと連絡したけれど、既読がつくだけでなんの返事もない。

ただ既読がつくことでマコトが生きていることだけはわかった。

「もうそれなら未読にして、死んだことにしてくれていいのに」

生きているマコトに無視されていることを知らせるだけになった既読の文字が憎らしかった。

結局男が選ぶのは「ああいう女」なのか。

キープに甘んじることなく女を敵に回し、男の悪事を庇う女。そういう女を選ぶんだ。

「やっぱり私がバカだったってことね」

1か月間どんなメッセージを送っても返信がなかった。

ブロックされるのも時間の問題かもしれない。

最後になにか伝えたいことはないか必死で考えてメッセージを送った。


「私は本当にマコトのことが好きだったから、これ以上失望させないで欲しい。大好きだったのにこういう終わり方をされて、お金を取られて、そんな惨めな思いをしなきゃいけないようなこと、私、したかな?

付き合い始めたころ、私が泣いてるって言ったらすぐに電話をしてくれたことあったよね。すごくうれしかった。クリスマスも年越しも一緒に過ごせなかったけど、私の誕生日だけは一緒に居てくれたのもうれしかった。私が作ったごはんを美味しいって言ってくれたことも、私の家まで会いに来てくれたことも、私は全部うれしかったよ。そういう全部をお金で買ったみたいなことにしたくない」


そうしたらやっと返事が来た。


「ずっと返事してなくてごめんね。また前みたいに会ってくれる?」


会ったら同じ繰り返しになることはミツルのときに学んだし、男は都合が悪くなると連絡してこなくなることは涼介のときに学んだ。

たぶん私はマコトと会ったり話したりしたら、また全部許してしまうと思う。だからもう連絡しないほうがいいんだと思った。

私はもうマコトにメッセージを送らないし、会わないと決めた。



◆幸せとは、何に名前をつけるか

「朝日が綺麗だった」とか「たくさん笑った」とかそういう穏やかな日常に名前をつけるのが「幸せ」なのだと思う。

「彼から連絡が来た」とか「私のことを必要としてくれてる」なんていう、安心を得るための必死の証明に「幸せ」なんて名づけてはいけないんだ。

不安を払拭したときの少しの気持ちの上昇は「幸せ」なんかじゃないんだ。


でも私は、自分が好きになった人のことくらい、

自分に白髪が増えていってもずっと信じていたいんだ。

だからマコトのことはレンタル彼氏だったんだと思うことにした。

私は彼と過ごした1年間の思い出を50万円で買った。

ただそれだけだ。


◆何がそうさせるのか

私は誰かを憎んだり、誰かを恨むということを教えられないで育った。

両親は優しかったし、友達もみんな親切だった。

今まで出会った男達みたいに、誰かを裏切ったり、誰かを騙したりするような人間に、そういう自分を汚されてしまいたくはない。


今まであったつらくて悲しいことを思い出すたびに、私の人生のほとんどが不幸だったように錯覚してしまった。

でもそれは、つらくて悲しいことを思い出す回数や時間が多いから、そう感じてしまうだけで、楽しくて幸せだったことを思い出す回数や時間を増やしたら、私の人生はずっと幸せだったと思えた。


私の人生は「人から与えられたもの」でできている。

自分を守るということや、自分を大事にするということは、

「今まで人から与えられた全てのことを守る」ということだ。


私は、今日までの私をつくってくれた人たちのために、誰かを憎むことも恨むことも知らない、私のままで居たいのだ。


【連載目次】

第1章 恋愛という名の予習

第2章 婚活パーティーという戦場

第3章 経験しか信じない男 コウイチ

第4章 婚活オンラインサロンでの学び

第5章 合コンという社交場の裏側

第6章 完全無欠の遊び人 タケル

第7章 マッチングアプリという“カタログ恋愛”

第8章 個人主催パーティーの甘い罠

第9章 SNS婚活の“自由”と“偏見”

第10章 ミツルの洗脳

第11章 結婚相談所という最後の砦

第12章 『婚活うつ』という終着駅

第13章 独身偽装男 リョウスケ

第14章 結婚しなければ、という呪い 『婚活依存症』

第15章 ギャンブル借金浮気男 マコト

第16章 自称婚活中の男 マサヤ

第17章 私は、婚活をやめた

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