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第11章 結婚相談所という最後の砦 ——スペックで選ぶ恋では、心が動かなかった

ミツルとの関係が続く中で「私が結婚したいのは、この人じゃない」ということはもう分かっていた。「この人と一緒にいる未来を、本当に望んでいるのか?」と問い直したとき、既に答えは出ていたのだ。

でも私から別れを切り出して、もしミツルが逆上したらと思うと怖かった。

ミツルは私の家も職場も知っている。もしミツルにとって納得のいかない形で別れたとしたら、ミツルは家や職場に押しかけてきてもおかしくない。そんな想像をしてしまうくらい、私にとってミツルは脅威だった。


それと同時に、別れたあとの孤独に耐えられる気がしなかった。

「もうすぐ35歳になるんだ」

そう思った瞬間、目の前に現実が迫ってきた気がして、焦りと不安が一気に押し寄せた。ミツルと別れるということは、また新しい誰かを探さなければいけないということだ。またあの真っ暗闇のトンネルを彷徨うみたいに、出会いの場に行き「はじめまして」を繰り返さないといけない。

まるで地縛霊みたいだ。


私はもうひとりで婚活と言う名の真っ暗な迷路に挑戦する勇気はなかった。

もう誰かの力を借りないと婚活ができないと思った。

そこで、私はついに “結婚相談所” での活動をはじめることを決意した。


実は2022年4月頃から、私は結婚相談所へ入会するための準備を始めていた。入会には各種の証明書類を揃える必要があり、すぐに活動を始めるためにはそれらの準備が欠かせなかった。私はいつでも入会手続きができて、結婚相談所での活動をスタートできるように、着々と下準備を整えていたのだ。


30歳で婚活をスタートさせるときに結婚相談所での説明会に参加したことがあるのだが、当時はまだ婚活というものがあまり盛んではなかった。

「あなたのように自主的に出会いの場に参加する行動力のある人は、結婚相談所に入らなくても大丈夫よ。あなたがどうしても半年以内に結婚したい、長くても1年以内には絶対に結婚したいというのなら今入会することを勧めるけど、もしそうじゃないなら結婚相談所のスピード感についてこられないかもしれない。よく考えて入会してね。」

当時結婚相談所の方にそう言われて、しばらく自分でもよく考えたのだが、結局そのときは入会するのをやめた。

でも今回は状況が違う。私はもうすぐ35歳になるし、もう自分ひとりで相手を探すことにも限界を感じている。

そしてなにより自分の見る目のなさにうんざりしていた。


結婚相談所なら私のことを仲人さんがサポートしてくれるから、きっとまた頑張れる。

それが、私が結婚相談所に入ることを決めた理由だった。


◆仲人・詩織さんの存在

私は運よく婚活で出会いの場に参加している中で、結婚相談所の仲人をしている「詩織さん」という女性に知り合っていたので、その方に仲人をお願いする形で結婚相談所に入会することにした。

まずは仲人である詩織さんとオンラインで面談をし、その後お見合いでも使用するホテルのラウンジで直接詩織さんとお話をして入会手続きを済ませた。


次はプロフィールの作成になるが、基本的には詩織さんがすべて文章を作ってくれた。私の趣味嗜好や相手に求める条件などはオンラインで面談をしたときにすべて話していたので、入会手続きのときにはすでにプロフィールの文章を作成してくれていた。

「プロフィールを公開するのは次の大安の日にしましょう。ちょうど来週末が大安ですから、それまでに写真も撮っちゃいましょう。」

詩織さんは段取りよく話を進めてくれるので助かる。

今までの婚活では一緒に戦ってくれる仲間は居たけれど、私の代わりに婚活を進めてくれる人は居なかった。

仲人とはこんなにも頼もしいのかと感激した。

詩織さんがいろいろな準備をしてくれている間に、私は少しだけ婚活を休むことができて、自分を癒す時間を増やすことができた。


プロフィール用の写真はヘアメイク付きでプロカメラマンがスタジオで撮影をしてくれる『お見合いプラン』があるサロンを詩織さんが紹介してくれたので、入会手続きから3日後にそこで撮影することが決まった。そのサロンの予約も詩織さんがしてくれた。

その際に着る洋服についても詩織さんからアドバイスをたくさんもらった。


「そもそも婚活ファッションとは、男ウケや女ウケを狙っているわけではなく、単純にTPOを守ったファッションだと思ってもらったほうが良いです。たまに男に媚びたくないからとカジュアルな恰好でお見合いに行きたがる女性が居るんですが、結婚相談所でお見合いをするときは素敵なホテルのラウンジでお茶を1時間するというのが基本になりますから、その場に合わせた服装で行くのがマナーだと思ってください。自分がしたいオシャレはデートの時にできますから。最初のお見合いでは、男性はスーツ、女性は華やかな服装でヒールがある靴が望ましいです。プロフィール用の写真撮影はお見合いへの入り口ですから、この人に直接会ってみたいと思われるように写らなければいけません。だからプロフィール用の写真撮影では男ウケも大切です。普段はあまり着ないかもしれませんが、色は白やパステルカラーを選んで、女性らしい印象を与えられるような服装が良いと思います。これから続く幸せな結婚生活のためですから、この数か月は自分の好きな洋服よりも自分を良く見せるための洋服を着るようにがんばりましょう! ご自宅で撮影時に着用したいお洋服を探して、候補になるお洋服の写真を私に送ってくれますか? 一緒にどれがいいか選びましょう。」


自分の持っている洋服の中で、明るめのカラーのワンピースとお気に入りのネイビーのワンピースを撮影して詩織さんに送ったけど、やはりネイビーのワンピースは却下された。実際に似合うのはそっちだと自分では思っているのだが、写真撮影の際、明るい色の洋服の方がレフ版の効果もあるので肌が綺麗に写るそうだ。


写真撮影後、詩織さんはすぐにサロンから写真データを送ってもらったらしく、撮影が終了して私が家に帰ってゆっくりしていたら「お写真、とてもかわいく撮れていました! さっそく数枚補正をかけたのでどれをプロフィールに掲載するか選んでください!」と写真データ付きでメッセージが届いた。本当に頼もしい。


◆「婚活代行」との約束

2022年5月20日金曜日の大安、私の結婚相談所での活動をスタートさせることになった。

6月1日の誕生日で35歳になる。ミツルとのことが片付くのを待っていたらいつスタートできるか分からない。ミツルとの関係を続けながら結婚相談所で活動することに迷いはあったが、私は35歳になる前にどうしても結婚相談所での活動をスタートさせたかった。とりあえず入会して、ミツルとの関係が終わったときに、すぐ次の相手を見つけるための準備を進めておくことで、私は安心したかった。


「お見合いが組めるのは20人に1人が平均値です。だから思い切ってどんどんお申込みしてください。もちろん男性からお見合いのお申込みも来ますけど、それも20人に1人くらいしか会いたいと思う人が居ないと思ってください。はじめは土曜日だけお見合いを組む。午前中1人、午後1人と言う感じです。お見合いで話してみて、お互いがもう一度会いたいと思ったら “仮交際” となります。“仮交際” はお友達になりましょうと言う意味ですから、お付き合いしたということではありません。もう少し相手のことを知りたいな、という感じです。そこから3〜4回会ってお互いが次の段階に進みたいと思ったら “真剣交際” となります。“真剣交際” はいわゆるお付き合い開始の状態ですから、手をつないだりしても良い関係です。まずは仮交際のお相手を作るのが目標になります。仮交際の方ができたら日曜日にデートの約束を入れながら、土曜日は他の方とのお見合いを同時並行でしていきます。結婚相談所では2~3人の仮交際の方が居るのは普通のことなので、自分が良いと思って居ても他の仮交際中の女性にとられてしまうこともありますから、真剣交際に進むまでは、お見合いはなるべく継続してやっていく方が良いです。しばらくはお友達と遊ぶ時間が作れなくなってしまうかもしれませんが、まずは3~4か月集中して頑張りましょう!」


【詩織さんと私との間で決めたルールは10項目】

① 10日ごとに20人の男性にお見合いのお申し込みをすること。

  ノルマだと思ってやるべし。

② お見合いのときはなるべく一番安い飲み物を選ぶこと。

  男性がお支払いをしてくれるルールだけど、お財布は必ず出すこと。

③ 10分前には待ち合わせ場所に居ること。できれば事前に下見すること。④ 名字で呼び合うこと。

⑤ お見合いが終わったら仲人(詩織さん)へ報告すること。

⑥ お見合いを受けすぎるとスケジュールがいっぱいになり、良い人に出   会っても次のデートの予定が組めなくなることがあるので、受け過ぎな

いこと。

⑦ オンラインお見合いで済むなら1回目はそれでオッケー。オンラインお

見合いに抵抗感を持つ必要は無い。

(オンラインで会話が弾まない人は大体会っても弾まない)

⑧ お見合いは多くても1日1〜2人にすること。

 (仕事でたくさんの人に会うことに慣れているのであれば3人でもオッ

  ケーだが普通の人は2人程度にしないと、誰が誰だかわからなくなる)

⑨ 土曜日はお見合い、日曜日は仮交際とのデートとしてスケジュールは確

保しておくこと。

⑩ つらくなる前に詩織さんに「つらい」と連絡をすること。


そのほかにもお見合いでの会話の仕方、結婚のビジョン固め、理想の結婚相手の条件、御相手の見極め方、御相手をお見切りするときの基準などを詩織さんと話していく中で学んだ。実際に今現在婚活をしている会員さんの感想を踏まえた的確なアドバイスをしてくれる仲人という存在はかなり心強かった。


お見合いのあとやデートのあとには必ず詩織さんに、相手のいい所、気になったところ、何を話したかを報告しなくてはいけないから、お見合い中も必死に相手のことを記憶しようとするし、お見合いの前にはお相手のプロフィールを見直して、きちんと質問を考えてからお見合いに望んでいた。

お見合いした相手の感想も相手の仲人さんから詩織さんに届くので、自分のダメなところも見えてくる。

今までは気が付かなかった自分の会話の癖などにも気づかされ、どんな態度が相手を不安にさせるのかなどが浮き彫りになったような気がする。

こうしてインプットとアウトプットを繰り返していく中で、少しずつだが自分に自信が持てるようになっていった。


仲人がいてくれることの安心感は絶大だった。


「私が一人で頑張っているわけじゃない」という感覚は、

それだけで自己肯定感を支えてくれた。

詩織さんがサポートしてくれるから、今度こそ結婚相手を見つけられそうな気がした。



>>お見合いの記録


① 田中さん(37歳)

5月にお見合いしたが、1月に東京へ引っ越してきたのに、まだ引っ越しの荷解きが終わっていないと話していた。私だったらすぐに荷解きをしないと気が済まないので、その時点で私とは合わないと感じてしまった。

趣味などは合いそうだったが、教師という仕事をしているのに話し方があまり丁寧ではなく「子供たちに教える立場でお話しするというのは神経を使うお仕事で大変ですね。」と私が言うと「教師も正しいことばかり教えられないですから。大人もたまには間違ったことを言うということを子供に知ってもらうのも学習ですよ。」と話していて、共感できなかったのでお断りした。

私は言葉でたくさん傷つけられたので、丁寧に言葉を選んでくれる人が理想なのだ。


② 斎藤さん(33歳)

趣味がお菓子作りということで、カフェでケーキセットをいただいた。斎藤さんが一番高いケーキを選んでくれたので、私も好きなケーキを選ぶことができて助かったし、言葉選びも丁寧だったので仮交際の希望を出した。

ただ2回目に会っても緊張しているからなのか、まばたきがとにかく多いことと、手をこする動きが彼の癖のようで、「私はこの人になにかストレスを与えてしまっているのか?」と気になってしまい、3回目の約束はしないまま仮交際は解消した。


③ 工藤さん(32歳)

会話がとても盛り上がった。職場の同僚もほとんど結婚しているかパートナーがいる人ばかりで焦っているということもあり、結婚に前向きで、休日は草野球やフットサルを楽しむなど社交的な一面が見えたのでかなり好印象だった。めでたく仮交際になったが、彼の仕事が忙しいことと連絡がマメじゃないせいで仲も深まらず、2回目の約束まで1ヶ月以上期間が空いてしまった。3回目の約束も似たような状況になってしまい、私の方がしびれを切らしてお断りした。

本当に好きな相手や長い付き合いの友人なら、その状態でも充分待てるが、好きでもなく数回会っただけの相手にこのような対応を取られていることは、友達未満の扱いを受けているような気持ちにしかならなかった。


④ 小林さん(37歳)

質問に対する回答が独特。

「甘い物がお好きなんですか」⇒「一緒に食べてくれる人が好きです」

(甘い物が好きなわけではないと言うことなのかなぁ…)

「旅行はしますか」⇒「ひとりで神社に行くのが好きです」

(旅行は好きではないと言うことなのかなぁ…)

「お酒は飲みますか」⇒「まぁ飲んでくれてもいいですけど」

(自分は飲まないけど相手が飲むのは許せるということなのかなぁ…)

いまいち会話が嚙み合っていないような気がしてお断りした。


⑤ 山屋さん(40歳)

2分遅刻してきたのに「早く着きすぎちゃいました?」と冗談で済ませようとした方。終始タメ口で上から目線。「普段の仕事でも女性には気を遣うようにしているんです。仕事をするときに総務や経理の女性の機嫌を損ねると面倒ですからね。洋服を褒めたり、旅行したらお土産を買ってきたりしたらニッコリ仕事してくれるんですよ。」と笑顔で話していた。お断りした。


⑥ 加藤さん(34歳)

現在は父が経営する会社に勤務しており、すべての部署で業務を経験したらゆくゆくは会社を継ぐとのこと。とてもグレードの高いホテルのラウンジでのお見合いだったので私も緊張していたが、加藤さんも緊張していたのか、アイスコーヒーにスティックシュガーをぶち込むというミス。

もちろんアイスコーヒーに顆粒の砂糖が溶けるわけもなく、加藤さんは一口飲んで不思議そうな顔をして、まさかの2本目のスティックシュガーを投入。

テーブルの上に置かれたスティックシュガーの横に「僕はここに居るよ」とガムシロップがいつもより控えめに主張している。

私はそのことが気になりすぎて加藤さんの話が全然入ってこなかった。

加藤さんのグラスの底にたまった砂糖の層が切ない。

もはや “加藤” という名前ですら、“加糖” に思えてきてしまう。


私のプロフィールを入念に予習してきてくださったようで、私の趣味に共感してくれて「ぜひ一緒に行きましょう!」と言ってくれたが、スティックシュガーの件がどうしても許容できなくてお断りした。


⑦ 片桐さん(34歳)

プロフィール写真もいわゆるお見合い写真というものではなく、友人に撮影してもらったようなラフな写真だったのが印象的だった方。

相談所でお申込みをした男性の中で一番お会いしたいと思っていた方だったので、私のテンションは高かった。

スーツにこだわりがあるらしく、真っ青なスーツを着こなしていらっしゃった。写真通りのビジュアルで、お話ししてみても好印象だったのですぐに仮交際希望を出し、2回目のデートも順調に終了。

3回目のデートは私の希望でプラネタリウムを観に行ったのだが、とてもつまらなそうで会話が盛り上がらず。お酒が入ったら楽しくおしゃべりできるかなと思い、その後居酒屋に入ったら気が緩んだのか、タバコをスパスパと吸い始めた。

そしてプラネタリウムのチケットを事前に予約しておいてくれたので、居酒屋のお支払いは私がしますよと声をかけたところ、

「そうなんですよ、僕がチケットを取ったこと、全然言ってくれないから忘れちゃってるのかと思いましたよ。でもいいですよ、ここのお会計は割り勘で。」と言われた。

もちろんメッセージのやりとり中にお礼は伝えていたが、まさかプラネタリウム鑑賞中につまらなそうだったのは、私が直接お礼を言わなかったからなのだろうか。

相手の機嫌を窺って過ごす日々にはうんざりなので、この人との仮交際は終了することにした。


⑧ 久保さん(37歳)

お見合いの日程が1日変更になった方。当日理由を伺ったところ「お見合いの日程を決めているときに仕事でタイにいたので時差の関係で1日勘違いしてしまっていた。」と説明された。

お話ししてみると、とにかくデリカシーのない質問というか、こちらを困らせるような質問をする方だった。

「結婚相談所に入らなくても相手がすぐ見つかりそうなのに、なんで相談所に入ったんですか?」

「なんで僕にお見合いのお申し込みをしてくれたんですか?」

「今日はお見合いだからそのような服装なんですよね、普段はどんな服装なんですか?」

そもそもお見合いのルール上禁止とされている「なぜ相談所に入ったのか」という質問をしてきた時点で、もう帰りたい気持ちだった。ルールを守れない人は好きになれない。とにかく居心地が悪かった。どんどん質問してくるしハッキリ答えるまで質問を続けるので、1時間耐えるのが精一杯だった。お見合い終了後、もう一緒に居たくなかったので「お手洗いに寄ってから帰ります。」と言ってカフェの前で解散にしようとしたら「それならここで待ってますよ。駅まで送ります。」と言い出した。断っても全く折れる様子がないので、結局駅まで一緒に歩くことになり、その間も答えにくい質問をされ続けた。

解散後、即詩織さんにルール違反の件を伝え、お断りした。

お相手の仲人さん経由で謝罪があり「久保さんはぜひ仮交際をと希望されています。今日の件は本人も反省していますので、もう一度お会いしてくれませんか?」と連絡が来たが、一瞬で断った。

楽しいからまた会いたいと思うわけで、不快に思ったのにまた会うなんて、それすら妥協したら私という個人を誰が尊重してくれると言うんだろう。


⑨ 城田さん(33歳)

城田さんは私と同じく詩織さんが担当している会員の方で、詩織さんが

「2人は相性が良いと思うから、ぜひ会ってみて欲しい」と引き合わせてくれた。

お見合いのときからまるで前から友達だったみたいに話が弾んだ。今までのお見合いで1番楽しく話せたと思う。お見合いが終わってからすぐに詩織さんに電話をしたら「彼の方もすごく楽しかったって連絡が来ましたよ!」ということで、めでたく仮交際成立。


その後、彼の仕事が忙しいということで1か月後にデートの予定が立った。たぶん他の女性とのお見合いで忙しいのもあるんだろうな、と思うと少し冷めるが、1日1通は必ずメッセージをくれて「土日も仕事が入ることがある。」と説明してくれたので、私の気持ちは途切れずに済んだ。


美術館に行くのが好きと話したら、彼の方から美術館でのデートを提案してくれた。あまり会話をしなくて済むのでちょうどいい。

当日待ち合わせ場所にきた彼の私服はまぁまぁダサかった。やはりお見合いでスーツ姿を見てしまうと私服との落差は仕方ないのかもしれない。美術館を二人でまわるとき、私はじっくり解説を読みながら、作者が生きた時代背景や学芸員の方の熱意ある仕事ぶりに思いを馳せるのが好きなのだが、彼はあまりそういうものには興味がない様子で「綺麗な色ですね。」「動物が居てかわいいですね。」などと話しながらどんどん進んでしまうのであまり楽しめなかった。

「他にも見たいものはありますか?」と聞かれたので私の要望を伝えたのだが「僕はこれが見たいので行ってもいいですか?」と言われた。それならなぜ私の見たいものを聞いたのだろうか、という疑問には気が付かないふりをして彼の見たいと言ったものを見に行った。

「僕はこういうダイナミックなのが好きなんですよ!」

パッと見ただけの印象でダイナミックと言うが、この絵を描いた作者が何を意図してこの作品を完成させたのかを知れば、どれだけ繊細な芸術なのかご理解いただけるはずなのだが、あえて触れないようにした。

芸術とは対話だ。物体そのものではなく、見た人がそれをどう受け止めるかによって成立する。だから、見る人が変われば存在理由も変わる。その違いを楽しむのが芸術本来の姿だと私は考えている。

だから彼の楽しみ方も間違っていない。ただ、同じものを見ながらこれほど違う世界を見ているのだと感じると、きっと将来のビジョンの描き方も違うのだろうと思った。


その後、近くの居酒屋でお酒を飲むことになった。彼はお酒が好きらしい。私はお酒を飲めるが別に好きというわけではない。ただ誰かと食事をすることは好きだし、お酒は飲める方なので別に苦ではない。

「お酒を飲んでいるときのほうが、たくさん話してくれるからうれしいです」

そうかそうか。美術館では私の感想を話したら気が合わないのがバレてしまいそうだったから無口だっただけなんですけどね。


お会計は私がトイレに行っている間に彼がお支払いをしてくれていた。

男性の店員が「彼氏さん、お支払い済ませてくれてますよ。かっこいいですね。」と言ってくれたが、どう見てもビジュアル的には店員さんの方がかっこいいので心中は複雑である。

婚活をしていると多々思うのだが、出会いの場において婚活中の男性よりもかっこいい運営スタッフや店員が居るのはテンションが下がるのでやめてほしい。


その日のデートのあと詩織さんに「あまりデートが楽しくなかった」ことを伝えたが「マイナスになることがないなら、もう一回会ってみて。急に好きになるなんて無理だから、徐々にお相手の良いところを探していけばいいんですよ。次に会ったら3回目のデートなのでそろそろお互いがどんな結婚生活をしたいかを話してもいいと思います。そういう話をしてみればまた気持ちが変わるかもしれませんよ。」と言われた。

「そうかなぁ、あのイケメン店員なら私はすぐに好きになれるけどなぁ。」

と最低なことを考えながら次のデートまでまた3週間モヤモヤした時間を過ごすことになった。

こういう気持ちの間も、在籍している以上は結婚相談所の月間費を支払わなければいけないというのが余計気持ちに負担をかけた。


3回目のデートは私の家の近くまで城田さんが来てくれることになったので、私が近所で一番美味しいと思っている居酒屋へ一緒に行くことにした。美味しい食べ物があれば私も気持ちが少しは前向きになるかもしれない。

「どんな結婚生活が理想ですか?」

会って1時間くらいで彼から質問をされた。詩織さんのアドバイスだろう。

「相手の方の意向もあると思うので、結婚した相手の方と2人で話し合って、本当に2人にとって幸せだと思える結婚生活を送れるように協力していければいいなと思っています」

正直に私がそう答えると、城田さんは少し困ったような顔をした。

「そういうことではなくて、そうですね、例えばこういう結婚生活なら幸せだな!っていう夢みたいなものってありますか?」

質問の仕方を変えられてしまった。

「私にとっては両親のようにいつまでも仲良く生活していけるのが理想で、夢です」

城田さんが今度はがっかりしたような顔をした。どうやら私は答えを間違えたらしい。

「城田さんは理想の結婚生活についてどう考えていますか?」

と私が質問すると、彼はキラキラした顔で言った。

「僕は真っ赤なオープンカーを購入して、助手席に自分の子供を乗せていろいろなところに行くのが夢なんです!」

私の顔は死んでいたと思う。


彼とは壊滅的に考え方が合わない気がする。それに彼の理想の結婚生活にはどうやら「愛する妻」は居ないようだった。せめて真っ赤なオープンカーの助手席には妻が乗っていて欲しかった。

私は「好きな人と結婚がしたい」から、その先の結婚生活にも相手が存在しているのに、彼の理想の結婚生活には妻の姿がない。

彼は「結婚して子供が欲しいだけ」で、私のことは見えていないんだなと感じた。

これは話し合いとか、価値観の擦り合わせでどうにかなる問題ではないと思った。根っこの部分から、彼と私が望んでいるものは違っている。


それからは明らかに私のテンションが下がってしまったのを彼も察したのか、冗談を言ったりして笑わせようとしてくれたけど、私は全く笑えなかった。もうなにもかも楽しくなくなってしまった。

駅まで彼が送ってくれたけど、最後に何を話したのかもよく覚えていない。


デートが終わってから詩織さんに「彼とはもう会いたくない。」と報告した。詩織さんから城田さんの感想も聞いてもらったけど、城田さんの方も私のテンションの下がり具合に自信を失くしたようだった。数日よく考えて結論を出しましょうと詩織さんは提案してくれたけど、私の気持ちが変わることはなかった。


結婚相談所で一番結婚に近づいたけれど

振り返ると、私が一番「結婚」に近づいたのは、結婚相談所での活動だったと思う。でも私はどうしても結婚相談所で出会った男性を「好き」になれなかった。

「嫌いじゃないけど……」

「条件は悪くないけど……」

そうやって迷っているうちに、気づけば自分の中で答えが出ていた。

結婚相談所と言う真剣な場だからこそ、相手を見る目線も厳しくなってしまい、些細なことで相手のことを嫌になってしまう原因になっていたような気がする。

その人が “持っていないもの” ばかりが気になってしまう。

条件だけなら素敵だと思える人はたくさん居た。

それだけで結婚に幸せを描けたらどんなに楽なんだろう。

私は結婚に夢を描きすぎていたのかもしれない。


◆婚活と恋愛の境界線

結婚相談所は、「結婚」を目的とした場所。

恋愛感情は後からついてくる、というのがスタンダードな考え方。

でも私はどうしてもそれを受け入れられなかった。


「この人は結婚がしたいだけで、私とだから結婚がしたいわけじゃない」


そう感じてしまったら、もう先に進めない。


無理して人を好きになりたくはない。好きな人と結婚したい。

その思いが結局最後まで拭えなかった。

でも結婚相談所の活動は、恋活ではない。

その差を、私は埋められなかった。


結婚相談所は相手の条件を重視してマッチングして、相手を好きになるよりも結婚観や将来のビジョンが描けるかどうかが大きなカギになる。結婚相談所は条件が良い人が多いからその点は安心だ。

仲人の指南により3〜4回目のデートでは結婚観の話をお互いするようにアドバイスされ、今後の意向を確認しあう。

持病や宗教など結婚前に相手からの理解を得る必要がある事柄は真剣交際に入る前に告げるのがマナーだ。

そういった結婚までに話しておくべきことを仲人が導き、次々にクリアしていく先に成婚が待っており、その課題に2人で取り組む中で、絆や恋愛感情が自然に芽生えていくというのが結婚相談所のシステムなのではないかと思う。


だからこそ私は「違和感のない人」を選びたい。

もちろん結婚相談所で出会っても、恋に落ちる人はいると分かっている。

だが私のように「結婚とは、運命の人と出会って、好きだから付き合い、ずっと一緒に居たいから結婚する!」と信じ切っているような、現実を直視できていない女からしたら、結婚相談所で出会うこと自体がすでに運命的な出会いとはかけ離れているので、出会い自体が「妥協」なのだ。

スタート地点ですでに妥協した状態だから、出会った人に完璧を求めたくなってしまう。そしてちょっとしたことで相手のことをすぐにお見切りしてしまう。

詩織さんにも「相手を見切るのが早すぎます。」と注意された。でもどうしても気になるところがあると、そればかりに目が行ってしまい、他の良いところが見つけられなくなってしまうのだ。


それに様々な問題や違和感があったときに、結婚相談所在籍中であれば、仲人が私とお相手の関係をフォローしてくれるから、ギリギリで関係を保つことができる。

しかし成婚退会してしまったら仲人はもう助けてくれない。その先はずっと2人きりで話し合いをして折り合いをつけていかなければいけない。

夢だった結婚生活がただの現実の日常生活に変わったときのことを考えると、今目の前に居るまだ好きでもない男性と、この先何十年も暮らして行けるのかを考える事自体が不安でしかなかった。

たかだか1〜3回会ったくらいで相手の何がわかるんだと思われるかもしれないが、たかだか1〜3回しか会っていないのに私を少しでも不安や不快にさせるような人と、これから人生何十年を共にできるとは、到底考えられないのだ。


そういうわけで私の結婚相談所での活動は城田さんとの仮交際終了と共に幕を閉じた。

人には向き不向きというものがある、と私は自分を納得させたが、単純に私が「婚活」と「恋活」の区別がつかないまま活動していただけで、私が考え方を変えられなかった結果である。


結婚相談所は「理想の相手と結婚させてくれる場所」ではなく

「結婚する相手を見つける場所」でしかないのだ。


私が自分の考えを改めることができて、もう少し根気強く活動を継続させることができていたら、結婚相手を見つけることができていたかもしれないと本気で思う。ただ私はこのとき、婚活というものに疲れ切ってしまっていたせいで、活動を継続することをあきらめてしまった。もっと若くて、思考が柔軟で、体力が残っているうちに、結婚相談所に入会して活動しておけばよかったと悔やまれる。


◆私が得たもの

結婚相談所で活動してみて思ったのは、「結婚相談所は最後の砦なんかではない、むしろ婚活するならまず結婚相談所に入るべきだった」ということだ。結婚相談所に入会するともらえる「ガイドブック」には、長年にわたり私が会得した「婚活の方法」がすべて記載されていた。はじめからこれを知っていたらどんなに婚活が楽だっただろう。そして男性側もこれを知っていてくれたらどんなにうれしいだろう。

許されるなら婚活をしている方全員に配布したい資料だ。


私は婚活に1番重要なのは「時間」だと思う。7年も婚活をした独身の私が言っても説得力がないかもしれないが、時間をかけないことが最大のコスト削減であり、今という1番若いうちに終わらせる、こじらせる前に終わらせることが重要だと思う。

そのためにも結婚相談所でまず婚活のマナーとルールを学ぶのが一番の近道だったんだということに、婚活を始めて5年目のこのとき、やっと気づかされた。


結婚相談所に入ったことは、後悔していない。

むしろ「結婚相談所でも結婚できなかった」と言えることが、自分の中ではひとつの納得につながった。


誰かに責任をなすりつけることもできない。

仲人のサポートもあった。 プロフィールもきちんと作ってもらった。

写真もプロに撮ってもらった。 お見合いもたくさんした。

それでも結婚できなかった。 それは「私の問題だった」ということ。


同時に「それならもう自分を責めなくてもいい」とも思った。

できることはやった。

もう「私は恋愛を選びたい」という自分の気持ちを大事にしようと決めた。

「結婚相談所には、私が結婚したいと思える男性は居なかった」

それが分かっただけでも良かったじゃないか。


結婚相談所という現実を見たからこそ、私は改めて「自分がどんな結婚をしたいのか」を見つめ直すことができたのだと思う。


【連載目次】

第1章 恋愛という名の予習

第2章 婚活パーティーという戦場

第3章 経験しか信じない男 コウイチ

第4章 婚活オンラインサロンでの学び

第5章 合コンという社交場の裏側

第6章 完全無欠の遊び人 タケル

第7章 マッチングアプリという“カタログ恋愛”

第8章 個人主催パーティーの甘い罠

第9章 SNS婚活の“自由”と“偏見”

第10章 ミツルの洗脳

第11章 結婚相談所という最後の砦

第12章 『婚活うつ』という終着駅

第13章 独身偽装男 リョウスケ

第14章 結婚しなければ、という呪い 『婚活依存症』

第15章 ギャンブル借金浮気男 マコト

第16章 自称婚活中の男 マサヤ

第17章 私は、婚活をやめた

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