6話 異変 前編
「かんぱーい」
樽ジョッキが勢いよく弾ける。
電気機器が無いこの世界でも店内は意外と明るい。
ガイコツ兵等の不死系の魔石を浄化・加工する事でランプになるらしい。不思議なものだ。
現代日本の照明程では無いけど、ランプのやんわりと明るい感じは嫌いじゃない。
ーー賑やかで暖かい宴。
一度は心が折れかけた俺たちがこうして居られるのは、この人達のおかげだ。
尊敬出来る先輩や仲間達の存在。
ずっとこんな日が続いたら...。
いや、ずっとじゃダメなんだよな...。
「ナーギタ!飲んでる?」
「あー、ナッシュさん。今日はホントありがとうございます」
「なんだよーナギタまた悩みか?お前って自ら責任背負うタイプだろ?ドMか?」
「いやいやいや、まあ、悩みと言いますか」
「なんだよ?言ってみ?ニノちゃんナコちゃんどっちにするかだろ?両方でいいじゃん?」
「えぇ!?違いますよ!」
「まあ、言いたい事は分かるよ」
ナッシュさんはジョッキを煽り、少しだけ真面目な顔した。
「このままで良いんか?ってやつだろ?」
「あー、ハイ。それです」
「ナギタ気づいてると思うけどさ、俺も転移組だ。もう8年になる」
「8年...ですか、10年居たら帰れるって話し...」
「それは無いな。あそこ見ろ」
ナッシュさんは奥の席で飲んでるおじさん達に目を向ける。
「あの人らは...確か17年くらい?だったかな?」
「17年...そんなに前からですか?」
「そーゆー事。バベル登ってワケわからん木の種を持って帰れん事にはな」
「本当にタイタニアの種をバベル最下層に持って行けば帰れるんですか?」
「実際に帰った奴の話しは聞いた事あるぜ」
「ホントですか!!なんか燃えて来ました!」
ナッシュは小さくため息をつき、話しを続ける。
「俺がこの世界に来てからだが。知る限りではこの南トロイアで帰還した奴の話しは聞かない。俺たちアーリーグレイグも当然挑戦した。今の仲間の大半は...その時に入れ替わったよ」
「入れ替わった...?」
「そう。俺以外は全員死んだ。今のメンバーはそうやって壊滅して生き残った奴らを俺が集めたチームだ。アーリーグレイグは」
「...そうなんです...か。帰りたくはありませんか?」
「うーん。日本に帰る未練が無いと言えば嘘になるな。だからラストチャンスは考えてる」
ナッシュはウエイターにお代わりの合図をする。
「ラストチャンス?」
「そうだ。俺はアーリーグレイグを中心に大きな組織を作りたい。1パーティでダメなら50人、100人でタイタニアの種を目指す。ナギタ。お前ら乗るか?この話し」
「希望が...見えた気がします!。とはいえ、今すぐ俺の一存では決められないので、仲間と相談させてください」
「そうか。まあ、もしダメならリーとミイを嫁にしてコッチに骨を埋めるつもりだ」
「え?2人ともですか!?」
「羨ましいか?あいつらは俺の女だ。この世界じゃ食わせられる奴が、何人でも嫁を取る。そーゆーモンだ」
「そうなんですか...」
「ナギタ、お前はニノとナコ。どっちともヤッたのか?」
ーーぶふーッ。ナギタは酒を吹き出す。
「ちょっ...そんなんじゃないですって...」
「そーか?まあ、元の世界と違って、この世界には魔力の概念があるからな。男女の力の差は少ない。けどな、女を守る事くらいは男として当然考えなきゃな」
ナギタはニノとナコが俺たち全員の生活の為に、自らの身体を売ると言い出した日の事を思い出していた。
「はい。確かにその通りですね」
「ナギタお前、童貞?」
ーーぶぶーッ!!本日2回目。
「ノーコメントで!」
「ははーん。おーい!リー、ミイ!お前ら童貞食いたいか?」
「んー、ちょっと青いかなー。あたしはパス」
「わたしは歳下アリね♡いいの?食べても?」
ミイがナギタの膝の上に座りナギタを舐める様に見る。
膝に当たる感触が...童貞には毒過ぎる...。
「ちょっ...ミイさん!ナッシュさんの彼女なんじゃ?」
「あー、ナギタ。細かい事は良いんだよ。こんな世界だ。女は束縛するもんじゃねぇ」
ナッシュはウエイターからお代わりを受け取り一気に仰いだ。
・・・ニノは不機嫌そう。ナコは顔を真っ赤にしてモジモジしている。
ミイさんに連れて行かれそうになったけど、金子先輩とニノに阻まれて無事?
俺の貞操は守られた。
...ほんの少しだけ...残念だったのは秘密だ。
ーーその時だった。1人の子供が酒場に駆け込んできた。




