4話 決意と取引
ーーあれから3日目
あの日に心が折れた俺たちは、次の日の夜から降り続いた雨を言い訳にして何もしなかった。
これじゃ、街の物乞いや娼婦の人達と同じだ。
いや、彼らもきっと好きであの状況になった訳じゃない...だろうし...。
あと10日で神殿からの庇護は終わりだ。
あと10日...死刑宣告までのカウントダウン。
皆はどう思ってるんだろう?
このままじゃいけない。
このままじゃいけない!
でも、1人でやれる事には限界がある。
この日も俺たちは街の外には出ていない。
夕方に差し掛かる頃には雨も止んだ。
雨には毒素が混じらないのは幸いだ。
「ナギタ...」
ーー!?
そこにはニノが立っていた。
あたし...考えたんだ..。
「ニノ...。考えるって?」
「あたし身体売るよ...。この街で。そしたら...5人で暮らしていけると思う。10年我慢したら...誤差1年くらいで戻れるんでしょ?」
ーー!!
「何言ってんだ!」
「私も身体...売る」
ニノの後ろに隠れていたナコが震える身体を自ら抱きしめる様に。
「ナコまで...!そんなのダメだ!」
「死ぬよりはマシじゃない...?あたしらそれなりに可愛い...からさ...はは..」
ニノは俯きながら寂しそうに言った。
ーーガン!!
壁を殴る音がした。
シンが拳から血を流しながら俯いている。
「ニノ先輩...ナコ...それはだめだよ...」
「そうだよ!女の子2人が俺たちの為に自分の身体を売る!?俺は絶対に...」
「じゃあどうするのよ!!アレと戦って勝てると思うの!?死ぬよりは...死ぬよりは...」
ニノは声を出さず涙をポロポロと床に落とした...。
「うあぁぁぁぁぁん」
ナコまでも泣き出した。
ーー悔しかった。
彼女達がここまで思い詰めていた事。
どうしたら。と、自分で動き出さず考えず流れに身を任せた己の情けなさに。
シンの拳の血。
あれは自分自身を許せない怒り。
俺たちは女の子達の覚悟に劣っていた。
ーー決めた。
「ニノ、シン、ナコ。提案がある」
ーー食堂兼酒場
「ナッシュさん相談があります」
「お、ナギタじゃん!久しぶりだね。あれからどうよ?。って...相談?なんだい?。とりあえず座れよ」
俺たちはナッシュさん達のテーブルに一緒に座った。
賑やかな店内。
荒くれから中年まで色々な人が騒いでいる。
「で、相談って?」
優しそうな顔をしたナッシュさんは身を乗り出す。
「俺たちに生き抜く為の力を教えてください!」
「お願いします!」ニノ、シン、ナコも頭を下げる。
ーー少し考えるナッシュ。
「いいよ。ただし条件がある」
「条件...ですか?俺たちに出来る事なら...」
「1万クム。どう?」
「1万...ですか...。手持ちが...」
1万クム。日本円なら10万...この世界なら5人で60日は暮らせる大金だ。
「それは分かってるよ。今すぐ払えとは言わない」
「少し考え...」
「そんな軽い決意なのかい?たかが金で鈍る決意なのかい?それなら、その可愛い女の子2人に売春でもさせた方が賢明じゃないか?」
「そ、それは!絶対させません!」
「1万クムより安い存在なんでしょ?彼女達は」
「払います!俺が1人で絶対に払います!」
「分かった。もし、払う事が困難となった場合は、君達のパーティから誰か引き抜かせてもらうよ」
「そうならない為にも、絶対に約束は果たします!」
「いい面構えになったな」
その帰り道、少しだけナッシュさんと話しをした。
「ナギタ」
「はい」
「1万クム。酷いと思うかい?」
「驚きましたけど...今はそう思いません」
ナッシュは満天の星空を見上げる。
「俺はこのパーティのリーダーだ。仲間の食い扶持は最優先だ」
「はい...。大事な事だと思います」
「そう。だから一週間収入が無くなる。慈善事業は出来ないんだ。仲間の為にもね。だから1万クムは必ず払ってもらう」
「はい!」
「もし払えなければ引き抜きって話しの意味分かるか?」
「意味...ですか?」
「才能のある奴を自分のパーティの戦力に加える事もリーダーの役目なんだよ」
「誰が欲しかったんですか...?やはり女子2人ですか...?」
「誰かは、言わないよ」
「あ...はい。そうですか...」
一週間、ナッシュさん達のメンバーに俺たちは徹底的に鍛えてもらう事となった。
「おい!ぼやぼやすんな!避けなきゃ死ぬぞ!」
「はい!はぁ...はぁ...」
「魔力切らすな!集中!」
俺はスタイルが近いナッシュさんから直接指導を受けた。
魔力を練りながら戦う魔法戦士のスタイルだ。
訓練は過酷だった。
地元Jリーグクラブのユース時代の追い込みを10倍、いや100倍キツくした感じだ...。
でも、絶対に喰らいつく!
ニノとナコは絶対に守る!
シンと一緒に!!
ーーそして一週間が過ぎようとしていた。
「ナギタ!悪くないよ!そうそう!魔力が身体を流れているイメージを切らさない動き出来てるよ!」
「はぁ...はぁ...ありがとう...ございます...」
ナッシュさんはこの一週間、依頼も受けずに俺たちの為に時間は全部使ってくれた。
1万クム?安いと思える。絶対に支払う!
ーー1週間後。
「ありがとうございました!!」異世研一同
「ナギタ。よく頑張ったな」
「シン。あとは勇気だけだ」
「ニノちゃん。良い女になりなよ」
「ナコ。ビビらなきゃ一流になれる」
俺を鍛えてくれたナッシュさん。
シンの師匠の前衛ガストンさん。
ニノを鍛えた弓魔法師リーさん。
ナコを仕上げた聖典魔法師ミイさん。
それぞれが、弟子達に言葉をくれた。
この恩、絶対に無駄にはしない。
1万クムも支払ってみせる。
その日はナッシュさん達[アーリーグレイグ]の皆さんが盛大にお祝いをしてくれた。
ーーあと、3日。俺たちは自立する。
その夜。神殿宿舎。
「ナギタ...」
「ん?どうした?ニノ」
「ありがと。守ってくれて」
「いや、何もしてないし。鍛えてくれたのは[アーリーグレイグ]の師匠達だし...」
「それはそうなんだけど、そうじゃない。あたし達女子2人を守ってくれた事」
「んー、ああ...俺も男だ。女の子にそんな事...。流石に意地があるからね。もちろんシンもそうだ」
「少しは見直した」
「少しかよ!?」
「少しだけね!...少しだけ...カッコよかったよ...」
「え?ニノなんて言った?」
「バカって言ったー!」
「なんだよそれー」
後ろを歩くシンとナコ。
そして隣にはニノ。
この世界に来て初めて前に進める気がした。
この世界を生き残って。
いや、元の世界に戻るんだ!




