3話 初めての戦闘と恐怖
ーー異世研メンバーの転移から77日目
この日はいよいよ、トロイアの街の外で仕事が始まる。
ケテル大神官から言われた神殿での衣食住の庇護は三ヶ月。
それ以降は、自分達で食い扶持や住まいを確保しなければならない。
兵士長のゾルゲさんからは5人でコツコツ一週間も稼げば生活は成り立つと聞いたので、多少は安心している。
やはり異世界だけあって冒険者の集まる[ギルド]的なものが存在する。
自分達以外の転移者も居るらしいので、出会いにも期待だ。
まずはギルド登録手続きの為に向かう事になった。
やはり街は治安の悪さはそこまで感じないが、決して豊かな感じはしない。
時折、物乞いを見かけるが...ほぼ全員身体が欠損している者なのが少し気になった。
ちなみに、大神官ケテルさんのアドバイスで、元の世界の服装や持ち物は持ち歩かない方が良いと言われたので簡易的な訓練用の装備を着用している。
「き...緊張しますね...」
「悪そうな人に絡まれたら...」
奈子と進次郎は既にビビっている様だ。
「わかんないよー?。意外と、いきなり勇者様って崇められるかもよ?」
「そ、そうだよ!町子ちゃんの言う通りだよ!ぐふふふ。勇者金子様って...ぐふふふ」
ニノは少し楽観的、金子先輩は...まあ、いつも通りだ。
「どちらにせよ、神殿の人達以外との初めての接触だから警戒はしていこうよ」
ナギタは仲間達を悟す。
「あー、確かにそうだね」「はい...」「了解です!せんぱい」
「おい。梛野。リーダーの僕を差し置いて何仕切ってる!?」
「あ、いや...仕切ってるワケでは...」
(リーダーってなんだよ...)
「年長者として、いや、先輩勇者として僕が指揮を取る!分かったか?梛野」
「あー、ハイ。金子先輩...」
(みんな黙っちゃったじゃん...全く)
「ふん!」
ちなみに、この世界で冒険者=トレイルと呼ばれている。
意味は、[道無き痕跡を辿る者]らしい。
んー、異世界ぽくてワクワク値が上がる!
そんな訳でトレイルギルドに到着だ。
ーー南トロイア トレイルギルド
「お邪魔...しまーす」
小声で入ったトレイルギルドは思っていたより人が少なかった。
どうして良いか分からず立ち尽くしていると、受付のお姉さんが声をかけてくれた。
「ようこそ、もしかしてトロイア神殿から通達のあった方々ですか?」
「あ、はい!そうです...どうしたら...?良いですか?」
「初めてだから分かりませんよね?まずはギルド登録しちゃいましょ」
ナギタ、ニノ、シン、ナコ。
まあ、とりあえず簡潔に登録をした。
しかしと言うか、予想通り金子先輩は勇者金子の名前にすると言って聞かなかった。
もちろん受付のお姉さんもドン引きだ。
モテ無さ力は圧倒的だ。
「では、チーム登録はしますか?」
「勇者金子チームで!」
金子先輩が食い気味で宣言をする。
「絶対!嫌!」
ニノとナコが即答で反対したのには笑ってしまった。
なんやかんやで、[異世研(仮)]となった。
受付のお姉さん曰く朝イチはそこそこ人が居るらしいけど、皆依頼やら資源採取で昼間はほぼ人は居ないらしい。そして夜の食堂にはそこそこ居るとの話しを聞いた。
最後に受付お姉さんが言ってた事が少し気になった。
「では、皆さん頑張ってくださいね。くれぐれも...過信しない様に慎重にね」
過信...慎重...。
この二文字の言葉の時だけはお姉さんの顔が真剣たった。
「金子先輩どーするんです?」
「え?何を?」
「いや、そーじゃなくて依頼とか受けるんです?」
ニノはイライラしながら金子先輩の指示を仰ぐ。
「あー、そうだね。魔物倒したいね!僕の修行の成果を見せたいし!」
「え...最初は安全な方が...」「そうだよね...」
後輩組の意見はごもっともだ。
「いや?なんとかなる!女の子達は僕が守るからさ!」
受付のお姉さんが真剣な顔で口を挟む。
「死にますよ!いきなり実戦なんて」
その勢いに金子先輩も押されて、とりあえずは安全そうな果物採取と"拾いもの?"の依頼を受ける事にした。
拾い物は街の外に冒険者=トレイルの装備が落ちてる事があるので拾ってくる仕事らしい。
多分...遺体の装備回収な気がする...。
やはりギルドを出る前にお姉さんに言われた。
「複数の敵が出たら必ず逃げる事」
ーー出発
目的は1〜3キロ先に果物の大樹があるらしく、そこまで行っての採取だ。
その果物を聖典魔法で浄化し安全な種を回収し農耕に使うらしい。
地味だが、異世界冒険の最初は大体こういう依頼と相場は決まっている。
道中を警戒しながら5人で歩くが、殺風景なだけで見晴らしは良い。
徐々にその警戒も薄れていく。
ーー見つけた!
名前は忘れたけど、オレンジ色のリンゴの様な果物だ。特に香りはしないけど、毛が生えている...。
ニノの弓で刺激して落とす。
それを俺たちは拾っていく。
「こんなの勇者のやる依頼じゃないよね」
金子先輩は不満そうだ。
そこそこ集まったその時だ。
離れたところから1人こちらへ歩いてくる。
「トレイル(冒険者)の人かな?」
「でも、1人ですよ?変じゃないです?」
ニノとナコは不安そうだ。
「ど、どうします?金子先輩?」
シンは不安そうに金子先輩の指示を仰ぐ。
「あ...あーたぶん人だよ。そうじゃないなら僕が倒してあ...ーー」
ーー!!
顔が見える距離で分かった。
折れた首...棍棒の様な得物。
人じゃない...。RPGで言うガイコツ兵士だ...。
「ヒッ...」「なに...あれ...」「金子先輩!!」
金子先輩は1人前に出る。
盾を構えながら片手剣でガイコツに斬りかかる。
「喰らえー!!」
ーーバキッ!!ズザーッ
金子先輩の一撃はガイコツに受け止められ、棍棒で盾ごと吹き飛ばされる。
金子先輩は大量の血を口から出したまま気絶してしまった。
「ちょ...」「ナギタ先輩!」「...」
ナコはへたり込み...お尻の辺りから水分が地面に広がる。
ニノは必死に矢を放つが全て弾かれてしまう。
「ナギタ!どうする!コイツ...強くない?」
ニノは振り返り叫ぶ。
「...逃げよう!シン!金子先輩を担いで!ナコ立て!逃げるぞ!」
チーム異世研は動き出す。
ニノと俺でガイコツから距離を取り石や弓で牽制。
シンとナコが金子先輩を担いで引きずる様に逃げる。
ガイコツは走れない様だが...淡々とこちらに歩いてくる...。
表情の無い"それ"から殺意だけはしっかり感じる。
怖い。全員がそう思った瞬間だった。
ーードギャ!!
ガイコツの足元を地面から棘の様な石が飛び出て動きを止めた。
そして法衣の様な服を着た女性が、何やら一瞬集中したかと思うとガイコツを光が包む。
ガイコツは黒ずみ粉の様に消えていった。
「お前ら大丈夫だったか?」
そこには男女4人の先輩パーティと思われるトレイル(冒険者)が居た。
「あ...ありがとうございます...」
俺たちは恐怖から救われた事をようやく実感出来た。3人はへたり込んでしまった。
「あの、ほんと助かりました」
「お前ら新人か?」
短髪のリーダーと思われる20代半ばくらいの男がニッコリ笑った。
「はい...初めての事で...ビビリました」
少し笑われた気もするが、まあ、ビビって命拾いしたのは事実だ。
「俺はナッシュ、あっちに居るのはリーとミイだ。仲間と合流する為に移動してたらお前ら見つけたってワケ。ツイてたな」
ナッシュさんから色々な事を教わった。
まあ、この内容は後々。
とにかく助かった。
ナッシュさん達も良い人達そうでほんと良かった。
今度会ったらお礼をしたい。
「ーーありがとうございました!」異世研一同
ナッシュさん達は俺たちに手を振って仲間達との合流場所に移動していった。
ーーそして何とか街に戻る事が出来た。
受付のお姉さんが依頼品の重さを測ってくれている。
「少しオマケして220クムね!お疲れ様」
1クム=10円ちょっとくらいらしい。
要するに5人で死にかけて2200円
ちなみに宿は1人10クム=100円ほど。
食事は1食で2〜5クム=20〜50円ほど。
とりあえずは5人で2日は暮らせる金額だ。
死ぬ思いをしたのに...2日分。
しかも、運良く助けられて...。
神殿の三ヶ月が過ぎたらリアルな生きて行く為に命懸けの仕事を2日に1回やらないといけない事になる。
その事実に俺たちは認識の甘さを思い知らされた。
金子先輩を神殿まで連れ帰り治療してもらった。
どうやら顎が完全に骨折していたらしい...。
聖典魔法で治療出来たが、意識はまだ戻らない。
ゲームなら全快の筈なのにね...。
ーーその夜
出発前の少し浮ついたワクワク感は何処にもなかった。
皆、俯き誰も口を開かない時間が続いた。
「帰りたい...」
ニノが呟く。
「私...多分死にます...生きてける自信...ありません...」
ナコは震えている。
シンは地面の一点を見つめて押し黙っている。
沈黙が続く。
誰もが、初日にして厳しい現実に打ちのめされた。
ーー次の日
金子先輩も目を覚さない。
昨日の恐怖が頭にこびりついた俺たち[異世研]は誰が言い出した訳ではないけど、休む事にした。
街で偶に見かける身体を欠損した物乞い。
ナッシュさんや受付のお姉さんから聞いた話しでは、元トレイル(冒険者)だ。
働けなくなると''ああなる''と聞かされ、心底恐怖した。
先の全く見えない暗闇の中に放り込まれた気分の俺たちを、満天の星空が照らしていた。




