第8話 とんでもないことが起きました。
異世界にきてからは毎日がサプライズの連続だった。
ありえないほど使い勝手のいい魔法、小屋の中にある日本和室、黒助との出会い、デカいシカの魔物。
だがしかし、今日は過去最高といっていいほど驚いていた。
「な、な、な、なんということだ」
ちなみにすっぽんぽんである。朝風呂を入ろうと思っていたので、お茶だけ飲んで黒助と外に出た。
するとなんという事でしょう。
昨日の畑が、完全に収穫できる状態になっていたのです。
いやむしろ、畑から溢れてきている。
ニンジン、ジャガイモ、キャベツ、レタス。
「がううー♪」
黒助は大喜びでダンスしはじめる。
もう2本脚で立ってないか? しかもそれラテンじゃない? え、ワルツまで!? いや、ワンツ!?
「とりあえず……温泉に入るか!」
「がう!」
温泉を浸かりながら畑を眺めていた。
昨晩、食料問題を解決するため耕して種をまいた。
これからが楽しみになるだろうとしんみりしていた。
でも、もう出来上がっている。
嬉しいが、これはいったいどういうことだろうか。
少し湯に浸かった後、すっぽんぽんでひとまず収穫の作業に入った。
どうせ汚れるしな。それにどうせ俺しかいない。黒助は裸だしな。
もし俺が主人公で、これが漫画やアニメだったら大変だろうな。
なぜならずっと裸の男が映っているのだから。
とはいえ小説ならぎりぎり大丈夫か。文字しかないし。
いや、挿絵の問題もあったか? まあいいか。
「これは……デカいな」
野菜は俺が知っているものよりもかなり大きい。
そのとき、ハッと思い出す。
『仕上げに温泉水をまくぞ黒助! これこそ、温泉野菜だ!』
『がうがう!』
……絶対あれだな。間違いない。いやむしろそれしか考えられない。
おそらくだが、成長促進効果があるとみていいだろう。
デカイ規格は味に問題があるというが、そのあたりも確認してみるか。
しかし食べ応えそうなありそうなジャガイモだ。
今日は塩でいただくか。こうなるとバターも欲しくなるが。
「がうううううう!」
するとそのとき、黒助がシカの魔物を見つけたときのように威嚇しはじめた。
何ごとだ!?
地面に置いていた石剣を手に取り、前を向くが誰もいない。
「どうした黒助、何がみえている?」
黒助は警戒をやめようとしない。
もしかしてアンデットモンスターというやつだろうか。
幽霊タイプ、目に見えないと聞いた事もある。
そんなの……どうしたらいいんだ。
闇雲に剣を振り回すか?
いや、余計に隙を見せるだけか。
更にその直後、ラップ音が聞こえてくる。
ぽんぽん、ぷいぷい、ちょっと軽快な音だが、そうに違いない。
段々と森の奥から近づいてくる。
ぷいっぷいっ、ぷいぷい。
……子供が履いている靴の音と似ているな。
いやこんなことを考えている暇はない。
ステータスでは不老と書いていた。あれがよしんば真実だとしても不死ではないのだ。
やられれば――死ぬ。
「がう!」
「待て黒助、相手の出方を見るんだ」
やがて視界に現れたのは―。
「ぷいぷいっぷいぷいー」
真っ黒い、何とも真っ黒いスライムだった。
「ぷいっ」
「……がう!」
「ぷいーーーーーーー!」
「がうーーーーーー!」
するとなんと二人は抱き着き始めた。
え、知り合いなの?
……友達?
警戒してたんじゃなくて、ま、まさか、あの音は!? みたいな感じだったの?
といっても片方はスライムなので、黒助は取り込まれるような形でハグをしていた。
何というかこう、人間をダメにするような、ヨ〇ボーに似ている。
「ぷいっ!」
「まあ、知り合いならいいか」
構えていた石剣を降ろす。
よくみるとスライムの身体にも擦り傷がある。
……痛そうだな。
見た感じ、危害は加えてこなさそうだ。
「スライム、温泉に入るか?」
収穫を一時休止し、一緒に温泉に入ると、ブラックスライムは嬉しそうに鳴いた。
ぷいぷい。
「ぷいにゅ」
「がう!」
「そうかそうか、気持ちいいか」
湯を浴びている間、やはりスライムの傷が治っていく。
やっぱり凄い効力だな。これがもし元の世界であったらもの凄い革命だっただろう。
身体もあったまったところで外に出て、タオルで身体を拭く。
そのとき、黒助が俺の脚を舐めた。
「なんだ、どうした?」
どうやらブラックスライムを小屋の中に入れてもいいか、と言っているみたいだ。
ほかに行くところがないのだろうか。
黒助も一人だったし、行き別れた友達だったかもしれない。いや、家族同然の付き合いだったとか。
同じ釜の飯を食った仲間、なんて言葉もあるし、無下にはできないよな。
これが昨日なら食料不足で困るところだが幸い野菜が豊富にある。
よし、いいだろう。
「わかった。ただそのかわり、飯を作る手伝いをしてくれよ。スライム」
「ぷいっ~!」
言葉が通じたのか、それとも雰囲気で理解したのかわからないが、スライムが嬉しそうに飛び跳ねる。
ぷいぷい、こいつも……可愛いな。
残念なが和室にはキッチンがないので、小屋の外に手ごろなテーブルを作る。
もちろん、魔法を使って木を切り崩した。
ごろごろ野菜を置き、温泉水で丁寧に洗う。
「しかいデカいな……これを切るのは大変そうだ」
野菜炒めにするにしても小さくしなければならない。
するとスライムが何やらぷいぷいと言い始めた。
「どうした?」
「ぷいぷい!」
「がうがう」
どうやら、野菜をくれと言っているみたいだ。
そんなにお腹が空いているのだろうか。
生でいいのかわからないが、スライムがあんぐり口を開けたので入れ込むと、驚いたことが起こった。
「ぷいっ!」
「凄いな。そんなこともできるのか」
なんと、スライムは身体の中で野菜を切り刻んでくれたのだ。
ごろっと手ごろな大きさで出してくれる。
いやそれどころか……皮も剝いてくれている!?
「ブラックスライム、君は料理担当だ。コックの名を授けよう」
「ぷいっ!」
なんとキャベツは秒で千切りにしてくれた。
凄い、凄すぎる。
黒助と同じで人畜無害そうだ。
ほんと、運がいいな俺は。
◇
港街にある冒険者ギルド。
そこに元騎士団長エルフェンはいた。
返り血だらけのまま、カウンターに魔石をゴロゴロと置いた。
「買い取りを頼む」
「ひ、ひええ!? じょ、上級魔石がこ、こんなに!? もしかして、デスバンビを倒したんですか!?」
「そうだ。久しぶりで少し手こずったが、こんな奴らは序の口だ」
「じょ、序の口?」
「かつて魔の土地には、攻撃が一切効かない無敵の魔物がいたんだ。名前はブラックスライムキングオーガ。1000人以上の攻撃を跳ね返したと聞いている。かつての大戦で傷を負って行方不明だがな」
エルフェンは換金だけしてもらうと、静かに外に出た。
「さて、そろそろ鈍器ができたころかな。しかしブラックスライムキングオーガの目撃情報はなくてよかった。さすがの私でも、無敵には勝てないからな」