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第6話 硫黄風呂と忍び寄るエルフ音

「んっ、おはよう黒助」

「がう!」


 朝日で目を覚ますと、まずは日課のラジオなし体操だ。


「いっちにっ! さんしっ!」

「がうっがうっ! がーうがう!」


 黒助、なかなかやるな?

 それから一緒に温泉卵を食べて温泉水を飲み、すっぽんぽんで外に出て朝湯に入る。


「朝風呂は気持ちいいなあ」

「がう~」


 満足はしているが、せっかく温泉を作れるのだ。

 色々と種類も欲しい。


 今、俺が毎日入っているのは、『単純温泉』と呼ばれるもの。

 白っぽく、刺激が少なく、肌に優しい。


 さらにこの温泉は魔力増強と怪我も治してくれる。


 異世界の効力は凄い。しかしほかはどんなものがあるだろう。


 そのとき、ぐうと、お腹が鳴る。


 シカ肉は燻製にしたが、できるだけ保存食として置いておきたい。

 今は順調でも、今後何があるかわからないからな。

 当面は温泉と食料探しの二軸で動くとするか。


「さあ、今日も頑張るぞ!」

「がう!」


 ちなみにこの後二度寝した。




「よし、行くぞ黒助」

「がうー!」


 昨日、良さげな川辺を見つけたのでそこまで歩く。


 周りに注意しながら森を突き進み、川を無事に発見する。

 魔物とは出会わなかった。


 近くまで歩み寄ると、思っていたよりも透き通っていて綺麗だとわかった。


「魚も結構いるな」


 元気に泳いでいる。けどちょっと透明すぎるな。

 試しに近づいてみたが、やはり逃げられてしまう。


 さすがの仙人も釣り道具は用意してくれていなかった。

 想像で創造(インスピレーション)なら竿を作れるだろうが、糸は難しいだろう。


「……そうだ」


 近くに手ごろな木があったので、想像で創造(インスピレーション)を使って筒を作る。

 それから、黒助に視線を向けた。


「黒助、手伝ってくれないか?」

「がうう!」


 黒助は俺の意図を汲んでくれて川上にダイブする。

 すると魚が逃げ惑う。


 その反対で俺は筒を構えて待っていた。


「よし、入ったぞ! うまくいったな」


 簡単な囲い罠だ。一度入れば抜け出せないな形にしておいた。

 岩で道幅を狭めれば更に成功率は上がり、何度か繰り返すだけで10匹ほど魚が手に入った。


「よくやったな黒助」

「がう、がううー!」


 うちの子可愛すぎ……しかしほんと可愛い。

 魚を追い回すなんてしたくなかっただろうに。


 ごめんな黒助。心苦しかっただろう。

 いやでも、デカイシカを一撃で倒してたっけか?

 

 忘れよう。


 手ごろな木を集めて焚火を作る。

 火は、手を少し指パッチンすればつく。


 仙人、本当にありがとう。


「がうう」

「まだ駄目だ。生食は寄生虫が怖いからな」


 シカを食べるときも血抜きをしたあと、内臓を取り出したりと色々と大変だった。

 動画をみていたおかげで何とかなったが、半日以上もかかった。


 この魚も刺身でたべられるかもしれないが、慎重に検証したい。

 でもいつか風呂上りに刺身定食が食べられたら幸せだろうな。


 魚を木をさして火にかける。


 黒助は待ちきれないといった様子で尻尾を振っていた。


 だがそこでふと気づく。


「……調味料がない」


 すっかり忘れていた。醤油もなければ塩もない。

 シカ肉はそのままでも美味しかったが、魚はさすがにつらいかもしれないな。


 ――いや、待てよ。


 ふたたび地面に手をかざす。

 地底がイメージできる。しかし今回は範囲を地上に広げた。


 そして――見つけた。


「ふふふ、塩石だ」

 

 温泉地域ならもしやと思っていた。

 近くの地底から一部分だけ切り取って穴をあけていく。

 徐々に浮かび上がってきたのは、塩石。


 これは海水が蒸発することによって塩分が濃縮され結晶化だ。

 このあたりは遥か昔、海だったのかもしれないな。


 鉱物変化(インヴォーグ)でまな板のようにしたあと、焚火の上にプレートのようにおき、魚を二度焼き。

 ほどよく香ばしい匂いがしたところで完成だ。


「がうう、がうう!」

「待て。先に俺が味見しよう」


 黒助に何かあったら大変だ。

 まずはほろりと一口。身が簡単にほぐれる。皮についた塩がほどよい加減だ。


 さんまに似ているが、それよりもっと旨味が凝縮されている。

 さんまもどき、と名付けよう


「がーうがう……」

「おっと、すまないな。ほら黒助、食べていいぞ」

「がう!」


 黒助は勢いよくかぶりついた。美味しそうにガツガツ食べはじめる。


 ……でもなんか、本当にちょっとおっきくなってないか?


 いや、気のせいか。


「がうがう!」

「まだ食うのか?」


 結局黒助は五匹も平らげた。


 お腹を満たしたあとは、もちろん温泉だ。


「さあて、どんな温泉があるかな」


 地面に手をかざして、源泉を探る。

 すると硫黄泉を感じ取った。思わず笑みがこぼれる。


 単純湯の中でも殺菌力が強く、皮膚表面の細菌を取り除いてくれる。

 異世界ならより効果は強いだろう。黒助の怪我は綺麗に治ったみたいだが、保湿はしていたほうがいいからな。


「黒助、少し周りを見ていてくれるか? 魔物がいたら教えてほしい」

「がう!」


 温泉作りにかまけすぎて魔物に殺される、なんて笑えないからな。

 黒助がいるおかげで安心できる。


 さて、ここでくり抜き石風呂を作ってもいいが、できれば新しい試みをしたい。

 ここにも拠点を作っておきたいと考えると――。


「よし、岩風呂にしよう」


 まずは地面を大きくくり抜き、小さなプールのようなものを作る。

 それができたら周りに手ごろな岩を置くと、天然の露天風呂風になりはずだ。


 ここは景色もいい。川のせせらぎも聞こえる。

 ロケーションとしても最高だな。


 川の近く、硫黄地層の中心だと思われる場所で再度地面に手をかざす。

 

 どうせならできるだけ広くするか。


地層変化(アースチェンジ)」」


 地面が徐々にえぐれ、広がっていく。

 数秒ほどでデカイ穴ができた。


 その後は中に入り、底をできるだけつるつるにする。

 魔法も慣れてきたのか、あまり疲れなくなっていた。

 その後、身体強化(パワーアップ)で体を強くし、手ごろな石を等間隔に置いていく。


 地道な作業だが、汗をかけばかくほど後が楽しみになる。


 黒助は周りを注意しながら応援してくれていた。


「がうがーうがうがう!」

「はは、ありがとな」


 やがて完成したのは、いい感じの岩に囲まれた露天風呂だ。

 といっても、まだ温泉はないが。


 黒助は訳が分からないらしく、穴を覗き込んで首を傾げた。


「がう?」

「これからだよ。少し匂いはきついが、安全だから心配しないでくれ」


 そして俺も中に入り、中心で手をかざした。

 ちなみに濡れないようにすっぽんぽんである。


 ちなみに結構前からすっぽんぽんだった。


 なんか、すまない。


「さて、頼むぞ」


 地面に手を翳し、温泉を引っ張ってくるイメージだ。

 この形状なら水道管は必要ないだろう。


 少しすると、地面から硫黄の匂いがしてきて、ぶくぶくと源泉があふれてきた。

 直後、勢いよく地面から噴き出してきた。

 少し熱いが、湯の出具合や熱の調節もできるみたいだ。魔法って最高だな。

 

 ある程度貯まったところで、俺はその場で座り込んだ。


「はあ……最高だ」


 川辺が近いから水の音が聞こえる。

 これもまた風流だな。


 っと、効力はどんな感じかな。


『硫黄温泉』

 効果:皮膚化膿症 冷え性 高血圧 耐性異常 疲労回復 魔力上昇 若返り効果。


 若返り効果もあるのか。といっても、俺のステータスが本当なら不老らしいが。

 魔力上昇は本当らしく、力も漲ってくる。


「がう……」


 黒助は少し怯えていた。単純湯と違って色もあるし匂いがあるからだろう。

 俺は、優しく声をかける。


「大丈夫だ。気持ちいいからおいで」

「が、がう」


 黒助はおそるおそる温泉に入っていく。

 すると、頬を緩ませる。いや、もふもふを緩ませる。


「ほら、気持ちいいだろう?」

「がう!」


 温泉は匂いも大事だ。

 それにもう肌がつるつるになってきている。


「がう」

「なんか、またデカくなってないよな?」


 気のせいか。いや、気のせいか? いや……気のせいじゃないかも。


  ◇


 一方その頃、王都の船着き場にエルフの姿があった。


金髪碧眼、元騎士団長のエルフェン・ライフ・リワードである。


「おやエルフェン様、ご乗船でしょうか?」

「ああ、ちょっと遠出をな」

「へえ旅行ですか。どこまで?」

「魔王城の跡地までだ」

「そうですか。――へえ!? あ、あそこはまずいですよ!? 討伐された後、誰も入っていないのでは!?」

「ちょっと噂程度で小耳にはさんだことがあってな。確認したいことがある」

「……そ、そうあんですか。無事に帰ってきてくださいね。あそこにはとんでもない魔物がまだうようよしているみたいなので」

「ありがとう、気を付けるよ」


 船が出向し、甲板で風に打たれながら、エルフェンは目を細めた。


「最古の魔獣、ダークケロベルスか。もしいたら、私は死んでしまうだろうな。しかしそれも本望……だな」


 それからエルフィンは少し痛みを感じ、船の中に戻る。

 個室に入ると、服をはだけさせ、姿見で背中を眺めた。


 そこには、じゅくじゅくと火傷の跡が残っていた。


「……私が美しい……か」


 悲し気な表情を浮かべ、エルフフェンを乗せた船は、魔王の跡地――イズミの元へ近づいていった。

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