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第10話 デカイカニ、デカカニ。

 炭酸湯とは、二酸化炭素(炭酸ガス)が溶け込んだお湯や温泉のことだ。

 入浴剤でもかなりの人気で、有名な『バブ』なんかがそうだ。


 皮膚に当たると気持ちいいのが特徴的だが、あれにも意味がある。

 炭酸ガスは皮膚から吸収されると血管が拡張し、血流が改善される効果がある。

 わかりやすくいえばマッサージみたいになっているのだ。


 打たせ湯を気に入ってくれた黒助ならきっと喜んでもらえるだろう。

 柔らかすぎるのでチョコはちょっと凝っているのかわからないが、気に入ってくれると嬉しい。

 なぜなら俺も大好きな温泉だからな。


「がう!」

「お、先頭を行ってくれるのか。ありがとうな黒助」

「ぷいぷいっ」


 炭酸湯の源泉はまだどこにあるのかわからないので、森の探索をしながら突き進む。そこで黒助が任せてと言わんばかりに尻尾を振りながら先導し始めてくれた。


 チョコは元気いっぱいで俺の頭の上に乗る。重さは感じないので不思議だ。


 元気よく出発。

 10分ほど歩いていると、黒助が突然威嚇し始めた。

 チョコと出会ったときとはまた違う、明らかに警戒している。


 合わせて、頭の上のチョコも反応した。


 前方、やがて姿を現したのは――。


「チョキィ!」


 ……デカイカニだ。2メートルくらい。

 しかし横ではなく縦に動いている。

 鳴き声にちょっと笑いそうになった。そこは、カニィ! じゃないんだ。


 シカのときもそうだが、このあたりの魔物はデカイのか?

 それともこの世界の標準(スタンダート)なのだろうか。


 石剣を構える。黒助はガウウウと威嚇し、カニもそれ警戒したらしくすぐに襲ってこない。


 まずは様子見、といったところだろうか。


 初めてシカ魔物と出会ったときは驚いた。


 しかし人は慣れる。幼いころ怖かったお化け屋敷はやがて作りものだとわかると何も感じなくなる。

 それと同じで、俺は頭の中で邪な事を考えていた。


 ……カニ、カニ……カニ鍋が食べたい。


 温泉に入って美味しいカニ鍋が食べたい。

 ダシもきっと出るだろう。それより、このデカイカニなら具がミッチリ詰まっているに違いない。

 カニの唯一の弱点は身をほじくり出すのが面倒なことだ。

 でもこのデカイカニなら可食部がたくさんある。


 美味しい、食べたい、食べたい、タタカウ!


「チョキチョキィ!」


 俺の食欲に気づいたのか、カニは手のハサミを高速でチョキチョキしはじめた。


 どうやら一筋縄ではいかないらしい。俺を食べたいのなら、まずはこのハサミをどうにかしろと言わんばかりだ。

 

 グーで殴ってやろうか。

 そう思っていたらなんと黒助――ではなくチョコが突撃した。


「ぷいー!」

「チョキィ!」


「チョコ――!」

 

 ハサミでバラバラチョコになると思い焦ったが、なんと挟まれた瞬間、ぐにょんっとグミのように伸びた。

 凄いな。切れないのか。あれか、斬撃無効化、みたいな感じの特性か?


 その隙に黒助が突撃してカニにかぶりついた。


 やはりその牙の威力はすさまじく、一撃でカニの硬い甲羅(多分)を突き破り絶命させた。


 凄い連携だ。なるほど、これが二人の戦い方なのか。

 さながら盾と剣。

 いや、スライムと犬だが。


「ぷいぷいっ!」


 直後、褒めてといわんばかりに飛び跳ねながらチョコが向かってくる。

 あまりの可愛さに抱きしめると、ぷにぷにやわらかい。


「ちょっ、飛び跳ねすぎだ――」


 そのとき、俺の顎に強打した。


『耐衝撃(極)により打撃を無効化しました』


「……なにこのアナウンス」


 なんか、こんなのあるんだ。都度成長って、そういうこと!?

 良かった。顎が砕けたらカニが食べれないところだった。

 いやそれどころじゃないか。死ぬぞ。


「……チョコ、誰かに抱き着きたいときは優しくだ。わかったな?」

「ぷい……」


 落ち込んでしまうチョコ。可哀そうなので撫でると喜んだ。

 ちなみに黒助も抱きしめてほしそうだったので、抱きしめた。

 甘えんぼちゃん!!!


 しかし本当にデカガニ(これからそう呼ぶ)は食べられるのだろうか。

 歩みより、デカガニの腕をポキッとした。なんかごめん。

 すると中は確かにカニの実だ。赤くて白くて、美味しそうな匂いがする。


 すると黒助がくんくんしはじめ、がうっ! と叫んだ。


 これは大丈夫の合図だ。多分。


「よくやった黒助。――チョコ、中を取り出してくれ」

「ぷいー」


 腕を取り込んだチョコはバキバキと音を奏で、カニの身だけにょいんと出した。

 一口食べると、本当に蟹の味だった。


「美味い……」

「がうがう!」

「ほら、黒助もだ。チョコは――」

「バリボキバギギィ!」


 どうやら甲殻で満足しているらしい。うちのコックは食料の節約もしてくれる。なんと優秀な。


 とはいえここで全部食べてしまうとカニ鍋ができない。

 まだ楽しみは残しておこう。中は危険ともいうしな。

 チョコの体内は食料を保管できるとわかった。その分デカくなるが、問題なく飛び跳ねながらついてきてくれる。優秀すぎない!?


 それからまたデカカニと出会った。


 不思議なことにハサミの動きがスローに見えた。

 これも都度成長のおかげだろうか。


「――黒助、チョコ、俺に任せてくれないか」


 なぜかわからないが、勝てる。

 そう確信した。


「チョキィ!」

「――悪いがグーだ」


 ハサミを寸前で回避し、石剣でたたき切る。一応石だし、グーだよな?


『都度成長により、観察眼(極)を習得しました』


 やっぱりそうか。今も目を凝らしていたので覚えたみたいだ。

 まったく、最強になりたいとは思ってはないんだけどな。

 とはいえ、悪い気はしない。


「さて、もう少し進むぞ。炭酸湯はすぐそこだ」

「ぷいー!」

「がう!」


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