空から降ってきた「妖精」を自称する鳥への苦情
あれは、いつもと何も変わらない平日の夕方。
学校から帰った私がジャージに着替え、愛犬と歩き慣れたルートをの散歩していた時のことだった。
電柱の横で足を止めた愛犬を待ちながら、ふと空を見上げた。
こげ茶色の塊がこちらに落下してくるのが視界に入る。
野球ボールくらいのサイズのようだけど一体なんだろう?
不審に思いながら、落下物の直撃を避けるために一本先の電柱まで向かうことにした。
片足を上げていた愛犬はリードを引かれて不服そうな顔をしたが、もう一度強めにリードを引くと大人しく歩き出した。
そろそろ安全なところへ来たかな、と後ろを振り向いて落下物を確認する。
「わあ!」
思わず声を上げてしまった。
なぜなら、目と鼻の先にあのこげ茶色の塊が浮遊していたからだ。
「避けるな!」
こげ茶色の塊はぴしゃりと言うと、バタバタと羽ばたいてすぐ横の塀の上に降り立った。
よく見てみれば、なんてことのないただの小鳥だ。
「しゃべる鳥……汚いインコ?」
私の中の鳥のレパートリーが少なすぎて種類は不明。
「お前、ぴぃと契約して魔法少女になれ!」
「一人称『ぴぃ』かぁ……キッツ」
謎鳥は私の言葉に過剰反応してぴぃぴぃと鳴きながら嘴でつつこうとしてくる。
「ぴぃは小鳥型妖精っぴ!」
「自称妖精もキツイし急に語尾『っぴ!』もキツイ」
淡々と指摘し続けていると、目に見えて謎鳥のテンションが下がってきた。
「それに、私魔法少女ってガラじゃないし、犬の散歩中なんだよね。迷惑だから他当たってくれる?」
「そ、そんな……。お前に断られたらぴぃはどうすればいいっぴ……」
他に当たれって言ったのが聞こえなかったかな?
とりあえず面倒だから逃げよう。
そう思った時だった。
「わふっ!」
愛犬が謎鳥に向かって吠えた。
尻尾をふりふり、とてもご機嫌な様子で。
「契約してくれるっぴ!?」
「わふっ!」
は? ちょっと待って!
飼い主の許可も得ずに勝手にうちの犬と契約しないで!
私が止める間もなく、一羽と一匹の契約は成立してしまった。
アニメよろしく愛犬の体が光り、フリルたっぷりの可愛い衣装を纏う。
かくして、我が家の子犬は魔法少女ならぬ魔法子犬になってしまったのだった。
活躍は期待するな。続かない!