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男前聖女様の冒険

掲載日:2025/05/12

息抜きに書きました。

 中学二年生の夏休み、私は異世界トリップをした。

 言葉通りの中二病を拗らせすぎたわけではなくて、本当に世界を一つ救ってしまったのだ。

 そこは魔法や魔物なんかが存在する、絵に描いたようなファンタジー世界で、『聖女』に任命された私は、護衛騎士や神官たちと一緒に旅をして、うっかり死にかけながらもなんとか無事に魔王を封印した。これが他人事ならいかにも『テンプレ通り』という感じの展開だった。


『マナ。たとえ世界を隔てても、私の心は永遠に貴女とともにある』


 パーティーの護衛騎士は当時の私よりも少し年上のイケメンで、突然の異世界トリップ&現代人には縁遠い生命の危機の連続に、私が騎士に惚れ込んでしまったのは無理もないだろう。

 まあ、後から思えば、彼が十四歳の小娘相手に本気になったとも思えないから、もしかしたら王様から『聖女を逃がさないようにしろ』って命令でも下っていて、彼は不本意なハニートラップを仕掛けただけだったのかもしれないけれど。

 それでも、お揃いの宝石のついたブレスレットなんて用意して、雰囲気たっぷりに誓いを立てるサービスまでしてくれたものだから、私の初恋を彼に捧げたことに悔いはない。


 でも、二度と会うことはないだろうな、とも思っていた。


 いくら恋愛にのぼせあがった小娘とはいえど、私の現代日本での十四年間はけっして不幸ではなかったし、一時の恋心のために捨てられるほど軽いものでもなかったのだ。

 魔王を倒した私は、あっさりと元の世界に帰る選択をして、元の世界ではたった二週間しか経過していないことに驚いて、すぐに日常へと戻っていった。


 ――それから八年。


 大学四年生になった私は就職活動に勤しんでいた。

 滑り止めに受けた会社から内定をもらって、もう終わりでいいんじゃないか、いやいや、まだ本命は残っているんだから……なんて考えながら道を歩いていると、覚えのある感覚に引き込まれた。まさか、これって、再トリップか!?

 でも、トリップ先が同じ世界とも限らないし、そもそも時間の流れだって違ったのだ、都合よく前回の知り合いに会えるとも限らない――。


『聖女マナ。我々には、貴女の力が必要だ』

「……ラウロ!?」


 まさか、嘘でしょう!? 

 その声は、八年前に愛を誓ってくれた騎士の彼のもので、柄にもなく『運命』なんて感じてしまった。

 時間の流れが違うから、もしかしたら彼はおじさんになってしまっているかもしれない。でも、イケメンだったし、ダンディなイケオジなんだろうな。うわあ、見てみたい。

 かつてのピュアな恋心というよりも、成長した私の野次馬的な好奇心に突き動かされて、私は目を見開いた。


「ひっ!?」

「えっ……君、だれ? ラウロじゃないよね?」


 そこにいたのは、布の塊――否、目深にフードを被った小柄な人物だった。見たところ、小学生か中学生に見える男の子だろう。ぼさぼさの髪の毛は長く伸びているけれど、声は男のものだったし。……ということは、声変わりが終わったくらいの年齢で確定か。


「えっ、あの、なんで!? なんでっ、聖女マナが召喚されてっ!?」

「いや、こっちが聞きたいんだけど。君は誰? どうして君が私の名前を知っていて、私を召喚したのか。説明してくれる?」


 再トリップあるあると言えば、昔の知り合いだとか、年の流れが違うせいで老いた昔の知り合いだとか……つまり昔の知り合いにあってこそではなかろうか。

 ところが、私は前回、こんな男の子に会ったことはない。いや、会ったことはないはずだが、どこか見覚えはある。具体的には、よく手入れをすればツヤツヤになりそうな髪の毛だとか、ラウロと同じ青い目だとか。


「もしかして、君って、ラウロの……聖女マナの一行にいた騎士ラウロの親戚だったりする?」

「はいっ! ラウロ公は、我が一門の開祖で、僕は一応、その八代目当主に当たります!」

「待って」


 八代目ってことは……二、三十年で代替わりするとして、ざっくり二百年経ったの!?

 しかも、しかもだ。代が続いているってことは、ラウロは小娘が帰った後、フツーに結婚して子作りしていたってことだ。操だてして一生独り身でほしかったわけじゃないけど、遅れてきた失恋を知ってなんとなくショックである。


「……まあ、考えようによっては? 命懸けの封印が数年で解けたと言われるより、『二百年はもった』って言われた方がマシかもだけど……?」

「それでっ、魔王の復活にあたって、聖女マナのお力をお借りしたく……あの、駄目でしょうか……?」


 八代目当主レアンドロくんは潤んだ目を向けてきた。

 この若さで当主になったからには、きっと苦労もあったのだろう。魔王が復活して暴れ回っているそうだから、近しい人を亡くしたりしたのかもしれない。

 そんな中で、先祖が残した『聖女ゆかりの宝石のブレスレット』に一縷の望みをかけて召喚しました、なんて言われたら……それは、大人として、放っておけるわけはないのだ。


「分かった。いいよ、魔王を倒しに行こうか」

「ありがとうございます!……ところで、マナ、そちらの世界ではだいたい何年くらいの時間が経っていたのですか? 見たところ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「八年間だよ」

「なるほど……そうだとすると、時の流れは、二十数倍異なるのですね」

「そうみたいだね」


 そうだとすると、私がこの世界で二十年過ごしても、私の身体の衰えはないのだろうか。それとも、『こちらで二十年過ごしてアラフォーになった私』が一年後の世界に戻ることになるのだろうか。

 まあ、分からないけれど、早く魔王を倒して帰ればいいだけの話か。


「行こう、レアンドロくん! まずは旅の準備からだ」


『えいえいおー!』と前回の旅の始まりと同じく拳を突き上げる私に、レアンドロくんも可愛らしく応えてくれた。


 ☆


「……そうだとすると、こちらの世界で天寿を全うするまでともに生きても、貴女にとっては四、五年の話なのだから。そのくらいは、私のために割いてくれてもいいですよね?」


 私たちは永遠を誓った仲で、私はこの世界で何度も転生を繰り返し、貴女の帰りを待ったのだから。

 宝石のブレスレットを右腕につけた少年は、密やかに呟いた。


特に続きはないです。

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