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新学期


夏休みも終わり新学期が始まりました。

教室内はわいわいと賑わいを見せていて、一喜一憂している姿がそこかしこで見られる。

今は席替えのくじ引き中。美優紀の後ろに並び黒板を見る。

今年は陸と美優紀と同じクラスになれるという奇跡が起きた。前期の席替えはダメだったけど、次こそ二人と近くになりたい。

陸の名前は既に黒板に記されている。まだ空きはある。

美優紀が箱から紙を引いて先生に渡す。先生は「花瀬さんは二十番ね」と言って陸の隣に名前を記した。

「うげ」という聞いたこともないような美優紀の声が。

私は手のひらに念を込める。

まだいける。陸と美優紀の隣、もしくは前。十四番、十九番、二十五番。

どうかこの三つのどれかを我が手中に!

意気込んで引いた紙を先生に渡す。

「東雲さんは、三十三番ね」

と言って、二人とは遠い位置に私の名を記した。


机を移動させる。私の隣は綾見光太くん。少しチャラく見える彼はいつも女の子に囲まれていて、陸と同じようにモテる人だった。

引っ越してきた私を見て綾見くんはにこっと笑う。

「よろしくね」

陸とはまた違う、綺麗な顔に緩い雰囲気。どこか色気を感じる。綾見くんとは一度話したことがあった。私は少しだけほっとする。

「よろしく」

私はぺこりとお辞儀をした。




九月といえば文化祭。

議論の末、私たちのクラスは執事とメイド喫茶をすることになった。

男がメイドで女が執事の格好をするらしい。私は陸のメイド姿が楽しみで仕方がない。


文化祭の準備中。綾見くんと一緒に小道具作りをしていた。飾り用に折り紙を切ってくるっと丸めていく。

廊下で作業をしていると他のクラスの人が通りすがりに綾見くんに声をかけていった。

「光太じゃん。なにやんの?」

「俺ねぇメイドになるんだって。お嬢様、美味しい飲み物をご用意しておきますから必ず遊びにいらしてくださいね」

「あはは、きも!時間があったら行きまーす」

女の子たちは楽しそうに手を振って去っていく。

綾見くんは「お客二人ゲット」と言って私にウインクをしてきた。す、すごい人だな。

教室から大きな板を担いだ陸が出てきた。目が合う。すると陸はふいと目をそらしクラスメイトとどこかへ板を運んでいった。

……まぁ特に用事ないしね。

なんとなく気持ちが落ち込んでいると綾見くんが私をじっと見ていたことに気が付く。

なんだろう?

すると綾見くんは不思議そうに言った。

「東雲さんって野々宮のこと好きなんだよね?」

いきなりの質問に不思議に思いながらも私は頷く。

「告白はしないの?」

きょとんとしていると綾見くんは作業を進めながら雑談を続ける。

「両思いっぽいじゃん。告白は自分からはしたくないタイプ?」

綾見くんが聞いてきた「好き」が「恋愛」としての好きという意味だと理解する。他人から見た私たちは一体どう映っているのだろう。

「陸は家族同然。陸もそう思ってる」

「付き合いたいって感じではないんだ?」

私は作業を進めながら悶々と考える。

「大好きだけど、よくわからない。一緒にいられるし」

すると綾見くんはくすっと笑った。

「でも相手に恋人が出来たら話は変わるよね」

私は綾見くんを見つめた。陸に恋人が出来るなんて想像がつかない。だって陸はどうやって恋人に接するの?空くんみたいに甘いわけじゃない。近寄ってくる子にはいつも適当にあしらってる。

恋人って、甘くて、寄り添って、キスとかするんでしょ?陸がそんなことする?

綾見くんは面白そうに口元をあげている。

「野々宮モテるからその気になれば彼女なんてすぐ出来るよ」

陸はモテる。今までにも私を牽制してくる子はたくさんいた。それでも陸は恋愛に興味がないように見えるのだ。いつか陸にも恋人が出来るのかもしれないけど、まだまだ先の話なんじゃないかって。

じっと私を見ていた綾見くんはいたずらっ子のように微笑んだ。

「恋人としての好きかどうか、簡単にわかる方法教えてあげようか」

私はこくりと頷く。すると綾見くんは私と距離を詰め、私の頬に手を置いた。親指で私の唇を撫で、耳元に顔を寄せ囁いた。

「こうやって至近距離で触れられて、嫌じゃなかったら好きってこと」

すると回りから女子のキャーという悲鳴が上がる。バタバタとかけつける足音がして、綾見くんの頭をぶん殴る女子生徒が。

「バカなのあんた!こんなとこでなにやってんのよ!!」

同じクラスの委員長、真木さんだった。

綾見くんは頭を撫でながら真木さんを見上げる。

「痛いよひとみん。さすがにこんなとこでは何もしないって」

「見え方が!やらしいのよあんたは!」

「やだぁひとみんのエッチ」

するとまたしてもぼかっと綾見くんの頭部に重い一撃が入った。

「大丈夫、東雲さん。こいつになんかされそうになったら思いっきりぶん殴ってやって」

私は高鳴る鼓動を押さえようと胸に手を置く。綾見くんはそんな私を見てにこっと笑った。

「俺に触られてどうだった?」

「……ゾワッてなった」

「わぁ正直」

綾見くんと真木さんはまだ言い合いをしている。けれど私は綾見くんに聞かなければいけない。

「あ、綾見くん」

二人の視線が私へ向く。

「くすぐったい場合はどうなのかな」

すると綾見くんは意地悪そうに微笑んだ。

「さぁ?どっちだと思う?」

結局、陸への好きは友人としての好きなのか、恋人としての好きなのか、結論は出なかった。


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