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花火大会


最近の俺はなんか変だ。

あいつとプールに行った日から度々あいつが頭をよぎる。

楽しそうにするあいつの顔。冷たくて細い手首。腰を抱き寄せた時の柔らかい……。

頭を枕にぶつけ邪念を祓う。

やめろ考えるな。あいつは面倒ごとばかり引き起こす。

さっさと寝てしまおうと思った時スマホが鳴った。

『花火大会行かない?』

と、あいつからのメッセージが。

俺は盛大にため息をついた。




花火大会が近づいてきたある日。

風呂から上がった俺を見て兄貴が声をかけてきた。

「陸、ちゃんと浴衣洗濯した?去年の着てくなら洗濯しときなよ」

俺は牛乳をコップに注ぐ。

「浴衣なんか着てかねえよ」

すると兄貴はキョトンとした顔で俺を見る。

「でもなっちゃん浴衣着てくって言ってたよ。柚子も浴衣に合わせた髪型研究しなきゃって張り切ってたし。陸がいつも通りだとなっちゃん恥ずかしがるんじゃない?」

するとそれを聞いていた母親が口を出してきた。

「それならあんたも合わせてあげなきゃダメよ。浴衣はお母さんが洗っといてあげるわ」

と、こんな時ばかり協力の意を見せる。

この家族は本当にあいつに甘い。だからあんなポンコツになったんじゃねえの。……いや、最初からあんなんだったか。




花火大会当日。

俺は浴衣に着替え部屋を出た。

リビングにいた母親は俺の姿を見るとスマホで写真を撮りはじめる。

「やだ、我が息子ながらなんて格好いいの!ほんっと見た目だけは完璧なんだから」

俺はスルーしてリビングを見渡す。

「兄貴は?」

「もう柚子ちゃん家に行ってるわよ。いい、ちゃんとなっちゃんのこと褒めるのよ?浴衣似合ってるとか、可愛いとか。わかった?」

なんでそんなこと言わないといけないんだよ。俺の心を読んだのか母親はしつこく言い聞かせてくる。

「なっちゃんみたいな可愛い子、もたもたしてたら一瞬で違う男に持ってかれちゃうからね!あんたせっかく見た目は良いんだからこの際徹底的に利用してきなさい!ちゃんとエスコートするのよ?で、優しくするのよ?疲れてるかどうかちゃんと確認するのよ?わかった!?」

ぎゃいぎゃいと五月蝿い声を無視して俺は家を出た。


夏子の家の呼び鈴を鳴らす。おばさんが出て来て母親と同じような反応をする。

「やだなんてイケメン!こんな子がお婿さんに来てくれたらおばさん感動で泣いちゃうわ。夏子ー!陸くん来たわよー!」

そして兄貴と柚子姉を引き連れて夏子が姿を見せた。


低い位置でまとめて結われた髪。赤色の髪飾りが真っ黒な夏子の髪によく映える。

黒をベースとして赤やオレンジの色が散りばめられている蝶柄の浴衣。

白の帯にはアクセントで赤い帯締めが使われている。

いつもより血色の良い肌。色づいた唇。吸い込まれそうになるほど綺麗な瞳。

俺は思わず夏子に見惚れていた。


しかしすぐにハッと我に返り、夏子の後ろにいる二人に目を向ける。

「……兄貴たち、浴衣じゃねえの?」

そう、兄貴と柚子姉は普段着だった。

俺の言葉に柚子姉は怒りだす。

「あんたね、先に夏子になんか言うことあるでしょ!見なさいよこの可愛さを!ほら、なんて言うの!?」

目をキラキラとさせて俺を見つめてくる夏子。俺は目を逸らした。

「別になにも」

「むきーっ!これだから顔が良い男は嫌いなのよ!」

「あれ、もしかして今僕けなされた?」

「空は別よ!」

「良かった」

バカップルがなにやら騒いでいる間、夏子からの視線が続いていた。俺はいたたまれなくなってじろっと夏子を睨む。

「何?そんな見られると恥ずいんだけど」

すると夏子はパッと目を逸らした。

「ごめん」

ほんのり赤くなっている頬はメイクのせいか?

その様子を見ていた柚子姉が俺にじとっとした目を向けてくる。

「ほら、夏子はあんたのこと格好いいって伝えてるのに。あんたからは何もないのね」

……は?夏子がそんなこと思うか?いや思わねえだろ。だいたいこいつが目をキラキラさせる時は楽しかったり楽しみだったりっていう意味で……。

夏子を見る。ちらと俺にむけた視線はどこかいつもとは違って熱を帯びている気がした。

え、マジ?こいつ俺のこと格好いいとか思ってんの?こいつにそういう感情あるの?

俺の顔がカッと赤くなる。思わず背を向けた。

「もういいだろ早く行くぞ」

後ろでくすくすと笑う声が聞こえる。そして柚子姉はこんなことを言い出した。

「じゃあ気をつけてね。あんまり遅くならないうちに帰るのよ」

ちょこちょこと俺の隣にやってきた夏子。

俺は二人に呆然と聞き返す。

「え、二人は?」

すると兄貴と柚子姉は二人して首を傾げた。

「私たちは大学の友達と行くから一緒には行かないわよ?」

不思議そうに俺を見上げる夏子を見て俺は頭を抱えた。


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