緊急クエスト2
一区切りついたところで陸が聞いてきた。
「昼どうする?どっか食いに行くか?」
陸からそんな提案をされるとは思ってなかった。一度家に戻ってインスタントラーメンでも食べようかと思ってたのに。
「良いの?」
「俺んちカップ麺くらいしかないし。さすがにそれはな」
別に私は食べられるならなんだっていいんだけど、お姉ちゃんから聞いたお店が気になっていたんだ。
私はスマホを出してお姉ちゃんから送られてきた画像を見せる。
「お姉ちゃんがここオススメって」
お洒落で安くて美味しい、若者の味方なんだとか。陸は画面を覗く。
「イタリアンか。いいじゃん遠くないし。じゃあここ行くか」
ウキウキしている私を見て陸はなぜか優しく微笑んでいた。
若い女の子たちがきゃっきゃと楽しそうにおしゃべりをしながら食事を楽しむ。
お姉ちゃんの言うとおり若者だらけだ。
陸はなぜか頭を抱えていた。
「い、嫌だった?」
心配になってそう聞くと陸はばつが悪そうに否定する。
「別にそうじゃなくて……カップルが多いなと思っただけ」
確かに女の子同士のお客さんも多いけど半数はカップルみたいだ。
「あ、カップル割があるって言ってた」
私の言葉に陸は目を丸くさせた。そしてガックリと項垂れる。
「……柚子姉か」
「大丈夫、たぶん私たちもカップルに見えるはず。お得」
陸はなぜかじとっと私を睨んだあとため息をついた。
とても美味しいご飯だった。陸と二人で外食をするのも久しぶりだったし、楽しい分余計そう感じたのかもしれない。
今日はなんて楽しい誕生日だろう!
……陸には誕生日ってこと黙ってるけど、別に騙してるわけじゃないしいいよね。
食事を終え伝票を取る陸。
私がカバンから財布を取り出そうとすると陸がストップをかけた。
「お前今日誕生日だろ。仕方ねえから奢ってやる」
キラキラ、ふわふわ、私の目に映る陸はいつもそんな感じ。
「ありがと」
「おー、感謝しろ」
お会計でカップル扱いされたのが恥ずかしかったのか、陸は少し照れていた。
お店を出て私は高鳴るまま陸に言う。
「陸の誕生日は、私が奢るね」
すると陸はふはっと無邪気に笑った。
「楽しみにしとくわ」
キラキラ、ふわふわ。陸は不思議。
「高級寿司とかどうよ」
「私お金使うことないからお金持ち。たぶん行ける」
「……そういやそうだったな」
陸の誕生日はまだまだ先だけど、今から楽しみにしておこう。
帰り道。
ガチャガチャがたくさん並ぶ場所には子供が数人楽しそうにカプセルを開けている。その中にはモンバスのガチャガチャもあった。
私は陸の腕を引いてガチャガチャを指差す。陸は「懐かしいな」と言って一緒にガチャガチャを見てまわる。
私は小銭を取り出し念を込める。
陸はそんな私の様子をじっと見つめていた。
モンバスのガチャガチャに小銭を入れ、いざ勝負!
狙うはマユツバヒメのストラップ。ガコンとカプセルが落ち私はカプセルを開けた。
入っていたのはナルカミロウガのストラップだった。ハズレ……ではない。ナルカミロウガも好きだ。
「おーいいじゃん。ナルカミロウガ可愛いよな。つかクオリティすごくね」
すると陸も小銭を取り出し同じガチャガチャを回した。なんと出てきたのはマユツバヒメだった。
「やっぱマユツバヒメかっけーな。お前マユツバヒメ好きじゃなかった?」
こくりと頷いた私に陸はストラップを渡してくる。
「んじゃあこれやるよ。誕生日プレゼントだ、受け取れ」
キラキラ、ふわふわ。陸の笑顔は反則だ。
「ありがとう」
「おー」
陸からもらった初めての誕生日プレゼント。私が見る世界はあまりにも色鮮やかだ。
ストラップを眺めてにこにこしている私を見て陸は言った。
「こういう時って普通交換しようとか言うもんじゃねえの。別にいらねえけどさ」
陸の言葉に私は反対の意を示す。
「陸はどうせストラップつけない。飾らない。だから私が使う」
すると陸はふはっと笑った。
「がめつい女」
なぜか楽しそうな陸を見て私も笑った。
その後家に戻った私たちは再びモンバスを起動し、当初の予定だった緊急クエストとは別の緊急クエストまでクリアしたのだった。
お姉ちゃんには「色気のないこと」と言われたけれど、家族で食べたお寿司もケーキも美味しくて、私にとっては最高の誕生日になったのだった。
ストラップは二つとも学校の鞄につけることにした。