プールは危険がいっぱい2
ウォータースライダーを終えてプールから上がると兄貴と柚子姉がにまにまとこちらを見ていた。
「やだぁ、すっごく良い感じ。楽しかった?」
柚子姉の質問に夏子は頷く。
柚子姉は夏子をぎゅっと抱き締めた。
「あぁもうなんて可愛いのかしら。何回でも陸を連れて行っていいからね?」
どこにそんな権限があるんだと言いたかったがやめた。夏子は目を輝かせて頷いた。
お昼ということで食堂で食事をする。
ラーメンにチャーハン、唐揚げ。もくもくと食べていると夏子がじっと俺を見ていた。
「何」
椅子に座っていても小さいな、なんて思う。
「よく食べるね。おっきくなる秘訣?」
何を今さらと思うが、確かにこの四人の中で唯一小柄なのが夏子だ。兄貴はそれほど背が高いわけではないけど、夏子から見れば十分高い。
俺はふっと鼻で嘲笑う。
「お前はもう成長しねぇだろうな」
するとなぜか兄貴に頭を叩かれる。
「こらっ!なっちゃん気にしてるんだからそんなこと言わない」
「夏、今のままでいいのよ。ちっちゃくて可愛いしちっちゃすぎるわけじゃないんだから」
夏子はなぜか悲しそうに頷いた。
……そんなんで落ち込むか?
俺はちょっと良心が痛んだ。
食事を終えまたしてもウォータースライダーの列に並ぶ。そうとう楽しかったようだ。
俺はその間にさっきのことを聞いてみた。
「背低いのそんな気にしてんの?」
すると夏子は俺をじっと見つめて、「陸が疲れちゃう」と意味のわからないことを言ってきた。
「……どゆこと?」
なぜか夏子は申し訳なさそうに目を伏せる。
「身長差があると大変って。話してると疲れるって……通りすがりの人が話してた」
俺はガクッと項垂れる。誰だよそんな話してるやつ。
何、俺が疲れると思って気にしてたの?バカなの?いや、バカだったわ。
「あのな、別にこっちからしたら日常なわけよ。だいたいそれ言うならお互い様じゃね?お前だって見上げることになるから疲れるだろ」
夏子は目をパチパチとさせなにやら考えている様子。
「疲れない」
「おー、だったら俺だって疲れねえよ」
夏子の目が「天才か?」とでも言っているようだった。
何はともあれ夏子の杞憂は晴れたようだ。
ほんとにめんどくせえ女。
滑り終えると兄貴たちの姿がなかった。また二人でどっか行きやがったな。
キョロキョロと二人を探す夏子。そして、俺は見つけてしまった。
同級生たちを。
冷や汗が流れた。
こんなところ見つかったらどうなる?あることないこと噂される。ついでに冷やかされるのが目に見える。
俺は夏子の手を掴み引き寄せる。
「夏子、こっち」
そう言って無理矢理あいつらから距離をとる。
別のエリアまで来た。これでしばらくは大丈夫だろう。ほっとしていると夏子は泡プールに目を奪われていた。
子供達が楽しそうに泡で遊んでいる。
「行くか?」
そう声をかけると夏子は勢いよく頷いた。
ジェットバスと同じ原理なのか、掬った泡はすぐに消えていく。それでもシュワシュワとした感覚は不思議で子供心を思い出す。
俺は泡を掬い夏子の頭に乗せる。
「うんこ」
そう言うと夏子は笑って俺にも乗せようとしてきた。
「はいダメー」
夏子の手を掴む。
「なんでズルい」
笑いながら抵抗してくる夏子。
「自分の無力さを恨むんだな」
「やだ私もやりたい」
「ダメでーす」
必死に抵抗する夏子が面白くてついつい楽しんでしまった。
帰りの車内。兄貴が運転し、柚子姉は助手席に座っている。眠そうにしている夏子に気付いた柚子姉が振り返る。
「夏、眠いなら陸の膝借りて横になっちゃいな。陸、後ろに膝掛けあるから取ってあげて」
いろいろとなんでだよ、と言いたいところだけど頭をふらつかせている夏子を見ていると何も言えない。
結局夏子は俺の膝に頭を乗せすやすやと寝息をたてた。思わず触った夏子の髪はプールあがりでごわごわしていた。