ある王国のある王都で
チビエマ士族は、ふとある日の事を思い出す。
薬品ばかりの研究室は、様々な匂いだった。
「ふーん?あらあらあらあら……」
月夜が闇夜を照らすスラム街の一角で。
ピエロの格好をした道化師は、困った顔をすると文を運んできた伝承妖精を右肩に乗せる。
「穏健派だった女王を殺した娘が、ここで一気に覇道を進むとか。
……我が魔獣王陛下や、竜王様、魔王様と状況も似てるね。
……こりゃ、あの例の奴が裏で手を引いてるのかな?」
道化師は思考を重ねると、月夜を見上げる。
……アグノース帝国の女王に頼まれて、うっかり堕人の転生秘術教えちゃったけど……クロード師匠なら許してくれるよね?
……さあてと、そろそろ王国からお暇させて貰おうかな。
笑って道化師は、高く跳躍すると魔法陣が出現して道化師を包み込む。
一際魔法陣が光ると、道化師は魔法陣ごと消えて居なくなった。
ある教会の中では。
長い黒髪の美しい女性は、玉座に座り頬杖をついた。
感情のない王女は、女性の前で膝をついて頭を下げる。
「そう、怪しい鼠は逃がしたのね?本当に使えない子。でもいいわ、私の計画に支障は無いんだもの。
さあ、私の為に世界を混乱に陥れて頂戴?」
「……全ては我が女神の為に」
感情のない王女は女性に言うと、一礼して立ち上がり玉座から去っていく。
「ふふふ、楽しみだわ?」
女性は愉しそうに笑うと崩れていく国を自分が支配していく感覚に、どうしようもない愉しさが湧くのであった。
雨の日、チビエマは静かに吠える。