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呪いと植物とゆくハード異世界  作者: 狐丸屋
第一章~新たな人生
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08~厄災の再来

 私達がギルドを出ると、辺りは暗かった。

 歩き疲れた足で帰路につく。静かに吹く夜風で先程までの戦いの熱を冷ます。危うく死にかけたワイバーンとの戦闘の反省をしつつ、帰る。


 先程の戦闘は、意識を少し離したから起きたミスだ。戦闘中に相手を見ない時間を作るのは、私が戦闘慣れしていない一番の証拠だろう。なにせ、ミリアが居なければ、この世界で二度目の死を経験するところだったのだ。

 もし今後の冒険で、私一人で戦闘する場面があったとしたら。今日の練度では、代償がいくつあっても生き残れないだろう。それを解消するためにはどうするか。一つは自分自身の練度を上げる。もう一つは、仲間をミリア以外に増やす、と言った所だろうか。この二つのどちらか一方でも満たせば、今回の様なミスは少し減りそうである。


 私は宿代が集まって少し余裕が出たら、ミリアに仲間を増やす事の提案をしようと決めた。その直後、ミリアに袖を引っ張られ動きを止めた。


「どうしたのミリア?」

「ねえ、あそこにあんな建物あったっけ?」


 ミリアが指さす方向を見た。

 そして疑問に思った。確かに今まで、と言っても二回ほどだが、あんな大きな建物は無かったはずだ。大きさは民家と同じぐらいだろうか。ギルドを出てから宿まで、殆ど一直線の大通りだ。この道は町の反対側まで直線的に伸びている、国の重要道路であったはずだ。貿易商の馬車なども通るため、この道に何か建設するとは到底考えにくい。

 私は、どこかで道を間違えたのかと有り得ない可能性を考えた。

 そうして辺りを見渡すと、異変に気付く。人通りが多いのだ。正確な時間が分かる訳では無いが、ドラン王国に依頼から帰ってきたとき、既に辺りは暗かった。つまり、今はそれなりに夜遅くである。

 何故かと考えた。刹那、前方から地鳴りが響き、背後から鐘の音が聞こえた。


「敵襲~!!!ドラン王国、主要道路に「厄災モンスター十二年【呪縛の猪王(キングボア)】」が出現したぞー!!!」


「や、厄災……モンスター、だって……!?」


 私はあのオークのことを思い出した。一時は早く殺して欲しいと思う程に辛く、絶望を味わった相手だ。あのオークも厄災モンスターだった。つまり、今現れたあの巨大な猪も同じぐらい強い。


 私は、あの猪の事をそんな稚拙な言葉でしか表せない。だって、対等じゃ無いから。あのオークと同じである。見つかれば、私には逃げるという選択肢しか無い相手。それが厄災モンスターなのだ。

 何が強いのか、それを具体化したところで私と比較をすれば、結局「強い」という抽象的な言葉が真っ先に出る。

 もし、私にリスティアの様な強さがあれば。表す言葉は多く出ていただろう。私のあの攻撃で少し削れるだとか、あの魔物と同じならこの程度の強さだとか。そんな言葉は対象と比較する自分が対等だからこそ発する事が出来るのだ。対等でなければ、比較すらさせてもらえない。


 だから私は何も考えなかった。いや、考えるよりも先に動いた。

 ミリアの腰辺りに手を添えて、全速力で猪の反対方向に走り出す。一歩、また一歩と前に大きく踏み出して、推進力を得る。ミーファは前方、猪と逆方向を向いて。よそ見なんてしている暇なんて無い。


 それに対して、ミリアは呆然と猪を見ていた。なぜなら、彼女は唐突に姉に抱き上げられ、急に走り出したからだ。走り出した理由は理解している、だが何故こんなに姉が必死なのかが分からない。当然である、なにせ彼女は厄災モンスターを知らない。姉が味わった、絶望を、痛みを知らない。

 だからこそ、ミリアは余裕を持っていた。最悪、私達が少し頑張れば逃げれるのでは、倒せるのではないかという考えを持っていた。


 それが勇敢ではなく無謀である事に気付かずに。


「うぅ……わっ!」


 そう言って、私は道に倒れた。

 足がもつれた?いや違う。右半身、特にミリアを抱えていた部分が動かなかった。その瞬間、私は血の気が引いた。別に何か確証を得た上での結論ではない。所謂、勘というものだ。だが私の勘は的中する。オークからの逃亡時も同じだった。最悪な状況における勘は一級品であった。


「ミリアぁっ!!」


 起き上がり、振り向いた私の視界に写ったのは、紫色のオーラに包まれた鎖に拘束されたミリアだった。あの鎖が彼女の体を空間に留めた原因だ。

 そして気付く、猪王がこちらを見ていることに。そしてまた気付く、奴の眼光がアメジストのように紫色に光り輝いていることに。


「お前が……やったのかよ……厄災モンスター如きが、私の妹をっ!!」


 刹那、私は走り出した。なにも考えず、固まるミリアを横目に走り抜ける。家族を、束の間の少しの愛情を奪い去った厄災に向かって、走り抜ける。


 そんな私に声がかかった。急沸騰した怒りが急速に冷め、会話のために冷静さを取り戻す。そして、声の方向を見ると見知った顔があった。透き通る様な長い金髪を持つ彼女は、厄災と共に見ることが多いような気がした。


「リスティアさん!ミリアが……ミリアが鎖に捕らわれて……!」

「なっ……ミーファ、とりあえずこのモノクルを付けろ!あの厄災モンスターは、「封印」という技を使う。一度封印されれば、体が動かない。足も腕も動かない。そして、その効果時間は奴が死ぬまでだ」


「え……そんな状態が続いたら……餓死とか……」


「ああ、あのモンスターの被害者のうち、殆どの死因がそれだ。もちろん他の者が食べ物を与え続ければ生きられる。だが、そんな生活は支える側も負担だが、先に壊れるのは……さてミーファ、どうする。私たち聖騎士団はあいつの討伐に向かうが?」


 そんな事を言われて何もしないという選択肢は取れなかった。リスティアの言葉は私の闘志に火をつけるに十分すぎたのだ。


 ふう、と一息をつき、言った。「行かせてください、リスティアさん!」


 リスティアはそう来ると思っていた、と言わんばかりに私へモノクルを差し出した。どうやら、このモノクルはあの猪の封印を防ぐものらしい。なんでも特殊な素材で作成されているのだとか。そのため個数が少ない。

 私はこんな代物を借りても良いのだろうかと、疑問に思った。だが、一般人を巻き込んで被害を出した。となるよりかは良いという結論に至り、疑問を霧散させた。


 ふと、私は道の奥のほうを見た。するとそこには、先程までは居なかった聖騎士団が居た。もう戦い始めているのだ。そして覚悟を決めた。絶対に殺して、ミリアを助けるために、家族を助けるために。


 ところで、実は私自身も何故ここまで命を懸けられるのかは分からない。言ってしまえば、私はミリアと数日の関係なのだ。確かに、ミリアからすれば何年かの関係かもしれない。だが私からすれば数日、ましてや一度自分を殺した相手だ。

 それでも私が命を懸けられるのは、ミリアが私にとってこの世界に居たいと願う理由の一つだからなのかもしれない。前の世界では得られなかった、愛を得られたからなのかもしれない。だが、その真相はミリアにも、私にもわからない。


 ~~~


「完全防衛陣形から中距離槍兵重視、攻防陣形へ移行!!」


 戦闘の場に立ったリスティアはとても凛々しかった。良く通る大きな声で、陣形変更を告げる。その声を聴いた団員は、みな整った動きで陣形を変更した。変更時にだれも負傷せず、あの猪の攻撃の合間を縫った動きは見惚れる程に美しかった。


「ミーファ、君は槍兵の後ろから攻撃に参加して欲しいのだが、大丈夫か?」


 リスティアの質問は、私にとって難しい質問だった。なにせ私の攻撃方法は【アタックシード】のみ。槍兵の位置は盾兵の後ろ、モンスターから約二メートルの位置である。今までの私の戦闘は大抵一メートル程度の距離であった。確実にダメージを与えられるかと言われれば難しいのだ。

 しかし、答えは決まっている。そもそも、適切な距離だったとしてもダメージを与えられるかすら怪しいのだ。少し距離が遠くなったとしても変わらないのだ。


 そして、私は「大丈夫です」と伝え()()()()()


 どひゅっという風切り音の様なものが聞こえ、言葉を遮られた。

 私とリスティアは音の方向を見る。そして、二人の視界に写りこんだものは絶望だった。


 盾兵の半数が、ミリアを拘束していたあの鎖に体を貫かれていた。地面から飛び出し、触手のように動く鎖が貫いていた。

 私とリスティア、二人はともに顔が青ざめ、体が震えた。私はまだしも、このような戦いに慣れているリスティアでさえも体を震えさせた。理由は大きく分けて二つあるのだろう。

 一つは、あの鎖が拘束のみに用いられるわけではないこと。

 もう一つは、あの鎖の攻撃精度だ。的確に盾の隙間をぬって、確実に仕留める為に急所を狙う攻撃精度。その二つの脅威度は戦闘経験がほとんどない私にも理解できた。つまり、戦闘経験を積んでいるリスティアは、私以上に脅威を感じている。

 だからこそ、真っ先に動いた。


「【星光剣】」


 その声と共に、彼女が抜いた剣が黄金の光を纏う。剣の根本から先まで光に包まれた瞬間、彼女は飛び出した。剣を携え、あの災厄を切り裂かんと脚に飛びつく。その速さは尋常ではなく、私をすぐに置き去りにした。表情は一言で表すことのできない、複雑なものだった。恐らく、様々なものが入り混じっているのだろう。仲間を殺された怒り、強者を目の前にした不安、圧倒的な力を目にした絶望。

 しかし、彼女の強さがこんな感情如きで変化するわけもない。聖騎士団副マスター、その称号は伊達ではないという事だ。長年、団員に慕われ続け、多くの任務をこなしてきた経験は裏切らない。副で収まっていいのかと疑問を持つほどの強者である彼女の初撃は大きな傷を負わせた。


「もう歩けない体にしてやるっ!」

「ぐもぉ……!!ぐうぅぅ!」


 ただ、厄災はその程度で止まらない。絶望を振りまく厄災は、たった一つの傷で止まらない。彼女もそんなことは理解している。だから、切り裂いた瞬間大きくバックステップをした。一歩、二歩、と離れる。その巨体から放たれるであろう攻撃の範囲外まで逃れる。刹那、彼女の眼前に猪王の脚が振り下ろされた。一瞬でも行動を迷っていたら死んでいたという事実にひりつきを覚える。だが、そんな事は彼女にとって日常茶飯事である。

 慣れている彼女は眼前の脚をチャンスだと考えた。右から左へ横なぎの一閃。星光剣による切れ味の上昇、切断面の焼却によって、軽く、そして切り裂いた後も剣に血が付きづらい。

 彼女によるこの攻撃によって、猪王の四脚の内二脚に深い傷が付いた。そして、彼女にしては珍しくあることをしてしまった。それは圧倒的な相手に傷を付けることに成功したからだろうか。


 彼女はその極限状態のなかで、油断した。


 猪王が大きく振り上げた前二脚が地面に立った瞬間とてつもない衝撃波が発生した。その衝撃波には空気だけではなく他の物も混じっていた。例を挙げるとしたら、道路の石材、そしてただ強者同士の戦闘を呆然と見るしかなかった団員と私、といったところだろう。

 そこで最悪だったのは、彼女のモノクルが石材に当たって破損したことだろう。彼女はそれに気づいた瞬間、ふと前を見た。そこには、視界いっぱいに広がる紫色の光があった。


「あ…………私……何してんだ……」


 そうしてリスティアは絶望の表情を浮かべて、鎖に拘束された。

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