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呪いと植物とゆくハード異世界  作者: 狐丸屋
第一章~新たな人生
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06~初めての依頼

 私達は依頼を受けるべく、冒険者ギルドへ歩いていた。

 まだ、早朝に見える程に薄暗い中歩く。辺りは少し静かで、昨晩の活気が嘘の様だ。石で舗装された道を歩く私たちの足音しかしない街は、静かだがどこか風情がある。

 宿から歩いて十五分程、冒険者ギルドが見えてきた。白く大きな建物であるギルドは周囲の建築物に似つかない。一際目立つその建物に入った。


「ミリア、この依頼はどう?【植生学】もあるし、達成出来そうじゃない?」

「植生学?」


 そう呼び掛ける私の手が握っていたのは、討伐依頼の依頼書だった。

 私は自分の固有ミルフを説明し、ミリアの判断を待つ。


「良いんじゃないかな。ミーファが主軸で戦うから、お姉ちゃんは後方支援に回ってね」


 私はミリアが前線で戦う事に少し不安を感じた。しかし、ミリアがその様な作戦を立てるのも納得である。何せ、私の強さが未知数なのだ。ミリアは氷魔があるため、ある程度の戦力は保証されている。しかし、私は植生学という戦闘力が未知数な固有ミルフなのだ。


 姉として、妹に危険を冒させるのは少々不安。だが、ここで自分が前線に出たとしても、何かが出来るとは限らない。それならば後方支援に回り、ミリアの負担を軽減してあげた方が得策だろう。


「分かった、気を付けてね」

「勿論、ポンコツなお姉ちゃんを置いて死ねないからね」

「どういう意味かなぁ、ミリア?」

「そのままの意味だよ~、さぁ早く依頼受けに行くよ!」


 私達は軽口を叩きつつ受付へ向かう。

 依頼の内容は、ゴブリン十体の討伐。討伐の証拠として、耳を切り取って受付に持っていけば達成となる。


 段々と活気の溢れてきた冒険者ギルドから外に出る。日も上がって、早朝に比べ少し暖かい道を歩き、街の外へ向かう。

 数分歩くと、大きな門が見えてきた。門は両開きの大きな扉の様なもので、少しだけ開いていた。その前には当然だが門番も居る。人数は三人で、朝だからだろうか、少し気怠そうに立っている。私達はゆっくりと門へ近付く。すると門番の一人が話しかけてきた。


「早くから行くんですね、お気を付けて!」

「ありがとうございます。皆さんもお仕事頑張ってください」


 門番との会話に応じた後、持ち物を確認してから街を出た。

 気さくな人だった。そう考えつつ、涼しい風が吹く平原を歩く。さわさわと音を立てて揺れる茂みが広がっている。

 遠くに目をやると、茂みの色より濃く、風に反して動く物体が在った。ゴブリンだ。


「お姉ちゃん、草の無い場所まで誘い出そう」


 ミリアの問いかけに「分かった」と返し、ゴブリンに軽く攻撃して戻るという作戦を考えた。その為、私は攻撃体制に入る。

【アタックシード】、植生学の効果によって創り出すことが出来る遠隔攻撃用の小さな種である。指で弾いてダメージを与える為弱そうに見えるがそんな事は無い。固有ミルフの効果によるものなのか、アタックシードを弾く時のみ指の力が強化されるのだ。


 強化される指から放たれる小さな種の一撃は、相手に致命傷を負わすほどでは無いが痛みが走る程度には通用したようだ。アタックシードが脇腹に当たったゴブリンは「ごぎゃっ!」と小さな呻き声をあげた後、私の方へ走ってきた。

 脇腹が少し抉れているのに、よく動けるものだ。


 そして、草がない広場に誘い出すと、ゴブリンの姿が鮮明に見えた。

 その瞬間、脳裏にトラウマがよぎった。オークに追われていた時に、手斧を持ち、保護色の体を利用して攻撃してきたゴブリンを思い出したのだ。ぞくぞくっ、と悪寒が走る。


 足が鉄のように重くなった。疲労では無く、恐怖心である。


「お姉ちゃん、何してるの早くこっち来て!」

「あっ、いや、行こうとしてるんだけど……その、こ、怖くて……へっ?うわぁっ!」


 背後に危険が迫っているのに動かない私を見かねたのか、ミリアが手を掴んで引き寄せた。その時、私は違和感を覚えた。ゴブリンの動きが遅いのだ。止まっているのに攻撃をして来ない。明らかに森に居たゴブリンとは強さが違う。

 武器は無く動きも遅い、更には自身の体色を利用して戦う知能も無い。弱いのだ。


 だが、そんな事を考えている暇は無い。背後に迫る危険の排除が最優先である。

 私を引き寄せたミリアは、ミルフを詠唱する。


「【氷結弾(ブリザードバレット)】!」


 その詠唱と共に、ミリアは手のひらをゴブリンの方へ突き出す。すると、彼女の手のひらの先に少しずつ何かが形取られていく。一秒程度経つと、五百ミリペットボトル程の大きさを持つ氷が生み出された。そして、その氷は加速しながら、ゴブリン目掛けて射出された。

 ひゅおんっ、と風を切る音を響かせ、ゴブリンの胴体を貫いた。


「え、ミリア、私と火力が違いすぎじゃない……?」

「ポンコツお姉ちゃんと一緒にしないで欲しいなー」

「けっ、結構言ってくるじゃん。ま、まぁ人間誰しも得手不得手って物があるからね、仕方ない仕方ない」


 そんな強がりを言いつつ、体を貫かれ倒れているゴブリンに近づく。依頼達成の為には、討伐の証として左耳を切り取り、それを持っていく必要があるのだ。私は、若干の気持ち悪さを感じつつも、直剣を引き抜き切り取る。

 ふと周りを見渡すと、少し遠くでミリアが戦っている様だった。すぐさま立ち上がりミリアの元へ急いだ。


【氷結弾】を唱えている声が聞こえる。ただ、氷結弾は単発の為、弱いモンスターと言えど物量で押されると流石のミリアでも厳しいだろう。まぁ、私が行った所で、戦力にはならないのだが。


 そんな悲しい結論を弾き出しつつ、走る。ミリアの元へ着くと、ミリアが相手していたゴブリンの内、数体が私の方へ視線を向ける。少し後退りつつ、私はアタックシードを空中から取り出す。実は、植生学によって作り出される種は空中から取り出すことが出来るのだ。今後種類が増える種で溢れる事が無いようにする為だろうか、と考えた。しかし、そんな考えに結論が出る訳もなく、目の前の戦闘に集中する。

 指に意識を集中させ、ゴブリンの頭をアタックシードで貫くイメージをする。そして、デコピンの要領で種を弾いた。種はゴブリンの頭に命中した。だが先程とは違い、少しもダメージを食らっている様子は無い。不思議に思った私はミリアに尋ねる。


「……ねぇ、今全くダメージ入らなかったんだけど、なんでかな?」


「ごめん、それ戦闘中の妹に聞くことかな?……はぁ、多分言葉を出さなかったからだよ。

 ミルフは魔力量によって強さが変わる。けど無詠唱だと、自身の魔力量が多くてもそれがミルフに乗らないんだよ。だから、言葉として魔力をミルフに乗せて火力を上げるんだ」


「な、なるほど。でも、それはミルフだよね。アタックシードにも乗るの?」

「いや……アタックシードを生み出している植生学は固有()()()じゃん……」

「あっ、ごめんなさい……そうですよね……」


 少ししょんぼりとしつつ、ミリアのアドバイス通りに言葉に出す。


「【アタックシード】!」


 言葉と共に指で弾く。すると、先程に比べて軽く弾くことが出来た。つまり、指の力が強化されているのだ。急激な速度の上昇に驚いているのか、ゴブリンは回避行動を取らず、狼狽えている。弾かれた種は、その場から動かないゴブリンの頭の端を少し抉った。


「良いんじゃない!?」、私は意気揚々とそう言いつつ、新たな種を生み出す。もう一度、今度はしっかりと頭に狙いを定める。そして言葉と共に弾く。


「【アタックシード】!」


 今度は狙い通り、頭に目掛けて一直線に飛んだ。だが、ゴブリンもされるがままでは無い。相手が射出する武器の速度、そして狙い。その二つが分かったゴブリンは頭を逸らしつつ、手で眼前を覆って防御態勢を取ろうとした。しかし、初撃のダメージが響いたのか、防御が少し間に合わなかった。ゴブリンは「ごぎゃっ」という声を上げて、倒れた。


 しかし、私は倒した達成感ではなく恐怖に包まれた。

 なぜなら、ゴブリンが防御をしようと反応したからだ。ゲームでは最弱に近いゴブリンにも関わらず、前回の攻撃と照らし合わせ、的確に防御をする知能を持ち合わせている。もし、信じたくはないが、あのゴブリンが最弱の魔物だったとしたら、それ以外の魔物の強さは……

 私はそれ以上考えるのをやめ、ミリアに疑問を投げかけた。


「ねぇミリア。今戦ったゴブリンよりも、厄災モンスターに追われていた時に森で出会ったゴブリンの方が、強かったんだけど……何か知らない?」


「えっとね、同じゴブリンでも色々種類とランクがあるんだよ。ゴブリンクイーンって奴は、同じゴブリンの中でも最強!みたいにね。勿論、細かく分類されてるよ。

 ゴブリンだと、ゴブリン(Eランク)、ゴブリンナイト(Dランク)、ボスゴブリン(Cランク)、ゴブリンクイーン(Bランク)だね」


「キングじゃなくて、クイーンが一番強いんだね。というより、キングのランクは無いんだ……」


 その質問に、ミリアは少し考えつつ答える。


「あぁ、あれだよ、チェスのクイーンみたいな感じ。ゴブリンキングも居るけど、目撃例が少ないから、ランクを定められないって言われてるね」


「なるほどねぇ……そのランクって他の魔物でもあるの?」


 勿論、と言いながら言葉を続ける。


「個別にそれぞれ用意されてるよ。そして、それぞれに判別基準が用意されてる。例えば……

 Aは高い戦闘能力、人間と同等の知能を待つモンスターみたいにね。一般的には、C以上が人間と同等かそれより少し下程度の知能を持つらしいね」


「なるほどねぇ……」


 そんな相槌を返す私は、Aランクの強さについて考えていた。何故なら、魔物が人間と同等の知恵を持った時、どれだけの強さになるのか想像できなかったからだ。今戦ったゴブリンはEランク、それにも関わらず回避や防御を取るという手段が取れるのだ。


 もし、本当に人間と同じ知能レベルだとしたら、何をしてくるのだろうか。


 そんな考えを巡らせて、少し背筋が凍りついた。


「お姉ちゃん?固まってどうしたの。依頼は終わったから早く帰るよ!」


 と、元気な声で言われ、依頼終了に気付いた。


 もうそんなに倒していたのか。時刻はまだ昼にもなっていないだろう。もう少し依頼をこなせそうな時間である。早く帰れば、できそうだ。


 私は先に行ってしまったミリアの後を走って追いかけた。

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