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呪いと植物とゆくハード異世界  作者: 狐丸屋
第一章~新たな人生
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05~ミルフ

「はい、冒険者登録完了いたしました!

 あちらのボードから依頼書を取って受付に持ってきていただければ、依頼を受注出来ますのでお願いいたします」


 そんな声をきっかけに姉妹二人は冒険者になった。彼女達の目標は銀貨十五枚を五日で稼ぐこと。どれ程の道のりなのかはまだ分かっていない。だが、頑張るしかない。

 その為にも、取り敢えず今日は夕食を食べに行こうと考えた。


 少し肌寒い、けれど気持ちの良い夜風が吹く夜道を歩いていた。辺りを取り巻く足音は次第に大きく、加えて店から聞こえる声も次第に大きく。それは、姉妹の新たな門出を祝っているかの様だ。

 そんな楽しげな街道を少し歩いていると、お目当ての飯屋を見つけた様だ。私を置いて、ミリアが走り出した。そして、少し進んだ所にある店の前で止まった。彼女は私に向かってこの店だ、とジェスチャーをしていた。


「ここが、今日の夕食を食べるところか」

「うん!宿屋の人に聞いたらここが美味しいってね」


 その言葉に「なるほど」と相槌をしつつ、入口の扉を開いた。

 中は酒場の様な感じになっており、多くの人が騒いでいる。喧騒とした酒場の中の一席に姉妹二人は座った。何を食べようか悩んでいるとミリアが「これは?」とメニューを指し示した。

 そこには、一つの定食があった。ミリアによると、これを宿屋の人にお勧めされた定食の様だ。二人はその定食を二つ注文し、話を始めた。


 話の内容は至って簡単なものだ。これからどうするのか、それ一つだけである。金と時間が無い私達にとって、一日を無駄にするだけでかなり厳しい状況に立たされる事は明らかだった。今日からのスケジュールを立てつつ、絶望的な状況だと再認識した。

 冒険者ギルドで見た依頼の多くは銀貨一枚にも満たないものだった。確かに、銀貨一枚以上もあった。しかしその多くが危険を伴う討伐依頼だ。自身の戦闘経験の少なさを考慮すると、かなりリスクが高いだろう。


 そんな話をしていると、遂に注文した定食が運ばれてきた。

 鼻腔をくすぐるパンの香ばしい匂い、煮込まれ蕩けそうな程に柔らかい肉が入ったスープ。加えて、小皿に取り分けられた新鮮な野菜。

 口に運ばなくても分かる程に美味しそうな見た目をした定食。私達はそれらに空腹感を認識させられた。手を合わせ、頂く準備をする。


「「いただきます」」


 スプーンを手に取り、夕食を食べる。私にとって、今回がこの世界にきて初めての食事なのだ。パン、スープ、サラダ。どれをとっても美味しく、最高の食事である。

 前方に目を移すと、ミリアも顔を綻ばせゆっくりと食べている。やはり、この世界の人間からしてもこの食事は美味しいのだろう。私は自分の舌が確かという事に少し自信を持てる。


 一口、また一口、運ぶ度に口内へ旨味が広がる。パンをスープにくぐらせ、ふやかしてから食べる。


「美味しい……空腹に染みる味だ」


 騒がしい酒場の中、私達は幸せと食事を噛み締めた。


 ~~~


 私達はその後酒場を出た。満腹感と共に、行きとは打って変わって静寂に包まれた夜道を歩いていた。

 喧騒とした空間から抜け出した私達は夜道が一層静かに感じられた。ホワホワとした感覚を覚えつつ、ゆっくりと歩き続ける。


 数分も経たない内に、宿泊している宿屋が目に入った。

 その瞬間、私へ疲労が重くのしかかった。


 よく考えれば当然である。突如この世界へ転生し、そしてその直後に厄災モンスターに追い掛けられた。それだけで肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していたのだろう。加えて、一度死んでいる。妹であるミリアに殺されたのだ。恐らくそれが決め手だろう。


 疲労によって私は路上で思わず眠りそうになってしまった。


 ミリアは私がバランスを崩しそうになっていることに気付いたようだ。すぐさま体を支え、倒れないようにする。ただ、それでも私の体は安定しない。その為か、ミリアが私に呼びかけ始めた。


「お姉ちゃん!?ちょっと、しっかり立って!」

「ん、んぅ?んー」

「寝ないでっ!もう後少しだから……」


 ミリアは私の体を支えつつ、宿屋へ歩き出す。


 宿屋の扉を開くと、受付の人も共に支えてくれた。ミリアは一礼をし、私をおんぶして階段を上がった。

 自分の部屋へ到着すると、すぐに私をベッドへ下ろした。疲れた、と毒づきつつミリアもベッドへ体を投げ出した。ミリアも疲れていたのだろうか、投げ出した直後に寝息を立てた。

 私は何とか口を開き、感謝しようとしたが睡魔に負けてしまった。


 ~~~


 真夜中、私は酷い吐き気に襲われて起きた。ベッドから飛び起き、トイレへ駆け込む。私は喉の奥から込み上げる不快な物を吐き出した。嘔吐後特有の不快感が残る中、口を水ですすぐ。ゆっくりと吐き気が治まり、手洗いから出る。未だ口内の不快感は残るが、次第に無くなるだろう。

 手洗いを出た私は先程まで寝ていたベッドへ戻る。戻って直ぐに掌でミリアの頬をさすった。この世界に来て、私に元の世界へ帰りたくないと思わせたのはミリアだった。自分を殺害した、でも自分を愛してくれていた。元の世界では随分の間、得られなかったものだ。


 にしても、と私は思考を始めた。

 内容はこの世界の事だった。性別が変化した、それだけで私の精神へダメージを与えた。今まで共にして来た、男という性別。生まれつきであり、誰しもが与えられる物が性別。別に特別な物では無い。だが、生まれてから共にした物だ。特別で無い物だという事は理解していても、喪失感は凄まじい。


 悲しい、辛い、それが私の精神を蝕んだ。自分の心がどれだけ脆弱なのかと嘆いた。そこで気付く。この吐き気は精神状態の悪化が原因なのでは無いか、と。


 その時だった。ランタンが光り、スラックの声がした。


「ミーファ、確か冒険者になるんだよね。なら()()()()()について説明しておこうかな」

「固有ミルフ?」


 急な話に首を傾げる私へスラックは言葉を続ける。


「この世の全ての人が持つ能力の事だ。例えば……ミリアだったら【氷魔】、氷属性のミルフを扱い易くし、強化する事が出来る固有ミルフだよ」

「じゃあ、私のは……?」


 若干期待の籠ったその疑問にスラックは答える。


「【植生学】、植物を扱い、自身で植物の交配も可能になる固有ミルフだね」

「ねぇ、それって本当に強いの……?」

「まぁそれはその固有ミルフの所持者によるかな。一見使い道の無い物だとしても、使い方によっては異常なまでの強さを発揮する事もあるんだ」


 私はその話を聞いて、期待した。植生学が強い可能性もまだ残っているのだ。いつか能力が覚醒して、無双!なんてこともあるかも知れない。もしかしたら、夢の最強冒険者になれるかもしれない。

 可能性が少しも無い妄想に耽っていた私にスラックはまた話しかける。


「そして、固有ミルフ以外にも通常ミルフがある。まぁ、地球での言葉で言うなら魔法の様な物だね」

「魔法……てことは、呪文みたいなものもあるって事だよね」


 スラックは私の言葉に「勿論」と応答しつつ、紙とペンがある卓上へ移動する。

 ランタンだというのに、何故紙がある卓上に移動したのか不思議に思いつつも私も移動した。


「今からペンを動かすけど、この力は神だからこそだ。君に教えることは出来ないから、気にせず書かれたことを覚えてね」


 そう言うと、ランタンの青い炎がペンへと宿った。するとそのペンが浮いて、動き始めた。そして、ゆっくりと紙に文字を書き連ねる。

 私は書かれた表をまじまじと見た。


 ~~~


 ミルフの種類

 通常ミルフには、火、水、氷、風、雷、闇の六種類がある。

 呪文にはルールがある。

 下級と中級は二単語で呪文が構成され、一単語目は属性と階級によって変わり、二単語目は全て共通になっている。

 一文字目一覧は下の表だ。

 下級   中級

 火 「(ファイア)」 「火炎(フレイム)

 水 「(ウォーター)」 「水冷(アクア)

 氷 「(アイス)」  「氷結(ブリザード)

 風 「(ウィンド)」 「暴風(サイクロン)

 雷 「(エレキ)」  「電雷(ライトニング)

 闇 「(ダーク)」  「(シャドウ)


 下級の火属性のバレット系統は「火弾(ファイアバレット)

 中級の火属性のバレット系統は「火炎弾(フレイムバレット)


 ~~~


 二単語目が共通なら、覚えるのは一単語目か……自分の物にするには、かなりの時間が必要だろう。ゆっくりと覚えて、咄嗟に使えるまでには練習しないと駄目そうだ。私も遂に魔法使い……ふふふ、固有ミルフも強かったら良いなぁ。


 私は考えを巡らせつつ、また眠りにつく。ミルフというファンタジーに触れた私は、興奮のあまり喉の不快感を忘れていた。だが、いつまでも起きている訳にはいかない。そろそろ寝るとしよう。


 ~~~


 私が起きると、既にミリアは起きていた。ガチャガチャと流し台で作業をしている様だ。ミリアに声を掛ける。


「何してるのー?」

「へあっ!お姉ちゃん起きたの!?び、びっくりした……」

「ごめんごめん、悪い事したね」

「い、いや、まぁ別に良いんだけど……」


 他愛もない会話を交わしつつ、ベッドから抜け出す。

 髪を整え、水で顔を洗い、ローブを着る。外にでる準備を終わらして、ドアノブに手を掛ける。扉を開く事に若干のトラウマは残るものの、ノブを捻り外へ出る。幸い、扉の向こう側から即死級の攻撃が飛んで来る事は無かった。


 ミリアと共に良い匂いがする一階へ歩を進める。一段下りる度に食事の香ばしい匂いが強くなる。

 真夜中に吐いたこともあってか途轍もない空腹感に苛まれていた。そんな私にこの匂いは効果ありである。つい、早足になってしまった。


「おっ、ミリア姉妹かい。朝食は出来てるよ!」

「ありがとうございます、受付さん!」


 宿の受付に通された席に置いてあった朝食を見つけると、駆け足でその席まで近づいた。

「いただきます」と、口早に言ってから、直ぐに食事を口に運んだ。空腹は最高のスパイスと言うが、それは本当だと口内に広がる満足感が知らしてくれる。

 気付くと、眼前に先程まであった朝食が綺麗さっぱり器だけになっていた。素晴らしく美味しかった食事の余韻を楽しみつつ、席を立つ。


 今日も引き続き、冒険者ギルドで依頼を受けに行く。その為に再度自室へ戻った。


「この鞄だよねー」

「そうそう、それに武器とか色々入ってるから!さ、早く早く!」


 私は急かされながら準備をする。鞄を持ち、お金の入った袋を鞄の中へ入れる。部屋から出ると、ミリアが鍵を取り出し部屋に鍵をかけた。

 階段を下り、受付に鍵を預けた。


「いってらっしゃい、気を付けるんだよ」

「はい!ありがとうございます!」


 私達は礼を口にした後、宿を背に冒険者ギルドへ歩き出した。

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