13~新しい仲間という大きな節目
私はミリアと共に冒険者ギルドの方へ歩いていた。
今日はリスティアとの約束の日。それに良い人が居れば新しい仲間が増えるかもしれない。そんな今日の予定を考えるだけで心が躍る。
ミリアの方を見ると、彼女も心なしか嬉しそうに見える。まあもちろん、私が浮足立っているだけの可能性もあるが、ミリアにとっても仲間が増えるのは嬉しいのではないだろうか。
確かに、昨日の戦闘は厳しかった。三人で戦っていてもかなり厳しい戦い、それが私とミリアの二人になれば更に厳しい戦いになっていただろう。もしここで一人でも仲間が増えれば、一人が戦闘不能になっても他二人が援護出来る。その重要度は昨日の戦いで思い知った。あの時、リスティアさんが居なければ確実に死んでいた。だが、彼女が居たおかげで生き残ることが出来たのだ。
そうだ、今日は一日休みと言っていたし食事にでも誘おう。奴隷商人を全て周っても夜までは掛からないだろう。
そんな考えが浮かぶと同時に、リスティアの姿が見えた。少し遅れてしまったかもしれない、そう考えると自然と歩く速度が速くなった。隣を見ると、ミリアも少し焦っているように見えた。
「リスティアさん!すいません、遅れてしまいました」
「遅れました……!」、ミリアが私に続いて言った。
「あぁ問題ない。少々私が早く着きすぎてしまっただけだ」
優しい言葉を私にかけてくれる彼女はいつもと違って見えた。私服姿だからだろうか。日の光で輝く金髪を際立たせる白いワンピースを着こなす姿は美しかった。戦闘中の凛とした彼女とは違い、美しさと可憐さが感じられる。
私服姿に見惚れていると、彼女が地図を出した。その地図の所々には印が付けられている。数は……合計で四つ。恐らく奴隷商人の位置だろう。下級、中級、上級、ペアの四ヵ所だろう。
「ここから一番近いのは……上級かな?いやぁ、地図を貰っておいて良かったよ。普段、奴隷商人を訪問することなんて少ないからな」
苦笑いを浮かべつつ、リスティアは歩き始める。談笑を楽しみつつ歩いていると、彼女はミリアに問いかけた。
「そういえばミリア、その服はどこで買ったんだい?」
彼女はミリアのスカートを見た。
ミリアが身に着けていたのは、私のローブを新調した時に私が買ったものだった。白のトップスにブラウンのスカート、上下が丁度良く馴染んでいて可愛かった。ミリアも聞かれたことが嬉しかったのか、少しはにかみつつ話していた。
「これはですねー「フラヴィア」っていう、確か……冒険者ギルドの近くのお店かな?そこで、お姉ちゃんが買ってくれたんですよ!にしても……急に何故そんな事を?」
リスティアは少し顔を紅潮させつつ言う。
「少し恥ずかしいが……実は可愛いものには目が無いんだ。どんな身分でも可愛く、お洒落で居たいって願望はあるんだよ。ありがとうミリア、フラヴィアか、覚えておくよ」
あんなに凛としたリスティアさんでも、可愛らしい願いがあるようだ。これがギャップ萌えというやつなのだろうか。え、可愛い。
いやダメだ、今の私は女子!いや別に、女子だからって女性を好きになるのはいけないとは思わない。でも変に可愛いとか言って避けられるぐらいなら言わずに秘めとくべきだよね。というかそもそも、今のはギャップ萌え、萌えただけだから、別に恋愛感情を持ったわけでは無いから!そんなチョロい男じゃ無いから!
私が一人、この体での恋愛感情について葛藤していると、リスティアが立ち止まった。
「ここだね」
そこにはとても豪勢な屋敷があった。白を基調とした、しかし単調ではなく装飾も散りばめられており華やかな印象を覚える屋敷だ。
リスティアは木製の扉を開いて中に入った。私とミリアもリスティアに続き中に入った。
入ると同時に入口近くに居た小太りの男が、少し驚いたような表情を見せた。しかしその後、すぐに笑顔を浮かべこちらへ歩み寄ってくる。
「これはこれは、リスティア様ではないですか。初のご来店ありがとうございます。にしても、リスティア様の様なお強い方が奴隷をお求めになるとは……はっ、戦闘用ではないという事ですかな?それならば別室でのご案内になりますが?」
嫌な笑みを浮かべつつ一人芝居を続けるその男へ、リスティアは静止の言葉を放つ。
「静かにしてくれないだろうか、そもそも私とお前は初対面じゃないだろう。今回は後ろの姉妹の仲間を探しに来たんだ」
男は一瞬つまらなさそうな表情をしたが、私達を一瞥してからまた取り繕った笑顔を見せた。
服装、容姿、立ち方、そのすべての情報を見ているような視線。やはり商人の目はすごいのだろうか。私にはそんな情報から何か分かる、とは到底思えない。
「ふふ、戯れはここら辺にしておきましょうか……ふむ、これは良いお客さんを連れて来ていただきありがとうございます。
ここいらで自己紹介を、私はドラン王国公認上級奴隷商会の会長をしております、シーカー商会のケルウス・シーカーと申します。失礼ですがお名前を伺っても?」
先程までの取り繕った笑顔とは全く違う、柔和な笑顔を見せた。
あぁ、遊びだったのか。てっきり、本当におかしい人なのかと勘違いしていた。でも今考えると当然のことである。先程のような対応をする者が王国公認の上級奴隷商会の会長なんてしていないだろう。
そんな簡単なことにも気づけなかった自分に少しがっかりしつつ私も会話に参加する。
「ミーファです、こっちは私の妹のミリアです」
「ミリアです、よろしくお願いします」
「ミーファ様、ミリア様、今後ともよろしくお願いします。では早速、お二方が奴隷に求める能力をお聞かせください」
希望の能力を聞きたい、そんな要望が飛んでくることは当然だった。しかし、完全に忘れていた。急な質問に私は頭が真っ白になる。私達が奴隷に求める能力とは何なのだろうか。戦闘のみに限るのか、多才な者にするのか。大まかに戦闘と言っても、前衛、ミルフ、サポートなど多岐に渡る。チケットは一枚、つまり雇えるのは一人だけだ……何が正解なのだろうか。
長考しながら頭を抱える私を見かねたのか、ケルウスさんがある提案をした。
「悩んでいるのでしたら、ミーファ様の現状をお聞きしてもよろしいですか?それにあわせて、私とリスティア様がある程度の見当を付けましょう」
「はっ、ありがとうございます!」
いえいえ、と言いつつケルウスは懐から紙とペンを取り出した。
「今は、私が前衛兼中衛をしていて、ミリアがミルフでの攻撃、つまり後衛を担っているんです」
「ほう、今のところ聞く限りでは前衛が少なそうですな。それに二人でしたら、前衛のミーファ様が行動不能にでもなってしまったら、かなりミリア様の負担が大きそうにも思えますな」
ケルウスさんの分析はことごとく当たっていた。私達のパーティー内での位置関係を話しただけである。それなのに人手不足や不測の事態への対抗手段が少ないという事を見破られてしまった。
私はケルウスさんの手腕に驚愕しつつ、話を続ける。
「個人的には、人手不足を解消したいですね……二人だとかなり厳しい戦闘も多かったので……」
「ふむ……ミーファ様、少し気難しいであろう奴隷でも構いませんかな?私が考えるに、ミーファ様の悩みを改善するなら人数が増やす方針で動いた方が早いと思うのです」
「まぁ、戦力の改善につながるのなら、多少気難しくても構いません」
「そうですか!ではペア奴隷専門の商会に連絡します」
「ペア奴隷……ですか?」
「はい、簡単に説明しますと、兄弟や双子など奴隷になったものの離れたくないという希望を出した者が集められた商会でございます。下級から上級といったランク分けからは少し離れた位置付けとなる為、能力の保証はできませんが、一人分の料金で二人を迎えられる点はミーファ様にとってもかなりの利点だと思いますよ?」
ペア奴隷、今日行こうとしていた奴隷商会のなかで最も最後に行こうとしていたものだ。確かに彼の言う通り、一人分の料金もといチケットで二人分を引き取れるのは、私達にとってかなりの利点である。それに、仲間が二人も多くなったら戦闘がかなり楽になると思う。しかし、デメリットを挙げるとすれば宿を変えたり装備を二人分買ったり、結構な費用がかかる。
いや、四人もいるのだ。引き取ってみて、お金に問題が出てしまったら、二人ずつに分かれて簡単な依頼をこなせば良いだろう。
それに、どれだけ強い奴隷を一人雇ったとして体は一つである。拘束されてしまえば、強さなんて関係は無い。そう考えると、やはりペア奴隷を引き取る方が今の私達には合っているだろう。
私は熟考の末、ペア奴隷を引き取ることに決めた。ケルウスもそれが良いでしょうと言いながら頷いていた。
「ではミーファ様、良いお仲間を見つける事ができますようお祈りしておきます」
「はい!お世話になりました、ありがとうございました!」
「いえいえ、またのご来店をお待ちしておきますね、ミーファ様は今後の良いお客様になりそうですから。あ、勿論リスティア様もお待ちしておりますよ」
「別にそこへ疑問は抱いていないさ。じゃあ、また近いうちに来るとするよ。暇だったらな」
そんなリスティアの言葉にケルウスは軽く笑みを浮かべつつ、私達を見送った。
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上級奴隷商会から二十分ほど歩いただろうか。ペア奴隷商会が見えてきた。外観としては上級奴隷商会に比べてあまり綺麗ではない。これがランクの違いなのだろうか。あまり気分が良いものでもないが、仕方のない事なのだろう……だが、今はこんな事を考えている暇はない。とりあえず良い奴隷を選ぶことに集中しよう。
「じゃあ、ミーファ、ミリア、中に入ろうか」
「はい……」
何故か、私たちの間には正体不明の緊張感があった。明確な原因は分からないが、仲間が増えるという一つの節目を迎えることに期待や緊張を感じているのだろうか。
扉の目の前に来てから、一度だけ深呼吸をする。少し緊張しすぎな気もするが、これぐらいで良いのだろう。これから、長い付き合いになるであろう奴隷、もとい仲間を見つけるのだ。ここで何も緊張せず、考えが鈍るぐらいなら多少の緊張感を持っていた方が絶対に良いはずだ。いや……流石に緊張しすぎだろうか。
パチンと自分の頬を軽く叩く。緊張をリセットし、思考を研ぎ澄ます。良い出会いが出来ますように、そう祈りつつ中へ入った。
「珍しいこともあるんだな。お客が来るとは……それも聖騎士団のお偉いさんか。こんな所にどんな御用がおありで?」
「まずは初めまして、聖騎士団副マスターのリスティア・シルネスだ。今日は友人のミーファとミリアの仲間を探しに来たんだ。上級奴隷商会のケルウスに勧められてな」
「あぁ、よろしく、俺はガルトだ。今はドラン王国公認ペア奴隷商会の会長だが、本業は旅商人だ。んで、そっちのお二人さんの仲間を探しに来たんだよな。ふむ……その身なり、冒険者か。わざわざ上級奴隷商会からこっちに来るって事は人手が足りねえんだな。ちょっと待ってろ、戦闘ができるやつを何組か見繕ってくるよ」
また見破られた。今度は何も喋っていないのに、また人手が足りない事を見破られた。商人は全員心が読めるのだろうか。いや、しっかり理論立てて考えている様子も見受けられる。恐らく観察眼とそこからの思考力が高水準なのだろう。確かに商人であれば、相手の需要を身振りや言動から推察する必要がある。それの積み重ねで鍛えられているのだろう。やはり経験は凄まじい能力に繋がるのだろう。
「話が早くて助かります、ガルトさん」
「これが仕事だからな。じゃあ数分待っていてくれ、すぐに見繕ってくる」
ガルトはそう言って、手をひらひらとさせながら店の奥に入って行った。見た目としては三十代前半だろうか、どちらかというと旅商人ではなく冒険者というイメージを覚える。全体的にガタイが良く、落ち着いた年長者という印象だ。
私がガルトについて考えていると、ガルトから声がかかった。
「ミーファ……だったか?奥に来てくれ、戦闘要員で活躍できそうなもんを連れてきた。うちに居る戦闘要員の奴隷はこれだけだな」
そう言って奥に通されると、目の前には三組の兄弟、姉妹が居た。
その中で私はある姉妹に興味を惹かれた。艶のある長い銀髪を持つエルフ、二つの大剣を担ぐ金髪でショートカットの獣人族。
そんな異色の姉妹に私は目を奪われた。同時に胸が弾んだ。この世界に来て二回目の弾みを感じたのだ。ミリアに出会えた時と同じ弾み、運命の出会いをした時の弾み。明らかに直感だ。先程までの冷静な論理的思考とは全く異なる、根拠のない考え。しかし、私にはもうその姉妹を迎え入れる未来しか見えなかった。感情的には一目惚れに近しい急激な考えの構築であった。
ものの数分の出来事、そんな短時間で私は答えを出した。
「あの姉妹が良いです」
そう言いながら、私はその姉妹を指差す。
「ほう、目の付け所が良いな。嬢ちゃんになら、あの姉妹を安心して預けられるな。良いだろう、取引成立だ」
「ありがとうございます、じゃあ代金はこのチケットで……」
「おお久しぶりにこのチケット見たぜ。分かった受け取ろう。引き渡しだが、今日の夜で良いか?こちらとしても引き渡す前に色々手続きや最終の軽い教育をしないとだからな。良い時間だ、少しゆっくりして晩飯を食べた後ぐらいに来てくれ」
「わかりました、では後で来ます」
私は、ガルトに背を向け扉を開き外に出た。
日は少し傾いているがまだ昼頃、少し早く終わり過ぎただろうか……今リスティアさんをご飯に誘ってもかなり時間が空きそうだ。
「じゃあミーファ、私はこの辺でお暇するとしよう。ミリアとの時間も大切にするべきだろう」
そう言われて、少し後ろを振り返る。そこには全然大丈夫だ、と表情に浮かべたミリアが居た。
ありがとう……そんな感謝を心の中で思いつつ、勇気を出す。
「り、リスティアさん!す、少し一緒に遊んで、晩御飯食べませんか?」
「良いのか?ミリアは……」
「全然大丈夫です。私も色々とお世話になりましたし」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
どうやら来る気になってくれたようだ。ひとまずは恩を返せそうで安心できる。
にしても、リスティアさんを楽しませることはできるのだろうか。私の知識ではあまり出来ることは多くないが……まあ行き当たりばったりも一興か。
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私は喜びと幸せに包まれていた。
なんと、ミーファから遊びの誘いだけでなくご飯の誘いが来たのだ。今日はただでさえ一緒にかなりの時間過ごせて満足していたのに、帰ろうとした瞬間背後から声が掛かった。彼女からの誘い、私には断る道理なんて無かった。
だが、一つ気に掛かる事があった。ミリアだ。今日はあまり喋っていなかった、そんな様子を見て姉であるミーファと二人きりで楽しみたい気持ちもあったのだろうかと推測してしまった。しかしそんな様子だったミリアも誘ってくれた時はとても笑顔で明るい表情をしていた。もうそうなってしまえば、行くしかない。いや行きたいのだ。
喜びで思わずニヤけてしまうのを手でカバーしつつ、ミーファとミリアの隣を歩く。
「ふふっ」
そんな笑みを溢しつつ、陽が高く明るい大通りを彼女らと歩いた。




