01~ハード異世界
お久しぶりです
この頃、小説に関わる時間が一切取れず、半年間も投稿を出来ていませんでした。
ストーリーも当初予定していたものを忘れてしまったため
一話目から改稿して投稿しようと思います。
今後とも、ミーファ達の冒険を見守ってあげてください!
異世界、それは誰しもが一度は憧れたであろう、剣と魔法の世界。
私たちがよく目にするものは、大抵主人公は最強だ。だが、本当にそうなのだろうか。剣や魔法が栄えるのには理由があるのだろう。それらが無ければ対等に渡り合う事すら叶わない怪物が居る、という様な理由が。
「うぐっ……」
そう言って、俺はこの世界で目覚めた。何が起きたのか理解できず、彼女は辺りを見回す。
そこには、現代の日本には似つかない、広大な自然が広がっていた。青々と茂る草や木、そしてそれらを照らす太陽。草原だ。奥の方には国だろうか、城と壁がある。耳を澄ませば、小鳥の鳴き声が聞こえてもおかしくは無い程に美しい自然だった。
「おぉ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
太陽は少しずつ上がっている為、午前であることは分かるが詳細な時間までは分からない。ただ、恐らく正午よりは前。九時ぐらいだろう。
その後、俺は背負っていた荷物を地面に下ろした。持ち物検査は大切。あわよくば時計とか、剣とか……ファンタジーなものが欲しい。それの中を探っていると、時計や剣は無かったが手鏡を見つけた。
俺は自分の姿を見ていない事に気づき、手鏡を顔に向ける。
そして、そこに映っていたのは、元々知っていた姿とは異なるものだった。
俺がこの世界に来る前は、男で、中性的な顔立ちをしつつもがっちりとした体形だったはずだ。だが、この鏡に映る姿はそのどれにも当てはまらない。
髪はとても長く、黒髪に赤のメッシュが入っている。顔立ちはかなり整っているが、どちらかと言うと女性寄りだった。目はジトっとして、小さく整った鼻、潤った唇、どこを見ても前世とは似つかない。
そのまま、俺は手鏡から視線を外し、自らの体に向けた。
すべすべとした腕から伸びる綺麗な指や、ローブから覗かせるすらりと伸びた脚にも注意は行った。だが、それらよりも俺が気になったのは上半身だった。
前世では無かった膨らみがそこにはあった。所謂、胸だった。
「ふ、ふぅ……そうだよな、答えは一つしかないよな」
俺はそうやって自分に言い聞かせ、頭を整理する。そうして結論づける。
自分は転生により性別も変わってしまったのだ。姿だけでなく性別までもが変わってしまった。
それを理解した瞬間、言い表せない悲しさが俺を襲った。一度は憧れた異世界だと言うのに、何故悲しむ必要があるのか。それは自分自身でさえ分からなかった。
恐らく、元の世界に別れを告げる事になった事を実感したからだろう、そんな安直な答えを考えた。
やはり一人称は私の方が良いのだろうか、という後々の生活が苦労が浮かび更に悲しくなった。
悲しさが落ち着いた頃、私は転生直前の事を思い出そうとしていた。
転生前、何かが起きていたが、その記憶はあまりにも曖昧で思い出すことは出来なかった。だが、一つ思い出した事がある。転生神の事だ。
「転生神 スラック」、そう名乗っていたはずだ。確か、荷物にあるランタンでコミュニケーションが取れると言っていた気がするのだ。案内役のポジションなのだろうか。
私はそれを思い出すと同時に、荷物からランタンを探し始めた。探し始めて数秒後、ランタンらしきものを見つけ出した。
早速火を点けてみると、そのランタンはひとりでに動き出し、宙に浮いた。
赤い火から変化した、青い火が灯されるランタンはとてもきれいだった。高校の時にした、炎色反応だったろうか。それに近しい色の火であった。
その火に見とれていると、ランタンから誰かの声が聞こえた。恐らくスラックだろう声は私に向かって話し始めた。
「あ、あー、聞こえているかな、ミーファ?」
「聞こえているよ……一応だけど、スラックだよね?」
私のその問いかけにスラックは「そうだよ」と肯定した。
この人がスラック。声から考えるに、年齢は青少年位だろうか?まだ声変わりを迎えていない中学生の様な印象を抱く。そして、もう一つ。どうやら私は「ミーファ」という名前の様だ。これを知っていなければかなり困ったことになっていただろう。
ほっと息をついていた私をよそに、スラックは話し始めた。
「ミーファ、少し長くなるけど聞いていてね。
ミーファには今から僕の「エネルギーコア」を集めて欲しい。これは厄災モンスターという強い魔物が落とすから、それらを倒して集めて欲しいんだよ」
「それを集めると、どうなるの?」
「それを集めてくれれば、君の望みを叶えよう。今は覚えていないかもしれないけど、恐らく今後、思い出してくるはずだよ。
あともう一つ、この付近に出現する魔物は弱い。けど、一応気をつけてね」
望み……前世に戻る、とかだったのだろうか?
記憶が無くなるというのはとても不便だ。自分のやりたい事も、思い出も、全て忘れてしまうのだから。そして魔物か。これぞ異世界という感じの名前が出てきた。取り敢えず気を付けておこう。
ただ、気を付けるためにも持ち物はしっかり見るべきだ。そう考えた私は持ち物を確認する。
短剣、携帯食料に飲料水、そして銀貨15枚。この金額がどれだけなのかは分からない。それなりの額だという事を期待するだけだ。それよりも、どうやら荷物に短剣が入っていたようだ。
さっき見逃していたのか、と自分の注意力にがっかりしつつ、短剣を手に持つ。
そうこうしている内に時間が経ったのだろう。目を覚ました頃に比べて、日が高くなっていた。
「もう昼か……」、そう言って広げた荷物を戻した。そして、ゆっくりと歩きだした。いつか記憶が戻った時に、望みを叶えてもらうために。
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それなりに歩き続けていると、視界の右端に大きな森が映った。異世界ならではの自然に心が躍った。足早に森へ近づくと、鳥の鳴き声や小動物など、先ほどの草原と同じく美しい自然が広がっていた。
新緑の間から溢れる太陽の光、それはもう目を奪う程の美しさだった。
ファンタジー世界と聞いて心が躍っていたが、まさかこんなに美しい光景が広がっているとは考えていなかった。そのため、私はまた違う理由でこれからの生活を楽しみにしていた。
一つは、魔法やダンジョン。一つは冒険者として冒険し、見ることが出来るこのような絶景。どちらも楽しみだ。特に冒険者は男のロマンである。いつか、ゲームの様に敵をなぎ倒す冒険がしたいのだ。
そうやって森の中を歩いていると、前方に青色の物体を見つけた。何なのか気になったため、その物体に近づいた。
「これって……スライム、なのかな?」
その問いかけにスラックは肯定した。
私はその返事を聞いてから、短剣を取り出した。実際のところ、少し怯えていた。何せ初めての魔物だ。それも前世には居なかった未知の生命体と戦うのだ。
私はスライムにゆっくりと近づいていく。スライムが足元付近に来るまで近づいた後、短剣をスライム目掛けて振り下ろした。
ぐじゅっ、とした感触の後、スライムは消えていった。
私はそれを見て、言い表せない嬉しさに包まれた。彼女の初めての討伐は素晴らしい功績を残したのだ。倒したのはスライムだが……
私がスライムを倒してはしゃいでいると、遠くから地響きの様な重低音が聞こえた。
スラックが「警戒しろ」とはしゃぐ私に言う。徐々に音が近づいている。木々が揺れ、小動物達も慌てて逃げ出した。何かが不味い、そんな事が私でも理解できるほどに、異常なことが起きていた。
そんな時だった。スラックからの警告が響いた。
「ミーファ!何も考えず、しゃがんで!」
私はその言葉を聞いた直後、スラックの言う通りにその場にしゃがんだ。
刹那、頭上を灰色の板の様な物が掠めた。そして、周囲の木が倒れた。何が起きたのか、それは分からなかった。
私はその板が飛来してきた方を見る。そこには前世で見たことのある魔物が立っていた。緑色の体色、豚の様な顔、自分の背丈の何倍も大きい体。それらを持ち合わせ、加えて大きな鉈を持つオークが居た。
肉眼で初めて見る巨体、自分では太刀打ちの仕様が無い魔物。それらは私にとって恐怖を感じるのに十分すぎるものだった。
オークが鉈を振り上げる。死んでしまう、転生したのに死んでしまう。第二の人生が始まって早々に終わってしまう。もしかしたら、こんなピンチの時こそ主人公は闘志がみなぎるのかもしれない。だが、私は主人公ではない。そんな思いが絶望を加速させる。
私は恐怖のあまり、足がすくんでしまった。動ける訳が無い。それを見たスラックが声をかける。
「ミーファ!動け、死ぬぞ!」
その言葉にびくりと体を震わし、横方向に体を転がした。その直後、先程まで私が居た地面が鉈に抉られた。汗が噴き出す。死にかけた、いやスラックが居なければ死んでいた。
私はすぐさま立ち上がり、森へと走り出した。足がガクガクと震えながらも、全速力で走る。足がもつれない事を祈って、細心の注意を払いながら走った。