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ベラルント銀行へ

「ああ、助けて! ああ、王子様」

 空をつかむ私の手。

 ゴロンとベッドから落ちた衝撃で目が覚めた。最悪である。


 なんだよ。王子さまって。王城にはいるかもしれないけどさ、知らないよ。見たこともない。あ、前回死ぬ前に見たわ。王子様。嫌なことを朝から思い出しちゃった。


 王子に助けを求めるより、確実に自分をレベルアップしたほうがいい。

 自分の夢に文句をつける。 


 きっときのうの議会が刺激的で、緊張したからだろう。お金持ちの権力持ち貴族がいっぱいだった。


 議会でドアを開けてくれた、眼鏡が群青色の男の人みたいな人が王子様だったらよかったのにとチラッと思う。頭のよさそうなひとだったな。


 絵本のようにお姫様を助ける王子様なんていない。議会の人たちはお金を出すのを嫌がっていた。お金に困っているときって、誰も助けちゃくれない。だから、誰かを頼りにして待っているなんてできない。お金は自然に生まれません。


 王子様(お金)がくるのを待っていたら、ひもじくて飢えちゃうわ。自分で稼ぎましょう。


 ほら、絵本だと、ピンチのときに王子様とか、お金持ちの高貴な誰かがヒロインに一目ぼれ。助けてくれるとか、ヒーローが現れたりしてるけど、現実にはない。


 もしかして他の人にはあるのかもしれないけど。今のところ私にはない。どうして私にはないのかしら? 


 誰か教えて。


 貧乏がさらに貧乏になってしまう。とにかく自分を救うのは自分で、領地を救うのも自分ってこと。働かざる者食うべからず。貧乏暇なし、金なしだ。


 さて、朝ご飯をたべて、きょうは金策に奮闘しないと。

 のろのろと床に落ちた上掛け布団をベッドにのせて、着替えを始めた。王都のホテルに昨日は泊った。


 お父様からは、ユーシベ銀行とミグレ銀行、ズミアカ銀行をめぐればいいとのこと。もう一行、ベラルント銀行もあるけれど、設立してまもないから、鉄道事業に大金を貸付けしてくれないだろうとのことだ。時間に余裕があったら、行って来たら?と言われている。


 ってことは、少なくとも3行回ればいいんだよね。

 よし! がんばるぞ!


 銀行は貴族街の一角にある金融街にあった。

「予約はしていないのですが、融資の相談をしたくって……」


「そうですか。申し訳ないのですが、ご予約のない方とはおはなしできないことになっております」

「そんな。ヴィスワフ子爵の代行としてお願いしたいのです」


「そうですか、少しお待ちください。上司に確認してまいります」

 銀行の受付の方が裏方に回っていく。ドキドキしちゃうわ。


「お話だけならとのことです。応接室へご案内します」

 応接室へ入ると、融資担当の人がソファに座っていた。


「ですから、このような返済計画を考えていて……」

「申し訳ございません。担保となるものもヴィスワフ子爵領では不足していること、また王宮と王宮議会がいまだ鉄道事業の予算案を決定しておりませんので、ご縁がございましたら次回の機会にお願いします」


 融資担当者はにこりともせず、本当に少しだけ話を聞いて、私を応接室から追い出した。


 ひどい。ひどすぎ。これで三軒目だ。一軒目からさほど対応は変わっていない。どの銀行もこうやって追い出す。


 どうして鉄道事業の大切さとこれからをわかってくれないのだろう。一軒目はユーシベ銀行。二軒目はミグレ銀行。三軒目はズミアカ銀行。お父様の言う通り、三軒も行ったのに、腹が立つ。手応えはゼロだ。


 きのう、王宮議会に出席していた貴族が経営する銀行だからだろうか。王宮と王宮議会の対応が筒抜けのようだ。補助金や税金、負担金が決まらないのが影響しているみたい。


 ああ、ユーシベ伯爵、ミグレ侯爵、ズミアカ侯爵は保守派だっけ。王宮の決定に従うタイプの人たちだった。最初か、融資は無理だったのかもしれない。


 王宮議会も王宮に忖度しているのか。でも、国としてその対応の遅さはどうなんだろう。諸外国では鉄道事業に力をいれているというのに。


 このままではうちの金庫がやばい。お金がない。やっぱり10年計画化になるんだろうか。いや、そんなに遅くなったら、それが理由で断頭台送りにされそう。


 なんとしても費用のめどくらい立てて、長生きできる人生を確保したい。こんなところで躓けない。


 どうせいずれ国中、鉄道を敷くんだから、国や銀行が「どうぞどうぞ。ぜひうちから借りてください」って、うちにお金を貸してくれたっていいじゃないね? 


 ズミアカ銀行なんてもっと対応がひどいんだよ。

「それに、失礼ですけれど、ご息女が婚約解消されたと聞いております」

「ええ、円満解消ですけれどね」


「せめて、婚家の後ろ盾などがあったなら……」

 すいませんね。婚約解消された本人ですけど。傷に塩を塗る? ちょっと、ケンカ売っているの?


「ええ、すいませんね。最近婚約解消したばかりで、そうそう、うちは貧乏なんですの」

 まさかの婚約解消がここで響くとは! やけくそに応対してしまったわ。くうう。くやしい。


 でも、婚約が継続していても、たぶん断られたと思うの。だって、あっちも貧乏だもん。ロレンスの実家のアントワーヌ子爵は頼れないわ。


 詰んだ。ああ、もうだめだわ。

 廊下で地団駄を踏んでも、応接室のドアは閉まったままだ。渋々店内を歩いて、扉から出る。


「ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」

 のんきな挨拶を背中で受ける。


 もうズミアカ銀行なんて利用しませんから! 三軒目もフラれてしまった。


 ああ、きょうも空が青い。夏が近いせいか、太陽がまぶしいわ。

 上を見上げると、ズミアカ銀行が大きな建物だとわかる。


 王都にある銀行は本店のことが多い。そのせいか、石造りで堅牢な建物。壁には凝った彫刻が施され、大きな看板が立派だ。


(お金がうなっているくせに。ちょっとくらい貸してよ)

 心の中で悪態をつきながら、日傘をさして大通りを歩きだす。


 お父様の言っていた3行はダメだった。あともう一行あるけど。ダメ元で行ってみようかしら。


 辺境の地にあるヴィスワフ子爵領にお金を貸してくれそうな銀行は、大きな銀行のみだ。王都には小さい銀行や街金もあるけど、それじゃあ鉄道事業を担うに物足りない。平民がよく使う銀行も王宮議会や王宮の横やりが入ったら手に負えないだろう。


 やっぱりベラルント銀行に行ってみよう。あそこは保守派ではなかったはず。できたばかりだからとお父さまが言っていたけど、新しいからこそ柔軟な考えかもしれない。


 ええっと。ベラルント銀行、ベラルント銀行。どこにあるの? この変なはずなんだけど。


 金融街をぐるっと辺りを見回すと、日差しがまぶしくて、目がくらむ。おもわず身体がぐらっと傾いた。


「あぶない、お嬢ちゃん」

 暗い顔をした痩せているおじさんが転ばないようにと私の腕をひっぱってくれた。おかげで道路に座り込まないですむ。


「ああ、ありがとうございます。日差しが強くて、クラッとしてしまい……。ご迷惑をおかけしました」


 おじさんは「とにかく気をつけろよ」といって、早歩きで立ち去った。なんだか思いつめた顔をしていたおじさんだった。何か悩み事があったのだろうか。うちの領地で農作物が不作の時の農民のような顔だったなあ。


 助けてくれたのに、おじさんのことは助けられないのが、申し訳ない。ま、ここは都会だし。私が誰だかもわからないだろうし、おじさんはまったく気にしていないのかもしれないけど。


 ため息をついて、通りすがりの人に「ベラルント銀行はどこですか?」と尋ねると、苦笑しながら指さしてくれた。

 ベラルント銀行は、なんと目の前にあった。


 まさかだった。目の前にあるのに気が付かなかった。不覚。やっぱり疲れているのかもしれない。


 ベラルント銀行は銀行らしくない建物だった。大きなガラスのドアに全面ガラス張りの壁面。洒落た高級感あふれる建物って感じだ。ガラスをふんだんに使うなんて、相当なお金をかけている。


 ドアを開けると、明るい店内にびっくりした。上を見ると、屋根もガラス張りだった。すご!


 先進的な建物に感動していると、銀行の案内の人が「いらっしゃませ」とあいさつしてくれた。 

「すいません。予約はしていないのですが、融資のご相談をしたくて」


「ああ、ヴィスワフ子爵代行のマリー様ですね。お待ちしておりました。応接室へどうぞ」

 なんだかスムーズに応接室へ案内してくれる。初めての好感触。ドキドキするわ。


 資料をぎゅっと胸に抱える。受付の人の後をヒールを鳴らしながら二階へ向かった。


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