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不穏(春の宴と王宮議会)5

なぜかこの章が終わらない。がんばる。

明日王都へ行けないとマキウス様に手紙鳥を使って急遽連絡する。しばらくしたら、「ドレスの心配はないから、ベラルント伯爵家に来てほしい」と連絡が来た。


 結局うちにあるドレスはろくなものはなかったので、エリザベス様の御下がりをまた戴くことになった。

 また気を使わせてしまう。ちーん。

 できるだけ自分で何とかしたい。でも、誰かにお願いしなくてはいけないときってあるんだよね。あるの。本当に。どうにもならないときって、頭を下げるしかない。


 そして、なんとかしてくれようと動いてくれるマキウス様。本当にありがとうございます。エリザベス様にも感謝。


 今度いくつかドレスを用意しておこう。いや、もうこんな嫌がらせのような夜会や王宮議会への召喚はないかも? そうしたらドレスは無駄になってしまう? 難しすぎる。


「もう既婚者だし、このデザインは着られないの。もらってくれたらうれしいわ」

 ベラルント伯爵家に着いてすぐにエリザベス様に別邸に呼ばれ、いま着せ替えしています。一応ショールとか、手袋とか、髪飾りとか、宝石の町タクランの商品をもってきました!


 使えたら使ってほしい。

 テーブルの前に並べて、エリザベス様の反応をみる。

「あら、このショール素敵じゃない?」


 白のレースに小さい宝石をちりばめてあるショールだ。冬になったら裾に毛皮をつけるといいかなと作った試作です。先日行われたタクランでのコンテストで優勝したデザインなんだ。ドレスをワンランク上げ、印象を変えるといったコンセプトでつくられている。


「ちょっと待っていてね。ふふふ」

 エリザベス様は侍女に指示して数分。ドレスがやってきた。白からブルーのグラデーションで裾の方は紺に近くビーズ刺繍がキラキラと光っている。


 歩くたびにエリザベス様のドレスがさらにキラキラと光っている。うわ、まぶしい。こんなの着たことがないよ。びっくり。

「胸元が開いているから、きっとショールが必要よ。よく似合うわ」

 

んん? 似合っているってことだよね。ありがとうございます。


「マキウスをエスコートにつけるでいいかしら?」

「ええ? でもお忙しいのでは?」

「マキウスを誘わなかったら、マキウスが怒ってしまうわよ」

 エリザベス様が笑う。


「そうですか? でもお仕事があるのでは?」

 一人で行って、さっと帰ってくるつもりだったんだよね。誰にも注目されないようにそっと行ってそっと帰る。エリザベス様もいるだろうし、何かあったらエリザベス様のおそばにいこう。これ最強って思っていたんだけど。


「一人でなんか行かせないわよ。何があるかわからないし」

 何もないですよね? 一人? まあ、一人ですけど。


 おびえていたら、エリザベス様が「夜会は魔界よ。気をつけないと」とのこと。えええええええ。行きたくなくなったんだけど。エリザベス様、いないの? 

「番犬をつければ、大丈夫。きっとおいしいものが出るわよ」

 そうなんですね。美味しいものですか。でもなあ。いっそ急病になろうかな。天秤にかける。

「仮病はダメよ。面倒なことになるから。大丈夫よ、マキウスがいれば」

 エリザベス様はちらっと私の顔を見た。


 仕方がない。行きます。ええ。行きますとも。エリザベス様のドレス、お綺麗ですから。披露してきます。

「あれ? エリザベス様はいらっしゃらないんですか?」

「ええ。まだ出産したばかりってことで。マキウスが出るからいいでしょうということになったの」

 がーん。エリザベス様いないのか。そうですよね。出産さればかりだし。無理はできないもの。じゃあ、がんばってきます。力強い味方を失いがっかりしていると、エリザベス様は苦笑していた。

 笑いごとじゃないんですって。うううう。

 仕方がない。マキウス様にお願いしましょう。


 春の宴の当日。

 エリザベス様に支度を手伝ってもらった。侍女軍団にお風呂に入れられ、あちらこちらを磨かれた。疲れて意識が飛びかけているところに、香油でマッサージをされ、これまで見たこともないくらいつやっつやに肌が光っている。それからコルセットでお肉をギューと寄せられ、つぶされて一応ボッキュッボンの体型ができあがった。

 もうきつくて水を飲むのが精一杯。息も絶え絶え。

 鏡で見ると、これって詐欺じゃない? 私史上最高の、どこぞの人になっていた。


 階下に降りていくと、マキウス様が白の正装をされて立っていた。私よりずっと美人だと思ってしまったのは内緒。ダークブルーの髪にダークブルーの目。整った顔に白がまぶしい。私も茶髪に茶色の目と言った普通の色でなければ、もうちょっとよかったのになあ。


「マリー様……」

 マキウス様が黙っている。


 え。沈黙ですか。詐欺だって気がついちゃった? それともドレス、破いちゃったとか? どこか変なんだろうか。沈黙が怖いの!

 頭にごみがついているとか? めっちゃくちゃ焦って、自分の姿をチェックする。


「マキウス! 早く褒めなさいな」

 エリザベス様がばちんとマキウス様の背中をたたいた。

 マキウス様が「ああ」と焦っている。珍しい光景だ。


 ふ。マキウス様は私の詐欺の姿に恐れおののいたらしい。そうだろう、そうだろう。お宅の侍女軍団、最強だわ。エリザベス様の後ろで侍女軍団がドヤ顔している。


 マキウス様は顔を赤くされ、ぼんやりと私を見るので私も罪悪感が……。化粧映えするんですよ私。

「マキウス、手出しは厳禁よ。終わるまで我慢しなさい」

 エリザベス様がマキウス様に注意をしていた。男の人って、飾りをゴミだと思って親切に取ったりするからかな。それで髪型とかボロボロにしちゃったりするし。


 女子の正装は難しいところがあるんだよね。うんうん。侍女軍団たちの圧もすごい。マキウス様は素直にうなずいた。


 そんなこんなで、馬車の中でも穴が開きそうになるくらいマキウス様に見つめられてしまった。もうみないで。毛穴とか気になるから。しくしく。


 いやあ。夜会会場に入る前から針の筵。みんなマキウス様のファンなんだろう。マキウス様、美形だし。まあ、稀代の悪女と言われているらしいんだ、私。

 コソコソと女性たちの声が聞こえてくる。

 婚約解消は私がマキウス様にアタックしているからとか、金に物を言わせ手当たり次第に男性と歩いているとか。

 まあね。仕事ですから、打ち合わせもするし、視察もするよ。オホホホの姫じゃないんで。私が子爵代行です。

 腹が立つやらあきれるやら。誰がそんなばからしい噂をたてるのだろうか。

 マキウス様hずーっと私の手握って離さないし、これ見よがしに指先にキスをしてくるし。

 なんだろうね。これってどういうこと?

「ベラルント次期伯爵ではありませんか」

 マキウス様の眉がピクリと動いた。

 あ、嫌な人なんですね?

 マキウス様の目を覗き込むと、小さくイエスの瞬き。そんなに嫌なんだ。気をつけよう。無視するわけにもいかず、マキウス様は目を細めながら、声の方へ顔を向けた。

「ユーシベ伯爵。お元気でしたか」

「ええ。こちらはお美しい。どちらのご令嬢?」

「ああ、ご存知でしょう。ヴィスワフ子爵代行ですよ。マリー・ヴィスワフ令嬢です」

 マキウス様が紹介する。

 ええ、先日うちにいらっしゃいましたよね。ユーシベ伯爵。

 薄茶色の目をすんごい丸くしているんだけど。失礼じゃない? ちょっと。

「ああ。たしかに。マリー嬢ですな。ドレスを着るとまた雰囲気が変わって」

 そうでしょうとも。自分でも思いますから。

「そうだ。うちの息子を紹介させてください。ヨルシカ、こちらへ」

「こちらはお美しい。ヨルシカ・ユーシベでございます」

 いやあ、これ以上銀行から金は借りませんよ。せっかく借金減ったんですからね。

 ヨルシカ様が私の手にあいさつをしようとすると、マキウス様が私の手をさらった。

 どうしてこうなった?

「経営手腕だけでなく、美まで思いのままとは。さすがヴィスワフ子爵代行。ぜひうちの銀行とも仲良くしてもらいたいですなあ」

 ユーシベ伯爵はあははとお腹を揺らした。

 とりあえず、借りる予定はないが、淑女の笑みでも浮かべておこう。そうそう、扇も用意しておかないと。

「春の宴の席ですから」

 マキウス様はそっとユーシベ伯爵をたしなめる。

「王宮議会でのこともありますからな。よくお考えになった方がいい」

 ユーシベ伯爵はじろっと私を見つめた。

「今宵はゆっくりお話しすることもままならなそうなので、またいずれかに。近々お会いできるのを楽しみにしております」

 ヨルシカはにこりと笑みを浮かべ、父であるユーシベ伯爵を引っ張りながら去っていく。私たちを振り向きながら、片手をあげて、ウインクしていった。

「ぜったいぜったい、あいつには気を付けて。あいつは無類の女好きなんだ」

 マキウス様の顔がゆがむ。

 大丈夫ですよ。化粧という魔法がとければ、驚くほど平凡ですからね。

「君は分かっていない。何事にも一生懸命に取り組むその姿は美しい」

 え。そんなに褒めていただかなくても。マキウス様? 通常運転でいいですよ。

「僕はずっとそう思っていた。領民のため、家族のため駆け回り、困難に立ち向かい、とうとう領内に鉄道を敷いたではないか。もちろん、可愛いのだが、中身はもっと素晴らしい。夜会では本当に気を付けてほしい。あなたを狙っている男は多いのだから」

 そうなんですか? いやあ、化粧を取って、コルセットを脱いだらびっくりだと思いますよ。

「それに鉄道利権、温泉街など金の鉱脈を持っている。領地経営にあえいでいる貴族たちはあなたの婚約者になりたがっているんです」

 ええええええ! 初耳なんですけど。

 あ、だから、女性たちから悪口を言われていたんだ。なるほど。納得でございます

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