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不穏(メアリーの死亡、強盗、議会呼び出し)2

さあ、もうひと踏ん張り!

 キキキキー。ブレーキ音が響いた。

「どうしたの?」

 思わず立ち上がる。

「危ないから」

 ロレンス様が私に座るように言った。でも、私、ヴィスワフ子爵代行だもの。行かなくちゃ。


「ちょっと見てくる」

 ロレンス様とエリザベス様が止めるのも聞かず、運転車両へ急いだ。

 客車は満員にもかかわらず、混乱は見られなかった。列車が珍しくみんな着席していてくれたおかげかもしれない。


 運転車両に近づくと、運転手が外に出ているのが見えた。

「どうした? 大丈夫?」

「ああ。お嬢さま。なんか大きな石が置かれていて……。脱線しちまったみたいだ」


 運転手と助手が車両の下を覗き込んでいる。

「2時間ほど前に確認したときはなかったんだが、いつの間に。誰のイタズラなんだ」

「こりゃ、誰か手伝いを呼ばねえと」

「分かったわ。ちょっと人を呼ぶわ。あと鉄道馬車も用意するわね。客車のほうには説明しておくから」


「ありがてえ。よろしく頼みます」

 運転手はぺこりと頭を下げ、再び車両の下に集中した。

 運転席から手紙鳥を取り出して、お父様と商工会会長カノイに連絡した。手紙鳥とは、今残っている魔法の一つ。緊急でだす手紙のことで、あて先が書いてあれば、そこにすぐに飛んで行ってくれる。もちろんわが国のものではなくて、お隣のハトラウス王国のもので、大人気の輸入品の一つだ。


 すぐに人が来るわ。さあ、お客様に代行サービスとして鉄道馬車に乗ってもらうことを伝えなきゃね。


 ああ、マキウス様にも連絡しないと。仕事が終わったらうちの屋敷に来るって言っていたからなあ。ああ、絶対怒られること確定だ。

 どうして今日はこんなにいろんなことが起きるんだろう。精神的な疲労がきているんだけど。せっかくのエリザベス様たちとの旅が事故の旅になってしまった。悔しい。


「エリザベス様、ロレンス様。申し訳ございません」

 頭を下げる。悲しくなってしまった。せっかくの旅行が、タクランの印象が悪くなってしまう。

「大丈夫よ。旅にハプニングはつきものだから。それに誰もケガもしていないわ」

「そうだよ。マリー様は迅速な対応をして、全力で事態の収拾をしているじゃないか。車内をみて? 誰も文句を言っていないよ?」

 エリザベス様とロレンス様が慰めてくれた。


 客車はざわめいていたけど、すぐに別の鉄道馬車が来ると分かって落ち着いてすわっていてくれたし、大きな混乱はなかったのが幸い。

 手紙鳥が着いたようで、一時間が過ぎたころには代行の鉄道馬車が到着。乗客全員を目的地まで運ぶことができた。


 ほっと一安心だ。

 まさか脱線事故が起きるとは……。全く考えてもいなかった。なんで脱線事故が起きたんだろう。鉄道運行マニュアルどおり出発前の点検をしているはずだし。


 もしかしてイタズラ? 誰がそんなことするんだろう。

 領民のほとんどの人は、王都入り口駅に歩いてこない。マイミア山があるからだ。山に住む獣や木々のことを考えたら、ちょっと回り道してタクランから来るか、列車を使う。子どもの足でマイミア山を越えてわざわざイタズラするのもあり得ないことではないけれど、しないだろう。するなら住民の多くが住むタクランの駅近くでやるだろうしね。


 つまり、これは悪意を持った大人の仕業ということになる。山崩れとかの線もないこともないけれど、今のところ崩れたという話は聞かないもの。


 きょうはツイテいない。そんなことばで終わりたかったけど、頭の中で警鐘が鳴り響く。ツイテいないで終わらせるなって。

 しかたなく軽く目をつぶり考える。

 ひったくりも、書類が増えていたのも、事故なのも運が悪いだけじゃないよね。世界一ツイテない人ならまだしも、そこまで毎日不幸の連続という運の持ち主ではないもの。


 とすると、やっぱり書類と言い、脱線事故と言い、私が邪魔みたいね。なんだか悲しいわ。殺されそうになるなんて初めて。殺されたことはあるけれど。

 まさか断罪の日より前に殺されそうになるなんてなあ。びっくり。私って不幸ランキング上位かもしれない。


 タクランの町から家の屋敷まで馬車の中は静かだった。ソフィー様もお昼寝。

 屋敷について、ロレンス様たちにお部屋を案内する。その間に、お父様とお母様にさっそくリビングに来ていただいてた。きょうの出来事を共有するためだ。

 バッグから盗まれそうになった書類と勝手に増えていた書類をポケットから取り出した。


 ロレンス様とエリザベス様も急いでリビングに来てくれた。ソフィー様はお部屋で寝せてきたらしい。

「この書類、サインしました?」

「いやあ? 見たこともないが」

「王家とアッタラマ会に借金した書類です」

 お父様とお母様は顔を青くした。


「なんだと?」

「私たち、この屋敷と庭以外で歩いていないわ。お父様のぎっくり腰のお世話とリハビリで」


 お母様は眉をひそめた。

「どういうことなんだ」


 お父様は呆然としている。

 セバスがお父様に向かって咳払いをすると、お父様は顔を上げた。

「マリーがいなかった昨日、屋敷に泥棒が入った」

 えええ? いったいどういうことなの?


「大したものは盗まれていないわ。私の数少ない宝石もあるから。マリーの部屋も荒らされたんだけど、宝石類はあったわよ。後で確認してね」

「はい。では一体何が盗まれたんです?」

「金庫にあった書類だ」


「はい? 書類ですか」

「ああ」

 お父様は右手で額を抑えた。


「書類……。書類。書類!?」

 リビングを飛び出し、執務室へ。金庫を急いで開けてみるとやはりマキウス様とベラルント銀行からの借用書の控えがない。もしかすると、強盗の狙いは借用書のすり替え! それから私の殺害。

 ぞわっとした。

 自分の命が狙われているって怖いね。


「ああ、マリー様にはいなかったんだが、エリザベスも命が狙われているぞ」

 リビングに戻って報告すると、ロレンス様が苦笑いした。

「もうこんなときに!」

「ヴィスワフ子爵と鉄道事業から手を引け。さもなければエリザベスとソフィーを殺すって。もう何通もきているぞ」


 うわあ。そうだったんですか。すいません。

「鉄道の利権が欲しいんでしょうね。このままではヴィスワフ子爵家とベラルント伯爵家の一人勝ちですから」

 エリザベス様が涼やかに微笑む。


 さすが高位貴族。貴族同士の争いに慣れていらっしゃるみたい?

「マキウス様がいらっしゃいました」

 セバスがドアを開けた。

「マリー!」

 マキウス様が駆け寄られて、私をぎゅうぎゅうに抱きしめる。苦しい。中身が出る!


「マキウス、その辺になさいませ」

 エリザベス様が制止する。

「いてもたってもいられず、馬で一気に来てしまったよ」

 馬さん、ごめん。うちの馬小屋でのんびりしておくれ。馬小屋もリフォームして広くなったんだよ。まだ馬が数匹だけどね。いずれのために。


「無事です。大丈夫ですから」

 私の顔をマキウス様が確認してマキウス様は私の頭にほおずりした。

 親の前で恥ずかしいんですけど。うううう。

 堪能してから、マキウス様はすっと頭を上げた。


「マキウス・ベラルントと申します」

「ミルフレッド・ヴィスワフだ。いつもマリーが世話になっているね」

「ほほほほ。こちらこそですわ」

 エリザベス様がマキウスの背中をバチンと叩いた。エリザベス様、子どもを産んでパワーアップしたように見える。


「ほんとうにマリーもエリザベスもロレンスも無事でよかった」

 マキウス様は渋い顔をする。

「実はメアリーが殺された」

「ええ?」


 エリザベス様は目を丸くする。

「メアリーが? し、死んだ? あり得ないわ。私の乳姉妹なのよ。だめよ、死んじゃ。何かの間違いよ」

「いや、本当だ。王都の騎士団が王都の町の人があまり通らない路地裏でメアリーの亡骸を見つけたんだ。ナイフで一突きだった」

「いや、いやよ」

 エリザベス様が泣きだした。


「メアリーは早すぎたんだ。鉄道を広げ、参政権をすべての人にと主張し、貴族制度を撤廃しようとしていた」

「そんな……」

 エリザベス様が泣き崩れる。


「メアリーは間違っていない。ハトラウス王国では貴族制度が崩れてきているし、わが国でも鉄道が広がり、物流革命が起き、商売の上手い奴らが金をにぎることになるだろう。大きなお金の前にプライドだけしかない愚鈍な貴族などないも同然。貴族と平民の区別はいずれなくなる。ただし、いまではない。メアリーは早すぎたんだ」

 ロレンス様も沈痛な面持ちだ。


「誰が、誰が殺したの?」

 エリザベス様が声を絞り出す。


「おそらく保守派。王家が絡んでいるかもしれない」

 マキウス様が告げると、ロレンス様は涙が止まらないエリザベス様を抱きかかえ、部屋に戻っていった。


 メアリーが死んだ。いっしょにトレジャーハンターで宝石探しをしたり、鉄道を案内したのに。なんで? どうして?

「奴らは平民の命に価値を持たない」

「ひどい。メアリーが何をしたっていうの?」


「新聞に書いていたんだ。未来の王国っていう記事を。タクランの記事を載せる前から危なかった。脅迫もされていたんだ。だからエリザベスがよく注意するように言っていたのに……」

 未来の王国。ああ、たしか話題になっていたっけ。誰かが言っていたわ。そう、マンタ会長よ。王都商業新聞を一部もらって読んだ。

 これから来る数十年の激動を示唆するものだった。読んだ時すごいと思ったの。

 貴族の権力とお金をめぐり、人の命がなくなるなんて。


「マリー様、君もひどい目に遭ったね」

「ええ。でもまだ死んでいないわ」

 絶対に許さない。


 カルカペ王国に鉄道を敷いて、貴族制度をこわしてやる。その一助くらいできるだろう。

 私は決意した。


 ドアをノックする。執事のセバスが慌てた様子でお父様に耳打ちした。

「王家の騎士団がやってきたそうだ」

 お父様は無表情で私たちに告げた。



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