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コンテスト、ショー、新聞発表

誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。

 エリザベス様の乳母の姪っ子メアリーがやってきた。コンテストの発表とファッションショーの前日のことだ。我が家に泊まってもらってもよかったんだけど、平民が泊まったと言われると互いに面倒なので、タクランの町の宿屋に泊まるらしい。

 自慢の宿屋たちなのでぜひ泊ってほしい。

 待ち合わせは商工会にした。宿屋でもレストランでもよかったんだけど、個室で落ち着いて話せたほうがいいし、取材もタクランの町に関係するからね。


「はじめまして。王都商業新聞のメアリーと申します」

 メアリーは口角を上げて頭を下げた。

「マリー・ヴィスワフです。王都からおいでいただきありがとうございます」

「まあ、マリー様は貴族なのに」

 メアリーは目を丸くした。


 平民を下に見て、威張る貴族もいる。もしかするとメアリーはいやな思いをしたことがあるのかもしれない。

「ヴィスワフ子爵領はもとは大変貧乏ですからね。貴族としては末端。どちらかといえば、平民に近いですから」

 笑いながら答える。


「でも、鉄道事業が当たりましたよね? 温泉事業、タクランの再開発とすごい手腕です。ぜひお話が聞きたいです」

「ありがとうございます」

 どうやらメアリーは素直で真っ直ぐな性格らしい。ずばっと聞きたいことを聞いてくる。歳はエリザベス様と同じと聞いている。金茶色のフワフワした髪をハーフアップして、丸い形の眼鏡をしていた。緑の瞳は好奇心いっぱいに輝いていて、顔のそばかすがとてもチャーミングだ。


「明日はコンテストの発表にファッションショーですね。そちらも取材させてもらおうと思っています」

「はい。エリザベス様から伺ってます。ぜひおいでください。タクランの町ではトレジャーハンターというツアーを行っていて、参加していただいた方が描いたデザインの中から大賞を選ぶ予定になってます。また、職人たちの作った作品のファッションショーも行います」


「どんなショーなんですか」

「貴族向けのショーと平民向けのショーに分かれています。希望すればどなたでもどちらのショーを観覧することができます。貴族向けのショーではパーティーシーンから日常使い、平民向けはハレの日から日常使いまで提案します」


「具体的な商品は?」

「ネックレスやブレスレット、アンクレットでしょうか。指輪もあります。自分のご褒美として、また誕生祝としてマイストーンブレスレットやピンキーリングを提案しています」

「マイストーンブレスレット! 最近はやっていますね」

 メアリーは熱心にメモをとる。


「ええ。ベラルント伯爵家のソフィア様にも気に入ってもらえたのがきっかけです。お父様、お母様の瞳の色や紋章の色などでつくられることが多いですね。オプションで対毒性、防御なども付加することができて、貴族の方には大変人気です」

「そうなんですね」


「ブレスレットは少し高価ですので、大きくなった時にネックレスのトップになるようにピンキーを贈る方もいらっしゃいます」

「ピンキーリングとは?」


「小指につける指輪のことです。サイズも小さいのでつける石もちいさなものになります。またリングの内側に石を埋める方もいらっしゃいますね」

「わざわざですか?」

 メアリーは首を傾げた。


「石が見えるとトラブルになったり、またどこかに引っ掛けたりしてしまうからです」

「なるほど。よく考えられていますね」

「ブレスレットのほうも内側に石を埋め込むことができます。表についていると赤ちゃんの肌をひっかいたり衣服をひっかけたりしちゃいますから」


「そうなんですね。ぜひ私もほしくなりました」

「そういうかたにおすすめがトレジャーハンターです」

「トレジャーハンター! やってみたかったんです」

 メアリーの瞳がひときわ輝いた。


「きょうこれからお時間は?」

 私の方は予定は空けてある。コンテストやショーの準備でトラブルが起きたために念のためだ。いまのところ商工会のメンバーがうまく立ち回ってくれているようで大丈夫そう。

「空いています。これから一人であちらこちら歩いてみようと思っていたんです」


「では、ご一緒にいかがですか?」

 メアリーと二人でトレジャーハンターを案内することになった。

 トレジャーハンターツアーとは、マイミア温泉そばでおこなっている。最寄り駅はリバーサイド駅になる。いまではあまりサファイア、エメラルドなど掘削されていない山があって、その山の源流のあたりでよく宝石の原石が見つかるのだ。


 ツアーの参加料を支払ってもらえば、見つけた原石がもらえる仕組みだ。もし見つけられなかった場合は参加賞としてカット前の原石を選ぶことができる。貴族にも平民にも元が取れて一攫千金が狙えると大人気のツアーだ。


 タクラン線に乗る前にタクランの弁当屋さんから駅の弁当とデザートとしてアリアのアップルパイを購入。メアリーに手渡した。

「これは?」


「タクラン名物の駅のお弁当です。こっちは美味しいと評判のアップルパイです」

「うわああ。美味しそう! あの、制服もかわいいですね」

 そうでしょう。自慢の一品です。制服もね。

 心の中で鼻高々である。


「いただきます!」

 メアリーはドンドン食べ進めてあっという間に完食!

「すっごいお腹が空いていたんですよぅ。王都からこっちに来る時は何もたべられませんでしたから」


「ああ、王都はまだ鉄道を敷いていませんからね」

「ええ。早く敷いてほしいって思う人が多いと思いますよ。とくに王都の商人や平民は。どうして役人や貴族たちは積極的にならないのかってよく酒場で怒っているおじさんたちがいますから」

 メアリーは苦笑する。


「そうですよね。はやく鉄道が敷かれるといいですよね」

「あれ! 馬車が線路を走ってる?」

 メアリーは驚いて指を刺した。

「ええ。あれは鉄道馬車ですね。うちの鉄道はたくさん列車を抱えていないので、空いている時間は馬車鉄道を走らせているのです」


「馬車鉄道ですか」

「ええ。馬車の車輪は線路の上を走ります。あとは馬車と変わりません。メリットは普通の馬車より揺れないってことでしょうか。線路の上を走りますからね」

「なるほど。確かに嬉しいですね。王都からタクランの町まで今回は馬車で来たんです」


「ありがとうございます。次回は王都入り口から鉄道に乗ってみてくださいね。列車が運航していない時間でも馬車鉄道が動いていますから、そんなにお待たせしないはずですよ」

 メアリーは一生懸命メモをかいていた。


 リバーサイド駅に着いた。

 青い空が気持ちがいい。きっと河辺に立っても寒くないだろう。トレジャーハンターのツアーの受付に取材に王都から新聞社の人が来たと話をすると、受付にいた人たちがみんなが拍手してくれた。

 ありがとう。頑張ってここまで来たね。


「熱烈な歓迎ですね」

 メアリーは驚いていた。

「トレジャーハンターツアーも温泉街もまだオープンして1年経ってないですから、まだまだ知られていないんですよ」

 受付の女性が不満げに話す。


「お得なツアーなのになあ」

 事務方の男性がぶつぶつこぼした。

「ばっちり宣伝しますから、お任せください」

 メアリーの力強い言葉に受付は明るい空気になった。


「ここが宝石の原石を探してもらう場所よ」

 川の浅瀬にロープを張って、区切っている。ひとグループ5人に監督者が1名ついて、安全を確保。浅瀬だけれど足をとられて転んでしまう人もいるからね。受付には貸し出し用の着替えとタオルが置いてある。


「うわ! 水が透き通っている。石がキラキラだ」

 メアリーが手で水をすくう。

「あれ、でも水から出したら普通の石だった!」

 ケラケラ笑いながら私に見せてくれた。


「こういう石が原石なんです」

 監督についてくれたバローが川の中から小さな石を取り出した。

「小さくないですか?」

「たまたまです。大きい石を拾っている人もいましたよ」

「できれば大きい原石がいいなあ」


 メアリーが欲望を口に出す。

「でもね、この石、見てください。気泡も入っていないし、色も濃いブルーだ。おそらく高値で取引されますよ」


 バローの言葉にメアリーの目がキランと輝いた。

「傷のない、濃い色がいいんですね。どこかに大きくて綺麗な濃い色の石ないかなあ」

メアリーは中腰になって一生懸命拾い始めた。


「そういえば、マリー様はトレジャーハンターしたことは?」

「なかったかしら? いつも見てるだけだった気がするわ」

「じゃあ、マリー様もがんばってください」

 バローにバケツとスコップ、ざるを渡された。


 こうなったらやるしかない。

 スカートをたくし上げて、中腰になる。

 ザラザラと掬ってはざるで濾す。ちょっと腰が痛いんだけど。


「金? ねえ、バロー、これって金」

 メアリーが大きな声で聞く。

「残念。それは雲母ですね」

「えー」

「ほら、これが原石ですよ」


 バローがメアリーの持っているバケツの中の石を指さした。

「これ? これがそうなの?」

「ちょっと割ってみてください」

 石と石を軽くぶつけると、石にひびが入る。バローが石を割るのを手伝った。


「ほら、アメジストです」

「綺麗!」

 メアリーは大喜びだ。


 実は私もサファイアを見つけたんだ。小さいけれど、うんと濃い青だ。マキウス様の目の色を思い出した。

 そうだ。これ、マキウス様に差し上げよう。


「にやにやしてますね、マリー様」

 バローに指摘されてしまった。


「あははは。まあね」

 ポケットに原石をしまう。

 メアリーも原石を見つけたみたいだし、日も傾いてきた。タクランの町に一緒に帰ることにした。

 


 次の日。

 商工会で行われた宝石デザイン画コンテストとファッションショーをメアリーはメモを取りながら見ていた。

 帰りは鉄道で帰るという。王都入り口駅から王都行の馬車がでているから大丈夫だろう。

「温泉もよかったです。タクランの町は綺麗で治安もいい。きっと繁盛しますよ。とてもいい体験ができました」

 メアリーは大きく手を振って鉄道に乗り込んで帰っていった。


 一週間後後、王都商業新聞が商工会に届いた。

「奇跡の町・タクラン―鉄道で栄える―」という記事で大きく取り上げられていた。内容は、「タクランの町で革命が起きていた。鉄道である。交易や旅のスピードが大きく変わり、世界が小さくなるだろう。なぜ王室や王宮議会は迅速に鉄道をすすめないのか。ぜひ全土で鉄道が開通することを望む」としめてあった。


 褒められすぎて、びっくりだ。トレジャーハンターの体験まで詳しく書いてある。とても楽しく過ごしてくれたんだろう。うれしくなった。でも、最後に王室と王宮議会を批判しているようにも取れる文が書いてあるけれど、大丈夫かな。

 数日後、メアリーが王都商業新聞を首になったとタクラン商工会会長のマンタから聞いた。ほんの少し批判的なだけだけれど、圧力がかかったらようだ。


 王室も王宮議会もセンシティブになっているからなあ。うちの領地で鉄道が有名になったのも、利益を上げているのも気に入らないらしい。

 エリザベス様も怒っていた。10日後、お茶会にお誘いいただいたのだ。

 そこにはメアリーもエリザベス様の近くに立っていた。


「マリー様? メアリーが同席してもよろしいかしら?」

「ちょっと、エリザベス様。それはいけません」

 メアリーはあわてた。


「あら、マリー様ならいいというと思うわ」

 エリザベス様は笑った。

「ええ、もちろんです。私たちお友達ですから」


 メアリーは私の言葉に顔を赤くする。

「ほら、ごらんなさい。貴族という制度にしがみつくような方じゃないわ」


 エリザベス様が笑みを浮かべる。

 ヴィスワフ子爵は名ばかりの貴族だったからな。そういう感覚はない。


 エリザベス様自らお茶を入れてくれた。

「どうしてメアリーが首にならないといけないの。おかしいわ」

 エリザベス様は口を一文字に結ぶ。


 エリザベス様の御茶の入れ方は素晴らしくて、香りがよく出ていた。とても美味しい。

「本当のことを言ったからですかねえ」


 メアリーはため息をつきながら、カップをソーサーに置いた。

「そんな、ひどい」


「そういうもんですよ。都合の悪い民の意見はつぶす。昔からそうでした。でも、わたしは書きたかったんです。領主代行として生き生きと活躍するマリー様。鉄道事業が拡大してわが国にも物流革命がおこる予兆があること。ぜったい書かないといけないと思ったから、後悔はしていないんです」


 メアリーは晴れやかな笑顔を見せた。

「今、ここで私が立ち上がらなければ、いつ国民が知るんですか? 平民の私だからできるんです。エリザベス様やマリー様は口に出してはいけませんよ。この国の愚かな貴族たちに命を狙われてしまいます。物流革命は産業革命になっていき、いつか貴族制度の崩壊につながるんですから」


メアリーは隣国に留学していた経験があるんだって。隣国ハトラウスやほかの国の状況と比べ、わが国にもいずれ産業革命が来て、貴族制度が崩壊すると考えているらしい。

「メアリーは、お父様が資金を援助して留学させたの。新しい風が必要だって」

 エリザベス様は微笑んだ。


 そういえば、アルフレッドお兄様もベラルント伯爵さまから援助をうけて留学していたんだっけ。貧乏な我が家がお兄様にお金をかけられる理由が過去の帳簿を見ていたらわかったの。ベラルント伯爵さまって先見の明があるすごい人なんだな。

「そうですよ。ベラルント伯爵さまは王都議会の議長ですから」

 メアリーは誇らしげだ。


 なるほど、私が王都議会に招集された時親切だった、あの議長か。なるほど。納得である。ベラルント伯爵さまのおかげで我が領地も上手く経営できている。本当にありがとうございます。数か月後にはお兄様が帰ってくる予定だ。きっと今より物流革命が進むに違いない。いったいこの国はどうなってしまうのか。

 予想のつかない未来が少し怖くなった。


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