エリザベス様の赤ちゃんソフィア
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1796年6月。 なんと、ヴィスワフ子爵領における鉄道が全線開通! 王家と王宮議会にも鉄道完成の報告したけど、あっけなく終わって拍子抜けしちゃった。
これでなんとかうまく借金返済できるはず。そして断罪回避を目指します。
エリザベス様とロレンス様は無事結婚されて、一周年。仲睦まじいと社交界でも有名になっているみたい。
お父様のぎっくり腰もだいぶ良くなってきているけれど、お母様とそろそろ隠居したいと言っていて、お兄様に引き継ぐまで私が代行として続投することになったよ。
領地経営はやりがいもあって、すごく自分に合っているから、全然大丈夫。前の人生のように、ヴィスワフ子爵領ばかりに利益が集中しないよう、一生懸命「鉄道を敷かないか」とうちの周りの領主たちを説得している。
けどねえ、実際やりたくても資金がなくてできないみたい。ロレンス様の実家アントワーヌ子爵様のところにも聞きにいったんだけどね。資金があったとしても資材調達のすべもない。前途多難なところにお金を突っ込みたくないと言われてしまった。
たしかに。それが堅実な領主って気がする。
うちはアルフレッドお兄様とお父さまが新しいモノに興味があったから、現在に至っているわけで。誰だって新規事業の一番乗りはいやだろうな。失敗する確率高いものね。
じゃあ、どうやって鉄道事業を広めたらいいんだろう。
うーん、考える。
ヴィスワフ子爵領の帳簿や決算を公開する? 大丈夫、成功するよって、
それは領地経営の手の内を見せるようでいやだ。
そうそう、温泉街もマキウス様とベラルント銀行のおかげで、オープン出来た。ホテルや宿屋が数軒、飲食街やお土産屋さんもできて、いまではタクランの町も大賑わい。
駅のお弁当屋さんもタクランのお弁当屋さんが一番売れるようになった。ほんとビジネスが好調だと、心が穏やかになるわ。
借金って大変よ。身も心もプレッシャーを抱えちゃう。だから、皆が嫌がるのもわかるんだよね。ここまで来るのがたいへんだったもん。
では、いっそのことヴィスワフ鉄道会社がこのカルカペ王国すべてに鉄道網を敷くでもいいのかもしれないとも考えた。けれど、それって前回の状況に近いんじゃないかな。
それか、アドバイザーとして経営のノウハウを教えるって形もあり?
協賛とか、いっそ合同会社にするとか。
問題はうちが低位貴族だってこと。貴族のメンツってやつがあるから、子爵ごときに出張られるのはいやなんじゃないかな。世の中ベラルント伯爵さまみたいな人ばかりじゃないんだよね。
ヴィスワフ子爵が前面に立って、ヴィスワフ鉄道会社がカルカペ王国のすべて鉄道を敷かない理由はもう一つある。ポルケッタ帝国が気になっているんだ。ポルケッタ帝国はハトラウス王国と現在交流はない。そしてうちの国カルカペ王国ともない。けれど、ポルケッタ帝国は、鉄道はもう敷いているんだよね。向こうはすでに流通革命の時期が熟している。だからカルカペ王国は鉄道を導入していないことが気に入らないだろうし、すでに鉄道を運行しているハトラウス王国と仲良くしたいと思うんだ。
ポルケッタ帝国はそんなときどう思うか。
ポルケッタ帝国が主導となってカルカペ王国の鉄道の利権を奪ったらすべてうまくいく。
そう考えているんではないかって、ちょっと思ったの。
ほら、アッタラマ会の商売のやり方。覚えている? あれって、カルカペ王国の商人たちから商売の場所を奪って、自分たちが商売しようとしていたわけよ。金を借りる方が悪いというかもしれないけれど、借金だって財産よ。
財産だけど、借りるところはきちんとしたところじゃないとねということよね。
ああ、何を言っているのかわからなくなってきた。
マキウス様の見守るような視線を感じ、我に返る。
今日は、なんとお祝いにエリザベス様のところに来ているんだった。結婚して一年後、つまり鉄道が開通して一年後。エリザベス様に赤ちゃんが生まれたの。なんてめでたい!
名前はソフィア。王子様然のロレンスとスタイル抜群の美女エリザベス様の子どもだからそれはもう恐ろしく可愛い。お目目がぱっちり。鼻はチュッとしたくなっちゃうくらい小さくて、頬はピンク色。口はどうしてそんなに小さいの?っていうくらい本当にかわいい。
突然考え込んでしまった私を見て、マキウス様はたぶん困っていたんだろう。うわ、すいません。たぶん私が話すのを待っていてくれている。
マキウス様はけして私の意見をつぶさず、待っていてくれる。こういうのって、できる人はあまりいないよね。いい人だなって思うんだ。
「つまりね、アッタラマ会の裏に誰かいるんじゃないかってことが言いたかったの」
「ああ、その可能性はあると思う。ところで、マリー様はこの国がそんなに好きなのか?」
マキウス様は不思議そうに聞いた。
「ううう、そんなこと考えたことがなかったわ」
「そうだろう? 例えば、アッタラマ会の裏にポルケッタ帝国がいたとする。ポルケッタ帝国が鉄道を敷いてこの国を動かすようになってもヴィスワフ子爵領に何か被害があるのかってことだよ。もちろん、この国の流通革命、物流革命を狙っているのはハトラウス王国だって同じだと思うよ。世界が一つになるんだから、莫大の金と物が動く」
ハトラウスって可能性もあるのか。とりあえず橋の向こうの国だし、ヴィスワフ子爵領の鉄道会社とはうまくやっているけれど。感触としては良好だったと思う。けれどやっぱりあと数年後は違うかもしれないなと思う。
いつまでもヴィスワフ子爵領だけの鉄道では物流のスピードが遅いし、物流が滞るもんね。イライラして、介入してくる可能性も無きにしも非ず。
「例えポルケッタ帝国がヴィスワフ子爵領以外の鉄道利権を奪ったとしても、ヴィスワフ子爵領を通らないとハトラウス王国とは交易できないだろう? だからヴィスワフ子爵領を無視はできない。つまりヴィスワフ子爵とポルケッタ帝国で戦争が起きない限り、ヴィスワフ子爵は安泰ってわけだ。でも、足元をすくわれないように気をつけないといけないがね」
マキウス様の見立てはあっていると思う。今のところは何もないけれど、これからはわからない。
「じゃ、鉄道の先駆者としてヴィスワフ子爵は何をしたらいいのかしら」
マキウス様に問うてみた。
「もう、私の赤ちゃんソフィアがびっくりしちゃうわ。難しい話はあっちでやって頂戴。ほんと二人は仕事が大好きねえ」
エリザベス様はあきれ顔だ。
「ああ、すいません。きょうはお祝いに来たんであって、鉄道論議に来たんじゃなかったんです。エリザベス様の赤ちゃんにブレスレットを作ってあげたくって」
「まあ、嬉しいわ。この前もらった宝石、とってあるのよ」
「そうですか。よかったらそれを使って作りませんか? エリザベス様にデザイン画を見てもらいたいんですけれど」
タクランの宝石街から募ったマイストーンブレスレットのデザイン画をエリザベス様、ロレンス様、マキウス様の前に出した。
「素敵じゃない!」
エリザベス様はうっとりとする。
「ソフィアは女の子だから、こういう繊細のもいいね」
ロレンス様が指さした。
「でもシンプルな方が服を選ばないわよ」
二人で楽しそうに話し合っている。
「宝石はそのまま使って、リデザインもできるから。例えば社交界デビュー前に新しいデザインにするとかね」
「面白いわね。ブームになりそうね」
「ほんとですか。ブームになったらいいなあ」
「こういう記念になるものって、素敵だもの。みんな欲しがるわ。ソフィアの1歳のお披露目の時までにマイストーンブレスレットを作って頂戴。ブレスレットもお披露目しましょう」
「はい! ブレスレットにちょっとしたお守りをつけるといいですよね。ハトラウスの方ではまだ魔法使いがいるというので、お守り効果が付与できないかなって考えているんです」
「素晴らしいわ。対毒効果や防御効果があったら安心よね」
エリザベス様はソフィア様にほおずりする。
赤ちゃん、可愛い。いいなあ。私にも赤ちゃんができる日が来るんだろうか。ちょっと悲しくなってしまった。とりあえず、あと三年、なんとか前回の人生と違う道を選ばないと。
「マリー様?」
エリザベス様が心配そうにこちらを見ている。
「ううん、大丈夫です」
エリザベス様はマキウス様の脇腹を小突いた。マキウス様の顔がゆがんだ。痛そうである。私がぼんやりしているうちに姉弟喧嘩が勃発?
「まあまあ」とロレンス様が間に入った。
「マリー様もちゃんと幸せになれますわ。ぜったいに」
エリザベス様がにこりと笑った。
ほんと、幸せになりたいっす。がんばろう。
「今度こそ温泉旅行に行きたいから、ヴィスワフ子爵領に遊びに行くわね」
「はい、お待ちしています。マキウス様の建てたホテルは貴族の方たちに大人気なんですよ。温泉施設もついていて、のんびりできます。町の宿屋も自慢なんです。平民用の温泉施設があったり、ちょっとお高めの宿屋ならば個室のお風呂に温泉がひいてあります。エリザベス様たちが滞在されるなら、うちの屋敷にどうぞ。ホテルは衛兵もしっかり配備していますが、うちの屋敷の方がゆっくりできるかもしれません」
結婚してエリザベス様はあっという間に妊娠されたので、ずっとヴィスワフ子爵領に遊びにくることができなかったの。今度こそ、うちに来れるかしら。
鉄道がうまくいきはじめ、我が家も改修工事をした。屋根や壁がもう限界だったしね。それから元の屋敷の他に別邸を一つ建てました。内緒なんだけど、元の屋敷、つまり旧邸に私たち家族は住んでいるんだ。一応別邸が本邸ということになっているんだけど、旧邸の方が過ごしやすいんだよね。アルフレッドお兄様が結婚されたら、別邸を本邸にすればいいと家族会議できまったの。別邸はゲストルームがたくさんあるから、エリザベス様とロレンス様とソフィア様が遊びに来ても大丈夫なばず。
「楽しみね」
エリザベス様とロレンス様は微笑んだ。
家族旅行かあ、素敵だわ。
ニコニコ笑っていたら、マキウス様が恨めしそうに見ていた。
「よかったら、マキウス様もぜひ?」
誘わなかったから、拗ねているのかもしれない。あわてて付け足すと、
「面白いわねえ」
エリザベス様がほほほと笑った。
「ぜひに」
マキウス様はにこりと微笑んだ。ちょっと怖かった。
エリザベス様からの依頼を受けたマイストーンブレスレットはすぐに仕上げられ、さっそくエリザベス様にお届けした。
とっても喜んでもらったよ。
育児で屋敷にこもりっきりになってしまったエリザベス様に時々呼び出されて、お茶をするようになった。前の人生では貴族の友達なんて一人もいなかったから、嬉しい。領地経営もうまくいき始め、ちょっと余裕ができたからね。遊んでもらえてよかったなと思う。お茶会にはときどき私以外のお客様もいらしていて、エリザベス様が御知り合いのご令嬢を紹介してくれるの。タクランの町や宝石を売り込んでいる。
生後半年のソフィア様はマイストーンブレスレットがお気に入りらしい。お出かけ前に着けてもらうとご機嫌なんだって。
幸せを運ぶブレスレットと高位貴族の間で噂されているらしい。最近タクランの温泉に入って、そのあと宝石街でマイストーンブレスレットを注文していくお客様が増えているのはそのせいだったのかと初めて知った。
エリザベス様、ソフィア様、ロレンス様。ありがとう。
本日もエリザベス様にお茶に誘われてまいりました。
「きょうは二人きりなのでのんびりなさってね」
エリザベス様と二人と聞いて嬉しくなった。他のご令嬢がいるとやっぱりいろいろ話せないものね。それに二人だけって仲良くなったって感じするじゃない?
「そうそう、マリー様? 私の乳母の姪っ子がね」
ううん? なんだかずいぶん遠い関係に聞こえるけど。
「乳母の姪っ子はメアリーっていうんだけど、私と歳が近いからよく話し相手として遊んでいたの。幼馴染ってことね」
エリザベス様がティーカップを持ち上げる。
「そうなんですね」
「メアリーは今新聞社で働いているの」
「すごいですね」
メアリーは王都の小さい新聞社で女性記者として働いているらしい。優秀らしい。タクランの町を特集したいんだけど、私を紹介してほしいと頼まれたんだって。
「ええ、もちろんです。取材、大歓迎です!」
私はもろ手を挙げて喜んだ。宝石街を広告しなきゃって思っていたから、グッドタイミング。
「ちょうど10日後に宝石デザインコンテストとファッションショーをするんです。王都の商工会みたいに大きいところではないんですけれど、タクランの商工会の建物で」
「いいわね。面白そう。メアリーに伝えておくわ」
エリザベス様は満足そうに笑みを浮かべた。
タクランの町の特集を組んでもらえたら、もっと温泉に来たい人が増えたり、トレジャーハンターに参加したいって思ってもらえるに違いない。
2回目の人生はいいことがいっぱいだ。
死に戻ってよかったとつくづく実感したのだった。
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