インフルエンサー
なんだか私は忙しい。
なぜだろう。なぜかしら。
うーん。心が忙しいのは借金返済ができるか不安だから。
身体が忙しいのは、貧乏だから。
現在、タクランの商工会に来ている。
この前は駅のお弁当販売で訪れたけど、きょうはタクランの町を再開発しようと提案するところ。
ちなみに駅のお弁当販売はうまくいった。制服も可愛いと評判。えっへん。
アリアとか、若い子たちは着崩してセンス良く着ているらしい。おじちゃんおばちゃんたちも清潔感があるからいいと言ってくれたよ。
そうそう、あと、この制服は目立つみたい。タクランのお弁当屋さんって一目でわかるからと お客さんも間違って購入することがなくなったって。タクランの美味しいものをたくさん食べてほしいものね。
お弁当の包装紙は今作っている。この再開発が進んでから包装紙を決定するつもり。順調です。さて、マンタ会長が来たわ。
相変わらず応接室のソファがきつそう。マンタ会長はガタイがいいからね。ソファが壊れないか心配だけど、壊れたことはないって商工会の事務員のサラが言っていたよ。
「タクランの町を再開発したいと考えてるわ」
「なるほど。町の人たちにはそれなりに役に立っていると思いますが。いまのタクランの町では不満があるのですね?」
「ええ。だって、それなりだから、町の人たちは王都で買い物してくるわよね」
マンタ会長は黙ってしまう。たしかにね、現状でいいっていう人もいるかもしれない。でも、温泉街をタクランの奥に作るんだよ? このままでは温泉街だけ栄えて、タクランの町はドンドン寂れてしまうと思うの。
「たしかに温泉街も作るということだから、ついでにこっちもっていうのもわかるんですが……」
マンタ会長は口ごもる。
「資金の問題は私が何とかします」
今の借金に10億ガロン増えても、この際一緒。いや、違うと思うけど。巨額の借金していると、多少増えても動じないというか。そうなっちゃうのよ。
「マリー様は、この町をどうなさりたいんで? 失礼ですが、まだお若いし、結婚したらこの領地をお離れになるでしょう?」
確かにね。そういわれたらそうなんだろう。でも、私は死に戻りです。そして婚約解消されたばかりの末端貴族令嬢。たぶん結婚は当分できない。もしかして一生できないかもしれない。それにお兄様が帰ってきたらヴィスワフ子爵家をお兄様に引き継ぐから大丈夫。お兄様がちゃんとこの町を立て直す。仮に私が結婚したとしても、この町のことは忘れないし、この町のために働いていくつもり。マンタ会長に死に戻りの話はできないけれど、私のあとはお兄様がすべて引き継ぐと言ってみた。
「そうですか。次期領主さまが引き継ぐなら、いいかもしれませんね」
マンタ会長が渋々うなずいた。
「具体的にはね、宝石をメインにした街づくりをしたいの。生鮮食品や日常雑貨のお店はそのままで、開いている店舗もあったでしょう? 工房の販売拠点みたいな感じで店舗に入ってもらいたいの。表に出てこないと、一般の人が気軽に宝石が買えないでしょ?」
「そうですなあ。いままで工房の取引先はいつも商人と決まってましたから」
「せっかく腕がいいんだし、細工もうまいんだから、しっかり販売もすればいいのよ。販売で使う人材は、この町の若い人がいいと思うの。職にあぶれ、仕方なく採掘場で働いているひともいるでしょ? 鉄道工事もあと少しで終わるわ。鉄道工事の人たちは職が無くなってしまうでしょ。ここに残る人にはどんどんチャンスをあげてほしいの」
「なるほど。若い人は刺激を求め、王都へ行ってしまいますからな。宝石の販売や店舗の経営など任せてもいいかもしれません。もちろん商工会としてきっちり教育しますけどな」
「ありがとう。鉄道の工事はあとはタクランからマイミア山駅までだからね。工事夫たちもきっと内心は不安だと思うのよね。もちろん鉄道工事があちらこちらの領地に普及していくことを考えると、工事夫としてずっと働くこともできるとは思うの。鉄道会社を作って、いずれ鉄道工事部門で工事現場に人を派遣するというのも考えたいのよね」
私が一気に計画を話すと、マンタ会長は目を輝かせた。
「せっかく工事夫として経験を積んだのだから、それを生かすってことですな。いいと思います。設計技師や監督などもったいないですから。ヴィスワフ鉄道株式会社を設立しましょう」
「マンタ会長に鉄道会社の運営は基本的に一任します。何かあったら屋敷に来てちょうだい。私もまめに商工会に顔を出すつもりよ」
マンタ家長と私は笑みを浮かべ、お茶をすする。
「さて、またタクランの町の話に戻しましょう」
マンタ会長は口角をあげて私の顔を見た。
「宝石街を作り、宝石の加工や作っているところが見えるようにしてもいいとおもうの。工房を表通りに引っ越して来てもいいという工房を募ってみて。引っ越しさせたくない工房は表通りに小さい販売所を作るといいわね。最初は難色を示すと思うけど、うまく説得して頂戴。表通りに店があるとないとでは売り上げが違うわ」
「そうですな。そういう商売が下手な連中ですから、効果を説明しないといけませんな」
マンタ会長は口ひげをいじる。
「それにね、宝石のデザインコンテストやショーを毎年開催したいと思うの」
「お金がかかりますが……。ヴィスワフ子爵家がすべて出すので?」
マンタ会長は心配そうだ。
「それは、鉄道会社がうまくいく予定ですからね。出せると思うのよ」
私はにっと笑った。
「ふむふむ。鉄道会社はつぶれることはないですからな。他国ではずいぶん鉄道網が敷かれたと言われています。わが国もいずれそうなる」
「ええ。鉄道がいたるところに敷かれ、人も物流が変わるわ」
「わかりました。鉄道事業が本格化する前に町おこしをしましょう。温泉街の方はどうなっているのですか?」
マンタ会長は心配そうだ。
「マキウス様が、ええと、ベラルント銀行とベラルント伯爵さまが応援してくださるって。ヴィスワフ子爵として、宿屋や飲食店を建てるものを補助するつもり」
「鉄道工事夫として働く者にとっては僥倖ですな。選択肢が増えますから」
「ええ。そう思うわ。好きな職業について一生懸命働いてほしいもの」
「本当にうちの領地はよい指導者を持った」
マンタ会長がほっとしたようにうなずく
「そうなるようにがんばるわね」
「ああ、そうだ。きょうトレジャーハンターのコースで採れた原石があるんです。こちらをヴィスワフ子爵様へお持ちください」
「うわ、大きいですね」
「なかなかでないサイズです。サファイアだと思います」
マンタ会長は近くにあった新聞紙で包んでくれた。
マンタ会長とはうまく話がついてよかった。
新聞に目をやると、んん?
「あれ、なんか面白いこと書いてありますね」
「ああ、王都の新聞です。未来の王国と題して、この国がどう変わるか論じているんです。貴族制度が廃れるなど書いてあるので、面白いことは面白いのですが。この記事を書いた記者は急先鋒すぎやしないかと年寄りとしては心配です」
「ハトラウス王国はだいぶ貴族制度が崩れてきていると言いますから」
読んでみたい記事だわ。ヴィスワフ子爵家以外の人でもいまのこの国を憂いてるってことだもの。
「よかったら、こちらをどうぞ。数部取り寄せてあるので」
マンタ会長が私に王都の新聞をくれた。
意外に緊張していたみたいで馬車に乗るとぐったり。ようやく一息付けた。ビジネスってほんとうに大変ね。
しかし、宝石街をつくるとなると、宝石街を周知させるきっかけが必要だわね。
まだまだ考えることがいっぱいだ。
メモ帳を取り出し、宝石街に人を呼ぶには? と書きなぐる。うーん、どうしたらいいんだろう。コンテストやショーをただやっても人は呼べない。広告を打つしかないかしら。
ぐりぐりと二重丸で囲み、眉根を寄せた。
数日後。エリザベス様とロレンス様から結婚式の招待状が来た。「結婚式をするけれども、マリー様は出席しづらいだろうから、出席しなくても構わない。ただ私たちはきちんとマリー様に報告したかったの。いつまでも仲良くしてほしい」とお手紙が添えられていた。さすがエリザベス様である。ロレンス様だけではここまでの気遣いはできないだろう。うんうん。
私もエリザベス様の人柄に惹かれているし、マキウス様とも親しくさせてもらっている。ベラルント銀行にもお世話になっているしね。だからこれからもお付き合いさせていただけたらいいなと思っている。エリザベス様が元婚約者の私を気にしないなら、それでいいということにした。仲良くしたいしね。
結婚式に出ないけれど、何かお祝いは渡したいな。
何がいいだろう。エリザベス様が欲しいものがいいよね。それともこれから必要になるものとか?
ベラルント伯爵家はお金持ちだからなあ。うちが差し上げられるようなものかあ。うーん。ウェディングドレスを着た時のアクセサリーは、きっともう決めているだろう。
そうだ! いいことをおもいついちゃった。
加工していない宝石。エリザベス様の瞳の色である青とロレンス様の水色の石をプレゼントしましょう。サファイヤの濃い青色はエリザベス様、ブルートパーズはロレンス様を表すのにピッタリよ。
赤ちゃんが生まれたら、両親から加護をつけたブレスレットに仕立ててもいいし。エリザベス様とロレンス様自身のアクセサリーを仕立てるときに使ってもらっても構わない。加工代も私が持つと一筆入れておく。タクランの町で作ってもらえればいいしね。
後日、エリザベス様とロレンス様からお礼状が届いた。喜んでもらえたみたい。エリザベス様から他の宝石もみたいからうちに来てとお誘いがあった。
忙しいのにいいのだろうかと思いながらも、手紙を向けると、是非にと返事が。急いでベラルント伯爵家に伺うことにした。
できるだけエリザベス様のイメージにそったネックレス、イヤリングのセットと、カットされた石、原石ももっていく。
「加工されてないものを見るのって、新鮮でいいわ。こういう原石や磨いたものを加工券と一緒にプレゼントされて、驚いたし、嬉しかったの。自分でデザインするのってワクワクするしね。王都の何て言ったかしら、アッタラマ会とかというところからもうちのほうに来てくれるんだけど。やっぱりタクランの宝石、マリー様のところのほうが質もセンスもいいわ」
エリザベス様は微笑んだ。
「ありがとうございます。実はタクランの町で宝石の新作ショーやデザインコンテストをしようと思っているんです。もちろん職人でなく、遊びに来てくださった方でデザインしていただいたものもコンテストに出すことができるんです」
アッタラマ会かぁ。ベラルント伯爵家まで出入りしようとしているとは思わなかったな。エリザベス様は気に入らなかったみたいだし、マキウス様もいるからトラブルになってはなさそうだけど。
「面白いわね。貴族令嬢の中でも宝石に興味がある方は多いでしょうし。いいと思うわ」
「ありがとうございます。自信がつきました」
エリザベス様に褒められて、なんだか力が湧いてくる。
「そうだ、タクランの町で作られたネックレス、イヤリング。こちらを今度のお茶会でつけていきますわ。きっと話題になりますわよ」
エリザベス様はいたずらっこそうな顔になっている。高位貴族の集まりがあって、結婚の報告をしに行くんだって。大変そうだ。
ありがとうございます! タクランの町の宝飾品をつけていって大丈夫なんだろうか。
「マリー様、自信を持って。タクランの町の職人技は悪くないわ。デザインも素敵。認知度が低いだけよ。もったいないわね。ついでにヴィスワフ子爵家とも円満だとアピールできるし、いい機会よ」
エリザベス様、強い。すごいわ。
宝飾品をほめられて、自分がほめられたかのようにうれしい。誇りに思えてくる。
ロレンス様もニコニコ笑っている。よかったね、ロレンス。幸せになってね。
「そうだ、今度ヴィスワフ子爵家の鉄道に乗ってみたいと思っているんだ」
「ええ、私も乗ってみたいの」
ロレンス様とエリザベス様が瞳を輝かせている。
「嬉しいですわ。大歓迎です。タクランの町にぜひ遊びにください」
「もし乗るとしたら、何時の列車がいいんだい?」
「そうですね。朝一番は混むので、お昼前の列車なら空いているので、おすすめです」
エリザベス様とロレンス様が遊びに来てくれるらしい。ロレンス様はうちの領地によく遊びに来ていたけど、エリザベス様は初めてだ。いっぱい見せてあげたいものがある。結婚式後になるだろうけれど、お会いするのが楽しみになった。
数週間後、無事結婚されたエリザベス様からお手紙が送られてきた。例の高位貴族のお茶会でタクランのネックレスやブレスレットがすごく評判になっていたという。はやくタクランの町を再開発してオープンさせた方がいいわよと教えてくれた。
よし、がんばろう!
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