誘拐後編
ちょっと格闘シーンあります。苦手な方はお気をつけてください。タイトル、ちょこちょこ変えてごめんなさい。ピッタリくるものを検討中です。
停車場でベラルント伯爵の紋章の付いた馬車に乗ろうとしたとき、馬に乗ったベラルント伯爵家の使用人がマキウス様に声をかけてきた。顔が真っ青で息を切らしている。
「緊急です。マキウス様、至急お屋敷にお戻りください」
「何があった?」
マキウス様の顔に緊張が走った。
ベラルント銀行そばにいつも馬車を停めておくのだが、そこに見慣れない馬車がとまっていたので、仕方なく少し離れたとろこにきょうは馬車を停めたらしい。帰り際にエリザベス様が馬車まで歩いていたら、貴族街との境の路地にサッと連れ込まれたというのだ。いつもなら銀行から出てすぐのところに馬車があるから、侍女はつけていたけれど、護衛はつけていなかった。エリザベス様を守ろうと侍女が抵抗したのだが、殴れて骨を折ったらしい。男たちにエリザベス様は連れられていき、侍女はほうほうの体で逃げ出し、ベラルント伯爵へエリザベス様が攫われたと伝えたという。
「馬車の特徴は?」
「黒塗りと聞いておりますが、紋章はつけてなかったと。ただ造りが豪華で、カルカペ王国のものではなさそうだったと聞いております」
「なるほど」
「姉上が狙われるのはこれで三度目だ。護身用に魔石をもっているはず。居場所はすぐにわかるだろう。黒塗りの豪奢な馬車か。カルカペやハトラウスでは黒塗りの馬車はあまりない。黒塗りを好むのは帝国だが……」
マキウス様が眉根を寄せた。
「探しに行ってください」
「だが、マリー嬢を送っていかねば」
「大丈夫ですよ、私のことは。一人で帰れます」
マキウス様のところの使用人をみる。
「ホテルまでお送りします」
「ね?」
マキウス様は苦笑いする。
「すまない。最後まで送れなくて。この詫びは必ず」
「はやくエリザベス様を助けてください。よろしくお願いします」
マキウス様は使用人が乗ってきた馬にまたがった。
私はひとりで馬車に乗ることになった。貴族街のホテルに向かって走り出したようだ。
広い車内に一人でいると、エリザベス様のことが気になって仕方がなかった。きっとロレンスも駆けずり回っているだろう。でもマキウス様もいる。きっと大丈夫だ。犯人は誰なんだろう。帝国がらみなんだろうか。
目を閉じて、エリザベス様のご無事を祈っていたら、急に馬車が停まった。着いたのかとおもい、カーテンの隙間から外を見るが、景色が違っている。
「どうしたの? ここはどこ?」
御者に声をかけるが、返事はない。
なんか嫌な予感がします。気のせいならいいのですが。仕方がないので馬車から降りてみると、知らない場所に着いていた。
ここはどこ? ホテルはなさそうね。
細い道の先には小さな小屋がある。粉ひきの小屋に見える。ええええ? まさか私も攫われた? ショックなんだけど。王都での知り合いなんてエリザベス様とマキウス様しかいないし。まあ、ハトラウス王国の第6皇子カノイ様もいるけど。なんならこの国のアストロ王子も知っているけど。
私を探してくれそうな人と言えば、やっぱりマキウス様しかいない。でもエリザベス様も攫われているしな。人生詰みました。
さて、どうしようか。
牧歌的な風景を前に立ち尽くす私だった。
「おい、おまえ」
お前呼ばわりされている。やだなあ、そういうの。ぜったい荒事が得意そうな野性的な男たちがいるに違いない。殴られたりするんだろうか。痛そうだなあ。力はあまりないんだよ、女だから。多勢だったら体力的に負けるかもなあ。
これからのことを考えると、ブルーな気持ちになる。
「手を後ろに回せ」
やっぱり髭面でガタイがいい男3人が私の周りを囲む。
「貴族のお姉ちゃんか。若くていいな」
「味見しちゃいかんだろうか」
男たちが会話する。
「用事が住んだら好きにしていいとさ」
好きにしていいとは何ぞや。全く持って嫌な予感しかない。今日は厄日なんだろうか。
小屋の地下に押し込められる。
水車が回っているせいか、うるさいし、少しじめッとしているけれど、いられないほどではない。明り取りように小さな窓があるので、真っ暗でないのが幸いだ。
部屋には先着のお方がいるみたい。
「静かにしとけよ」
「そうすりゃ、生きてはいられる」
男たちは捨て台詞を残して、上へ移動していった。
「こんにちは」
先着のお方が顔をあげる。私からは見えないが、服装の影からみて、女性に見えた。
「ま、マリー様?」
んん、その声は。
「エリザベス様!?」
「よかった、無事なのね」
エリザベス様は駆け寄って抱きしめてくれた。
「はい。エリザベス様はお怪我とかありませんか?」
「うん、大丈夫。きっとマキウスが助けてくれるわ」
そういって胸元のペンダントを握りしめた。
「それは、魔石ですか?」
「よくわかったわね」
「マキウス様がお話ししてくださいました。魔石を頼りに探すと」
「そう、では待っていればいいわね」
エリザベス様は微笑まれる。こんなところにいてもエリザベス様は美人である。明り取りの窓からの光でエリザベス様は絵画の中の美女のよう。うっとりとみていて、気が付いた。
「エリザベス様、すいません。ドレスの色を変えてしまいました」
「え? もしかして、王妃のドレスの色が違っていたの? そんなことはないはずなんだけど」
「ええ。黄色で、濃淡は違ったんですが。不敬にあたりそうになり、マキウス様に隠してもらったりはしたんですけど。たまたまハトラウス王国の第6皇子のカノイ様もお茶会に飛び入り参加しまして」
「ああ、カノイ様ね。魔力があるから魔法で?」
「はい。そっと青のグラデーションをドレスにかけてくださったのです。ただ、この色、落ちないらしくって。エリザベス様に申し訳なく。ドレスはあとで弁償させてもらいますから」
「あら、いいのよ。そのドレスは差し上げたのだから。それよりお腹が減りません?」
エリザベス様はからからと笑った。
「そういえば、お茶会が終わった時、すこしお土産にとお菓子を持たされたのです。いかがですか?」
「まあ! なんてすばらしいタイミング」
エリザベス様はうれしそうにされた。
二人でマカロンを食べると、なんだか気力が満ちてきた。甘いモノ、ばんざい。
「王城のお菓子職人は腕がいいんですねえ」
「これ、貴族街のサイレイ店のものじゃないかしら」
「そうなんですか! あそこのお店、有名ですよね」
「ケーキもおいしいの。うちの料理人のスイーツもおいしいけどね。そうそう、お店の雰囲気もいいわよ」
今度王都にきたとき、偵察しに行きましょう。温泉街にカフェ計画です。
「エリザベス様、男たちの人数ってわかります? 私のときは3人だったんですけど」
「ええ。私の時もさっきの男たち3人よ。あいつら、帝国の奴らよ。だって帝国語なまりしていたもの」
「誰に雇われたんでしょう?」
「帝国かしら。それともカルカペ王国内の誰か? ベラルントは敵が多いから正直誰が犯人か捜すのが大変なのよね。ただ、今回はマリー様もご一緒だから、おそらく……」
「おそらく?」
「帝国かしらね」
どうして帝国がでてくるのだろう? ヴィスワフ子爵が取引している相手で帝国の人はいなかったはずだ。帝国とは正確にはポルケッタ帝国というんだけど、大きな国でこの大陸の1/3を占めている。弱小カルカペ王国のちっぽけなヴィスワフ子爵に何の用事があるんだろう。
「ヴィスワフ子爵様の話題といえば鉄道だから、鉄道の利権かしらね」
エリザベス様は腕組みをされた。
まだうちの領地でさえ鉄道を敷き終わっていないのに。もう利権争いですか? びっくりなんだけど。
「鉄道で世界が変わるからね。ポルケッタ帝国でも鉄道が走り始めているって聞いているわ。鉄道の効果を身をもって知ったのよ。それでヴィスワフ子爵の進めている鉄道に興味があったのね」
興味があるから誘拐ってすごいんですけど。ちょっと恨んじゃおうか。おまけにエリザベス様まで誘拐って、ひどくない?
「でも、エリザベス様も攫われたのは?」
「おそらくヴィスワフ子爵と取引しているからでしょう。マキウスもお父様も鉄道事業に賛成しているし、邪魔だったんだと思うわ。孤立したヴィスワフ子爵に帝国が手を差し伸べる。そして帝国が鉄道から上がる利益を吸い取るという計画だったんじゃないかしら」
なんてこった。そんなこと考えるやつがいるんだ。びっくりである。
目を丸くして驚いていたら、
「ハトラウス王国の第6皇子のカノイ様も同じように考えると思うわ。鉄道の資材はマノカノ商会にしたんでしょ?」
「はい。カルカペ王国で取引してくれるところが、マノカノ商会しかなかったんです。アッタラマ会はお近づきになれませんでした。マノカノ商会はハトラウス王国の支店らしいですね」
「カノイ様もまさか自分のところに来るとは思わなかったみたいね。ハトラウス王国に報告の密偵を出されていたわ」
エリザベス様、なんでも御存じなんですねえ。怖いです。
「やだ、そんなにおびえないで。うちはベラルント伯爵家でしょ? カラスというか、ホークがいるのよ」
「カラス? ホーク?」
首をかしげる。なんだろう。
「ようは探りを入れる密偵ね。うちの密偵をホークって呼んでるの。ちなみにカラスって呼んでいるのは王室」
エリザベス様が口角を上げた。そんな密偵なんて、物語のことだと思っていた。
「そろそろ助けに来ないかしら。飽きてきたわ」
「じゃ、外に出ましょうか?」
私の言葉にエリザベス様が目を丸くした。私でもエリザベス様が驚かせることができるんだと嬉しくなった。小屋の外にでて、しばらくすればマキウス様に出会うだろう。
縛られていた後ろの手からロープを外す。これって縛られるときにコツがあって、ロープを外しやすくできるんだよ。うまく縄が外れたので、エリザベス様のロープも緩めてあげる。
エリザベス様は両手を上に挙げて、伸びをした。
私はドレスの裾をたくしあげると、護身用のナイフを取り出した。ちなみに女性の護身用には短刀を持つ人が多いんだけど、私はナイフが好き。いろいろ細かい作業ができるから。
ドアの蝶番を少し緩める。
「ちょっと大きな音がします。エリザベス様は下がっていてくださいね」
私は二、三歩下がって、勢いをつけてドアを蹴り上げた。
バン!
勢いよくドアが開く。
一階にいる男たちが「なんだ! 地下を見てこい」と怒鳴っている。
肩を回し、足の力を抜く。首を軽くまげて、トントンと飛び跳ねる。からだが固まっているかと思ったけど意外に大丈夫そう。
領地で一応体術を習っておいてよかったわ。うちの領地は交易をしているから、どうしても荒っぽい男たちが集まってくるのよ。だから、念のため女性でも戦えるよう体術など身につけさせられているんだよね。
ちなみに領地の女性たちもそういう輩が来たとき、時間稼ぎができるくらいにはできる。実際事件を起こす人は少ないけどね。それに領地の男性たちもある程度自衛できるように鍛錬もしている。今のところハトラウスとは仲がいいから大丈夫だけど、国境地帯ではあるからだ。カルカペ王国の軍がここまで来るまでにうちの領地は蹂躙されているだろうから、自衛は大切なのだ。
というわけで、いっきます!
階段は私が下なので、階段で戦うのは不利。一気に駆け上がって、一階に出る。男たちは私の顔を見るとニヤリと笑った。
剣を片手に振り回してくる。相手の間合いに素早く入り、膝を落とし股間に蹴りを入れる。三人一気にかかってこられると面倒だ。連携を取られる前に片をつけよう。
背中から羽交い絞めされそうになる。後ろから首を絞められたので、相手の腕を両手で持って、あごにいれる。それから相手のふくらはぎに自分の足をかけた。
やれやれ。ちょっとつかれたわ。
一階の扉を開けて外に出る。誰も助けてくれそうな人はいなかった。一人も道を歩いていないなんて、不幸だわ。
もう一人が短剣を向けて襲ってきたので、さっき縄ぬけした縄をむちのようにしならせる。男が近づいてきたので、縄でたたいてやったら、存外痛かったらしく、しゃがみ込んでしまった。男たちを縄で一人ずつ縛り上げているところにマキウス様が馬で駆けつけてきた。
もうちょっと早く来てくれれば疲れなかったのに。とは言わなかったよ。
「爽やかな汗みたいにぬぐっているけど、やっつけたのはマリー嬢か?」
マキウス様の顔が引きつっている。
「はい。あ、エリザベス様も無事ですよ」
「何もされなかったか?」
マキウス様は私をギュッと抱きしめる。
マキウス様の鼓動が早いのが分かる。相当急いできたのだろう。身体が熱かった。ふんわりとマキウス様からミントの匂いがした。
「マキウス様、私は大丈夫です。ケガもありません。エリザベス様もケガはありません」
「マキウス!」
エリザベス様も一階に出てきた。
「ちょっとマキウス、マリー様から離れなさい」
「いやだ」
「いやだじゃないですから。マリー様に失礼でしょ」
「心配したんだ」
「私の心配ではなかったのかしら」
エリザベス様がため息をつく。
「姉上の心配もしたけど」
「マリー様、弟がご迷惑をかけますが少々我慢してくださいね。そうだ、二人とも婚約すればいいのよ。マキウスもフリーだし。ね?」
エリザベス様、「ね?」じゃありませんよ。婚約って大変なんですから。
マキウスの胸板を二、三回バシッと叩いていたら、ようやくマキウスが腕の力を緩めてくれた。
「そうですね。婚約しましょう」
どうしてこうなった?
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