誘拐前編
ちょっと格闘シーンあります。苦手な方はお気をつけてください。
初めての王城だ。ドキドキする。
ちなみに私、いちおう子爵令嬢だが、社交界デビューはしていない。
貧乏で下位貴族にとって、社交界デビューしてもメリットがないし、カルカペ王国では強制ではないのよ。ぶっちゃけドレスを作って、王都まで馬車を借りるよりは、領地で誰かが生活に困っていないか視察していた方がいいと思ってしまったんだよね。その時ちょうど大雨で橋が壊れてたし。婚約者いたし。ここ重要。今いないけど。
王立学園は卒業させてもらったし、貴族のご子息の集まりがどんな感じなのかもわかったし。でも、こんなことになるなら、デビューしといたほうがよかったのかもしれない。ここ重要ね。
王城でのお茶会をデビューにカウントしたらダメだろうか。ダメだよね。あれはデビュタントは夜のパーティーだったはず。やれやれだ。
王立学園の女子は、ご令嬢でも変わり者が多くて、同じ学年でも3人しかいなかった。女の子はそんなに勉強しなくっていいという風潮がカルカペ王国ではまだ強いのだ。女の子で勉強したいなら王立学園でなく、家庭教師がいいらしい。お金がかかるのであまり現実的ではないけどね。兄アルフレッドによると、隣国ハトラウス王国では男子も女子も18歳までみんなどこかの学校に行くらしい。そんなふうにうちの国もなればいいんだけどな。
馬車を降り立つと、石畳の上に立派な白い石で作られた城門が建てられていた。どこからこの石運んだんだろう。すごく立派だ。工事担当者に取引先と建築家を教えてほしいくらいだ。
入り口では見張りの兵が身分を確認している。怖い。何もしてないけど、ドキドキする。もしここでダメと言われたら、どうなるんだろう。お茶会に行かなくていいのかしら。
王妃からの招待状を見せると、残念ながら、見張りの兵が快く通してくれた。いっそ通さないでくれと思ったのは内緒だ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。隣には私がついています」
マキウス様は微笑んでくれたけど、心臓はバクバクしている。
「きっとおいしいものがいっぱいありますから」
マキウス様がいろいろ気持ちを盛り立てようとしてくれていますが、人買いに連れていかれる気分。
結局ドレスは、エリザベス様から黄色いドレスを借りることにした。そしてマキウス様がエスコートしてくれている。
ドレスを借りるときに
「エリザベス様はお茶会に行くんですか?」
一縷の望みをかけて聞いてみた。エリザベス様がロレンスの新婚約者だろうが、一人で行くより全然ましである。エリザベス様は私に優しくしてくれるし、美味しいお菓子とお茶をふるまってくれるし。エリザベス様に懐柔されつつある自覚はある。別にロレンスに執着ないしね。
「残念だけど、そのお茶会には誘われていないの。なんだか嫌な予感がするので、マキウスをつけますわ。マリー様、心細いでしょ?」
エリザベス様は困ったように微笑んだ。
たしかに。心細い。でもマキウス様が同伴でいいのだろうか?
マキウス様を見る。
「お任せください。完璧なエスコートをします」と言って微笑まれたのだった。とりあえず一人でないのは嬉しいけど、お茶会に一緒に出席していいのかは謎である。恋人認定とか、婚約者内定とか、婚約候補とか、婚約者とか思われるんじゃなかろうか。
いいのか、マキウス様?という意味を込めて確認する。
「よろしいのですか?」
いろんな意味を込めて聞いてみた。ここ大事。
「もちろんです。マリー嬢とご一緒できるなんて光栄です」
いいらしい。本人がいいっていうんだから、いいんだろう。後悔しても知らないよ? 私としては一人よりましだもんね。
前回の人生では独り者だったから、今回の人生も恋愛フラグはないはずだもん。たぶんマキウス様にご迷惑はかけないだろう。ということで、現在、マキウス様と一緒に王城に踏み入れた。
エリザベス様によると、お茶会の王妃様のドレスの色は緑らしい。ドレスの色がかぶらないようにするのがマナーらしいよ。言われてみれば当然だけどね。同じ色とか、気まずいもん。
お茶会と通された場所は、王城自慢の温室だった。
さすが王城。手入れがしっかりされていて、葉一枚落ちていない。すばらしい。庭師がきっと命を懸けて綺麗にしたに違いない。うちの庭師兼御者も上手いけど、さすがである。
「マリー・ヴィスワフでございます。この度はご招待いただきありがとうございます」
淑女の礼をして、王妃の顔を直接見ないよう頭を下げる。
「そのほうが、マリーか。なるほど。顔をあげよ。で、そちらは? 見たことのある顔だ」
マキウス様は王妃様にお目通りしたことがあるらしい。
「マキウス・ベラルントでございます」
「ああ、王宮議会のベラルントか」
「はい。マリー嬢のエスコートとして参りました」
王妃は面白くなさそうな顔をした。
え? 付き添い、ダメだったんだろうか?
王妃様の顔をちらっと見る。
王妃は鉄壁の笑顔になった。
「まあよい。アストロ、こちらへ」
すると、木陰からアストロ王子がやってきた。前回の人生でも会ったけど、アストロ王子は相変わらずアストロ王子だった。色白で細身ながらしっかりした体躯。美しい銀の髪にブルーの瞳。一見冷たそうに見えるけど、前回の人生で言わせてもらえば、やっぱり性格は冷たかった。今度はどうか知らないけど。ぜったい近寄りたくない人だ。帰ってもいいかな。
「これはこれは。マキウスではないか。隣にいるのはマリー・ヴィスワフか。王城に来たことがなかっただろう? どうだ、城は」
アストロ王子は楽し気に声をあげたが、口元はすこし歪んでいた。やっぱり面白くないらしい。マキウス様とはお知り合いらしいし、私がもしかして邪魔だったのか? んん、ヤバいかも。王妃のドレスの色が濃淡は違えど黄色だ。なんでそうなった? エリザベス様が間違えたということはないと思う。だって、お友達だもん。
「はい、立派な城で驚きました」
とりあえず当たり障りのないように答えておく。それからそっと一歩引いて、マキウス様の背中に半分隠れるようにする。
ドレスの色が若干かぶった。失敗したあ。冷や汗ダラダラである。でも王妃様は気にしてなさそう。とっとと退散せねば。
王子がこちらを見つめるので、居心地が悪いんだけど。
んん? 私を見ているわけじゃなさそうだ。まだドレスの件が問題にはなってないみたい。
王子とマキウス様を見比べる。
うん、アストロ王子はマキウス様を見ている。それはもう熱心にみている。やはりそうに違いない。マキウス様も王子に負けないくらい美男子だからな。群青の髪に群青の瞳。たしかに王子と並ぶと美しさ二倍。よくお似合いである。王妃様はこの二人をくつけたいのかもしれない。
庭先がふいににぎやかになった。
「困ります。ここは現在王妃様がいらっしゃっているので、開けないでください。ああああ」
案内役の悲鳴が。
「少し覗くだけだ」
なんだかもめている。
お茶会の参加者なのかしら。
王妃が入り口を見ると、扇を取り出した。
「おおお。これはハトラウスのカノイ様」
「王妃さまのお茶会でしたか。あまりにもみごとな温室だったので、おもわず足を踏み入れてしまいました。失礼しました」
「せっかくいらしたのだから、ご一緒にいかがですか? ここは温かいでしょ?」
王妃は口元を扇で隠しながら言った。
ぜったい嫌がっているよ。私でもわかる。
「そうですか。ありがとうございます」
カノイは純粋に喜んだ顔をして見せた。
こいつも絶対嘘だ。わざと邪魔しに来たに違いない。黒い笑み対決はカノイが押し切った。
カノイは私の方を見て、目配せする。ええと、もしかして、カノイも王子とマキウス様狙い? これはすごい三角関係。
キラキラした目で見ていたら、マキウス様にギロッと睨まれた。
すいません。
カノイと言ってはいけないよね。カノイ様か。カノイはハトラウス王国の第6皇子だからね。
カノイ様に対し、私は淑女の礼をする。カノイ様がそっと耳打ちした。
「ドレスの色、変えてあげようか」
「そんなことできるのですか?」
「僕は魔力があるからね」
カノイ様はウインクすると、私のドレスの裾に青色をいれる。それから全身に黄色から青になるようにグラデーションをかけてくれた。ぱっと見の印象は黄色っぽいけど黄色ではないドレス。これなら少々王妃の機嫌を損ねるくらいだろう。
マキウス様とアストロ王子は二人で何か話していて、王妃様も二人の様子を見つめていたため、カノイ様の魔法に気が付いていない。
カノイ様に感謝だ。ほんと、不敬とか言われたら、ここで人生詰むところだった。
マキウス様とアストロ王子は、なんだかケンカしているようにも見える。もちろん殴り合いではなく、黒いオーラを出しながら、視線と穏やかな口調でのケンカだ。マキウス様、大丈夫なのかな。私をエスコートしてくれたばっかりにトラブルになっているようなら申し訳ない。
「あの、他の方は……」
せめて王妃様の気をそらすために、思い切って声を出してみた。
「今日はマリーしか招いてない」
なんでですか? どうして? えええ?
目が白眼になる。いかん、気が持っていかれるところだった。
「そのほう、ドレスが変わったか? 黄色だったと思うが」
「いえいえ、変えておりません。王妃様のドレスはとても凝っていらして大変美しいですね」
とりあえずほめてみた。ドレスの色が少し変わったのがバレたようだが、王妃は小首をかしげるだけにしてくれた。よかった。これで人生が終わらなくて済む。カノイ様ありがとう。
王妃は目を細めて、扇を仰いだ。
「ヴィスワフ領では鉄道事業が順調のようだな」
「はい。いろいろ手探りですけれど、がんばっております」
鉄道事業、やってるけど。王妃様が興味を持たれることなんだろうか。もしかして、私のことを呼んだのは鉄道事業の件? 怖いんだけど。
「その方、婚約が解消されたばかりと聞くが、誰か候補はいるのか」
王妃、直球勝負だ。丁寧に不敬がないよう答えねば。
「いえ、おりません」
「マキウスがエスコートしておるが……」
「マキウス様とエリザベス様には懇意にさせていただいておりますから」
王妃様は「ふむ」といってアストロ王子を見た。
「アストロと温室を見るがいい」
王妃様がほほ笑んだ。
ええええええええ。王子とですか。それは勘弁してください。泣きたくなってきた。
「では私もお付き合いします。エスコートの責任がありますので」
マキウス様、ありがとうございます。
マキウス様は微笑まれる。
「せっかくなので私もご一緒したい」
カノイ様が大きな笑みを浮かべた。
王妃の顔は大きく歪むがさっと扇で隠した。
「マリーはモテるのだな。王子よ」
ぼそっとつぶやくと王妃はすっと立ち上がり、退出されたのだった。
怖い。怖すぎる。どういうこと?
アストロ王子とマキウス様、カノイ皇子をみると、苦笑されている。
どうしてこんなことになったんだ?
4人でしばらく温室をぶらついた後、解散となった。もう温室どころではなかったけどね。
「マリー嬢、今度また会ってほしい」とアストロ王子からお誘いを受けたけど、マキウス様が「彼女はヴィスワフ子爵が体調を崩されており、忙しい」と私をさっと隠してくれた。
前回の人生ではアストロ王子に口説かれるということは全く皆無だったはずだ。前回の道とは全くズレているから、こういうことが起きると考えればいいことなんだろうけど。ため息がでる。
「ごめんよ。ドレスの色は元に戻らないんだ」
カノイ様が私に説明する。
このドレスはエリザベス様空の借りものなので、謝るしかない。もしくは弁償だ。うん、弁償するよ。王妃に不敬だって言われるより、ましだった。ありがとうカノイ様。ごめんなさいエリザベス様。
「大丈夫です。王妃のご機嫌をドレスの色で損ねなくてよかったです。ありがとうございました」
「王妃は君とアストロ王子をくつけたいのかもね。気がついていた? 邪魔しちゃったけど」
カノイ様がクククと笑った。
「まさか。王子とですか? でもいろいろありがとうございます。助かりました」
「いいのかい? 王太子妃になるチャンスだったろう?」
カノイ様が私の目を見つめた。
「仮に本当なら、王太子妃なんて私には向きませんからいいんです。だいたい身分だって足りませんよ? どうするんですか」
私が笑うとカノイ様も口角を上げた。
「鉄道の利権が欲しかったんだろうな。気をつけてくださいね」
カノイ様がマキウス様の肩をポンと叩く。
「もちろんだ」
マキウス様はカノイ様を見つめた。
マキウス様とカノイ様。二人が並んでも絵になるわ。うっとりと眺めていたら、マキウス様に「帰るぞ」と怒られた。
解せぬ。
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