エリザベス様のドレス
エリザベス様のドレス、借りてもいいんだろうか。複雑である。もし元婚約者の婚約者でなかったら、気持ちよく借りれたのだろうか。いや、やっぱり借りるのはなあ。どうなんだろう。もともとうちより格上のご令嬢だから、プライド云々はまた別にして、ドレスを借りるのは問題ないはずだ。
お気に入りの令嬢におさがりをあげるというのは、よく聞く話。
うーん。どうしよう。でも、私とエリザベス様は、話しするようになったばかりだし。
困った顔をしていたら、
「よかったらうちに寄って行かないか。うちの屋敷で食事をしよう。ヴィスワフ子爵様のところの料理人と同じくらい、うちの料理人もなかなかの腕だよ」
「え?」
「なんだか最近王都の流行のスイーツも作るんだよ。栗を使ったものや、カボチャを使ったものとか」
「そうなんですか」
俄然興味が出てきてしまった。栗やかぼちゃはうちの領地でも取れるんだよね。素敵なお菓子だったらうちの領地でお店を出してもらってもいいな。
そんな私の顔色を見ていたマキウス様。
「レシピも教えてもらったらいい。店に出していいか、料理長に聞いてもいいぞ」
行くしかないよね。行きます。ぜひ行かしてください。
マキウス様はエリザベス様宛の手紙を書き、使用人を呼んで急いで届けさせる。
「さて、マリー嬢? エスコートさせてください」
マキウス様は私の腕を取った。食い気に負けたって言わないで。
ベラルント伯爵邸は貴族街の奥にあった。裏手は林になっている。タウンハウスというが、立派な邸宅である。広い庭もあって、門も塀もしっかりとめぐらされていた。中に入ると白い壁に大理石の床。金のウォールモールが品のよいアクセントになっている。ホールには大きな家族の肖像がが飾られ、立派な花瓶には春の花々が生けてあった。温室で育てられたのだろうか。すごい贅沢である。うちの屋敷を大違い。いやいや、ベラルント伯爵邸も素敵だけど、うちも素朴でいいと思うけどね。財力の違いではなく価値観の違いってことにしておこう。
「素敵なお屋敷ですね」
「そうかい? タウンハウスは来客も多いからね。どうしても派手になる。ヴィスワフ子爵様のお屋敷の方が個人的には過ごしやすそうでいいとおもうけどね」
マキウス様は内緒だけどといって小さく笑われた。
「坊ちゃま! あ、マキウス様!」
「坊ちゃまはよしてくれ。来客だ」
マキウス様は苦い顔。
「申し訳ございません。ついうっかり」
「これは執事のスミスだ。何かあったら、遠慮なくいってくれ」
「はい。申し付けてください」
スミスは口角を上げた。40代くらいのスマートな男性だ。代々ベラルント伯爵に仕えている家系らしい。小さいころからお世話になっているから、マキウス様も気を許しているご様子。
「お嬢さまのドレスでございますね。エリザベス様から申し付かっております」
スミスが私たちを案内していると、部屋のドアからエリザベス様が顔を出した。
「お嬢さま、お部屋でお待ちくださいと言ったはずです」
スミスは片方の目を細くする。
「だって、マリー様でしょ。待ちきれなかったのよ。私たち仲良しなのよ」
エリザベス様は破顔する。
仲良しって言ってくださるんだ。ちょっぴり胸がじーんとした。
「ドレス、さっさと決めちゃいましょうか。マリー様の髪の色と目の色は茶色ですから、どんな色もお似合いになるかと思いますけど。この色の白い肌。こちらを最大限生かす服にしたらいいわ」
エリザベス様が私の腕をそっと撫でた。
「といっても、お茶会ですものね。王妃様のお茶会かぁ。あまり露出はよくないわね」
「ええ、露出は嫌です」
私が主張するも、エリザベス様には届いてない感じだ。
マキウス様はエリザベス様の部屋のソファーでお茶を飲んでいる。
「あの、マキウス様? お待たせしたら悪いので、私のことは気にせず、お仕事などされても」
申し出てみるが、「ご婦人が綺麗になっていくところは興味深い」とにこりとお笑いになった。
仕方がない。エリザベス様が御見立くださって服に腕を通す。それからエリザベス様にご意見をもらうことにした。
「やっぱり赤より、黄色のほうがいいかも。若いから薄い色も似合うし、紺色も合うわ。色白って素晴らしいわ」
黄色のドレスに着替えてエリザベス様に見てもらう。
「うん、やはり黄色がいいかもね。王妃様の色とかぶらなければいいんだけど。その辺りはあと数日で分かるかもしれないわ。ところで、マキウスとはどこまで進んだなの?
えええ? 私たち恋仲でも何でもありません。エリザベス様は疑いの目だ。
「何もありませんわ。だってマキウス様は次期伯爵さまですもの」
「ふふふ。あなただって貴族でしょ」
エリザベス様は笑みを浮かべている。
この世界では貴賤結婚は互いに不幸になることが多い。たしかにうちは末端貴族ではあるけれど、どちらかというと生活は平民並だ。うううん、絶対あり得ない。マキウス様とは違いすぎる。
「とんでもありませんわ」と頭を横に振る。
「でもこれからのことは誰もわからない。そうでしょ? うちはそういうの気にしない家だけどね」
そうだ、これからのことは誰もわからない。あと3年半。首を切られないようにしなければならない。
「そうですわね」
「ほら、マキウス。黄色いドレスがよく似合うでしょ」
「ああ。これがいいね」
マキウス様がほほ笑まれた。
宝飾品も貸してくれるといったけれど、私は「甘えすぎだ」といって断った。
「では、お茶会のまえにタマシカ伯爵のタウンハウスへお迎えに参ります」
「え?」
「エスコート役はもういらっしゃるの?」
エリザベス様が小首をかしげた。
「いいえ。でも……」
言い淀むと、
「なら、マキウスがいいわ」
エリザベス様とマキウス様に押し切られ、お茶会にマキウス様と出ることになってしまった。「あの、お話ししていなかったのですが、お茶会の目的はおそらく見合いかと」
「ああ、そうだろう。相手は誰だろうと関係ないな」
マキウス様が目をキランとさせた。
「もしかしてマリー様には誰か好いたお方がいらっしゃるの?」
エリザベス様に聞かれ、慌てて「いません」と答える。エリザベス様とマキウス様は目を合わせ、口角を上げた。なんだろう、この気合の入った姉弟は。
「ぜひマリー様をエスコートさせてください。お見合いは私とぜひ」
マキウス様は黒い笑みを浮かべた。
エリザベス様とマキウス様にタマシカ伯爵のタウンハウスに送っていただいて、本日は終了となった。
なんだか物凄く疲れた。
結局お茶会当日、早めにエリザベス様の御宅に伺い、ドレスなどの準備を手伝ってもらうことになった。そしてそのままマキウス様とお茶会に出る予定。
タマシカ伯爵に報告したら、「よかった、よかった」と喜んでいた。タマシカ伯爵の夫人は数年前に亡くなっていて、娘もお嫁に行ってしまったから、私の準備ができるか不安だったんだって。
明日こそはタノカノ商会に行かないと。
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