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銀行にて

 きょうは銀行に来ております。鉄道事業の資金計画書、資金運営の指針、領地経営の健全化を示す書類など再度提出しにきた。

 ベラルント銀行に入ると、すぐに応接室に通される。数分後、マキウスが現れた。紺のジャケットにシャツを合わせたマキウスは、直視できないくらいかっこいい。この前うちに来てくれた時のリラックスした服装も素敵だったけど、ビジネススタイルもよいわぁ。イケメンは何を着ても似合うのだ。眼福である。

書類を再度確認したマキウスはにこりとした。なんとか借金させてもらえることになったので、ほっとした。

 マキウスがテーブルの上にあるベラルント銀行の書類にサインする。

「契約が締結してよかったです。まあ、銀行としてダメでも、私個人の資産からも出すつもりでしたし、個人資産がいやなら、ベラルント伯爵家として、お金をお貸しするつもりではいたんですがね」

「はあ?」

 マキウスの顔が赤い。

 え? なんか最後のころ、変なこと言ってなかった? 個人でお金を出す? 本気ですか。下手したら共倒れなのに? いや、共倒れしないようにがんばるけど。

 マキウスの決意にびっくりして目が丸くなる。きっと冗談だろう。うん、そうに違いない。

「そんなに見ないでください。いつもは感情をうまくセーブできるんだが、あなたの前では素がでてしまう。あなたには私を頼ってもらいたいって思うんだ」

 マキウスは顔をそむけたが、耳や首が赤いのが見える。本当のことを言っているらしい。マキウスは腕をカクカクさせながら、ティーカップを口に近づける。ちょっと、ナニコレ、可愛い。

 おもわず胸がドキンと跳ねた。イケメンの照れる姿は心臓に悪いね。

「ところで、ヴィスワフ子爵様は、サイン書類等をきちんと管理されてますか?」

 マキウスが心配そうに聞いてくる。

「はい、家の金庫に。まあ、古い金庫ですが、一応金庫なので」

「そうですか。失礼ですけど、その金庫はしっかりしたものですか? 最近金庫泥棒がはやってまして、お伝えしておこうと思いまして。近隣諸国のマネをして裁判所を設立するうごきがありますから、盗難もそのせいかもしれませんけどね」

 私はなんとなく腑に落ちた。だって、前回の人生で手紙や書類が無くなっていたのだろう。それで王宮議会に呼び出された時、お父様とお母様が反論できず、断頭台送りになったのだから。あの時はまだ裁判所はできていなかった。例え、裁判所ができていたとしても公平に裁判を受けられたかどうかはわからないけどね。

「そうなんですか」

 うちの金庫を新しくした方がいいだろうか。しかし、金庫って思いのほか、高いんだよね。買い替えかあ。お金がかかるなあ。

 顔をしかめていたら、マキシスが口角を上げた。きっと思考を読んだんだろう。お財布事情も知っているしね、隠し事はできない。銀行員、怖い。

「当行では書類など大切なものも預けることができるサービスがあります。銀行強盗がきても、厳重な鍵のため開きませんし、それはもう巨大な大きさですから、金庫ごと奪われることもありません。もちろんきょうのサイン書類はご自宅で保管されていないと、いろいろ不便もありましょう。複製をご用意しますので、そちらをお持ち帰りしていただくこともできます。当行の貸金庫サービスのご利用はいかがですか?」

「貸金庫ってことですか?」

「はい。自宅においておくのは危険とおっしゃる方もいらっしゃいますから、ご利用される方もいらっしゃるんですよ。紛失を避けるために重要書類は自宅に置いておきたくないという方もいらっしゃいますし」

 マキウス、商売上手だな。さすがだ。ぐらっときた。うちで頑丈で重い金庫を改めて買うのと、貸金庫に預けるの、どちらがいいだろう。

 きょうのサイン書類は複製もしてくれるとのこと。利用してみようかな。

「なるほど。では、貸金庫をお借りしたいです。あと、家にお預けしたい書類があるのですが、後日持ってきてもいいですか」

「ええ、構いません。ヴィスワフ子爵のお名前で貸金庫を作っておきますから、いつでも引き出しすることができますし、ボックスに入る分でしたら何でもお預かりすることができます」

「ありがとうございます。またお願いにきますね」

 気になっていたんだよね、古い金庫に入れっぱなしの書類や手紙たち。鉱物も貴重なものもあるし。最新の金庫で預かってくれるならそのほうがいい。早速お父様に提案しよう。

「では、また第一回のご返済の時に伺います。よろしくお願いします」

「はい、またのお越しをお待ちしております」

 マキウスは満面の笑みで大通りまで見送ってくれた。


 お父様に貸金庫の話をしたら、乗り気だった。やっぱりうちのセキュリティを気にしていたみたい。わかる。うちの金庫小さいから盗む気になったら金庫ごと持っていかれそうだもの。

 ベラルント銀行に預ける鉄道関係の王宮からの呼び出し状や許可証、巨大なエメラルドとルビーの原石などを準備した。

 さて、ベラルント銀行へ最初の返済にいこう。

 かき集めたわよ、頭金。自腹で払う頭金。しかたがない。

 結局、王宮議会は鉄道事業について良い返事はくれなかった。王宮もだ。嫌な予感しかしない。もし、ここで中央も巻き込んで鉄道事業に踏み出せたら、断罪されえる未来が無くなるんじゃないか。そう思っていたのだけれど、無理だった。やっぱり上がダメだとダメなんだろうな。これ以上は言わないけど。不敬罪になっちゃうから。

 はあ。どうしようね。このままいくと、ヴィスワフ子爵領の鉄道事業は軌道に乗り、ハトラウス国との交易も順調。商業も観光施設も順調に育っていくはずだ。

 しかしこのままだと断罪に直行便だろう。

 どこかであの時の未来とは別の道に行かなくてはいけない。いくら断罪を避けるためといっても貧乏はいやだ。領民も、私も貧乏でない道で、断罪を回避するにはどうしたらいいんだろう。

 考え事をしていたら、ベラルント銀行についてしまった。

 無事頭金の支払いも済んで、マキウスもにっこり。私もほっとした。

 いろいろ書類の確認をし、貸金庫に持ってきた書類などをしまっていたから、もうお昼近かった。きょうはお弁当の試作を持ってきたんだよね。この前の感想を含め、マキウスからお弁当の感想を聞きたくって。王都の人がどういうふうに思うか。どういうものが好きなのか、きっと参考になると思うんだよね。あと、この前の視察の帰りに渡したお弁当の感想も教えてほしい。

 ちなみにお弁当を売るという事業は前回の人生でなかった。お弁当事業でおそらくタクランの町も早く栄えるようになるはずだ。こうやって少しずつ前回の人生とは違うことを積み重ねていくしかできないかなとおもう。

「これは美味しいですね。それに華やかなお弁当です」

 マキウス様はレーズンとカボチャのサラダをお気に召したらしい。マキウス様は甘党なのかもしれない。

「領地の特産でつくってみたんです。よかった。喜んでいただけて。こちらが地鶏を焼いたものです。ハーブで漬け込んでいるので、柔らかいでしょ?」

「この地鶏がいい味を出しています。いいですね。価格設定はどうするんですか?」

「銅貨一枚、ワンコインで。列車のなかで気軽にお腹が満たせるようにしてほしくって」

「価格設定、無理してませんか? 王都なら倍はとりますよ。このまえのお弁当といい、美味しいです。店舗があるなら、一緒に行きたくなりますね。」

 マキウス様が私をじっと見る。一緒にと聞かれて、ドキドキしてしまった。

 このドキドキは返済ができるかのドキドキ? それとも好きのドキドキ? 好きになってもいいのか。んー、悩むわ。でもとりあえずはビジネスから。

 お金って大事だからね。貧乏で婚約解消をされたのだから、その辺はわかっているつもり。それからマキウス様が心配してくれるのもわかる。お弁当事業で、原価割れしては借金がふえたら目も当てられない。

「ええ、できるだけ領内の野菜や肉でまかない、人件費も抑えるつもりです」

「なるほど。でも、農作物は不作だったと聞いていますが、弁当にして売る食料はあるんですか?」

「ええ、しばらくまえに鉱山をひとつ閉めたので、いま山の恵みが豊富なんです。この前の不作で三分の一ほど放出しましたが、まだ保存食として貯蔵してあるものがあるんです。古いものを早めに食べて、新しいモノをまた保存していかないと足がついてしまいますから、こちらとしても一石二鳥なんです。農作物は今年は豊作になる見込みです。豊作のときにすこしずつ貯蔵して、次の不作に備えるなどしていく予定になっています」

「そうですね。天候ばかりは人間のチカラで左右できませんから。備蓄は大切です。このお弁当は、一種類なのですか? ほかにも弁当の種類を考えているんですか?」

 マキウスの目が輝いたのを見逃さなかった。お弁当がおもったより美味しかったみたい。嬉しいわ。

「ええ、一応考えています。とりあえず、地鶏の揚げ物をサンドしたパンを売って、軌道に乗るかみてからですけれど。猪豚のローストしたものや、チーズとトマトをあぶったものなどを考えています」

「どれもおいしそうです。片手で食べられるメニューなので、列車でも食べやすいかもしれませんね」

「よかった。我が家の料理人たちが喜びます」

 帰ったら調理室に寄って、お弁当計画がスタートできそうだと伝えなくては。みんな喜ぶだろうな。

「いまは病気ははやっていないし、ヴィスワフ子爵領は今年は豊作だと聞いているけれど、いつ疫病がはやり、また不作になるかはわからない。それでも、領地が経営できるようにしっかりやってほしい」

 マキウス様が私の手を握った。

 といわれても、どうしよう。鉄道事業を展開、観光事業を計画することくらいしかおもいつかないけど。

「君ならできる。でもどうしてもダメなときは、私に相談してほしい。次期ベラルント伯爵として個人的に貸してもよいし、私自身の財産から出してもいい」

「ううん? ちょっとよくわかりません」

 首をかしげて小さく微笑んでおく。

 マキウスがにやりと笑った。

 これっていいこと? わるいこと? ヴィスワフ子爵領に期待されているの? それとももしや、私、モテている? 

「ホテルの他に宿を数軒建てる計画だろ?」

「はい。そうすれば、タクラン駅にも人が降りますからね」

「いい考えだ。金が足りなかったら、私に言いなさい。いいね? 鉄道事業の資金とは別に貸してあげよう」

 ほかの銀行に行くなってことだよね。たしかに一つの銀行にまとめてお世話になった方が仕事はしやすい。

「あ、ありがとうございます」

どうにもマキウスの距離が近い。なんだか変だ。

 私はとりあえず頭を下げておいた。


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